一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

北沢方邦の伊豆高原日記【67】

2009-10-02 19:18:07 | 伊豆高原日記

北沢方邦の伊豆高原日記【67】
Kitazawa, Masakuni  

 晴れた日には梢高く、あちらこちらでモズが高鳴きし、窓を開ければ、キンモクセイの香りがあたり一面に漂う。夜は深いしじまを、フクロウの神秘な声が遠く引き裂く。秋を実感する。10月3日は旧八月十五日、つまり仲秋の名月だが、東海地方には秋雨前線が停滞するという予報、白い穂を出したヴィラ・マーヤのススキ、つまり月の神ツクヨミの剣の象徴も、毎年行っているようには供えられないかもしれない(残念ながらいつも月見団子を作るほどの余裕はないが)。

二酸化炭素排出25パーセント削減の国際公約 

 鳩山新政権は、国際的・国内的に次々と新鮮な政策課題を打ちだし、まずは順調なすべりだしといえよう。そのなかで二酸化炭素排出量を、2020年までに1990年比で25パーセント削減という国際公約を高く掲げた。そのこと自体には諸手を挙げて賛成であるし、それを日本を環境先進国に飛躍させる踏み切り板にすべきであるが、この課題の達成は容易ではない。鳩山政権にその覚悟と政策的裏づけはあるのだろうか。 

 いうまでもなく、こうした高い目標を掲げることによって、かつてきびしい自動車の排ガス規制を設けて自動車産業の技術革新をもたらしたように、産業界全体に技術革新への強い意欲を刺激することはたしかである。だがことは一自動車業界の話ではない。すべての産業から家庭にいたるきわめてきびしい削減目標である。 

 そのうえグローバリズム崩壊後の停滞する現在の経済状況である。にもかかわらずこの公約は実行する価値があるし、またわれわれの子孫の未来や人類の未来のために実行しなくてはならないが、そのためには以下のことが必要である。 

 まず第一は、環境先進国としての日本の未来像を提示しなくてはならない。民主党のエネルギー政策が不透明なのが気になるが(なんと小沢鋭仁環境大臣〔!〕は原発推進を主張している)、このフォーラムの食料シンポジウムなどですでにたびたび述べてきたように、自然エネルギーの大規模開発と関連する第一次産業の再開発など、文明や生活のあり方を根本的に転換する未来像が描かれなくてはならない。 

 第二は転換のための過渡的財源として、たんなる炭素税ではなく、広範囲にわたる環境税が必要である。二酸化炭素排出量から産業廃棄物などを厳密に査定し、課することは、たしかに企業にとっては大きな負担となるが(逆に法人税は引き下げるべきである)、産業構造の転換にとって大きな動因となる。また家庭に対しても、たとえばLEDではない白熱電球には消費税のほかに環境税若干を加えるなど、環境に負荷をあたえる商品に環境税を課することで、国民の生活と意識の転換に大きな刺激をあたえることとなる。試算によれば炭素税だけでも数十兆円の税収になるといわれているから、それは産業構造の転換や文明と生活の転換のためのかなりの財源となるだろう。 

 環境税はまた、国家の財政赤字を徐々に減少させていく良い副作用もあるし、すべての商品に一律にかかる消費税の引き上げよりは、はるかに社会的富の再配分に寄与する(エコロジー生活をするものにとってはある種の減税であるがゆえに)。小泉改革またはグローバリズムによって切り捨てられてきた医療や福祉、あるいは教育や文化にもかなりの予算をつけることもできるし、環境に適応する新しい産業の興隆に応じた労働・技術教育の推進など。雇用問題にも大きな展望をあたえることができる。 

 鳩山政権および民主党にそれだけの明確なヴィジョンがあるかどうか、いまや世界から問われている。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。