廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

70年代のノルウェーの風景 2

2015年09月26日 | Jazz LP (Europe)

Guttorm Guttormsen Kvartett / Albufeira  ( ノルウェー Octave OCLP 03 )


グットルム・グットルムセンの第2作で、1979年7月にスタジオ録音されたもの。 同じワンホーンカルテットですが、今回はアルトも吹いています。

前作から4年ものインターバルを経てどうなっているかというと、前作よりも意識的に半歩ほど当時の主流派ジャズに近づいた雰囲気があります。
第1作は無理をせず自分たちの心象風景をありのまま綴ったような感じでしたが、こちらはかなり意図的にジャズに取り組んだ跡があり、そういう意味では
音楽家としての自意識が以前よりも強くなっている印象を受けます。 楽曲の中の起承転結がより明確になっているし、自分に与えられた小節数の中で
事前にかなり練習を重ねたようなフレーズを演奏しているので、かっちりとした感じがします。 

アルトの演奏はかなりおぼつかないところがあって、運指が遅れたりリズムに乗りきれないところも多く、まだまだこれからというところです。
ピアノとドラムが前作とはメンバーが変わっており、ドラムは前作の人のほうが圧倒的に上手く、そのせいでこの作品は全体的にリズム感が少し
ぎこちない感じがします。 また、レーベルも変わった影響か、録音も少し貧しい仕上がりになっています。 今回はメンバー各人がオリジナルを
持ち寄った楽曲構成になっているので、曲ごとの雰囲気がバラバラで統一感が稀薄で、最後の曲なんかはまるでリターン・トゥ・フォーエヴァーの
アルバムに入っていそうな曲で、聴いていて思わず苦笑いしてしまいます。

プロとして自覚的な音楽をやろうとしたところは伝わってくるので立派だと思いますが、ここではまだその成果は出ていないなあ、というのが率直な
感想で、この後の作品をといきたいところですが、これ以降はアルバムがないようなのでどうなったのかよくわかりません。 北欧の演奏家はあまり
アルバムを出すことに執着しない人が多く、これが北欧のジャズの実像を把握しにくくしています。 ここで途切れてしまったのは、残念です。



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70年代のノルウェーの風景

2015年09月26日 | Jazz LP (Europe)

Guttorm Guttormsen Kvartett / Sotunudi  ( ノルウェー MAI 7509 )


1950年生まれのノルウェーのリード奏者であるグットルム・グットルムセンは自己名義のアルバムを今のところ2枚だけ残していますが、これは1975年7月に
スタジオ録音された第1作。 ここではソプラノサックスとフルートをワンホーンで吹いています。

アメリカのハードバップやその後のフリーやスピリチュアルの欠けらはどこにもない、当時の平均的なコンテンポラリージャズで、似た雰囲気を探すとすれば
ECMのガルバレクの音楽が一番近いですが、あそこまで北欧音楽の土着的な伝統にどっぷりとつかった感じではなく、もっと素朴で遠く離れた田舎の
静かで澄んだ空気の匂いがします。 

グットルムセンのソプラノはやはりガルバレクの影響を受けているのか、中低音部の音色や吹き方はよく似ているし、演奏はかなりしっかりしています。
バックのピアノトリオも過不足のない安定した演奏で悪くない。 どの楽曲もテーマ部のメロディーは平易でわかりやすいし、世界を席巻したフリー、
ファンキー、スピリチュアルなどで汚されてもいないので、なかなか感じのいい音楽になっています。

テナーやアルトは吹かず高音域のリードだけを使っているので全体的に清潔な雰囲気で統一されているし、グットルムセン作曲のオリジナルばかりで
構成されているのでアルバムとしてのまとまりもよく、刺激に欠けるところはありますがシンプルで質感のいい音楽になっていて、コンテンポラリー系が
あまり好きではない私でも好感を持って聴くことができます。 重厚なモダンジャズに疲れた時の箸休めにはちょうどいい感じです。



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唯一、レコードで聴くチック・コリア

2015年09月22日 | ECM

Chick Corea / Trio Music, Live In Europe  ( 西独 ECM 1310 )


私にとってチック・コリアという人は、なかなかその魅力をうまく把握しきれない、もどかしいミュージシャンです。 とにかくピアノは上手いし、
名曲を書くし、いろんなフォーマットで様々な音楽をこなす才能は圧巻、とケチの付け処は皆無なのですが、溺愛しているアルバムが1枚もない。
逆のケースはいくらでもあるのですが、その才能のすべてに敬意を抱いているのにアルバムという単位で見ると、どうもピンとこない。

