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石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

消費量でインドに追い抜かれた日本:BPエネルギー統計2016年版解説シリーズ:石油篇13

2016-07-07 | BP統計

(注)本シリーズは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます

 

(2年間で半値になった原油価格!)

4.指標3原油の年間平均価格と1976~2015年の価格推移

(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-4-G01.pdf参照)

 ここでは国際的な原油価格の指標として使われる米国WTI(West Texas Intermediate)原油、英国北海Brent原油及びドバイ原油の3種類の原油の年間平均価格(ドル/バレル)とその推移を検証する。

 

 2015年の3原油の年間平均価格はBrent原油は52.39ドル(バレル当たり。以下同様)、WTI原油48.71ドル、ドバイ原油51.20ドルでありBrent価格を100とした場合ドバイ原油は98、WTI原油は93であり、WTIはBrentより7%安値であった。

 

 これら3原油の1976年以降の価格の推移は2010年頃までほぼ同じような歩みを示している。Brent原油で見ると、1976年の同原油の年間平均価格は12.80ドルであった。1979年の第二次オイルショックを契機に価格は急騰、1980年には約3倍の36.83ドルに達した。その後景気の低迷により価格は一転して下落、1986年には14.43ドルと第二次オイルショック前の状況に逆戻りしている。

 

 この状況は1990年代も続きBrentの年間平均価格は20ドル前後で推移している。ところが1998年の12.72ドルを底に急激に上昇に転じ1999年は17.97ドル、2000年には28.50ドルとわずか2年で2倍以上に急上昇した。その後一旦下落したものの2003年からは上げ足を速め2004年には40ドル弱、2005年に50ドルの大台を超えるとさらに急騰、2008年の年央にはついに史上最高の147ドルに達し、同年の平均価格も100ドル目前の97.26ドルを記録している。

 

 同年のリーマンショックで2009年には一旦61.67ドルまで急落したが、再び上昇気流に乗り2011年の年間平均価格はついに100ドルを超えて111.26ドルになり、その後2012年、2013年も平均価格は110ドル前後と原油価格は歴史的な高値を記録、これは2014年前半まで続いた。

 

 しかし数年前から米国のシェールオイルの生産が急激に増えた結果、市場では供給圧力が増し、Brent原油価格は米国WTI原油に引きずられ弱含みの状況になった。これに対してOPECは同年6月の定例総会で生産目標3千万B/Dの引き下げを見送ったため市況は一挙に急落、年末にはついに50ドル割れの事態となった。2015年前半は一時60ドルまで値を戻したが、後半はさらに値下がりし、年末には40ドルを切った。この結果Brent原油の2015年の年間平均価格は52.39ドルとなりわずか2年間で半値以下に暴落している。

 

 暴落した最大の要因はOPECが減産調整できずサウジアラビアなど主要産油国が増産に走ったことにある。これに世界景気の停滞が拍車をかけ需給バランスが完全に崩れ原油価格が暴落したのである。サウジアラビアは近年の米国シェールオイルの増産が価格崩壊の主要因と見ており、価格を低水準に抑えることでシェールオイルを抑え込む戦術を取ったとされる。原油市場は過酷な価格競争により競争相手を蹴落とそうとする「チキン・レース」の様相を呈している。

 

 この結果、米国では休廃業するシェールオイル生産者が続出しているが、産油国自身も財政面でかなりの痛手を負っている。今年に入って年初は30ドルを割る状況も出現、現在のところ50ドル前後まで回復しているものの2011年から2013年にかけての100ドルを超す価格の再来はとても期待できない状況である。

 

 Brent、WTI、ドバイ3原油の1976年以降の価格を比較すると、まず1976年の3原油の平均価格はBrent 12.80ドル、WTI 12.23ドル、ドバイ 11.63ドルでBrentが最も高かった。しかし1980年になるとBrent 36.83ドル、WTI 37.96ドル、ドバイ 35.69ドルとなり、3原油の中でWTIが最も高くなった。これ以降2009年まで年間平均価格はWTIがBrentを上回る状態が続いた。

 

 ところが2011年の年間平均価格はBrent 111.26ドル、WTI 95.04ドル、ドバイ 106.18ドルとなり、WTIの価格はBrentを下回るのみならずドバイよりも低くなった。この傾向は2012年以降も続いている。そしてBrent及びドバイが100ドル台を維持する中でWTIだけは100ドルを切った水準にとどまったのである。

 

 このようなWTIの最近の価格動向の最大の要因は米国のエネルギー開発業界を席巻しているシェール革命にあることは間違いない。シェール革命のさきがけとなったシェールガスの開発生産により米国内の天然ガス価格が急落、それにつられてWTI原油価格も弱含みとなった訳であるが、ここ数年シェールオイルの生産が高水準を維持し、2015年の米国の石油生産量は1,270万B/Dに達し2年連続で世界一となっている(本稿3-4「主要国の生産量の推移」参照)。しかもこの間米国では原油の輸出が禁止されていたため、WTI価格は国内の石油需給バランスにひきずられ、Brent或いはドバイ原油と乖離した安値にとどまった。最近米国政府が原油輸出解禁に踏み切ったため3原油の価格は再び同調するものと見られる。

 

(続く)

 

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        前田 高行        〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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