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石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

これからが正念場のBP(1)

2010-09-27 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。

1.5か月ぶりの暴墳事故終息宣言

 9月19日、BPはプレスリリースでメキシコ湾MC252号井を完全に封印したと宣言した 。MC252号井はメキシコ湾1,500メートルの海底から更に地下4千メートルの深海油田に向けて掘られた総延長5,500メートルの試掘井である。4月20日、海上の試掘用台船でガス漏れによる火災と爆発が発生、作業員11人が死亡した。そしてその2日後、2回目の爆発で台船が沈没、1,500メートルの海底のパイプが折れ石油とガスが海中に墳出した。

  試掘に暴墳(Blow Out)はつきものである。地下の油田は超高圧であり、掘削中の井戸が油田に達するやいなや、油層の石油とガスは圧力の低い油井パイプの中を急上昇し、そのまま放置すればパイプの先端から暴墳し大事故となる。筆者がかつて働いていたアラビア石油もアラビア湾のカフジで第一号井を掘削中に暴墳し、結局暴墳を制御し井戸を埋め殺したことがある(筆者の入社前のことである)。

  暴墳さえ防ぐことができれば、実はこれは石油企業にとっては最高の吉兆なのである。つまり試掘で油田を掘り当てたことを意味するからである。暴墳を防止するためあらかじめ想定された油田の深度近くに達すると掘削は極めて慎重に行われる。暴墳対策として地表の掘削リグには暴墳防止装置のバルブ(Blow Out Preventer, BOP)が設置される。また試掘作業中は先端の掘削ドリル(ビットと呼ばれる)が破砕した岩石の屑を地上に取りだすため掘削パイプの中に泥水(Mud)を循環させる。油層に達すると先端の圧力が急激に上昇するので、ドリル先端部の圧力が油田の圧力より多少低くなるように地上から供給する泥水の比重を上げ、或いはバルブを絞って圧力のバランスを取る。こうすることによって地下の石油とガスがパイプの中を安全な速度で上昇すると言う訳である。

  単純に言えば(筆者は石油開発工学に全くの素人なのでかなり乱暴な説明になることを御承知願いたい)、水圧は10メートルで1気圧であるから、5千メートルの深さの井戸に水を充満させれば、その先端は500気圧になる。逆に言えば油層圧力が500気圧以上であれば地下の石油はパイプの中の水を押し上げて地上に達する。油層圧は数千気圧に達することが珍しくなく、この場合石油とガスは一気にパイプの中を上昇するため非常に危険である。このように石油の掘削は常に危険と隣り合わせなのである。

  今回のBPの場合最初に火災が発生したのは地下五千メートルの油層からのガスが漏れて台船上のモーターの静電気の火花に引火したと考えられる。その時直ちに海底に設置された暴墳装置が作動していれば大事に至らなかった可能性が高い。しかし2日後に台船が沈没し海中部分の油井管が大きく曲がったため暴墳装置の根元部分が破断し、高圧のガスと石油が噴き出したのである。

  BPは想定される事故の原因と当時台船上でとられた措置について9月8日に最初の報告書を公表した 。報告書は責任の所在がBPにあるのか、掘削業者にあるのかは明瞭にしていない。報告書は今後第三者を交え技術的な問題の解明を含めて検証されなければならないであろう。しかし事故の原因が特定されたとしても長期間にわたって流出した石油は環境問題、漁業問題を含めメキシコ湾とその沿岸で生活する人々に取り返しのつかない被害をもたらしたのである。

(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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