石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)OPEC、緊急会合で120万B/D減産―五つの疑問(5)

2006-11-12 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(これまでの内容)

(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点

(第2回) 疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?

(第3回) 疑問2:何故「生産枠の縮小」ではなく、「生産量の削減」としたのか?

(第4回) 疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

 

(第5回) 疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

  10月20日にOPECは11月1日から生産量を120万B/D削減すると発表したが、それは当初予想された100万B/Dを大幅に上回り世界を驚かせた。OPEC事務局のプレスリリースによれば、各国の削減量は以下の通りである。(単位は千B/D)

  サウジアラビア(380)、イラン(176)、ベネズエラ(138)、UAE(101)、クウェイト、ナイジェリア(各100)、リビア(72)、アルジェリア(59)、インドネシア(39)、カタル(35)

 サウジアラビアとイランの2カ国で全体の削減量120万B/Dのほぼ半分を負担する形となっている。120万B/DはOPECの生産枠(2,800万B/D)或いは9月の生産量(2,760万B/D、OPEC10月々例報告による)の4.3%に相当する。それでは各国の削減量はどのようにして合意されたのであろうか。結論を先に述べれば、各国の生産枠ではなく、9月の実際の生産量に基づいて決定されたものと考えられるのである。

 そもそもOPECが最初に国別生産枠(Quota)を決めたのは1982年のことであるが、それまではOPEC最大の生産国であるサウジアラビアが、いわゆる「スウィング・プロデューサー」として自ら需給調整の役割を果たしていた。しかし第二次オイル・ショック(1978年)以降の石油の需要減退と価格低下に耐え切れずサウジアラビアはスイング・プロデューサーの役割を放棄した。この結果、OPECは国別生産枠方式を導入したのである。その後、イラン・イラク戦争(1980~88年)、湾岸戦争(1990~01年)、イラクに対する経済制裁などにより一部加盟国が生産を停止または減産した時には、実情に応じてその他加盟国の生産枠の見直しを柔軟に行ってきた。

 しかしイラクが生産枠の対象から除外された後(1998年)、2000年6月から現在の生産枠2,800万B/Dが決定された昨年6月の会合まで、各国の生産割当は同じ比率で増加または減少されている。これは各国の利害の対立を最小限に抑えるための妥協の産物であろう。なぜなら、価格が上昇傾向にある場合、各国はできるだけ増産して石油収入を拡大したいと考えるであろうし、一方価格が下落しOPECとして価格を維持或いは反転させるために生産枠を減少させようとする場合は逆に、各国は石油収入の減少をおさえるため、自国の減産枠をできるだけ少なくしたい、と考え、加盟国の利害が対立するからである。

 生産枠のシェアが固定された結果、現在では各国の生産枠と実際の生産量とが乖離したものとなっている。例えばOPEC全体の9月の生産量は2,760万B/Dであり、生産枠(2,800万B/D)とほぼ同じ数量であるものの、各国の生産量を見ると、アルジェリアが生産枠の1.5倍に達している一方、インドネシアやベネズエラが生産枠を大幅に下回ると言う、いびつな状況になっているのである(詳しくは第3回参照)。これは言い換えると、OPEC加盟国間の生産枠のシェアは2000年以降変化していないにもかかわらず、実際の市場シェアは変動していると言うことである。現在のところアルジェリアは市場シェアを高め、インドネシアやベネズエラは市場シェアを落としている。

 このため臨時会合で全体の削減量を120万B/Dとすることは合意しても、各国別の割り振りを従来どおり生産枠のシェアとするか、或いは実際の市場シェアとするかが問題となった。大幅削減という「総論」は賛成でも、国別の削減量という「各論」になると、各国の利害が対立し容易に結論がでないのである。結局、今回の臨時会合では生産枠と市場シェアの議論を横に置いて、国別の削減量のみを決定する、という形で議論の矛を納めた模様である。しかし実際には市場シェアをベースに国別の削減量を決めたと思われる。削減量120万B/Dは9月生産量の△4.3%であるが(上述)、各国毎の削減比率も以下のようにほぼ生産量に比例していることからそのことが理解できるのである。

 アルジェリア(△4.3%)、インドネシア(△4.4%)、イラン(△4.5%)、クウェイト(△4.0%)、リビア(△4.2%)、ナイジェリア(△4.5%)、カタル(△4.2%)、サウジアラビア(△4.2%)、UAE(△3.9%)、ベネズエラ(△5.4%)

 これを見るとベネズエラが最も大きな犠牲を払っており、またナイジェリア及びイランが平均(△4.3%)を上回る削減率を受け入れている。ナイジェリアとベネズエラ両国は、今回の臨時会合を最も熱心に呼びかけたこともあり、他国を上回る削減率を受け入れたものと思われる(因みにナイジェリアはOPECの議長国である)。ただ生産枠をベースとした削減を主張していたベネズエラにとっては、138千B/Dと言う今回の削減は痛手であろう。その一方、アルジェリアは生産量が生産枠を大幅に上回っているにもかかわらず、他国並みの削減率となり、「漁夫の利」を占めた形である。

(第5回 完)

(今後の予定)

6.疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?

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