廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ノーマン・グランツの巨匠趣味には困ったものだが・・・

2023年01月29日 | Jazz LP (Verve)

Stan Getz, Gerry Mulligan, Harry Edison, Louis Bellson and The Oscar Peterson Trio / Jazz Giants '58  ( 米 Verve MG V-8248 )


ノーマン・グランツの巨匠趣味には困ったものである。ビッグ・バンドが華やかだった時代のスター・プレーヤーたちをメインに置いた彼のレコード
制作のポリシーは徹底していたし、その精力振りは驚異的だった。パーカーやパウエル、ビリー・ホリデイやスタン・ゲッツのレコードがたくさん
残ったのはよかったが、オスカー・ピーターソンやJ.A.T.P.のレコードが大量生産されたのはちょっとなあ、と思う。ピーターソンに全く興味のない
私からすればそれらは(申し訳ないけれど)無用の長物の山に過ぎず、見ていてうんざりさせられる。

彼は人種差別を受けていた非白人たちを支援するために "Jazz At The Philharmonic" と銘打った大きな劇場に観客を大勢集めてジャズを聴かせる
一大イベントを打ち上げて成功を収めた大興行主だったわけだけど、それと並行して大して儲からないレコード事業も行っていた。J.A.T.P.は資金
集めが目的だったから出演者は集客力のあるビッグ・ネームが集められ、そういうメンバーたちのレコードを熱心に作った。そこにはグランツの
趣味が色濃く反映されていて、そういう意味では彼の作ったレコードはどれも趣味性が高く、レコードとしての品質が高かったのは間違いない。

ただ、それらはニューヨークを中心にした東海岸の研ぎ澄まされた先鋭さとは別世界の、ある意味では弛緩した音楽だった。盛りの過ぎた大物
ミュージシャンをスタジオに集めてジャム・セッションをさせたが、そこには新しい音楽への志向はなく、よく言えば成熟した、裏を返せば退屈な
音楽の大量生産だった。それらはクラブなどでその場だけのものとして聴く分にはゴージャスで楽しかっただろうが、じゃあレコードとして家で
繰り返し聴いて楽しいかというと、残念ながらなかなかそうはいかない。買って帰って、盤質チェックを兼ねて1回通して聴いてみて、あとは
棚の肥やしとして場所だけとってしまう存在となりがちなんじゃないだろうか。

そんなわけで私はこのレーベルの初期のものは特定のアーティストしか聴かないし、大物を寄せ集めした企画ものはまったく聴かないのだけれど、
例外的にこのアルバムは中々出来がいいと思っている。やはりスタン・ゲッツの存在が大きく、彼が良かった頃の演奏が中心的存在となっている
ところが、このアルバムを他のアルバム群と一線を画す要素となっている。ゲッツがいるとやはり音楽はモダン寄りの感覚に近づくようになり、
退屈さから紙一重でうまく回避できているように思う。



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昔から名盤と言われるが・・・

2023年01月22日 | jazz LP (Atlantic)

Lee Konitz / With Warne Marsh  ( 米 Atlantic 1217 )


昔から名盤100選には必ず載ってくるアルバムだが、本当にそうなのか、未だによくわからない。悪くはないのだが、他のアルバムを蹴落として
100選の中に入れるほどかと言われると、そうとは思えないというのが正直なところではないか。

トリスターノ派のお手本のような音楽になっているのはいいのだが、コニッツの演奏に彼独特のキレがあまり感じられない。ウォーン・マーシュの
ヘタウマな演奏もこれはこれで彼の個性だからいいとしても、コニッツの演奏の足を引っ張っているような印象があり、どうも居心地が悪い。

A面はスタンダード中心、B面はメンバーのオリジナルがメインという構成だが、とにかくA面はあまり面白くない。トリスターノ派の眼から見た
スタンダード解釈ということだが、斬新さに欠けていて、正直言ってかったるい。それに比べてB面はトリスターノ楽派の結晶のような音楽に
なっているので、こちらの方が断然聴き応えがある。間に入るペティフォードのブルースもいいアクセントになっていて、聴くならこちらのサイド
の方がいいが、それでも全体的にはもどかしさが残る。

その原因の1つは、アトランティックのモノラル盤固有の音の悪さにある。特にこのアルバムは録音が古いので、音質面から見るといただけない。
演奏の良さみたいなものはここからはまったく聴き取れず、音楽の評価が正しくできないのだ。そういう困ったレコードだから、関心の行方は
どうしても別の方向へと向くことになる。





