昨日の共通領域 「倫理学」 の授業のなかで哲学カフェをやってみました。
大学の授業で哲学カフェを行ったのは初めてのことです。
「てつがくカフェ@ふくしま」 の活動を始めてもう4年が過ぎましたが、
なかなかこれを授業に取り入れようという気にはなりませんでした。
というのも、私が担当している講義科目はどれも受講者が50名以上、
この 「倫理学」 などは90名強の学生さんが受講していて、
さすがに人が多すぎて授業で哲学カフェをやるのはムリだろうとあきらめていたのです。
今年度、この授業をスタートさせたときも授業計画のなかには入っていませんでしたし、
先週の授業を終えた段階でもやるつもりはまったくなかったのです。
それを急にやってみようと思い立ったのは、
この授業を一緒に担当している共生システム理工学類の樋口先生の影響でした。
樋口先生はとても教育熱心な方で、この授業でもどんどんやり方を変えていて、
今年度からはグループディスカッションを取り入れて、
学生たちが自ら考え、互いに意見を伝え、聞きあって学びを深めていく機会を設け、
学生たちからとても好評を博していたのです。
そういうところを見せつけられてちょっと悔しいなあと感じていたのですが、
私の担当回に関してはこれまでのところ、今まで通りのやり方で進めてきていたのです。
で、昨日が私の担当の最終回で、ずっと話してきた脳死と臓器移植の問題を終え、
いつもだったら残りの時間で、樋口先生の回も含めて講義全体を振り返る感じで、
科学技術や医療技術の進歩によって人間の可能性がどんどん開かれていく一方で、
これまでに遭遇したこともないような新しい倫理学的問題を突き付けられるようになり、
それが解決されないままさらに科学や医療は先に進んでいってしまっている、
というような話をしてこの授業を締め括る予定だったわけです。
でも、その手の話はすでにこれまでの話のなかでちょっとずつ触れてあったので、
その時間を使って、樋口先生に対抗して何かアクティブラーニングの活動を取り入れてやろうと、
前日になってから急に思い立ち、じゃあ何をやろうかなと考え始めたわけです。
樋口先生みたいに、グループディスカッションにしようかなとも考えました。
ただ、M21教室で90名をグループに分けて話し合わせるには、
樋口先生のようにあらかじめグループと座席を決めておくなど、入念な仕込みが必要です。
前日の思いつきではそこまでの手間をかけることはできませんでした。
で、困ったあげく哲学カフェでもやってみるかと考えたわけです。
とはいえ何と言っても90名ですし、時間も1コマの半分 (45分) もあるかないかだし、
そもそも哲学カフェをやりたいと思って集まってきたわけではない学生たちが、
じゃあ誰からでも自由に発言してくださいと言われて発言したりしないだろうと予想されましたし、
どう考えても上手くいくような気はしていませんでした。
まあ、いつかは教育の場に哲学カフェを取り入れてみたいという思いはありましたので、
今回はダメモトでテストのつもりでとにかくやってみることにしたのです。
お題は 「脳死と臓器移植をめぐる倫理学的諸問題に対してどのような価値判断を下すか」 で、
これは試験問題と同じです。
まずは紙にひとりひとり自分の考えを書き出させ、それから哲学カフェを開始しました。
けっきょく哲学カフェに割けたのはほんの30分ほどでした。
案の定なかなか手は上がらずシラけた感じで始まりましたが、
これはふだんの 「てつがくカフェ@ふくしま」 で体験していることですから動じません。
シーンとしたなかで平然と待ち続けていたらひとりの女子学生が手を上げてくれました。
その女子学生ともうひとりの男子学生が何度か手を上げて発言してくれて、
その2人に引きずられるように他の学生たちもいろいろと意見を出してくれました。
けっきょく発言してくれたのは10数名くらいでしょうか。
お世辞にも盛り上がったとは言えませんでしたし、
臓器移植の話ばかりで、私があれほど精魂込めて話してきた脳死の話はまったく出ませんでしたが、
それでも4面の黒板がいっぱいになるくらいいろいろな論点が出されました。
動物臓器移植の話から動物を食べることの是非の話にまで広がったり、
そもそも医療とは何か、自分とは何かといった根源的な問いにまで行き着いたりと、
哲学カフェならではの想定外の展開を見せてくれたので、やってみてよかったです。
議論に参加してくれたのはごく一部で、ほとんどの学生はただ聞くだけだったわけですが、
はたしてこの試み、彼らにはどう受け止められたのでしょうか?
