廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

見かけに騙されてはいけない内容

2020年08月20日 | jazz LP (Pablo)

John Coltrane / Afro Blue Impressions  ( 米 Pablo 2620-101 )


1963年10~11月にストックホルムとベルリンで行われた公演の模様を録音したもので、この演奏旅行はノーマン・グランツの企画だった。
こうして録音はされたが、当時コルトレーンはインパルスと契約していたので、発売は1977年までお預けになった。

正規録音なので、音質は良好だ。コルトレーンのサックスの音色が艶めかしい。演奏もしっかりとした落ち着いた内容で、素晴らしい。
安っぽくてげんなりするジャケットのせいでリスナーには相手にされないが、内容は超一流だ。この時期のライヴ盤としてはインパルスから
ヴァンガードやバードランドでの演奏が出ているが、内容はこちらのほうがはるかにいいと思う。ニューヨークのように最先端の音楽を披露
している訳ではなく、欧州の観客のレベルに合わせたプログラムと演奏スタイルだが、音楽としての纏まりはこちらの方がずっといい。

コルトレーンは調子が良かったようで、フレーズがわかりやすく、よく歌っている。こういう演奏はインパルス盤では聴けない。定番ものだけ
聴いていては知ることができないコルトレーンの姿があるのに驚かされる。場面に合わせて、柔軟に演奏を変えていたんだなということがわかる。

2枚組という分量もちょうどいい。素晴らしい演奏なので、1枚では物足りなかっただろう。2013年にリマスター盤が再発された際には、
その年のグラミー賞を受賞している。ジャズの世界でグラミーはあまり有難がられないけれど、広く評価をされたことは間違いない。
日本でももっと広く聴かれるといいと思う。


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シナモンとクローブ

2018年02月21日 | jazz LP (Pablo)

Zoot Sims / Quietly There  ( 独 Pablo 2310 903 )


ジョニー・マンデルは最も好きな作曲家の1人で、彼の書いた曲に "Cinnamon and Clove" という名曲がある。 ジャズの世界、特にインスト物では
まったく取り上げられることがないので(なぜだかはよくわからない)、他の曲ほど知られていないのではないだろうか。

ピアノの非常に印象的なイントロを受けてズートの演奏が始まると部屋の中の空気が変わる。 洗練されたラテンのリズムに乗って、音もなく波を立てることもなく
水を切って進んで行く船のように、なめらかに演奏が進んで行く。 バックのピアノトリオの演奏が静かで粋で、これがこのアルバムのもう1つの聴き所だ。
"A Time For Love" や "Emily" も深いバラードに仕上がっていて、非の打ち所がない。 

レコードマニアならご存じの通り、同じレーベルでもアルバムによって音のいいものと悪いものがある。 このアルバムはやたらと音がいい。
理由はわからない。 わからないけど、その素晴らしい音で聴くとズートのテナーはモノラル期の音とは音色や張りが全然違うことに気が付く。
モノラル期はフレーズの歌い方やリズムへのノリの良さに意識が行っていたけど、この盤ではその音の深みや輝きに惹かれながら聴いている自分がいる。

ズートは不思議な人だなと思う。 元々はスイング系が基盤になっている人で、古風な音楽を得意としているにも関わらず、こんなに都会的で洗練された
音楽もさらりとやってしまう。 自分の傍に強引に音楽を引き寄せるのではなく、選んだ素材に上手く自分を適応させて、それに成りきってしまうかのようだ。
その様子があまりに自然で、どれが彼の実像なのかがわからなくなってくる。

特に画期的な音楽をやったわけでもなく、歴史を変えるような作品を作ったわけでもないのに長く前線に居られたのは、そういう音楽への柔軟なスタンスの
おかげだったのだろう。 アヴァンギャルドや電化の道を慎重に避けながら、最後までアコースティックな音楽だけをやり続けることができた手がかりが
このアルバムには隠されている。



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ドイツ盤でも印象は変わらず

2017年05月03日 | jazz LP (Pablo)

Zoot Sims / Soprano Sax  ( 独 Pablo 2310 770 )


ソプラノ・サックス1本で臨んだ穏健な中道派のズートとしては異色作という感じの1枚で、大御所評論家が跋扈していた昔は名盤と言われていたけれど、
今はそう言われることはなくなっていて、私も現在の認識のほうが正しいと思う。

