廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

唯一、レコードで聴くチック・コリア

2015年09月22日 | ECM

Chick Corea / Trio Music, Live In Europe  ( 西独 ECM 1310 )


私にとってチック・コリアという人は、なかなかその魅力をうまく把握しきれない、もどかしいミュージシャンです。 とにかくピアノは上手いし、
名曲を書くし、いろんなフォーマットで様々な音楽をこなす才能は圧巻、とケチの付け処は皆無なのですが、溺愛しているアルバムが1枚もない。
逆のケースはいくらでもあるのですが、その才能のすべてに敬意を抱いているのにアルバムという単位で見ると、どうもピンとこない。

まず、リターン・トゥ・フォーエヴァーの魅力が全くわかりません。 どんなアルバムだって1曲くらいは気に入るものがあるのが普通だと思いますが、
このシリーズにはそれが全くない。 もちろん "Spain" は大好きな曲ですが、オリジナルのこのヴァージョンが1番ダサい。
"カモメ" に至っては、あの音感の悪いヴォーカルがとにかく不快で、あれさえなければもう少しは好きになれたかも、と思うような始末です。

"Crystal Silence" も世評が絶賛するような綺麗さや美しさを感じたことがないし、"Circle" も器用さばかりが先に立って音楽的には中途半端な気がするし、
エレクトリック・バンドは最初から聴く気にすらなれない。 "Mad Hatter" は割と好きですが、でもそれはガッドのドラムのおかげです。
この人はあまりに賢過ぎて、上手過ぎて、器用過ぎるのです。 だから、手先だけでピアノを弾いているような感じがするし、音楽も上滑りしている
ような感じが拭えない。 その目移りの速さについて行けず、ぽつんと置いてきぼりにされてしまったような戸惑いを常に感じます。

そんな中で、唯一、毎度の音盤裁判で常に無罪判決を勝ち取り、棚の中で生き残り続けているのがこの作品です。 粒立ちの良いピアノが気持ちよく、
R.ヘインズの年齢を感じさせない若々しいドラムが素晴らしい。 確か、発表時は各方面でとても好意的に迎えられたような記憶があります。
キースのスタンダーズの3部作の翌年の録音なので、大抵は2番煎じと陰口を叩かれる分の悪さに甘んじていますが、これはこれでとてもいい演奏です。
バラードが弾けないチックの作品らしくアップテンポの曲が大半ですが、M.ヴィトウスやR.ヘインズの見せ場をきちんと用意するなどの気配りも
行き届いているし、スクリャービンを導入部としてうまく使えています。

ECMに開眼した影響でレコードにも手を出してみましたが、これもECMらしい素晴らしい音場感で大満足。 
そのおかげで、家でこの作品をよく聴くようになりました。 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 捨て曲なしの傑作 | トップ | 70年代のノルウェーの風景 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ECM」カテゴリの最新記事