気ままに

大船での気ままな生活日誌

泉鏡花展/ものがたりの水脈 

2013-10-19 11:05:22 | Weblog
神奈川近代文学館で開催されている泉鏡花展は、(ぼくにとっては)近来にない面白い文学展であった。面白いわけは、それがただの文学展ではなくて、鏡花組ともいうべき挿絵画家、装幀家である鏑木清方、水野年方、小村雪岱、橋口五葉らの作品が豊富に展示され、美術展的要素も加わっていたことにもあるだろう。

第1部/ものがたりの源泉では、昨日も少し触れたが、金沢で生まれ、9歳のときに母すずを亡くし、18歳に上京、鎌倉などを転々したあと、ようやく尾崎紅葉に入門する。紅葉は大変厳しかった人のようで、”印刷屋さんが困るので字をはっきり書くように、文章ももっと推敲するように”とか、有名になったあとあとまで細かく指示していたようだ。その手紙が展示されている。

当時の文壇を席巻していたのはリアリズムであったので、鏡花の作品は多くの批判を浴びたが、意に介さず、独自の作風をつくり出していった。さらに演劇との出会いで、鏡花の世界は拡がっていくのである。生涯作品は300にものぼるという。

麹町の書斎が再現されている。小さな小さな机があり、愛用の筆記用具や喫煙用具のほか、母から贈られた水晶のうさぎもある(酉年の鏡花のお守りにもなるとのこと)。最愛の妻、すずさんの若き日の写真も。偶然、母の名前と同じだった。神楽坂芸者だったすずさんの生きざまを反映させたのが、日本橋、婦系図などの作品である。多くの直筆原稿や漱石、芥川らとの交友関係が知られる手紙類も展示されている。

水晶のうさぎ


すずさん


第二部/ものがたりの水脈では、鏡花文学はいくつかの水脈があるとして、それぞれの作品を紹介する。ここに前述の挿絵、装幀本などが次々と登場し、目を楽しませてくれる。

はじめの水脈は”子供のまなざし”。子供特有の感性によって、日常との境界を越えていく不可思議な光景。これは鏡花自身の幼児体験に根ざしている。”龍たんたん”、”照葉狂言”、”国貞えがく”、”絵本の春”など。

国貞えがく 表紙絵(橋口五葉)



そして、”うつくしき女たち”。鏡花が描く女性はきわだってうつくしいが、社会や家に抑圧され、叶わぬ恋に苦しむ薄幸の女たちであった。”外科室”、”湯島詣”、”由縁の女”、”日本橋”など。

外科室 口絵(年方)


湯島詣 口絵(梶田半古)


日本橋 表紙 (雪岱)


”幻/もうひとつの世界”。この現世以外に、一つの別世界というようなものがある、と鏡花自身が述べている。こういう物語。”高野聖”、”夜叉ヶ池”、”天守物語”など。

高野聖 絵看板 (清方)


天守物語 (玉三郎)



”芸と技の世界”。芸の真髄を極めようとする能楽師や狂言師、技の極意を求める彫刻師、絵師、刀鍛冶などの物語。鏡花の父親は彫金の名工だった。”無憂樹”、”神さく”、”歌行燈”、”黒百合”、”風流線”

黒百合 口絵(年方)


風流線 口絵 (清方)


続風流線 口絵 (英朋)


てな具合で、たいへん面白い展覧会でごわした。まだ、書き足りないところがありますが、のちほど。

金子国義 2010年作。 鏡花文学をイメージして描いた作という、玉三郎みたい。 ポスター絵となる。 


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