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廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジャンキーたちの虚ろな音楽

2023年09月09日 | Jazz LP (Capitol)

Serge Chaloff / Blue Srege  ( 米 Capitol Records T-742 )


1957年脊椎の癌で33歳という若さで亡くなったサージ・チャロフの記録は少なく、一番この人の実像がわかりやすく聴けるのが死の前年に
録音したこのアルバム。当然、この時点で既に身体は癌に蝕まれていただろうし、それ以前に最後には克服したとは言え、元々が重度の
へロイン中毒だったこともあり、身も心もボロボロだったはず。そんな彼の辞世の句がここには刻まれている。

バリトンを太い音で鳴らすのではなく、強弱の陰影をつけて吹くやり方はアート・ペッパーに似ており、バリトン界では他にはあまり例がない
吹き方だったように思う。バリトンという楽器にとってそれが効果的な吹き方だったのかどうかはよくわからないけれど、際立った個性では
あったと思う。ウディ・ハーマンの "フォー・ブラザーズ" としての名声がありながらも、その記録が十分に残らなかったのは残念だ。

スタンダードがメインのプログラムで、ワンホーンで緩急を付けた演奏はうまく纏まっており、よく出来ている。全体的にゆったりとした
恰幅のいい音楽で、なんともわかりやすい。昔はつまらない音楽だなと思っていたけど、こちらが枯れてくるとこのくらいがちょうどいいかも
と感じるようになってくる。聴く側の年齢によって、音楽の感じ方も変化してくる。

翌年には満を持してニューヨークへ移住するソニー・クラークもその個性が完成しており、いかにもソニー・クラークという演奏を聴かせる。
フィリー・ジョーとヴィネガーのリズム隊も盤石で、このトリオのおかげで音楽が筋の通ったものになっているのは明白。

ただ、クラークもフィリー・ジョーも重度のジャンキーで、このアルバムはそういう人たちによって作られているせいか、その音楽にはどこか
虚ろで物悲しい雰囲気が全編に漂っている。ジャズは50年代がピークだったけれど、薬物中毒と黒人差別という宿痾のせいで実際にアメリカで
活動していたジャズメンたちの演奏の多くがレコードとしては残されなかったのだろうと思う。そういう風にレコードとして残ったものは
実はほんの一握りのものだったということを考えると、ジャズとは失われた音楽だったのだと定義できるのかもしれないなと思う。



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チャーリー・マリアーノの好演

2023年06月25日 | Jazz LP (Capitol)

Frank Rosolino / Frankly Speaking !  ( 米 Capitol Records T-6509 )


私はウェストコースト・ジャズが嫌いでほとんど聴くことがないけれど、これは例外的に良くて、時々ターンテーブルに載せる。

フランク・ロソリーノは非常に上手いトロンボーン奏者で、ビッグ・トーンでスライドさばきも音程も正確無比ですごいと思う。ここでもその上手さは
炸裂していて、こんなにメリハリの効いたトロンボーン・ジャズはあまりない。トロンボーンは人気がない楽器だけど、これはそういうことを
意識することなく聴けるアルバムだろうと思う。

ただ、このアルバムのハイライトはチャーリー・マリアーノの好演だ。アルト特有の艶やかで輝かしく美しい音色がとにかく素晴らしい。
紡ぎだされるフレーズが音楽を先導するように疾走する様子が見事。マリアーノの好演が聴けるアルバムはあまり数が多くないので、
そういう意味でもこのアルバムは貴重な存在だと思う。

ウエストコーストの演奏家たちは音楽に深みを持たせるようなことには興味がなかったようで、ノリが良ければそれでOKみたいな感じで
演奏をしていたんだと思うけど、だからこそ演奏の出来で音楽が左右されるところがあって、演奏家が最高の演奏をすればそのままその音楽は
一級品になった。そういう意味でこのアルバムは若きマリアーノの美しく素晴らしい演奏のおかげで一級品に仕上がっている。

バックで支えるのはウォルター・ノリス、マックス・ベネット、スタン・リーヴィーだが、この3人も闊達な演奏をしていて、特にノリスの
ピアノは日陰者のイメージのある彼が実は上手いピアニストだったことを教えてくれる。能天気なジャケットに騙されてスルーなどしていては
いけない、よく出来たアルバムだ。


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秀逸な白人ジャズバンド

2022年05月04日 | Jazz LP (Capitol)

The Al Belletto Sextet / Sounds and Songs  ( 米 Capitol T-6514 )


ワンコインでお釣りがくるこのレコードも、聴くとため息が漏れるくらい出来がいい。一応オールド・ジャズのスタイルを取っているけれど、
演奏はものすごく洗練されていて、古臭さは微塵もない。感覚的にはモダン・ジャズで、インストとコーラスによる歌唱が交互に収められている。