まず、選曲があまりよくない。 平凡な楽曲ばかりで新鮮味がない。 次に、バックのピアノトリオがかなり雑な演奏をしている。 特にレイ・ブライアントの
アップテンポの曲での演奏が粗くて、叙情に欠けた潤いのない音楽になってしまっている。 例外的に "Bloos For Luise" というブルースでの演奏は
デリケートに弾いていて、全編こういう演奏をして欲しかった。 更に、全体的にリズムが一本調子で、聴いていてすぐに飽きがくる。 ソプラノ・サックスの
帯域の狭さという欠点を他の楽器群が補うべきなのにそういう配慮はなく、普通のセッションのように演奏するものだから、ソプラノの弱点がすごく目立つ。
このアルバムを聴いて思い出すのはベツレヘムの "Down Home"。 あのアルバムと同種の退屈さがある。 更には、コルトレーンの退屈さにも。

これで録音が良ければまだ救いもあるけど、のっぺりと平面的な音場感で聴いていても楽しくない。 ドイツ盤ならどうだろう、と手に取ってみたけど、
残念ながら特に音がいいということもなかった。 ピアノの透明感が少し上がったかな、という程度の差しか感じられなかった。 

ズートの演奏そのものは悪いところはなく、どの楽器でも本当に上手く吹くなあと感心する。 だからこそ、良さを感じられないのが残念だと思う。
ジャケットデザインも雰囲気があって名盤の資格十分なんだけどな。 もう少し時間を置くと、よく感じられるようになるだろうか。


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ズートの晩年の代表作

2017年04月01日 | jazz LP (Pablo)

Zoot Sims / If I'm Lucky  ( 西独 Pablo 2310 803 )


ジミー・ロウルズのトリオをバックにズートがワンホーンで濃密な深夜のジャズを展開する傑作。 晩年になっても衰えることのなかったみずみずしい感覚が
演奏の中に溢れている。 ジミー・ロウルズも単なる歌伴に堕することなく独創的なフレーズを紡ぎ、これが退屈な懐古趣味の演奏になるのを回避させている。

ズートのテナーの音からはくすんだ黄金の粉が吹き出すような淡く煙った空気感が漂い、テナーをテナーらしくする重く深い音の質感が見事に録られていて、
ワンホーンの極みが目の前に立ち現れる。 これを聴いて鳥肌が立たないのであれば、ジャズを聴くのは諦めたほうがいいかもしれない。

ミドルアップテンポの曲とバラードが交互に並んでいるが、ここで聴かれるバラードはまさしく夜の深い時間に流れるジャズ。 ワンホーン・テナーの最終目標が
ここにあるのではないだろうか。 ミドルアップテンポの曲も年齢に相応しい落ち着いた佇まいがあり、騒がしくない。 全体的に絶妙なバランス感だと思う。

電化ジャズにもフュージョンにも走らず、ひたすら自分のスタイルで演奏し続けた人の説得力には敵わない。 小手先でこういう演奏することが不可能なのは
明白で、その重みが何とも心地よい。

以前CDで聴いた時はスカスカな音でこの作品の良さはまったくわからなかったけど、こうしてレコードで聴くと再生される音場感はまるで別物で、このアルバムが
ズートの代表作の1つであることが理解できる。 発売はUS盤が先だが、この西独盤のモノづくりの完成度の高さには抗えない魅力がある。
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巨匠らしくない親しみ

2016年03月06日 | jazz LP (Pablo)

Duke Ellington / Duke's Big 4  ( 独 Pablo 2310 703 )


元祖スムーズ・ジャズとはこのことか、と思えるような上質の極みに酔わされる。 知らぬ者はいない巨匠たちの演奏にも関わらず、枯れたところがなく、
こんなにもみずみずしい音楽になっているということは驚異以外の何物でもない。 奇跡なのか、それとも当然のことなのか、よくわからなくなってくる。

4人がまったくの対等な位置関係で、誰1人弾き過ぎず、物足りなさもなく、完璧なバランスを見せている。 エリントンのインディゴ・ブルーを思わせる
深い色合いのピアノ、深くタメの効いたジョー・パスのギター、くっきりとした輪郭で完璧なリズムキープをみせるレイ・ブラウンのベース、かつてのドタバタ
うるさいイメージを裏切る繊細で静かなブラッシュワークが終始冴えるルイ・ベルソンのドラム、それぞれが見事な匙加減で寄り添い合っている。 完璧だ。