まず、リターン・トゥ・フォーエヴァーの魅力が全くわかりません。 どんなアルバムだって1曲くらいは気に入るものがあるのが普通だと思いますが、
このシリーズにはそれが全くない。 もちろん "Spain" は大好きな曲ですが、オリジナルのこのヴァージョンが1番ダサい。
"カモメ" に至っては、あの音感の悪いヴォーカルがとにかく不快で、あれさえなければもう少しは好きになれたかも、と思うような始末です。

"Crystal Silence" も世評が絶賛するような綺麗さや美しさを感じたことがないし、"Circle" も器用さばかりが先に立って音楽的には中途半端な気がするし、
エレクトリック・バンドは最初から聴く気にすらなれない。 "Mad Hatter" は割と好きですが、でもそれはガッドのドラムのおかげです。
この人はあまりに賢過ぎて、上手過ぎて、器用過ぎるのです。 だから、手先だけでピアノを弾いているような感じがするし、音楽も上滑りしている
ような感じが拭えない。 その目移りの速さについて行けず、ぽつんと置いてきぼりにされてしまったような戸惑いを常に感じます。

そんな中で、唯一、毎度の音盤裁判で常に無罪判決を勝ち取り、棚の中で生き残り続けているのがこの作品です。 粒立ちの良いピアノが気持ちよく、
R.ヘインズの年齢を感じさせない若々しいドラムが素晴らしい。 確か、発表時は各方面でとても好意的に迎えられたような記憶があります。
キースのスタンダーズの3部作の翌年の録音なので、大抵は2番煎じと陰口を叩かれる分の悪さに甘んじていますが、これはこれでとてもいい演奏です。
バラードが弾けないチックの作品らしくアップテンポの曲が大半ですが、M.ヴィトウスやR.ヘインズの見せ場をきちんと用意するなどの気配りも
行き届いているし、スクリャービンを導入部としてうまく使えています。

ECMに開眼した影響でレコードにも手を出してみましたが、これもECMらしい素晴らしい音場感で大満足。 
そのおかげで、家でこの作品をよく聴くようになりました。 


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捨て曲なしの傑作

2015年09月20日 | Jazz LP (Columbia)

Ornette Coleman / Science Fiction  ( Columbia KC 31061 )


1971年に録音されたオーネットの傑作。 前年に発表されたマイルスの "Bitch's Brew" にかなり影響されたところがあるとは言え、捨て曲が一切なく、
これは完璧な出来ではないでしょうか。

1曲ごとに曲想が異なり楽器編成も変わってくるのでごった煮と言われることもありますが、アルバム全編をオーネットの洗練された艶めかしいうねりが
貫かれており、オーネットの音楽が一般のフリーとは違って広く支持される理由が明確にわかる内容です。 自分の楽想をここまでわかりやすく表現する
音楽家はちょっと珍しくて、そのあまりに無邪気なあけっぴろげさ加減に他のミュージシャンたちは驚きと嫉妬を覚えたんじゃないでしょうか。
なんで俺はこんな風に素直に音楽ができないんだろう、と。

サウンドの要になっているのはチャーリー・ヘイデンのベースで、私はこの人があまり好きではないですが、オーネットのバンドにいたころのヘイデンは
演奏に徹しているところが凄くて、さすがにこれには聴き惚れます。 アルト、トランペット、ベース、ドラムというカルテットが核となって、そこに
女性ヴォーカル、テナー、ヴァイオリン、エフェクターを通したベース、朗読、赤ん坊の泣き声、などの変数が曲想に合わせて絡んできますが、そのどれもが
ナチュラルにフィットしていて、奇を衒っている感じは皆無。 当然そうでなければいけない、という感じでそれらが出てきます。

タイトル曲の "Science Fiction" や "Rock The Clock" でのビッチェズ・ブリュー的味わいにもクラクラとしますが、4人で演奏するアコースティックな
名曲 "Street Woman" が何より素晴らしい。 こうやって曲単位に魅力を語れるところが他のフリージャズと決定的に違うところで、オーネットの音楽は
そういう意味ではマイルスやコルトレーンの側にあるのだと思います。

もうそろそろ、オーネットをフリージャズの文脈で語るのは止めにしたほうがいいだろう、と思います。



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見かけとは少し違う硬質さ

2015年09月19日 | Jazz LP

Buddy De Franco with Strings  ( MGM E-253 )


