廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

天上の音楽

2014年03月30日 | Jazz LP (Columbia)

Claude Thornhill and his Orchestra / Dancing After Midnight ( Columbia CL 709 )


もう、このジャケットを見ただけでどんな音楽なのかわかりそうなものです。 真夜中過ぎに男と女が踊る目的は1つだし、踊るには音楽が
必要でしょう。 幸い、アメリカにはそういう類いの音楽はたくさんあります。 レイモン・ルフェーブル、パーシー・フェイス、マントヴァーニー。
中古レコードを探していると、エサ箱にこういうレコードが入っているのを見かけることも多いでしょう。

クロード・ソーンヒルはそういう音楽とは一線を画す本格派で、まあ、わかる人にはわかるのですが、中々知名度も上がりません。
知っている人だけが大事に聴き続ける、そういうタイプの音楽です。 彼の音楽を慕って集まったミュージシャンは多く、ジェリー・マリガン、
リー・コニッツ、バリー・ガルブレイス、レッド・ロドニー、名前を挙げればキリがない。 

この楽団のテーマ曲でもある "Snowfall" が収録されているこのレコードはトレンドの10インチと並ぶこの楽団の決定盤。 お抱えのコーラスグループ、
SnowFlakes が歌う "I Don't Know Why" や "Rock-A-Bye Baby" の夢見るような歌がたまりません。 まるで、天上の音楽です。
クリス・コナーも若い頃、このグループの一員でした。

ジャズにはいろんな形があるんだなあ、と思います。 そして、それぞれの形の中に一流の音楽家がいるのです。




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制作企画の大事さ

2014年03月29日 | Jazz LP (Imperial)

Sonny Criss / Plays Cole Porter ( Imperial LP 8084 )


ソニー・クリスはインペリアルでアルバムを作ったことが不幸の始まりだったと思います。 このレーベルに吹き込まれた3枚は企画が安易で、
明らかにプロデューサーの失敗。 ラジオを意識したのか、1曲あたり3分程度のスタンダードをワンホーンで吹き流すだけでは、ジャズとしての
創造の息吹は芽生えようがない。 インペリアルというレーベルは元々はカリフォルニアでメキシコ音楽を録音するために生まれたレーベルで、
その後の主力はファッツ・ドミノやT・ボーン・ウォーカーだったわけで、ジャズのことは全然わかっていなかった。

当時カリフォルニアに来ていたソニー・クラークを呼んだのはよかったけど、ジャンキーで心身ともにボロボロだったし、こんな企画内容では
ただバンドのバッキングをするしかなかったわけで、これなら別にピアノは誰でもよかった。

ジャズファンはインペリアルのレコードを聴いて一生懸命彼をかばおうとするものですが、別に彼をかばう必要はないのです。
彼は十分よくやっている。 それはレコードを聴けばわかります。 技術的には、彼はパーカーの次にアルトが上手い人だったと思います。
ただ、彼の孤軍奮闘な様と企画の退屈さのギャップに人々が戸惑うだけです。

レコードでしか黄金期のジャズしか接することしかできない私たちは必要以上にレコードにこだわるけど、それは仕方ないことです。
演奏内容だけでは飽き足らず、工業製品としてのレコード本体までしゃぶり尽くす。
但し、演者が素晴らしくて、初版レコードの手の込んだ意匠がどんなに素晴らしくても、制作の企画がつまらなければすべてが台無しになる。
インペリアルの録音はそのことを教えてくれます。




Sonny Criss / At The Crossroads ( Peacocks PLP 91 )


その点、このレコードはきちんとジャズ・クインテットとしての演奏を志向していて、素晴らしいと思います。 私はこれが一番好きです。
ジャケットのデザインが象徴しているような夜の雰囲気が濃厚で、これぞアメリカのジャズだと思います。

ワンホーンではすぐに食傷気味になるのですが、トロンボーンとの2管になるとアルトの良さが引き立ちます。 特に2曲目の You Don't Know~は
素晴らしいバラードになっています。 ウィントン・ケリーのピアノもみずみずしくていいです。 きちんとした企画を用意さえすれば
この人のレコードはいいものになったのに、残念ですね。 これは時々、無性に聴きたくなるレコードで、音質も抜群です。



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六本木WAVEの想い出

2014年03月22日 | 廃盤レコード店
私がレコード漁りを一生懸命していたのはもう20年以上も前のことで、暇さえあれば都内のどこかのレコード屋に行っていました。
今はレコードを買うために休日に外出するなんてことは全くないのですが、当時は都内にはたくさんの中古屋があって、金はないけど元気だけは
あったので、本当にいろんなところに通っていました。 だから、お店ごとにいろんな想い出があるのですが、その中でも印象深いお店の1つに
六本木WAVEがあります。