誰もがアンサンブルの秘技を知るジャズマスター、この「和」の雰囲気は只事ではない。 どんな批評をも寄せ付けない、彼岸の音楽ともいうべき内容だ。

と、もはや賛辞の言葉しか出て来ない。 デューク・エリントンといえば権威の象徴みたいなイメージがあったりして近寄り難い向きもあるかもしれないが、
これを聴けばそんなことはまったくないのだということがわかると思う。 エリントンはスモールコンボの演奏をいくつか残していて、どれもみな素晴らしい。
このレーベルのものではレイ・ブラウンとのデュオアルバムがオーディオファイルには人気があるみたいだが、どんな楽しみ方でもいい、あまり身近な存在
とは言い難いこの人が残した数々の至高の音楽がもっと聴かれるようになってくれたら、と思う。 これはそれらの中でも群を抜いて出来がいい。


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憧れのソロ・ギター Ⅱ

2016年02月28日 | jazz LP (Pablo)

Joe Pass / Virtuoso #2  ( Germany Pablo 2310 788 )


ジャズの世界でソロ・ギターを作品として認知させたのは、ジョー・パスのヴァーチュオーゾ・シリーズだ。 ケニー・バレルなんかも無伴奏ソロ演奏を
アルバムの中で披露してきたけど、あくまでもアクセントの1つとして1曲だけ収録するというもので、それだけで1つの作品としたのはおそらくこの
シリーズが初めてのことだったと思う。 華の50年代に20代を送ったにも関わらず麻薬禍にあったせいで作品が残せず、全く認知されていなかったのに、
この作品群のお蔭で一躍ジャズ・ギターの第一人者としてもてはやされるようになった。 ノーマン・グランツの企画の勝利で、さすがの手腕だ。

第1集は歌物のスタンダードをアンプラグドで、第2集はミュージシャンが作ったオリジナル曲をアンプを通して、第3集は自身のオリジナル曲を、
第4集は1集時の録音から選に漏れたものを、とそれぞれテーマを持って編まれているが、私はこの第2集が一番気に入っている。 チック・コリアの曲を
2つも取り上げていたり、ブレッドの "If" までやっていたりと選曲が面白いし、何よりマイルドなフルアコの音色が心地いい。

このシリーズは昔からずっと聴いてきた鉄板アルバムだけど、「名盤100選」(相変わらずこの手の本はよく出版されている)なんかに当たり前のように
この第1集が載っているのを見るたびに、首を傾げてしまう。 もちろん名演であることは間違いないけれど、主たる読者であるはずの聴き始め諸氏に
このシリーズを薦めるのはちょっと違うんじゃないか、と思う。 1曲のうちの95%くらいがアドリブラインで占められた楽曲群を、ジャズを聴き始めた
ばかりの人が心の底から愉しめることはあまりないんじゃないだろうか。 延々とギターだけの演奏が続くし、構成としての起承転結もなく、美しい
メロディーラインがあるわけでもない。 ジョー・パスの演奏は他のギタリストとは違ってリズム感をあまり重視せず、スイング感を演出することもない。
代理コードやリハーモナイズを多用しているから和音の響きには少しクセがある。 聴き手が心地よくなることをまったく前提にはしていない演奏で、
そういう意味ではパーカーの時代の演奏スピリットで成り立っている少し抽象的で古風な音楽だ。 本当に愉しめるようになるには時間がかかると思う。

でも、ケニー・バレルはテクニックを出し惜しみするし、ジム・ホールは起きてるんだか寝ているんだかわからない時があるし、タル・ファーロウはホーン
奏者のようなシングルトーンが一本調子なところがあるし、とギター小僧の演奏家魂をなかなか満たしてくれないビッグネームたちが多い中、この
ジョー・パスはテクニカルな面でのカタルシスを感じさせてくれる稀有なギタリストの1人かもしれない。


そういう訳で、ソロ・ギターの入り口としてはヴァーチュオーゾ・シリーズはあまり向いていないから、聴くなら例えばこれがいいかもしれない。


Jonathan Kreisberg / One  ( New For Now Music 0003 )

ロック・ギターからジャズに転向したという経歴が示す通り、まずは楽曲の支柱をしっかりと杭打ちして、その中でメロディアスなフレーズをセンスよく
紡いでいく演奏をするので、非常にわかりやすい音楽に仕上がっている。 フレーズもジャズ・ギタリストがやりがちなスケール練習もどきのそれでは
なく、原メロディーを尊重したコードワークを上手く使うので楽曲の良さが殺されずにしっかりと生きているし、落ち着いたリズム感をキープするのも
とても上手いので、音楽に深みを感じる。 このアルバムはスタンダードが中心なので、この人のそういういいところがばっちりとハマっている。
特に "Summertime" などは素晴らしい出来で、裏ジャケットに映っているような夕暮れの風景によく似合う抒情性に酔わされる。 素晴らしい1枚。


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