見ているだけで中の音楽が聴こえてきそうなとてもいいジャケットです。 そして実際にレコードをかけてみると、イメージ通りの音楽が出てきます。

ジャズというのは片方から貧しい黒人達の音楽がやってきて、もう片方から裕福な白人社会でもてはやされたダンスミュージックがやってきて、
それらがブレンドされて原型ができていますが、このレコードは後者側の系譜に連なるジャズの原風景のような音楽です。 
MGMらしくバックの弦楽オケは予算たっぷりの分厚いアンサンブルで、なかなか聴かせます。

但し、穏やかな旧き良きアメリカ音楽とは一味違う聴き応えが感じられるのは、デ・フランコの硬派な演奏の賜物です。 クラリネットを決して柔らかくは
吹かず、芯のある硬い音で聴き手に真っすぐ届けと言わんばかりに何かを訴えかけるような吹き方をしていて、こういうところが素晴らしいと思います。
後にクラリネット1本でジャズ界を渡っていく気概が、すでにここで感じられます。

ただ如何せん、あまりにも人気がない。 捨て値同然でエサ箱の片隅に転がっているのはどうにも気の毒です。 
この人のこういう美質を感じ取ってくれる人は、世の中には少ないのかもしれません。



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トランペット・ワンホーンの最高峰

2015年09月13日 | Jazz LP (Savoy)

Wilbur Harden / The King And I  ( Savoy MG 12134 )


若い頃、トランペットのワンホーンアルバムばかりを集中的に買い漁っていた時期があって、その時にレコードとして発売されたものの大半を聴きました。
サックスに比べて演奏すること自体が難しい楽器だし、吹けるようになっても更に一本調子にならずに歌うように吹けるのはごく一握りの人だけなので、
トランペットのワンホーンは意外に数が少ない。 そうやって峻別された結果としてアルバムが作られるので、出来上がった作品には傑作が多く、
そこに優劣はあまりありません。 どの作品にもそれぞれ聴きどころがあるので後は好みの問題になってきますが、私が一番好きなのがこのアルバムです。

ミュージカル "王様と私" のために書かれた曲をトミー・フラナガンのトリオをバックにワンホーンで吹くというもので、こういうのはトランぺッター
にとってはよほどの覚悟がないとできないだろうと思いますが、ウィルバー・ハーデンは奇跡的な名演を残すことができました。

このミュージカルはロジャース&ハマースタインⅡが音楽を担当していますが、これがどれも素晴らしい名曲だらけです。 よくもまあ、こんなに美しく
可憐なメロディーばかり書けるものだ、と感心しますが、そのメロディーラインを崩すことなくどこまでも素直に歌うように吹いていくハーデンの
トランペットが本当に美しい。 この人のオープンホーンの音はとても独特で、その少し霞みがかりながらも輝かしく、柔らかくて伸びやかなトーンは
絶品で、この音を聴いていられたら後はもう何もいらない、と思わせてくれます。

レコード史の中でこの人の姿が見られるのは1957年から60年までの3年間だけで、自身のリーダー作は1958年に集中して吹き込まれた4枚のみ。
その後プロとしての活動からは引退し、1969年に亡くなっています。 こんなにも素晴らしい作品を残してくれただけに、本当に残念です。

このアルバムはRVGがレコーディングエンジニアを務めていますが、私が知る限りではこれが彼のベストワークの1つだと思います。 ハーデンの美音を
最高に輝かしく録っていて、G.デュヴィヴィエのクッキリとして大きな音で鳴るベースラインやG.T.ホーガンの露に濡れたようなシンバルの生々しい音も
素晴らしく、ここでの音の深みや凄みはブルーノートを超えています。 音がいい、というような単純な話ではなく、音の意匠が音楽を彫刻していくような
凄まじさがあります。



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今週の成果

2015年09月12日 | Jazz CD
今週もブラブラと探しましたが、新着中古はたくさんでていたにも関わらずめぼしいものは見つからず、新品を少しつまみました。 新品の棚を順番に見ながら
思ったのですが、新作のジャケット群はどれも似通っていて、中身への予備知識がなければ一体どれを買えばいいのかさっぱりわかりません。

