廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

小ネタ集(国内初期盤の音質はどうなのか)

2024年05月30日 | Jazz LP (国内盤)

ケニー・ドーハム / しずかなるケニー  ( 日本ビクター株式会社 RANK 5086 )

音圧が低くこもっているので、ボリュームを上げて聴くことになる。音量を上げると、音像は立ち上がってくる。各楽器の解像度は悪いが、
ドラムの音色が空間に響く様子は再現されている。ただ、全体的に薄いベールをまとったような音質で、お世辞にも音がいいとは言えない。
やっぱりこのタイトルはステレオプレスに限る。




ケニー・ドーハム五重奏団 / ケニー・ドーハムの肖像  ( 日本ビクター株式会社 RANK 5063 )

こちらの音質はまずまずといったところで悪くない。オリジナルと比較してもさほど大きくは遜色ない、と言ってもいいのではないか。
これが出ているならモンテローズの方も出ていておかしくないはずだが、見たことがない。出なかったのだろうか・・・




カール・パーキンス / イントロデューシング  ( 日 JAPAN SALES CO., LTD. TOKYO LPM 20 )

音圧が低く、ボリュームを上げて聴くことになる。音質自体は精彩があるとは言えない。ジャケットはオリジナルに忠実だが、パーキンスの
顔が写真そのままではなく修整されていて、それがなんだが作るのに失敗した人形のような顔になっていて怖い。ただ、盤のほうはフラット
ディスクになっていて、しっかりとした作りになっている。発売元の会社は当時は芝公園に居を構えていたらしい謎の会社で、そのカタログを
見るとファンタジー・レーベルのレコードを主に再発していたみたいだが、なぜかこれやアーゴの "ZOOT" なんかも混ざっている。
これが出ているのであればデックスの方も出ていてよさそうなものだが、見たことがない。




マイルス・デヴィス五重奏団 / シネ・ジャズ/マイルス~ブレイキー  ( 日本ビクター株式会社 FON-5002 )

音質は頑張っていて、オリジナルとさほど変わらない。複数のジャケットデザインがあるが、私はこのジャケットが1番好きである。
このタイトルは10インチで聴くのには向いておらず、12インチか、若しくはCDで聴くのがいい。CDは音が良くて、未発表トラックも
多数含まれていて素晴らしいと思う。元々が端切れのような断片のような楽曲たちなので、未発表トラックと並べても特に違和感なく聴ける。



最近、中古市場でペラジャケを見ることがめっきり減ったような気がする。処分する人が減ったのか、海外に流れているのか、それとも
お店が抱え込んで出し惜しみしているか。いずれにしても、漁盤はずいぶんとやりにくくなった。最後にペラジャケを拾ったのがいつだったか、
値段は覚えていても時期は思い出せない。

以前は仕事帰りに時間が早ければ店に寄って小一時間くらい遊んで帰るのが楽しかったが、それも今は昔。特にユニオンは少し前から
利益追求型へと露骨に舵を切っていて、以前のいい意味での緩さやいい加減さがなくなり、店舗の魅力が色褪せた。今は店舗に行っても、
「おお、これは!」というのがなく、何となく足も遠のきがち。


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たった1枚のリーダー作

2024年05月19日 | Jazz LP (Time)

Tommy Turrentine / S/T  ( 米 Time Records T/70008 )


トミー・タレンタインのリーダー作はこの1枚しかない。40年代からプロとして活動していたが、そのキャリアはビッグ・バンドのメンバーとしてが
メインで、ソロ活動にはあまり積極的ではなかったようだ。トランペットの腕はしっかりとしているのでポツリポツリとサイドマンとして参加
しているアルバムはあるのだが、そのどれもが印象は薄い。弟のスタンレーとは違い、性格的に前に出ようとするタイプではなかったのだろう。

