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(アラビア語版)
Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」
59. エスニック・クレンザー(民族浄化剤)(2)
『ドクター・ジルゴ』の想定では、新発見のウィルスはパレスチナ人にもアシュケナジなどのユダヤ民族にも感染し発熱するが、熱は数日で収まり後遺症は残らないはずであった。また致死率はほぼゼロであり危険性は高くないと予測できた。しかし感染後に診断すれば、パレスチナ人女性だけには致命的な影響力が残るはずであった。それは彼女たちの生殖能力が著しく減退するというものである。
『ドクター・ジルゴ』は自分の仮説を証明するために人体実験を行う必要があった。ただし政府機関が彼の要求をまともに取り扱うはずがない。それを突破するためには、イスラエル政府のトップに影響力がある有力者の後押しが不可欠である。もしその有力者がアシュケナジの血統の正統性を信じ、一方でパレスチナ人の増加を懸念している人物であれば、きっと話に乗ってくれるであろうと彼は考えた。
彼は旧知の『シャイ・ロック』にあたってみようと考えた。『シャイ・ロック』はかつての片思いのシャロームの父親であり、二人の仲を裂くために彼を米国に遠ざけた男である。しかしそれは彼にとって遠い昔の話である。むしろ米国で先端医学を学んだことで、ロシア系ユダヤ人の彼は帰国後に政府機関の要職を手にしたのであった。彼は栄誉名声のためであれば利用できるものは何でも利用する男であった。彼は『シャイ・ロック』に面会を求めた。
『ドクター・ジルゴ』はアナットに案内されて『シャイ・ロック』の執務室に入っていった。
「閣下、再びお目にかかれて光栄です。お元気なご様子何よりです。」
彼は「再び」と言う言葉を強調して、シャイ・ロックの注意を引こうとした。
数年前次女ゴルダとの結婚を願い出た時以来、二度目の出会いであった。父親は娘との結婚に猛反対し、別れる条件として米国留学をちらつかせた。ジルゴはその話に飛びついたのである。
そもそもロシアの貧しい農家出身の自分とエリートのアシュケナジ出身のシャロームとでは身分の差が大きく、結婚が難しいことは解っていた。だからこそ将軍の娘との結婚と米国留学を天秤にかけ、実利を取ったのである。ジルゴはどこまでも勘定高い男であった。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html