まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

大量虐殺は戦争の中に含まれているか?

2024-02-08 14:53:08 | グローバル・エシックス
次のような質問もいただきました。

「先生は戦争と言われたが実は大量虐殺であることについてはどう思いますか。大量虐殺は戦争の中に含まれていますか。」

以前にいただいた質問とも重ね合わせると、
これはイスラエルとパレスチナの戦争のことを指していると思われますが、
これはとても難しい問題です。
私はパレスチナ問題の専門家ではないですし、
今行われている戦争のことも日本の報道で伝え聞く程度の知識しか持ち合わせていないので、
前半部分に関しては、学者としての正式な回答というよりも、
あくまでも素人の一意見として読んでください。

イスラエルとパレスチナの間の抗争に関しては、
私も以前から、これは戦争と呼べるものだろうかという疑問を懐いていました。
私は「戦争と平和の倫理学」の授業の最初のほうで、
戦争に関して、「大規模集団間の武力闘争」と簡単に定義しました。
つまり、国家レベルの大規模な集団が、それぞれの軍隊と軍隊を用いて戦うこと、
それが戦争であると定義したのです。

第一次から第四次まで戦われてきた中東戦争は、
上記の定義に照らしてまさに戦争であったと言えると思います。
しかしその過程でイスラエル側が軍事的には圧倒的に優位に立っていきます。
アメリカをはじめとする先進国がイスラエルへの軍事支援を続けてきたからです。
軍隊と軍隊との正面衝突という方法では勝てる見込みがなくなっていく中で、
パレスチナ側はテロという、軍隊によらない新しい戦い方に頼るしかなくなりました。
私は先の定義に照らして、テロは戦争とは別物であると理解していますが、
現代において両者の区別が難しくなっていることは否めません。
しかし、いずれにせよその背景には軍事力の圧倒的格差という問題があることは、
きちんと理解しておくべきでしょう。
そして、そのような圧倒的な軍事力の格差の中で行われる軍事攻撃は、
もはや戦争ではなく、一方的な「大量虐殺」に似たものになってしまう、
そんな可能性を秘めていると言えるでしょう。

いちおう私は「大量虐殺」と「戦争」は区別しています。
戦争は両者が戦い合うものです。
実際には両者の間で戦力の差があったとしても、
形式的には互いに対等に戦い合っています。
それに対して大量虐殺は一方が他方を一方的に殺戮していく行為です。
殺される側は武装した軍人ではなく、無辜の民である一般市民であり、
何らの対抗も抵抗もできません。
ナチスによるユダヤ人のホロコーストや、
ルワンダにおけるフツ族によるツチ族のジェノサイドなどがそれに当てはまります。

今回のハマスによるイスラエルへの攻撃は、
軍隊によって武力を用いて行われましたので、
(一般市民を人質に取るというのはいかにもテロっぽいやり方ですが)
これは戦争として始められたと判断すべきだろうと思っています。
しかし、イスラエルが反撃を始めた段階で、
戦況が一気に一方的になっていったのは当然の成り行きだったろうと思います。
そして、イスラエル側の攻撃は空爆が中心となりますので、
パレスチナ住民の側からするならば、
軍隊と軍隊の武力闘争というよりは、
イスラエル軍によるパレスチナ住民の大量虐殺と映ることだろうと思います。

授業の前半で武器の進化の話を紹介し、
飛行機が開発されたことによって戦争のあり方が一変したと話しました。
武力闘争と言えば、軍隊(軍人)と軍隊(軍人)が戦い合うことだったわけですが、
空爆という、軍隊による一般国民への直接攻撃も戦争の一手段となってしまいました。
私も空爆や、その他の軍隊による一般国民への直接攻撃は、
やってることは大量虐殺と同じだと思いますが、
それを「大量虐殺」と名付けて、その部分だけを戦争と切り離して禁止することは、
無理だろうと思います。
正戦論について考えてもらったときに、
軍隊のみ攻撃し一般国民への攻撃は行わないのが正しい戦争である、
と答えてくれた人がたくさんいましたが、
そんなところで線引きするのは不可能でしょう。
いったん始まった戦争は、勝つためには手段を選ばず、
正しくない(とされる)戦略・戦術も積極的に選択されるだろうと思います。

ご質問に対する答えをまとめると以下のようになります。
1.戦争は「大規模集団間の武力闘争」であり、
  大量虐殺は「ある集団が他の集団を一方的に殺戮する行為」であり、
  私は両者を別のものとして定義します。
2.戦争も大量虐殺も悪ですが、悪の程度からすると、
  大量虐殺のほうがより悪だと私は判断しています。
3.現在のイスラエルとハマスの軍事衝突は戦争として捉えています。
4.20世紀以降の戦争においては、軍隊による一般国民への直接攻撃という、
  大量虐殺に似た一方的な殺戮行為が、軍事行動として含まれることになりました。
5.したがって20世紀以降の戦争は正しい戦争ではありえず、
  すべて悪であり、否定すべきであると判断しています。

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