アル・ベレットはルイジアナ州立大学在学中に学生ジャズバンドを結成して、その流れでプロとして活動していたようだ。自身はサックスや
クラリネットを吹いていた。彼のスモール・バンドには若き日のドン・メンザが在籍していた時期もあり、キャピトルの次に契約したキング・
レコード時代の録音ではメンザの演奏が聴ける。

セクステットによる軽やかな演奏はウエストコースト・ジャズとは一味も二味も違う清潔さがあり、非常に好ましい。アル・ベレット自身が
ニュー・オーリンズで生まれ育ったこともあり、他の地域のジャズとは感覚が違うのだろう。彼の吹くアルトはアート・ペッパーによく似ており、
これが1つの聴き物になっている。

また、交互に収録されているグループによるコーラスはフォー・フレッシュメンそっくりで、これにも驚かされる。時期的にはほぼ同時代
だろうと思うけど、歌が上手く、アレンジの才能もないとこうはならない。部分部分では誰かに似ている要素で構成されているけれど、
それが物真似という感じがしないところにこのグループの独特の才能を感じる。そしてそれらがまとまって聴けるというお得感も楽しい。

キャピトルの "Kenton Jazz Presents" シリーズは、スタン・ケントン楽団で演奏していたミュージシャンやケントンが推薦するミュージシャンを
取り上げるというコンセプトで始まった録音だが、基本的には白人ミュージシャンで構成されている。そのどれもが明示こそされなかったものの、
当時の主流派であった黒人ジャズへの対抗馬として企画されたことは明白である。こういうレコードを聴いていると、これらが後のウエスト
コーストを中心とする白人ジャズの隆盛の基礎を作ったのではないか、と思えてくる。

そこには黒人ジャズへの、どう頑張ってみてもあんな風にはとても演奏できない、という強いコンプレックスが感じられるし、でも、それでも
ジャズという音楽が好きなのだという独白も読み取れる。キャピトルというのはそういう白人ジャズ・ミュージシャンたちの貴重な受け皿の
役割を果たしていたんだなあ、ということが今になってみるとよくわかるのである。



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大作曲家が歌うと・・・

2022年05月01日 | Jazz LP (Capitol)

Harold Arlen / Sings His Songs  ( 米 Capitol T-635 )


私ももう随分長い間レコード漁りをやっているけれど、未だにキャピトル・レーベルの全貌がよくわからない。
総合メジャー・レーベルなのでジャズのカタログは少ないのかと思いきや、ビッグ・バンドやヴォーカルは知らないタイトルが今でも出てくる。
ジャズがメインのマイナー・レーベルの話は多くの人が語るけど、このレーベルのことを語る人はいない。

このレコードも初めて見た。大作曲家本人が自身の歌を歌うもので、こういうのはプロの芸ではなく余技だから、「困ったな・・」という感じで
あるのが正直なところだけど、この雰囲気のあるジャケットを見ると素通りすることはできない。

古き良き時代に作られた大スタンダードばかりで、どちらかと言うと地味で渋めの曲が多いけれど、ジャズ・ジャイアンツが好んで取り上げた
楽曲が多く、その曲もすぐにあの演奏・この演奏、というのが思い浮かぶだろう。

特に美声ということもない歌声で思い入れたっぷりに歌っているのが可笑しいけれど、それなりに聴けて悪くはない。
まあ、あまり分析的に聴くようなものではなく、こんなレコードがあるんだ、という軽い驚きをもって聴いていればいいのだろう。
キャピトルもまさか売れることは思って制作してはいないだろうけど、それでもこういうレコードも作っていたのだから、
ある意味で裕福な時代だったのだろうと思う。採算度外視でもレコードが作れた、幸せな時代。そういう時代のジャズは傑作が多かった。



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美しいメランコリア

2021年08月22日 | Jazz LP (Capitol)

Duke Ellington / The Duke Plays Ellington  ( 米 Capitol T-477 )


エリントンが自作の曲をウェンデル・マーシャル、ブッチ・バラードらとのピアノ・トリオで弾いていく。
とても落ち着いた、澄んだ心持ちで弾いている様子が素晴らしい。エリントンらしい諧謔に満ちた、それでいて不思議と美しいメロディーが
どの曲にも零れんばかりに溢れている。ただ、楽譜に書かれた音符を弾いているだけでは、この世界を生み出すことはできないだろう。
エリントン独特の間の取り方や打鍵の質感があってこそ、である。

このアルバムの白眉は、"Melancholia" 。ベースとのデュオで奏でられるこの美しさは筆舌に尽くし難い。
これまでにいろんなミュージシャンがこの曲を取り上げてきたが、誰一人、この美しさを再現できた者はいなかった。
あのマイルスも畏れ多いと思ったか、この曲を演奏することはなかった。おそらく、唯一、演奏するのに相応しい人だったにもかかわらず。
ウィントン・マルサリスのように、この孤高の世界に触れるという暴挙をしでかす無神経さは彼には当然なかっただろう。

