石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(連載)「挽歌・アラビア石油(私の追想録)」(17)

2013-10-03 | その他

大物役人の天下り(1989年)
 平成元年(1989年)に通商産業省(通産省、現経済産業省)元次官の小長氏が将来の社長含みで副社長に就任した。いわゆる天下りである。メディアはアラビア石油久々の大物の天下りと書きたてた。アラビア石油は既に四代前から天下り社長が続いていた。最初の官僚出身社長は1976年の大慈弥元通産次官であり、その後大蔵省出身、通産省出身と続き小長氏が入社した訳である。

 初代社長は創業者の山下太郎であるが、彼が社長に就任した時には既に70歳近くに達していた。彼は人生最期の夢をアラビア石油に託し9年後の1967年に死去した。会長として山下を支えた財界の重鎮石坂泰三がとりあえず社長を兼務した後、財界の鞍馬天狗と呼ばれた日本興業銀行(現みずほ銀行)の中山素平に引き継がれた。財界活動が多忙であった中山は、山下太郎の実子でサンケイグループ水野家の養子となっていた水野惣平を取締役に就け3年後の1971年には大政奉還して水野時代が始まった。

 アラビア石油の利権協定では取締役の4分の1の指名権がサウジアラビア・クウェイト両国政府に与えられている。このため創立以来取締役18名の内訳は日本人、サウジ人、クウェイト人がそれぞれ12人対3人対3人の比率であった。当初会社の運営は社長以下日本人に全面的にゆだねられ、両国取締役が口をはさむことは少なかったが、1960年のOPEC結成以来彼らの発言権は次第に大きくなった。特に1973年の第一次オイルショック以降は会社の操業そのものに口出しするようになり、民間企業のアラビア石油はサウジ・クウェイト両国政府と直接対峙する形になり、会社としては何らかの形で日本政府の顔を表に出す必要が生まれた。

 日本政府の関与はアラビア石油が持ち込むカフジ原油の販売にも表れた。と言うのはカフジ原油は硫黄分が多く売れ筋のガソリン溜分が少ないため日本の精製各社は引き取りに余り乗り気ではなかった。自主開発原油を育てたい通産省は精製各社にカフジ原油を強制的に割り当てることを目論んだ。時代は高度成長期で各社は競って精製設備の新増設を目指したが、設備の許認可権は通産省が握っている。通産省はこの強力な権限をちらつかせてカフジ原油を精製各社に引き取らせたのである。

 サウジ・クウェイト両国政府との対応、そして国内精製各社に対する無言の圧力として日本政府(通産省)とアラビア石油が一体化した形を取ることが求められた。こうして大慈弥次官が1974年にアラビア石油に乗り込み1976年には水野社長の後を継いで社長に就任した。その後利権協定終結まで官僚出身の社長が続いたことは冒頭に述べたとおりである。

 天下り社長が歴代続いたことが社内外に波紋を投げたことは言うまでもない。筆者の在職中も社内で多くの批判的意見を聞かされた。ただそれは勤務中の表立った発言ではなく退社後の居酒屋でのうっぷん晴らしであった。中途採用の筆者は先輩たちの繰り言を適当に聞き流していた。また広報課長としてメディアや他社の関係者から折に触れて自社の評判を聞く機会があったが、彼らの多くはアラビア石油に対して批判的であった。アラビア石油の社長は天下りでなければ勤まらない、つまりアラビア石油にとって日本政府の威光が不可欠だとみなしていた。アラビア石油は良い意味でも悪い意味でも特別な会社だ、と言うのが社外の共通した見方だと感じた。「特別な会社」と言う意識は社員自身にも根強く、社内には一種独特の雰囲気が充満していた。

 小長氏が天下った1989年、日本は昭和から平成に移り消費税がスタートした。世界に目を移すと中国では天安門事件が発生、ドイツではベルリンの壁が破壊され、ソビエト連邦の崩壊が目前に迫っていた。

(続く)

(追記)本シリーズ(1)~(13)は下記で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0278BankaAoc.pdf 

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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