ただ、ここでの演奏をあらためて聴くと、その輝かしい音色や安定したフレーズに「こんなに上手かったっけ?」と驚かされることになる。
瞬発力で聴かせるのではなく、じっくりと長いフレーズで聴かせるタイプなので聴き手に強い印象を残すことがないのだろうが、よく聴くと
演奏力の高さはすぐわかる。でもリーダー作の割には第1ソロは弟に吹かせたりゲストのプリースターにやらせたり、と自身の演奏スペースは
さほど長くなくて、そういうところも彼の印象が前に出てこない要因になっている。

ビッグ・バンドでの経験からの影響か、3管編成で重奏するテーマ部を持つ曲が多く、アレンジの仕方もビッグ・バンドがよくやる処理になっている
箇所が所々見られる。ハードバップの疾走感を表現するよりは管楽器の重奏パートで音楽に厚みを持たせようとするアプローチになっている。
それがここでの音楽をマイルドな印象に仕上げていて、そういうところにもこの人の人柄が反映されているのではないかと思う。

それでも音楽の基調はハードバップで、トミーが作曲した "Time's Up" や "Two,Three,One,Oh!" などは哀感が漂う名曲で聴き惚れる。
スタンレー・タレンタインは後年のアクの強いプレイとは違ってストレートに重い音色を鳴らしていて見事な演奏を聴かせるし、普段は田舎臭い
雰囲気のプリースターも明るめの音色でクッキリとしたソロを取っていて、演奏全体の纏まり感や質感は非常に高く素晴らしい。
タイム・レーベルらしく音質も良く、これはいいレコードである。



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Kevin Grayは現代のRVGになれるか

2024年05月12日 | Jazz LP (Milestone)

Joe Henderson / Power To The People  ( 米 Craft Recordings / Concord CR00655 )


Kevin Gray がリマスターして再発されるレコードの勢いがすごい。筆頭はブルーノートのシリーズだが、それだけにとどまらず、痒い所に手が届く
ようなタイトルも手掛けていてなかなか目が離せない状況となっている。本当なら片っ端から買って聴いてみたいところだが如何せん値段が高過ぎて
簡単には手が出せず、大抵は指をくわえて見ていることが多いのだが、このタイトルだけは反射的に手が出た。

数年前にジョー・ヘンダーソンのアルバムを聞き直そうといろいろ物色した時にこのアルバムはどうしても見つからず聴けず仕舞いだった。
最近海外のジョー・ヘンダーソンの値段高騰が凄まじく、右に倣えで国内の中古価格も異常な値段が付けられるようになっており、もう聴けない
かなあとあきらめかけていたところだったので、これには小躍りした。元々60年代末の作りが安っぽくなった時期のレコードだからオリジナル盤
にこだわる必要はなく、却って現代の丁寧な作りのものの方がいい。音質もケヴィン・グレイが関与しているのだから大丈夫だろうと思ったが、
これが大当たりだった。

このアルバムの肝はハービー・ハンコックのエレピで、幻想的で浮遊感溢れるサウンドが凄い。ハービーはエレピを従来のジャズピアノのような
使い方ではなく音楽の背景を描くように使っていて、こういうところがロック的な発想で音楽の建付けが根本から違っている。そういう中を
ヘンダーソンのサックスが硬質に引き締まった音色で切り裂くように鳴っており、快楽的である。全体的には叙情的な雰囲気ながらも芯は非常に
硬派なジャズが展開されていて、そのバランス感が絶妙で素晴らしい。

そういう音楽的な感動を支えるのがこのレコードから流れてくる音質。楽器1つ1つの音が丁寧に磨かれたかのように輝いていて艶やかで、
この音楽の実像がありありと浮かび上がってくる。オリジナル盤は聴いていないので比較はできないが、この音質であれば変にオリジナルなど
聴かない方がいいのではないかと思えるくらいに生々しく仕上がっていて、これは素晴らしいレコードだと確信できる。

日本が復刻する場合はいかにオリジナルに近づけるかという発想になりがちだが、それだと結局オリジナルを探せばいいじゃんということになる。
しかし、Tone Poetシリーズに代表される海外の最近の復刻は既存の音源からまったく別の良さを引き出そうとしていて、根本的に発想が違う。
そこには新しい価値が提供されており、かつてのジャズが別の魅力を携えて蘇えるという創造的な仕事をしている。それは、古いSP録音の音源に
磨きをかけてまったく新しい録音であるかのように仕立て上げたヴァン・ゲルダーのやったことに似ている。今まさにその中心をケヴィン・グレイが
担っているのだろう。彼は新しい時代のヴァン・ゲルダーになれるだろうか?