一番困るのは内容とは全くリンクしない、幾何学的なデザイン画のようなものですね。 一体何が言いたいのかさっぱりわからないし、この手のものは
オリンピックのエンブレム問題ではありませんが、どれも似通った、いつだったかどこかで見たようなものばかりで、ジャケットだけでピンとくることは
まずありません。 こうなってくるとますます事前にレビューをしっかり見て置く必要がありますが、この時点ではまだ販促文しかないので、いい加減な
誇大広告を自分の中で如何に正しく翻訳変換できるかも重要になってきます。




■ The Daniel Vitale Quartet feat. J.R. Monterose, HankJones  ( 自主制作、番号なし )

ニューヨークのロチェスター生まれで音楽一家の中で育ち、いろんな楽器に手を染める中で兄弟たちからベース奏者が必要だからベースをやれ、と言われて
始めたそうで、その後は地元のローカルミュージシャンとして数多くの演奏家と共演し、そういう交流の中から生まれた演奏の1つです。

モントローズやハンク・ジョーンズの名前がなければ誰も手にしないのは間違いない自主制作盤ですが、写真を見ると一体モントローズはどこにいるの?
という感じで、もしかしてこの身体の小さな、お散歩に出かけたおばあちゃんのような人がモントローズ? とびっくりしてしまいます。 こんなに
小柄な人だとは知りませんでした。

無名のローカルミュージシャンと年老いたジャズ・ジャイアンツの演奏ということで、枯れ切ってえっちらおっちらとスタンダードが展開される内容で、
音楽としては聴くべきところは何もありません。 ベースが主役ということでアルコによる主題の演奏で始まるものが多いですが、これが音程が悪くて、
リズム感もヨレヨレで、もうお粗末以外の何物でもないですが、不思議なことに全体的には演奏のまとまりは良くて意外にちゃんと聴けます。
ベテランの味が全体にしっかりと染みわたっているんだと思います。 自主制作にもかかわらず音質も良好です。

中でもハンク・ジョーンズのピアノは別格の輝きを放っており、この人は本当にすごい人だなと改めて実感します。 年齢を感じさせない鋭いタッチや
素晴らしいフレーズを連発しています。 一方、モントローズの衰え方は著しく、聴いているのがつらくなります。 吹き始めるところなんかは
調子の悪いスタン・ゲッツのような感じで、力の無くなり方は気の毒になります。

こういうのを世に出すのがいいことなのかどうか、正直言ってよくわかりません。 


■ The Alan Simon Quartet / Without A Song  ( Whispering Pines Records WP 120651 )

ライオネル・ハンプトン楽団で活躍したそうですが、私は初めて聞く名前です。 ビッグバンドにいたのなら音楽的には間違いないだろうということで
聴いてみましたが、これが当たりでした。

1997年コネチカットでのライヴ録音ですが、とても落ち着いて地に足の着いたいい演奏で、テナーのワンホーンで参加しているラルフ・ラママがとにかく
素晴らしい演奏を聴かせます。 こういう音色のテナーを聴くのは初めてで、ちょっとクセになります。 

スタンダードをメインにただ淡々と演奏していくだけですが、全体を通して好感の持てるいい雰囲気があり、大人のための音楽だなあと思います。
最近、半年に1枚くらいの頻度ですが、こういう地味ながらもいい音盤が出てきます。 買い逃さないように新品のチェックをするのは大切です。
マイナー盤なので、機会を逃すとその後がまた大変です。 こちらも、ライヴな音場感が見事で、音質も良好です。


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ただ運が無かっただけ

2015年09月06日 | Jazz LP (Riverside)

Walter Benton / Out Of This World  ( Jazzland JLP 28 )


こんなにもマイルドで素直で上質なハードバップのレコードは貴重な存在だと思いますが、本当に不思議なくらい知名度が低いままのレコードです。
アメリカのみならず、世界各国のマイナーで誰も知らなかったようなレコードが次から次へと陽の目を見ていくのに、一体なぜでしょう?