うちにはこのレコードが2枚あって、どちらもフラットディスクだ。両方とも5千円くらいで転がっていて割安だったから拾って帰って来た。
このレコードは昔からフラットかグルーヴガードか、というところに焦点があたるけれど、私見ではグルーヴガードがレギュラーのオリジナル
ということでいいと思っている。どちらも音質は一緒で違いはない。最近気付いたのだが、グルーヴガード盤のジャケットは表が額縁で背厚の
ものばかりで、フラット盤のジャケットは表が額縁ではなく、背の無い巻き仕様のものばかりだということ。初期アトランティックのモノラル
プレスの標準仕様は前者のタイプなので、後者のタイプは明らかに別工場で制作されたイレギュラー・プレスだったんだな、ということで
私の中では決着している。そもそもフラットディスクは弾数が少な過ぎるので、レギュラー・プレスのはずがない。





これもフラットディスクだが、やはり額縁なしの背無し巻きジャケットの中に入っている。このタイトルも額縁・背厚ジャケットの中に入っている
のはグルーヴガード盤ばかりで、弾数は圧倒的にこの仕様のほうが多いのでこのタイプがレギュラー品だろう。



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敬意に満ちた寡黙なアルバム

2023年01月14日 | Jazz LP (Verve)

Ed Thigpen / Out Of The Storm  ( 米 Verve V-8663 )


縁の下の力持ちとして表に出ることはほとんどなかったエド・シグペンは、クリード・テイラーの粋な計らいでこうしてリーダー作を残している。
面白いのはハービー・ハンコック、ロン・カーターという飛ぶ鳥を落とす勢いだった若手と、クラーク•テリー、ケニー・バレルというシブい
メンバーの混成チームとなっているところ。単なるご褒美セッションということではなく、明らかに独自の音楽をやろうという企画だったことが
伺える。ノーマン・グランツならこうはならなかっただろう。

スタンダードは1曲もなく、本人のオリジナルをメインに構成された意欲的なプログラム。シグペンのドラミングが随所で前面に押し出されて、
ドラマーのリーダー作らしい作りになってる。古いタイプのスタイルの曲もあれば、66年という時代を反映したニュー・ジャズっぽい演奏もある。
クラーク・テリーが意外にも振れ幅の大きいスタイルで対応しており、これには驚かされる。アルバム・タイトル曲なんてミステリアスな雰囲気が
濃厚なかっこいい楽曲に仕上がっており、最高である。

エド・シグペンと言えば、まずは黄金期のオスカー・ピーターソン・トリオということになるだろうし、それ以外にも彼が参加した録音は多く、
あちこちでその名前は見かけることになるが、スポットが当たることはなく寡黙な存在という印象だ。でもこうして聴いてみるとドラマーとしての
矜持は十分感じられるし、名だたる面々が敬意をもって支えていることがよくわかる。それは、余計なことを言わずにしっかりとジャズの世界を
下支えしてきたことに対する敬意であり、そういう気持ちがこの音楽には込められている。そこが何とも清々しい。



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マイルスが書いた美しい楽曲

2023年01月02日 | Jazz LP (Columbia)

Miles Davis / Someday My Prince Will Come  ( 米 Columbia CL1656 )


このアルバムは、私にとってはB面トップの "Drad-Dog" を聴くためにある。当時のコロンビアの社長だったゴダード・リーバーソンの名前を
逆さ綴りにしたという意味のよくわからないタイトルのせいでこの曲の良さが人目を引かないが、これはマイルスの抒情性がよく出た名曲だ。
マイルスはアルバムの中にそれまで誰も取り上げなかった隠れた名曲をひっそりと潜ませることがよくあって( "Summer Night" だったり、
"Something I Dreamed Last Night" だったり)、本人もそういうのを愉しんでやっていたフシがあるけれど、この "Drad-Dog" もそういう1曲だ。

ウィントン・ケリーの音数の少ないピアノが美しく、この音の積み重ねが抒情性を帯びた曲想を形作っていく。ハンク・モブレーの柔らかい音色が
短く呟くのもいいアクセントになっている。コルトレーンが加わる硬質な曲との対比が際立つ。とかくモブレーの弱さが批判されるアルバムだが、
この楽曲に関してはモブレーでよかったのだと思う。

