EdguyのTobius SammetによるプロジェクトAvantasiaの7作目。
シンフォニックなロックオペラ。
今作も、捨て曲なしの素晴らしい出来。
キャッチーさは若干少なくなったかも知れないが、細部まで作り込まれていて、聴くほどに惹き込まれる。
シンフォニックで、曲の展開が多く、その芸術性の高さは、少し聴いただけでもわかる。
今回のゲスト・ボーカリストは、おなじみのヨルン・ランデ、マイケル・キスク、ボブ・カトレイが、それぞれの持ち場を固める。
2回目のロニー・アトキンス、シャロン・デン・アデルが、要所を守る。
期待通り、いや、期待以上のパフォーマンスで酔わせてくれる。
初参加のロバート・メイソン、ディー・スナイダー、ジェフ・テイト、ハービー・ランガンス、マルコ・ヒエタラらは、それぞれ個性的で驚きの歌声を聴かせてくれる。
新風を送り込むことを超え、主役を取ろうとするかの勢いだ。
皆の力が劇的に融合して、圧倒的な作品を作り上げた。
その迫力と、パフォーマンスの高さに、心から満足させてもらえた。
1曲目の“Mistery Of A Blood Red Rose”は、女性コーラスを従えて、トビアス一人で歌い切る。
シングルカットできそうな、コンパクトな曲だ。
シングルカットできそうな、コンパクトな曲だ。
いきなり重厚で始まっていたこれまでの幕開けと違い、身構えないでいいから、軽く聴ける。
今作『Ghoastlights』の中心となる曲は、12分を超える2曲目の“Let The Storm Descend Upon You”だろう。
4人のボーカリストが、入れ代わり立ち代わり歌い上げる。
そのやり方は、1stから変わらない。
ライブで再現されたら、興奮するだろう。
3曲目の“The Haunting”は、ディー・スナイダーが悪夢役で邪悪に歌う。
Avantasiaに必ず1曲ある、スローな異次元空間を、しゃがれ声で迫る。
トビアスは、突破口のつかめない閉塞感をもがく気持ちを、叫んでいる。
私が1番好きなのは、4曲目の“Seduction Of Decay”だ。
ヘヴィーでありながらシンフォニックで、広がりがあるサウンド&うねりのあるリフ。
ジェフ・テイトの歌が迫力があって見事だ。
完全にトビアスを食っている。
声の好みは、絶対的にトビアスなのに、高音の突き抜けが心地良い。
間奏は、オリエンタルで、どこかDream heaterの“Home”を思い出させる。
異国情緒が、また違った次元を感じさせ、広がりとなる。
曲の終わりに余韻を残すのがまたいい。
そして、間髪を入れず、マイケル・キスクの5曲目“Ghostlights”が始まる。
アップテンポで、Helloweenタイプのリズムなので、これはマイケルの曲だとすぐわかる(笑)
これもAvantasiaの1面。
「They call me home」の4連続は、ライブでは完全に一緒に歌うパートでしょうね(笑)
6曲目は、ハード・ポップとも言える“Draconian Love”
ここで、トビアスとボーカルを務めるハービー・ランガンスの声がとにかく低く、異色である。
暗闇の住人というか、光の消滅という役を、声だけでも表現している。
ドラキュラ伯爵というか(笑)
普段は、Seventh Avenueで声を張り上げているというので、動画を見たら、まるでDio。
別人のようだ。
キャッチーで聴きやすい。
7曲目のNightwishのマルコ・ピエタラ参加の“Master Of The Pendulum”の緊迫感は凄まじい。
ヘヴィーなAメロBメロに比べると、サビがキャッチーだ。
8曲目のWithin Temptationのシャロン・デン・アデル参加の“Ise Of Evermore”は、ケルト音楽が入っている。
シャロンが美声を濁らせて、切なそうに歌うのがいい。
女性ボーカルはこの曲のみなのに関わらず、しっかりした存在感だ。
トビアスが、シャロンに合わせて?切なそうに歌っている。
この曲に限らず、トビアスはまずゲスト・ボーカリストに歌わせてから自分が歌うというスタイルを取っている。
ゲストは自分の持ち味をフルに発揮しており、トビアスはそれに敬意を払っているかのように、多少影響を受けた歌い方をしている。
そういったトビアスの幅の広さが素晴らしい。
トビアスの作る曲は、ゲストに合わせているのか?
彼らのバックグラウンドにあまりにも合っている。
いや、合わせているのではなく、作った曲に合うボーカリストを当てはめているのか?
ともかく重要なのは、ゲストのバックグラウンドまでも取り込んでしまうトビアスの凄さだ。
それによってもたらされる広がりが、Avantasiaの魅力である。
9曲目の“Babylon Vampyres”はアップテンポな曲。
出だしのツインギターからして、高揚する。
ギターソロでは、サシャ・ピート、オリバー・ハートマン、ブルース・キューリックが順に弾きまくる。
高音を効果的に生かすブルース、リズミカルな早弾きなオリバー、メロディアスで華麗なサシャって感じだ。
3人とも素晴らしいが、私はサシャが好き。
演奏にタメがあるから。
エモーショナルに心にダイレクトに響いてくる。
ロバート・メイソンの、ソウルフルに張り上げた歌と、トビアスの甘い声との絡みがいい。
10曲目は、ピアノで始まるバラード、“Lucifer”
地味目だが、私は好きだ。
なぜなら、後期Purpleのデビッド・カバーディルとグレン・ヒューズのような声を感じたから。
11曲目の“Unchain The Light”は、サビを歌うマイケル・キスクの高音が印象的だ。
キスクの声は、歌詞の通り、天高く響き渡っている。
ちょっと軽めのAメロが洒落ている。
12曲目は“A Restless Heart And Obsidian Skies”
ここでやっとボブ・カトレイが登場する。
Spirit(魂)という役柄を、混じりけのないまっすぐな気持ちで歌い上げる。
1曲目と同じように、ゴスペルっぽい。
『Ghostlights』は、まさに世の中と心の希望のない闇を表現している。
闇と時間を操ろうとする権力に、自分が消滅する怖れを抱きながらもがく、トビアス扮するアーロン。
幽霊が持つ「Ghostlight」は、負へのエネルギーに思えた。
神も天使も希望も腐敗し、アーロンは闇を彷徨い、いつしか命を落とすのかと思っていたが、
この最後の曲により、多少は希望が持てる結果になったように私は受け止めた。
自分に降りかかる圧力を緩められたのだ。天からのゴーストライトを浴びながら。
“Lucifer”では、月はBloodshot(充血している)で、夜はscarlet(緋色)だったものが、
“A Restless Heart And Obsidian Skies”では、夜は暗く(Dark)、月はscarlet(緋色)に変化している。
さらに、空はObsidian(黒曜石)が、ポイントだ。
黒いけど透明ということで、闇に見えても濁ってはいない、暗いだけと私は理解した。
アーロンの中で、怖れや邪悪さは浄化されつつあるのだろう。
歌詞は難解で、理解しきれていないが、自分なりの解釈でいい。
そう、「I'm on my way」で。