鳴り物入りで売り出し中だったまだ無名のフレディー・ハバードをフロントの片翼に置き、マイルスのリズムセクションを迎えるという信じられないような
布陣の中で、ベントンは非常に伸びやかでシックな音色でなめらかにアドリブラインを紡いでいく。 これが非常にツボを抑えた上手い組み立て方で、
技術的にも感性的にも素晴らしいものを強く感じます。 若いフレディは例によってバリバリと大きな音で口火を切りますが、ベントンの落ち着いた様は
その派手さといいコントラストになっています。 そして、当時の最高のピアノトリオの1つだったウィントン・ケリーのトリオが全体を支えて音楽を
前へ前へと進めていく。 これは素晴らしい作品です。

このアルバムは1960年9月にニューヨークで録音されていますが、この前後にベントンはサイドマンとして結構いろんなレコーディングに参加しています。
ただ、そのどれもが同じように地味な作品で、いわゆるコレクターじゃなきゃ手に取らないようなレコードばかりだし、本人のリーダー作もおそらく
この1枚だけのはずです。 クリフォード・ブラウンとも縁のあった人でもあるし、もう少し褒められてもいいんじゃないかと思いますが、唯一のリーダー
アルバムがジャズランドというこれまた幸薄いレーベルだったというのもとことんツイていなくて、これには心底同情してしまいます。

ブラウニーがクインテットを作る時にマックス・ローチがハロルド・ランドとこのベントンの2人を連れてきてどちらかを選べと言うので、仕方なく2人に
演奏をさせてみて、迷いに迷ってハロルド・ランドを選んだわけですが、まだ若かったブラウニーは人を見る目がなかったんじゃないかと思います。
レコードで聴く限りでは、どう考えてもベントンのほうがいいテナーを吹くからです。 こういうところでも運のない人だったんだなあと思います。



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80年代のゲッツとバロン

2015年09月05日 | Jazz LP
今週はCDの収穫はありませんでした。 ここのところ、空振りが続いています。 ダメな時はさっさと諦めて、じゃあレコードのほうはと覗いてみると、
いくつか探していたものが見つかったのでそちらをつまみました。



Stan Getz / Voyage  ( Black・Hawk Records BKH 51101 )

近年のスタン・ゲッツ再評価の契機になったこの名盤はCDのマスタリングが悪くて、それがずっと不満でした(そう思っているのは私だけではないはず)。
リマスター盤が出るのを期待しているのですが、一向にその気配がない。 ならばレコードはどうなのかと思っていたところに、うまく出会いました。

こちらはとてもナチュラルな音場感で、非常にいいです。 初めてこの演奏の本当の素晴らしさに触れることができたような気がします。
晩年のレギュラーユニットとしてケニー・バロンと組めたのは、ゲッツにとっては何より幸せなことだったのではないでしょうか。

テナーサックスをなめらかに音の継ぎ目なく吹く技はここに極まり、アドリブラインのメロディアスさも究極の域であり、もはやこれが楽器の演奏である
という感覚は消え失せて、ただひたすら美しいメロディーが滾々と湧き出てくるのを固唾を呑んで見つめるだけです。

全体のサウンドも適度の浮遊感と極上の上質さが溢れていて、最高級のジャズを聴いた、という歓びだけが残ります。 本当に素晴らしい。




Kenny Barron / Scratch  ( 西独 Enja 4092 )

ケニー・バロンの作品の中で、最も好きな盤です。 だから、レコードでも持っていたいと思っていたところに、これに出会いました。

これはもともとデジタル録音だし、エンヤはCD化が上手いレーベルなので、この作品はCDのほうがきれいな音です。 レコードは各楽器の音の線が太く、
どっしりとした演奏に聴こえます。 その違いを純粋に愉しめれば、私にはそれでいい。

全編がオリジナル作品で、1曲目と最後の曲はバロン風バド・パウエルという感じのビ・バップ調の曲でとても面白い。 特に1曲目はウン・ポコ・ロコを
意識した曲になっています。 そして、最大の聴き処はそれらの間に挟まれたバラードで、特に "Quiet Times" は秋の澄んだ青空を思わせるような
素晴らしい曲で、これが長年の愛聴曲になっています。

きちんと緩急をつけた内容になっているところが素晴らしいと思います。 これが全編きれいな曲ばかりだったら途中でダレてしまって、ここまで愛聴する
ことはなかった。 デイヴ・ホランド、ダニエル・ユメールの2人も当然ながら質の高い演奏をしていて、このアルバムには欠点が見つからない。


"Scratch" は85年、"Voyage" は86年の録音ですが、このあたりからちょうど主流派ジャズの復興が始まります。 ゲッツはもしかしたらバロンの
この作品を聴いていたのかもしれません。 そして、ビ・バップの精神を忘れないバロンの演奏を聴いて、パートナーに迎えようと思ったのかもしれない。
そんなことを考えながら、しみじみと長年の愛聴盤を改めて聴き直したのでした。



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