ちょっと聞くのは怖かったのですが、思い切ってみんなに感想を書いてもらいました。
そうしたら思っていた以上に好評だったのでビックリしました。
代表的な感想を少しご紹介してみましょう。
●考えもしなかったことが次々に出てきて、考えさせられた。話もどんどんふくらんで面白いと思った。
●当然のことではあるけれども、自分が思いもよらない考えや意見が出てくるのは、大変面白いと思う。議論を通して自分の視野がほんの少し広くなったように思えた。
●聞いていただけですが、他の学生の方の考え方の視野の広さがすごくうらやましかったです。そして、自分も同じ授業をうけていたのに、全く深く考えていないと感じました。他の方の考え方を聞くのは良い刺激になります。
●人のものに対する考え方が十人十色であるということがかなり感じられた。自分の意見と正反対の考えをもつ人と話してみたいと感じることもあった。
●様々な見解を聞く事が出来て、とても良い思考の練習になったと思います。ありがとうございました。
●とても有意義な時間だった。誰かにとっての常識が自分にとって非常識だったとしても向き合うことが大切だと感じました。
●個々人の考え方がぶつかり合っていたが、これが倫理を考えるという事なのかと自分の中で少し考え方が広まった。
●自分と異なる価値観をもったひとたちの意見を聞いて、自分の価値観が広がったように思った。自分と異なる価値観にはただ批判するのではなく、受け入れることが大切であると感じた。
●他の意見はとてもおもしろかった。そもそも食べることはいいことだろうかという話まで広がった時は、真理に近づいている気がして、とても楽しかった。
●自分と同じ価値観の人もいたが、その人も別の話題では、自分の対立意見で、面白いと思った。
●自分は発言することが出来なかったが、人の意見を聞くことにより論がどんどん深まっていくのがとても面白かった。これからも参加できる機会があれば積極的に参加したいと思った。
●哲学カフェはすごくよい。やはり一人で考えているだけでは、意外な反対意見で簡単にくつがえされてしまう。何かを考える上で、多くの人の意見を交わす重要性を知った。
●ツリー状に意見を枝葉として広げていくツリーダイヤグラムは見ていてわかりやすいと思った。自分は、脳死臓器移植はあっていいと思う。どうしようもなくなって、その最後の一本の糸がそれと思うからだ。
●自分は臓器移植について賛成の立場だったが、反対の立場の意見や、自分とは違う賛成意見など、様々な意見が聞けたのでよかった。
●自分がまったく思いつかない側面からの見方が次々と出てきて、そこからまた、自分なりの見方も思いつき、とても楽しかったです。
●生体移植や動物臓器移植などについて、自分では考えていなかった意見を聞く事ができ、それについてさらに自分の中での賛成、反対意見を考えることで、さらに考えに広がりができたと感じた。
●思うことは沢山あったが、発言する勇気が出せなくて少し悔しい思いをした。
●自分は聞いていただけなのですが、非常に有意義なものとなりました。他人のさまざまな価値観を吸収し、自らを再考察していくところが 「てつがくcafe」 の良い所だと思います。
●想像していたより楽しかった。高校ではこんなに意見が出ることは無かったので、驚いた。大学生って違うんですね。
●自分とは違う意見の人や、そこから話が展開していく内容がとても面白くて聞き入ってしまった。大勢の人の多様な意見が聞けて、また深く考えられるような感覚になり、ますます楽しくなった。
●自分と違う意見があっておもしろかった。皆ちゃんと根拠を挙げていた。
●他人の価値判断に食ってかかれなかった。倫理の力量不足を感じた。
●同年代の人が考える倫理のレベルが高くて感心してしまいました、いろいろな視点が述べられていておもしろかったです。
●もっと、話したくなった。もう1コマまるごと哲学カフェをやっても面白いと思った。他の人の考えを知れるのはもちろん、脳死臓器移植から他の動物を食べて良いのかという別の根本的問題を考えたりするのは楽しかった。
●人に伝わるように意見を述べる事は難しいと思いました。自分の中では見落としていた要素に気づかせてもらえる良い方法だと思いました。
●自分の意見をだすことができなかったが、他の人の意見をきくことで、さらにそれに作用してたくさんの意見がうまれて、おもしろいなと感じた。
●他の人の意見を聞くことで、自分とはまったく違う視点からくる意見にとても刺激を受けた。自分の考えは狭くて浅いのだなと思い知らされた。意見を言い合うことは大切なことだと改めて感じた。
●色々な人の意見を聞くことは自分の思考を広げることにつながると思える話し合いでした。なるほどと思うこともたくさんあったので自分でももう一度考えてみたいと思いました。
●どの意見もうなずける部分があるので、正直自分の考えがグラグラとしてしまった。臓器移植では 「したくない」「すべきでない」「賛成」 があったけれど、どの意見にも 「確かに」 と思った。自分だったら、家族だったら・・・それぞれ考えたら、まとまらなくなってしまった。
●とても深い話し合いで、おいていかれそうになってしまいました。自分と同じ意見の人、違う意見の人、それぞれの思いを聞くことで、自分の意見がより深まりました。また、多くの視点があり、自分の知らない分野まで突きつめられそうだったので、視野が広がるいい経験だったなと思いました。
素晴らしいっ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/ee_2.gif)
シラけた感じかと思っていましたが大好評じゃないですか。
自分が発言しなかったとしても、いろいろな意見に触れるだけで思考は揺さぶられるんですね。
そして、自分とは異なる価値観に耳を傾けることは、
人として、市民としての成長に大いに資する面があるようです。
ダメモトでやってみましたが、哲学カフェの教育効果に大きな手応えを感じられました。
これはぜひ今後もっと大々的に取り入れてみたいと思います。
初めての試みにお付き合いくださった学生の皆さんに感謝申し上げます。
そして、この無謀な試みに踏み出す勇気をくださった樋口先生にも心から感謝申し上げます。