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Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」
58. エスニック・クレンザー(民族浄化剤)(1)
『ドクター・ジルゴ』は寝食を忘れて遺伝子研究に没頭した。彼はパレスチナ人とアシュケナジ系ユダヤ人の二つの遺伝子を操作しながら、新型ウィルスが一方にだけ作用する可能性を探った。彼の研究は神性と魔性の境界線すれすれの領域、細い塀の上を歩くような際どいものであった。
そうしたある日、彼は顕微鏡の中のミクロの世界に偶然の突然変異を発見したのである。それはまさに彼が探し求めていたウィルスであった。彼は新発見のウィルスの培養に成功した。新型ウィルスの最初の発見者には命名権の栄誉が与えられる。彼は『エスニック・クレンザー』(民族浄化剤)と名付けることにした。
しかし彼がこの新発見で世俗的な栄誉あるいは経済的報酬を得るにはいくつかの問題があった。その一つは彼の発見が偶然の賜物であり再現性に欠けていたことである。彼は発見の直後からそれまでの実験経過をたどり同じ結果を得ようとしたが結局同じウィルスを作成することができなかった。つまり彼の実験室に存在するのが世界唯一のウィルスなのである。ただし、培養方法は彼自身が確立しているので、いつでも必要なだけを外部に供給できる。つまり彼はこのウィルスに関しては世界の独占供給者なのである。
第二の問題は、新型ウィルスの実効性をどのように証明するかである。この場合の実効性とはウィルスがパレスチナ人女性の生殖能力に影響を及ぼすが、男性やパレスチナ人を除くその他の女性には初期の発熱以外に影響が出ないことである。そもそも人体にマイナスの影響を与える物質を実験することは倫理に悖る。まして人種あるいは民族の違いで有効性が異なることが予測され、しかもそれが人種・民族の存亡にかかわるかもしれないウィルスを実験することは許されることではない。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html