石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)OPEC、緊急会合で120万B/D減産―五つの疑問(4)

2006-11-07 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(これまでの内容)

(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点

(第2回) 疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?

(第3回) 疑問2:何故「生産枠の縮小」ではなく、「生産量の削減」としたのか?

 

4.疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

 米国の原油先物取引市場NYMEXの代表的な油種であるWTI(West Texas Intermediate)の価格は、7月中旬に1バレル78ドルの史上最高値をつけたが、10月初めには25%も下落し、60ドル台を切った。OPEC各国は生産を削減すべき状況であると認めざるを得なかったようである。9月11日の定期会合で生産枠の維持を決めたばかりであり、見直しは次回12月の定期会合に行う予定であったが、原油価格は日を追うごとに下がり続けた。このためOPEC内の強硬派であるナイジェリアとベネズエラは、臨時会合を開いて直ちに生産を削減すべきである、と主張したのである。

 生産削減が必要なことを加盟各国に説得し、臨時会合の開催を根回ししたのは、OPEC議長であるダウコル・ナイジェリア石油相であった。そして10月12日のAFPのインタビューで、彼は全ての加盟国が100万B/Dの削減に同意した、と答えている 。こうして19日の臨時会合が開かれる直前には、削減幅100万B/DがOPECのコンセンサスである、との報道が流れた。専門家の中には、既にOPECの実際の生産量が生産枠を下回っていることを理由に、100万B/Dの削減では価格が上昇に転ずることは難しいのではないか、と言う意見もあった。しかし米国や中国などの消費国の需要が衰えを見せず、また北半球が冬場の需要期に向かうことを考えると、100万B/Dの減産で価格が回復するであろう、との見方が一般的であった。

 ところが緊急会合では120万B/Dの削減が決定された。これは当初の予想を2割も上回るものであり、驚きをもって報道された 。クウェイトのジャラーハ石油相は、記者団に対して、タカ派の加盟国は100万B/Dの削減では不十分だと考えており、クウェイトも同じ見解である、と述べた。また会議出席者の1人は、OPECバスケット価格を55ドル以上に維持することが必要である、と語った。OPECバスケット価格はWTI価格よりほぼ6ドル程度低いことから、この発言はWTI価格が60ドル以上であることが望ましい、とするOPECの意向を示したものと考えられる 。

 120万B/Dと言う予想を上回る削減幅となった理由については、過去のOPEC会合における生産枠の増減幅がどのようなものであったかを検証することが参考になる。1982年にOPECが始めて各国別の生産枠を決めて以来、これまでに生産枠の増減が決議されたのは33回である。このうち増産を決議したのは21回であり、減産決議は12回であった。1982年3月に決定された最初の生産枠は1,715万B/Dであり、昨年7月には2,800万B/Dと言うOPEC史上最高の生産枠となっている。従って増産決議が減産決議の回数を上回るのはある意味で当然であるが、増産決議の回数が減産決議のほぼ2倍であることに注目すべきであろう。

 この事実は、OPEC総会において増産を決議する場合は小幅で段階的に引き上げ、一方、減産を決議する場合は一挙に大幅な引き下げを行っていることを示している。実際、12回の減産決議の内容を見ると、そのうち7回の減産幅は100万B/D以上である。因みに100万B/D以上の増産を決議した回数は21回中、7回にすぎない。このことからOPECは、増産は小刻みに、そして減産は大胆に行っていることがわかる。今回も減産幅が当初の予想を上回る120万B/Dとなったことは、OPEC加盟国の間で過去と同様の心理が働いたものと推測される。それでは何故このような心理が働くのであろうか。それは恐らくOPECが「生産者カルテル」であると言う理由によるものと考えられる。

 つまりOPECは原油価格の上昇局面では、更なる高値を期待して売り惜しみ(即ち小刻みな増産)の心理が働く一方、価格の下降局面では、更なる下落即ち価格の崩落に対する恐怖心が首をもたげ、大幅な減産によって価格の下落を食い止めたい、とする集団心理が働くためであろう。これはOPECに限ったことではなく、全ての「生産者カルテル」に共通した傾向ではないかと思われる。

 緊急会合後の各国のコメントを見ると、OPEC各国は予想を上回る減産決議を行ったにもかかわらず、価格の更なる下落に対する恐れを払拭できないようである。出席者の1人は、目前の12月の会合で更に50万B/Dを削減する可能性を示唆し、OPECの重鎮、サウジアラビアのナイミ石油相も、これが終わりではない、と言う意味深長な発言をしている 。そこには、現在以上の価格下落を何としても防ぎたい、とするOPEC諸国の悲痛な思いが垣間見えるのである。

(第4回 完)

(今後の予定)

5.疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

6.疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?

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