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小ネタ集(Savoyのセカンドレーベルはダメなのか)

2024年05月06日 | Jazz LP (Savoy)



Curtis Fuller / Imagination  ( 米 Savoy Records MG 12144 )


結論から言うとダメではなく、全然アリである。なぜなら、音がまったく同じだからだ。

上段があずきレーベルでセカンド、下段がマルーンレーベルでオリジナルということになるが、どちらにも手書きでRVGとX20の刻印がある。
盤の違いはオリジナルには浅い溝からあることと貼られているレーベルの種類が違うというだけで、それ以外は特に違いはない。
ジャケットのデザインは大幅に変更されているがどちらもなんだかなあというデザインであるところは一緒で、頼りない感じの作りも同じだ。

音は、当たり前ながら、どちらも同じ音が出てくる。典型的なサヴォイのヴァン・ゲルダーの音で、鮮度のいい音で聴ける。
ヴァン・ゲルダー・サウンドと一口で括られることが多いけれど実はそうではない。ブルーノートのRVG、プレスティッジのRVG、サヴォイのRVG、
インパルスのRVGは皆それぞれ音が違う。ヴァン・ゲルダーはレーベル毎に音質を変えており、且つ同一レーベル内では音質を揃えている。
意図してレーベル・カラーというものを作っていたということで、こういうところにこの人の感性と技術力の卓越性があった。

セカンド・レーベルをきちんと聴いていくと「オリジナルが1番音がいい」という言説は正しくないということがわかってくる。



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小ネタ集(Riversideのセカンドレーベルはダメなのか)

2024年05月03日 | Jazz LP (Riverside)



Wes Montgomery / The Incredible Jazz Guitar Of Wes Montgomery  ( 米 Riverside Records RLP12-320 )


結論から言うとダメではなく、全然アリである。なぜなら、音はまったく同じだからだ。

ウェス・モンゴメリーの "インクレディブル" を例にすると、上段が青大レーベルでセカンド、下段が青小レーベルでオリジナルだが、青小レーベル
には BILL GRAUER PRODUCTIONS の後にINC.ロゴの入るものがあってそれが青小レーベルのセカンドプレスになるので、厳密に言うと青大
レーベルはサードプレスくらいになる。

この2つを比べてみると、違いがあるのは盤の材質というか仕上げが少し違っていることと貼られているレーベルが違うくらいで、ジャケットは
まったく同じものが使われている。だからレコードを実際に手に取って見てみると、その質感はほとんど同じで何も変わらない。青大は2年後の
リリースということになっているが、製造自体はそんなには離れていないんじゃないかと思う。

で、肝心の音質だが、これがまったく同じ音。注意深く聴き比べてみるけど、まったく同じ音質だ。タイトルによっては違うものもあるかも
しれないが、エヴァンスの "ポートレート" も以前青大を持っていて聴き比べていたがまったく同じ音だったから、おそらくは多くのタイトルで
同様だろうと思う。これはプレスティッジのN.Y.CレーベルとNJレーベルでも同じことが言える。

この2つの価格差はおよそ7~8倍。今はオリジナルの価格が以前の2~3倍になっていて、すべてのタイトルをオリジナルで聴くのは不可能だから、
セカンドであっても躊躇することなく聴けばいいと思う。50年代のレーベルは概ねどれもオリジナルとセカンドの製造時期は隣接していて、同じ
マスターテープを使い、同じ技師がカッティングしているケースがほとんど。現在ネットやSNSでさかんに語られている "オリジナル神話" は
レコード人口の増加に伴い話の内容が雑になってきていて質も劣化しているので、自分の耳で確かめるのが1番いい。



コメント (4)
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