当時の六本木WAVEというビルは最先端の映画・本・音楽・ファッションなどの文化の情報発信をしていた、オシャレでハイブロウな処でした。
そのビルの中にジャズとクラシックのレコードやCDが置いてある小さなスペースがありました。 当時はタワーレコードやHMVのようなメガストアが
全盛でしたが、ここはレコードもCDも本当に極々少し並べて置いてある完全セレクトショップで、まるで個人のコレクションを伐り出して売りに出して
いるかのような風情でした。 

ここは何と言っても、当時のDUでは絶対に見ることができなかった欧州ジャズの音盤ばかりが並んでいるのが特徴で、オシャレな雑貨や洋服や
古い映画のポスターなどが間接照明の下で展示されている延長線上に置かれている独特で異質な空間で、そこで数少ない音盤を眺めているだけで
なんだが自分が素晴らしい別の誰かになったかのような錯覚に陥るくらいでした。

ここでは強烈な想い出が2つあって、1つは Thierry Lang を初めて知ったことです。





これは正しくはないかもしれませんが、私の記憶では Thierry Lang を日本に初めて紹介したのはこのお店だったのではないか、という気がします。
DUにも置いていたかもしれませんが、ちょっと憶えていません。 まあ、それだけWAVEでの印象が強烈だったわけです。

ある時、この2枚がフェイスで置かれていて、その後ろに在庫がいつも2~3枚並び、店内では常時これらが流れていました。 当時、こういう
抒情的なピアノの音盤は他にはなかったので、衝撃的でした。 何の予備知識もなかったにも関わらず飛びついて買って、本当によく聴いたものです。
この後少し時間を置いてピエラヌンツィが再発見されて紹介されて、以降、欧州のキレイ系ピアノトリオが大きな潮流の1つとなっていくのですから、
このお店が果たした役割は大きなことだったと思います。 そのエポックメイキングな瞬間を目の前で見ることができたことには感謝しています。


もう1つの想い出は、こういう欧州の廃盤レコードを初めて見たことです。



Rene Urtreger Trio ( 仏 Versailles STDX 8008 )


新品のレコードやCDに混じって、廃盤レコードも常時20枚くらいですが置かれていて、その中にこのレコードもありました。
それはジャケットがシワシワになっていて茶色のシミもついて、まあひどい状態でしたが、それでも確か10万円近い値段がつけられていた
ような記憶があります。 随分昔のことなので正確には憶えていないのですが、それでも当時、そんな値段のレコードは滅多になかったので、
一体これは何なんだ、と驚愕して、私の脳裏に強く焼き付きました。

あれから20年、改めてこのレコードジャケットを眺めながら聴いてみると、当時のいろんな風景が蘇ってきて何だか涙が出そうになります。 

そういう感傷的な想い出があるからという理由だけでこのレコードは手放さずに持っているんですが、実は内容は大したことはありません。
一聴して、なんだ? まるで下手なクロード・ウィリアムソンみたいじゃないか、という感じです。 稀少盤だから褒める人が出てくる、という
パターンの典型です。 音も大してよくありません。 この人は、澤野商会から出ている最近の録音のほうがずっといいです。




Barney Wilen Quintet ( 仏 Guilde du Jazz J-1239 )


これも、そこで初めて見ました。 なぜか値段は全く憶えていませんが、いつも高い値段が付いているので初めから値札を見るのを
諦めたのかもしれません。

これは音が凄いレコードで、スピーカーから音の塊りが飛び出してくる感じです。 よくRCA盤の音が凄いと言われますが、こちらもそういう意味では
負けてないと思います。 このレコードはアルトの Hubert Fol の名演が聴けるし、収録されているスローブルースに素晴らしい名演が残されて
いるので、私はバルネのレコードではこれが一番好きです。


私がレコードの所有枚数なんて少しでいい、と思うようになったのは、間違いなくこの六本木WAVEでの体験が影響しています。
本当に好きなレコードなんてそんなにたくさんあるわけじゃないし、厳選した愛聴盤だけが手元にあって、それらを永く大事に聴ければそれでいい、
と思えるのは、そこにあった知的で親密な雰囲気に強く憧れていたからかもしれません。 少しずつですが、そういう世界に近づいていければ
いいなあ、と思います。



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正しい中古CDの買い方は?

