おはようございます。
二月は逃げる。早いもんですね。もう明日は三月。二月歌舞伎を見てきました。それも、千穐楽、はじめてかもしれない。昼の部の席が取れたので、義経千本桜(すし屋)、暗闇の丑松、団子売の三演目を楽しんだ。そのまま、帰る予定だったが、ふと、夜の部の最初の演目、熊谷陣屋が見たくなり、一幕席のチケット売り場に回ったら、まだOKだという。1階席から4階席へ昇格(?)しての観劇だったが、これが、一番、カンゲキした。お馴染みの演目だが、まだ歌舞伎座では一度も見たことがなかったせいかも。それに、吉右衛門の熊谷直実がとてもよかったしね。
涙なくして観られない筋立て。熊谷直実が一の谷の戦で平家の公達、敦盛の身代わりにわが子小次郎を討ち、その首を義経に差し出すという物語だが、過去の因縁が複雑にからみあって、厚みのあるドラマになっている。
陣屋の横に立つ桜の立ち木。その横に弁慶の筆による制札が立っている。”一枝を伐らば一指を剪るべし”と。後白河のご落胤である敦盛を助けるために、我が子、小次郎を身代わりにする熊谷直実。
沈痛な面持ちで陣屋に戻ると、そこには夫に内緒で東国からやってきた妻相模が待っている。女が陣中に訪ねる不心得を叱ったあとに、小次郎の戦いぶりや敦盛を討ち取ったうその話をする。そこへ、敦盛の生母、藤の方が現れ、直実に斬りかかる。実は直実が勤番の武士として都に出仕していた頃、藤の方に仕えていた相模と恋仲になり、そのとき小次郎を身籠った。本来なら不義の罪となるところを藤の方の情けで許されたのだ。何故、敦盛を討ったかと問い詰める藤の方に、全て、戦場の習いであると、答えるしかなかった。直実、首実検のため座を立つ。
直実が衣服を改め、首桶をかかえ、戻ってくると、義経が家来を従え、現れる。首実検を延ばしたり、戦いの最中に暇乞いをする様子を不審に思い、この場で首実検をするように命ずる。すると、直実は弁慶の制札を引き抜き、その文面に従い、敦盛の首を討ったと言う。
そして、首桶の蓋を開ける。ところが、義経は騒がず、敦盛の首に違いないと認める。実は義経は制札にことよせ、敦盛を救うよにと暗に命じていたのだった。これを知り、泣きわめく、相模。
折しも、陣ぶれの音。義経は直実に出陣の用意を命じる。そこへ、梶原景高が現れ、この場の一部始終を頼朝に注進すると言いながら、駆け出す。そこへ石ノミが飛んできて、絶命する。投げたのは、先刻、陣屋に連れて来られた石屋の弥陀六だった。立ち去ろうとすると義経が呼び止める。平治の乱の折り、頼朝と自身を助けてくれた平宗清と見抜いたのだ。その恩を忘れていなかった。義経は、直実に鎧櫃を持って来させ、弥陀六に授ける。なんと、その中には敦盛の姿があった。歩み寄り、喜ぶ藤の方を制し、弥陀六は義経と直実の配慮に感謝するのであった。
そして最終盤。直実が着替えをして、戻る。鎧兜を脱ぐと、墨染の衣の僧形となっていた。小次郎の菩提の旅に出るという。皆が見送る中、”十六年は一昔、夢だ”とつぶやき、師と仰ぐ法然上人の黒谷の庵へ向かうのだった。
幕が下り、吉右衛門だけが残る幕外の引っ込み。悲痛な心を押し殺し、身体を震わす熊谷直実の姿に思わず涙。
。。。。。
熊谷直実 吉右衛門
相模 魁春
藤の方 雀右衛門
源義経 菊之助
白毫弥陀六 歌六
素晴らしい舞台でした。
それでは、みなさん、今日も一日、お元気で!