廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ボブ・ブルックマイヤーの実力

2022年01月29日 | Jazz LP (Verve)

Bob Brookmeyer Orchestra / Gloomy Sunday and Other Bright Moments  ( 米 Verve V6-8455 )


ボブ・ブルックマイヤーの生涯を眺めていると、ソリストとしての活動と同等か、若しくはそれ以上の割合で実際はビッグ・バンドの仕事に
携わっていたんだなということがわかる。ビッグ・バンド後進国の日本ではこの形態は評価されないし、聴く人も少ないから、彼のそういう
側面がまともに取り上げられることはないし、そもそもトロンボーンも人気がないから、高名な割には彼の実像を把握している人はあまり
いないのではないか。せいぜい、ゲッツの横で一時期バルブ・トロンボーンで何かモソモソ言っていた人、くらいの認識が関の山だろう。

自分名義のラージ・アンサンブルを持たなかったせいもあって、彼のそういう一面はほとんど知られていない。ディスコグラフィーを見ても
彼の名前で出ているのはスモール・コンボが多いので止むを得ないのかもしれないが、このアルバムは珍しく彼名義のラージ・アンサンブルだ。

まだ本人以外のスコアも取り入れて勉強中の身であることがわかるが、元々クロード・ソーンヒル楽団の席に座っていたわけだから、
この時点でいずれはアレンジャーとして身を立てるつもりだったのだと思う。マリア・シュナイダーも彼の下で勉強したのだから、
アメリカのラージ・アンサンブルの血脈は太い。

A面はラルフ・バーンズ、ゲイリー・マクファーランド、アル・コーン、エディー・ソーターがアレンジ、B面がボブ本人によるアレンジ。
冒頭のバーンズによる "Caravan" が滅法カッコいい。これはもう、完全にルパン三世の世界である。ビッグ・バンドが見せるキレのある
疾走感を聴くのは、ジャズの最大の快楽の1つだと言っていい。

先人達の描く世界に比べて、ボブのアレンジはよりカラフルな景色が拡がるような感じだ。管楽器の重奏の響きはやはりソーンヒルの
それと似ており、随所にその影響を感じる。アクセントの強弱の付け方などもA面のものよりもずっとデリケートでより多用されている。
こうして聴き比べると、彼の描く世界はよりモダンで多彩な色彩感に溢れているのがすごくよくわかる。楽曲のスケールはより大きく、
それでいて威圧的にはならず、より緻密でデリケートだ。ビッグ・バンド・ジャズにはその系譜の影響もあり、どこかに踊る音楽の要素が
込められているものだが、彼のアレンジはあくまでも聴かせることを最優先にしたようなところがあり、程よい知性の匂いがある。

彼のアレンジャーとしての位置付けが1つのスクールとなっているのはその筋の人々にはよく知られていることだが、これを聴けば、
「なるほど」と腑に落ちるものがある。もっと他のアルバムを聴いてみたい、と思わせるには十分の内容である。



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幻の歌手、バディー・スチュワート

2022年01月22日 | Jazz LP (Savoy)

Charlie Ventura / East Of Sues  ( 米 Regent MG-6064 )


このレコードはある1点においてのみ、非常に貴重で存在意義のあるレコードである。主役のチャーリー・ヴェンチュラには申し訳ないけど、
そこには彼の出番はない。

それは、バディー・スチュワートの歌が聴けることである。彼は40年代初頭にクロード・ソーンヒル楽団のザ・スノーフレークスのメンバーとして
活躍し、2年の兵役を経てジーン・クルーパー楽団のザ・Gノーターズにも参加、その後49年にこのヴェンチュラのバンドでソロで数曲歌い、
カイ・ウェイテイング、チャーリー・バーネット楽団などを渡り歩いたが、50年にニュー・メキシコで家族共々自動車事故に会い、亡くなっている。

こういう経歴だからソロ・アルバムは残しておらず、その大半が単発のSP録音のみで纏まった形で聴くことはできない。スノーフレークスや
Gノーターズのレコードが残っていないというのは本当に残念なことなんだけど、そのせいもあって、彼の名前は知る人ぞ知るという存在で
幻の歌手となっている。だから、数曲とは言え、彼の独唱が聴けるこのレコードは有難い存在なのだ。

ハンサムな声質でクセのないストレートな歌い方をする人で、ヴォーカル好きならば1度聴くと忘れられない。器楽的なスキャットも披露して
いるが、"Pennies From Heaven" で見せるバラード唱法は心に響く。アルバムを残して欲しかったなと思う。

チャーリー・ヴェンチュラは古いタイプの音楽に終始した人で、このバンドの音楽も取り立ててどうこうと言うところはない。
朗らかで穏やかな音楽で、彼の喋り口調のサックスもいつも通り。その伴奏を背景にバディー・スチュワートの歌はよく際立つ。
ジャケットの表に彼の名前は出てこず、あくまでもエンターテイメントとしてのアクセントの意味での登場という扱いだが、
私には彼の歌があるこそ、というレコードになっている。


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実にシブい良作

2022年01月17日 | Jazz LP (Savoy)

Charlie Byrd / Blues For Night People  ( 米 Savoy MG-12116 )


ジャケットデザインで損をしているが、最高にイカしたアルバムだ。
1,000円で拾ったセカンドを聴いて気に入ったので初版を探していたが、680円で転がっているのを見つけて、新年早々縁起がいい。

裏ジャケットに "Spanish Guitar" と記載されていることからガット・ギターを弾いているようだが、音色の粒立ちが良く、素晴らしい。
バックはベースとドラムスのみのシンプルな構成になっているのがいい。キーター・ベッツにガス・ジョンソンなんて、泣かせる顔ぶれだ。

タイトルの通り、深夜の雰囲気に溢れた落ち着いてシブい内容だ。A面は組曲になっていて、First Show~2:00A.M.~4 O'Clock Funkという
建付けの下、穏やかな演奏が流れて行く。ベッツの重低音がよく響くサウンドになっていて、これが非常に効いている。
安定したリズムに支えられて、バードのギターがよく歌っている。ケニー・バレルのアルバムなんかよりもブルージーで、意外な拾い物だと思う。

後にスタン・ゲッツと組んで "Jazz Samba" をリリースするなど、南米音楽のイメージが強いかもしれないが、ここでは滋味溢れるジャズを
展開している。自作を持ちこんでのアルバム制作であり、本人も気合いが入っていた様子が伺える。コマーシャルな音楽もこなしたが、
案外、こういうのが彼の本音だったのかもしれない。

サヴォイは良いレコードを作る。3大レーベルのような肩に力の入ったアルバムとは少し次元の違う、ジャズが本当に好きなマニアの心を
いい感じでくすぐってくれるアルバムが多い。このタイトルもこのレーベルを代表する1枚の中に加えても全然いい良作だと思う。



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