一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

北沢方邦の伊豆高原日記⑯

2006-11-12 03:50:54 | 伊豆高原日記
北沢方邦の伊豆高原日記⑯
Kitazawa, Masakuni  

  ここ数日の冷え込みで、落葉の舞がひときわ目立つようになった。海洋性気候で寒暖の差が少ないこの地方では、紅葉はあまり美しくない。そのなかで、ハゼやウルシなどの紅色の葉が、あざやかな点景となっている。今日は雨となり、薄い多色の日本画といった風景となったが、そこで一句:

           黄葉朽ち葉 踏むひともなしに 夕時雨

アメリカ中間選挙

 アメリカ合衆国の中間選挙が終了した。予測通り民主党が上院・下院を制し、多数派となり、ブッシュ政権は窮地に追い込まれた。早速軍内部でも批判が渦巻いていた国防長官のラムズフェルドが更迭された。次期下院議長(House Speaker)のナンシー・ペローシがホワイト・ハウスに招かれ、合衆国と世界にとってよりよい方策をみいだそうと、ブッシュ大統領との微笑会談が行われた。少数派時代ブッシュ戦略を激しく攻撃したペローシと、名指しで反論したブッシュとの微笑会談は、時代の大きな変化の象徴である。

 ちなみに私は、その鋭い論理とさわやかな弁舌、魅力的な人柄に惹かれて、以前からペローシ・ファンであった。事実民主党には、上院のヒラリー・クリントン、私がたびたび訪れていた頃のサンフランシスコ市長であったダイアン・ファインスタインなど、すぐれた女性議員が多い。同じサンフランシスコで平和運動や環境運動に献身してきたペローシが典型であるように、彼女らはリベラルというよりも、本質的にはラディカル(急進派)である。ラディカルに軸足を置きながら、中道路線にも手を広げられる彼女らの懐の深さに、アメリカ民主党の未来を托したい。

 それはともかく、アメリカ国民は、泥沼化したイラク戦争と、新自由主義的経済政策(わが国の小泉改革なるものはその追随にすぎないし、さらに悪いことに、アメリカ経済とその多国籍大企業への奉仕であった)による格差拡大とその固定化に、明確に否定の声をあげたのだ。

イラク戦争をどう終わらせるか

 イラク戦争の収束に特効薬がないことは確かだが、ここまで事態を悪化させた原因は、アメリカをはじめとする多国籍軍の事実上の占領状態の継続にある。撤退の道筋と日程表を明示すること、周辺のアラブ諸国やイランとイラク安定と復興のための協議を行うこと、これも泥沼化したパレスティナ問題(イスラエル軍によるベイト・ハヌーン虐殺を日本政府はなぜ批判しないのか)についてイスラエルにきびしい姿勢を貫くことなど、当面解決の糸口となるような政策転換を行うことは可能である。民主党はブッシュ政権にそのような圧力をかけるべきである。

新自由主義経済の破綻

 経済問題も深刻である。財政と貿易のいわゆる双子の赤字も問題であるが、所得格差の拡大と、高所得層の減税と社会福祉の削減という、貧困層の傷口に塩を擦り込むような政策がもたらした結果は、目を蔽うような状況となっている。

 とりわけワーキング・プーア(働く貧困層)という、社会的に認知された職業につきながら、給与所得の向上につれて社会福祉の補助が削減され、実質所得が大きく減り、低所得時代以上に生活が苦しくなるという階層が増大し、大問題になっている。さらに最低賃金が十数年も凍結され、物価水準上昇で30パーセントも目減りしていることも、低所得層をきびしい状況に追い込んでいる。

 蟻地獄にも似たこの貧困のスパイラルから彼らを脱出させるには、経済政策を大きく転換するほかはない。 だがこれは合衆国だけではない。新自由主義経済政策またはグローバリズムを推進したすべての国が抱える問題である。安倍内閣も「小泉改革の継承」を打ち出し、ひずみの是正として再チャレンジの美名のもとに、いわゆるセーフティ・ネットの構築を唱えているが、それでは根本的な解決にはならない。

ひとつの歴史の終わりのはじまり

 すでに中南米では、ベネズエラ(正確にはベネスエラ)のチャベス政権が典型であるように、貧困層の経済的自立をはかり、グローバリズムによる収奪に防火壁を築こうという脱新自由主義経済の動きがはじまっている。いまはグローバリズムに乗って好調にみえるブラジル・ロシア・インド・中国(いわゆるBRICs)なども、いずれ格差増大に象徴されるこの二律背反と矛盾によって、経済的というよりも社会的・政治的危機に直面することになるだろう。

 2006年のアメリカ中間選挙は、世界が脱新保守主義・脱新自由主義へと一歩を踏みだした、その最初の徴候となるかもしれない。後世の歴史家はそれを、ひとつの歴史の「終わりのはじまり」と記すにちがいない。


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