マイルスのアルバムのいいところは、こういう美しい音楽を常に忘れないところだったんだよなあと思う。これだけのメンバーが揃い、せっかく
逞しくなったコルトレーンを呼び寄せることができたんだから、もっとハードな演奏でアルバム全体を埋め尽くすことだってできたはずなのに、
そうはしなかった。冒頭のタイトル曲も可憐な曲想と骨太で硬派な演奏が上手く両立しているし、バラードの配置も忘れない。他のアーティストの
アルバムをたくさん聴けば聴く程、彼のアルバムのそういう特異性が傑出して見えてくる。こんなアルバムを作った人は他に誰もいないのだ。

このレコードはマイルスのコロンビアの中でもダントツで音がいい。ちょうどプレス機の入れ替えやレーベルデザインの変更時期に製造された
関係でごく稀にCBSロゴのないレーベルや溝ありの個体が出てくるがそれらは単なるイレギュラープレスであり、この写真のようにCBSロゴが
あり溝のない形状のものがレギュラーのオリジナルということでいい。他のタイトルに比べてきれいな物があまり出てこない印象があるので、
価値があるのはそちらの方ではないか。



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疑似ステレオは悪なのか

2023年01月02日 | Jazz LP (Columbia)

Miles Davis / 'Round About Midnight  ( 米 Columbia CS 8649 )


新年の縁起物はマイルス・デイヴィスということで、今年もやる。

まだプレスティッジとの契約が切れていない中で録音したコロンビア第1弾のこのアルバムは天下の大名盤として不動の地位を保っているが、
実のところは各曲の演奏時間が短くて不完全燃焼感が残ることと、録音時期が古いせいで音場感がデッドで、コロンビアにしては珍しく
高音質とは言い難いレコードである。端正で優れたテーマ部のアレンジが物凄くカッコよく、音楽的には満点の出来だが、本人の自伝を読むと
同時期に併行して行われたプレスティッジへのマラソン・セッションの方へはたくさん言及していて、演奏内容にも非常に満足していた様子が
伺えるが、こちらの録音については録音した事実には触れているが内容については一切言及がない。マイルスはまだ自身が若くてやんちゃ盛り
だったプレスティッジ時代の日々に非常に愛着があったらしく、嬉しそうにそして慈しむようにその頃の出来事を話している。

それに引き換えこのアルバムの録音経緯については、ジョージ・アヴァキャンが大金を積んでマイルスを引き抜いたことへの後ろめたさから
移籍したことへの言い訳に終始していて、肝心のアルバム制作に関する自身の想いが語られていない。だからそれを補完するとすれば、
おそらくマイルスはこのアルバムでグループのエキサイティングなアドリブ至芸を披露したかったのではなく、ジャズという音楽がクラシック
などの他の音楽様式と比較しても何も遜色はないのだということを示したかったのではないだろうか。

このアルバムの最初の発売はコロンビアがモノラルとステレオを同時発売するようになる前のことだったので、ステレオプレスはかなり後に
なってからリリースされている。当然疑似ステレオで、ジャケットにも仰々しくその旨が書かれていたりして、このステレオプレスについては
誰も相手にしない。でも、モノラルプレスの音質に満足できない私は、ちょうど安レコとして転がっていたこの版としては3rd プレスくらいの
盤を拾って聴いてみた。

疑似ステによくある左右に楽器を極端に振り分けたような感じではなく、音場全体に残響を付加したようなサウンドで、これが悪くない。
楽器の音色はモノラルプレスとさほど変わらないが、空間に拡がりが感じられて、チェンバースのベースの音圧が上がり、よりクリアに聴こえる。
残響がこの音楽の仄暗い雰囲気を盛り上げるのに一役かっており、"'Round Midnight" や "Dear Old Stockholm" のようなハードボイルドな楽曲の
良さがより引き立つ感じだ。高音質になったかというとそこまでは行っていなけれど、このアルバムが持っていたカッコよさみたいなものが
半歩ほど前進した感じはある。疑似ステレオという言葉には「偽物」という語感が伴いイメージが悪いけれど、これは全然悪くはないと思った。






素晴らしいカヴァー・アートだが、これはコロンビア専属のデザイナーだった Sadamitsu Neil Fujita というハワイへ入植した日本人移民の
家に生まれた日系アメリカ人がデザインした。デイヴ・ブルーベックの "Time Out" も彼のデザインだ。






録音風景がこうして残されている。まるで音楽が聴こえてくるかのよう。ジャケットの写真は裏焼きだったのだ。





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