エリントンはピアノ・トリオのアルバムを他にも何枚か作っているが、このアルバムには他の作品にはない特別な雰囲気が漂っている。
高貴で、エレガントで、洗練された静謐さのようなもの。これを聴いていて思い出すのは、モンクのSwing盤である。
エリントンが弾く "Melancholia" や "All Too Soon" には、モンクがフランスのスタジオで一人寂しく弾いた "'Round About Midnight" と
同じ雰囲気がある。作曲者本人にしか語りえない曲想の核のようなものが表現されている。

このアルバムは初めは10インチでプレスされたが、そこには "Melancholia" や "All Too Soon" が含まれていない。
だから、聴くなら12インチで。



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マリアン・マクパートランドを見直す

2020年02月15日 | Jazz LP (Capitol)

The Marian McPartland Trio  ( 米 Capitol T-785 )


傑作である。本当に素晴らしいピアノ・トリオだ。どうして誰も褒めない? 安レコだから、かなあ。

マリアン・マクパートランドは英国人で、第二次大戦後に渡米した。当時のアメリカで女性のジャズ・ピアニストとして活躍していたのはメアリー・
ルー・ウィリアムスくらいしかいなかった。1949年に52番街のヒッコリー・ハウスのハウス・ピアニストになることができて、ようやく演奏の基盤が
確立した。ビル・クロウとジョー・モレロが彼女を支えた。

彼女は意外にレコードがたくさん残っている。つまりアメリカではきちんとジャズ・ピアニストとして評価されていたということだ。このアルバムを
聴けばピアニストとしての力量、ジャズ・ミュージシャンとしてフィーリング、ピアノ・トリオとしての纏まりの良さ、それらが手に取るようにわかる。
こんなにしっかりとした演奏、なかなかお目にかかれない。

"Bohemia After Dark" のカッコよさ、ベースのウィリアム・ブリットのオリジナル "The Baron" の優雅さなど、音楽的な聴き所は無数にある。
ジョー・モレロのドラムはこの頃から独自のキレの良さを発揮していて、後のブルーベック・カルテットでの演奏を予感させるに十分だ。
加えて、このレコードは音質がとてもいい。クリアなモノラルサウンドがとても心地よい。キャピトル盤もなかなかのものだ。

B面のラストに置かれたマリアンのオリジナル "There'll Be Other Times" の物憂げなメロディーでこのアルバムは幕を閉じる。
女性らしい繊細な気遣いに満ちたアルバムだと思う。新しくピアノ・トリオの名盤100選が編まれる時は、こういうのも忘れずに入れて欲しい。

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エリントンの誘いを蹴って

2019年12月14日 | Jazz LP (Capitol)

Miles Davis / Birth Of The Cool  ( 米 Capitol T-762 )


23歳のマイルスがすべてを賭けて制作したこの音楽、昔聴いた時はピンとこなかったけれど、そもそも子供にその良さなど理解できるはずもない、
れっきとした大人のための音楽である。

ギル・エヴァンスやジェリー・マリガンと真剣に議論を交わし、レコーディングに入る前にライヴハウスで十分に演奏し、満を持して録音に臨んだ。
その最中にデューク・エリントンに呼ばれ、彼の楽団に加入するよう誘われた。でも、この音楽に賭けていたマイルスはその誘いを固辞する。
憧れのエリントンからの誘いでも、毎日同じ音楽を演奏する生活は彼にはできないことが分かっていたからだが、それでも、進行中のこの音楽を
仕上げたいという気持ちも本当だったのだろう。

そこまでして作り上げたこのアルバムは、安易なラージ・アンサンブルによる軽音楽などとは似ても似つかぬ充実した内容に仕上がっている。
デューク・エリントン、フレッチャー・ヘンダーソンからクロード・ソーンヒルへと繋がる音楽の系譜を、最小限のアンサンブルで演奏することが
狙いだった、とマイルス自身が述べているように、音楽教育をきっちりと受けた人らしい正統派の音楽作りがされている。その上で凝った構成や
スリリングな展開を施しており、非常に聴き応えのある音楽になっている。

低音部のサウンドカラーは如何にもギル・エヴァンスだし、リー・コニッツのソロも初々しい。おそらく初めて録音公開された "Israel" を聴けば
ビル・エヴァンスがこの曲をどうやって発展させたかがわかり、彼の音楽観がよくわかる。ビ・バップのけたたましい喧騒感が漂っていた40年代の
終わりに、このサウンドは見る人が見れば驚異だったろう。マイルスが何か新しいことを始める時は形を壊したり外縁部へ出ようとは決してせず、
逆に常に本流のより中心へ回帰しようとする。その本能のようなものが、既にここに現れているのが一番興味深い。

SP録音の割には音質は悪くなく、ワイドレンジは広くはないものの50年代後半のキャピトル・モノラル録音と言われても違和感のないサウンドだ。
さすがはメジャー・レーベルである。こういう時に頼りになる。

柔らかいとかマイルドという表面的な部分しか見えないうちは聴かないほうがいい。少し時間を置いて聴くともっと違った印象になるだろうと思う。


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