2014年03月21日 | Jazz CD
最近はDUの中古CDフロアによく行きます。 例えば、新宿ジャズ館の2Fは新入荷のCDと入荷後数週間のCDが置いてありますが、まあ膨大な数です。
若い頃ならいざ知らず、最近は新入荷の棚を一通りみるだけでも相当疲れます。 それに仕事の合間に立ち寄ることも多いので、ゆっくり物色する
時間もそもそもありません。 更に、猟盤の長い空白期間のおかげで、CDに関する知識量に根本的な問題を抱えています。 だから、きっと
相当な数の見落としをしているはずなのです。 そういう自覚を常に意識しながら、時間を気にしつつ膨大な数のCDを物色するのは、よくよく考えると
けっこう大変なことですね。

こんな有様なので、欲しいと思うものが1枚も見つからない日も少なくない。 腰を曲げたり、しゃがみながら上半身は伸ばしたり、と無理な姿勢を
取ることになるので、身体にも負担がかかります。 そんな時、立ち上がって伸びをしながら部屋の中を見渡すんですが、こんなに中古CDがたくさん
あるのに、俺が欲しいCDは1枚もないなんて・・・・ と不思議な気持ちに襲われることがあります。

そういう作業の中で、何となく自分なりのルールのようなものが出来上がってきます。 あまり有効に機能しているとは思えませんが、
それでも無いよりはマシだと自分を慰めながら、それを守ったり守らなかったりとゆるい日々です。


① 紙ジャケCDは飛ばす

紙ジャケは結局のところ、アナログの名盤の復刻。 古い録音が多くデジタルには根本的に合わないので、聴いても楽しくありません。
アナログ再生できる環境がなければ仕方がないですが、うちは幸いにも機器があるので、レコードを買うほうがいい訳です。 
だから、中古の棚を見る時は紙ジャケCDは最初から飛ばします。


②トミフラ、アル・ヘイグ、チェットなどの80年代以降の録音、特に日本制作モノは買わない

現代まで生き残った50年代のビッグネームたちの近年録音というのは無残な記録です。 特に日本のレコード会社が金にモノを言わせて大物たちを
呼び寄せてはムチ打つように録音させました。 何とむごいことをしたんでしょう。 聴いていて、辛くなるだけです。 ジャズのレーベルは
一般的に短命なので後年に再発する際にはスムースにいかないことも多く、すぐに廃盤化するものです。 大物のオリジナル録音で廃盤となれば
食指が動かないわけはないですが、そこそこ高い値段を出しても内容は聴くに耐えず、結局すぐに売りに出すことになります。


➂ 「当店推薦盤」というコメントはバカにしない

どうせ商売の為の宣伝文句でしょ、と思いがちだけど、知識量にハンデがある自分には無数の見たことのない音盤の中からアタリをつけるには
有益な情報の1つです。 他の店ならともかく、DUはコレクター界の良心、マニアの聖地です。 純粋に勧めてくれている、と信じたい。
但し、結局は好みの問題、買うか買わないかは自己責任。 経験的に、勝率は3割くらいか。


④ 3,000円を超えたら原則買わない

中古の値段は内容の良さとは何の関係もないことはもちろんわかっていますが、店舗に行くとこの真理をついつい忘れがちになります。
だがら、デジタルに境界線を引いておくことは重要です。 マイナー盤がマイナーになったのには、それなりの理由があります。


⑤ 投機目的の先物買いはしない

純粋に感動する音楽に出会いたくて買う、この当たり前のことを忘れて投機が目的になったら、その時点でもう愛好家としてはおしまいです。
この手の邪念は音楽への考え方が歪んでいき、やがてそれが当たり前になって、自分も知らないうちに蝕まれていくので怖い。


➅ 欲しいと思った枚数の半分以下だけ買う

買い物というのは、物足りないくらいでちょうどいいのです。 


他にもあるような気がしますが、パッと思いつくのはこれくらいです。 傍から見れば馬鹿げた話ですが、自分としてはこういうのは
ゲーム感覚が楽しめてそれなりに面白かったりします。



【 今週の収穫 】




■ Frank Lacy / Live at Smalls ( Smalls Live OFM-044 )

これ、最高のハードバップ・ライヴです。 懐かしい50年代の雰囲気が濃厚なのがたまらない。 現代風のテクニックがバリバリの演奏とは違い、
マイナー調で、程良く粗いアンサンブルで、適度に型崩れしていて、かっこいい。 今でもこんな演奏が聴けるんですねー。 大当たり!


■ Lalo Conversano / My Favorite Songs ( Music Center BA 334CD )

イタリアのベテラントランぺッターによる、ワンホーンのスタンダード集。 濡れたようなトランペットの音が心地よく、クセのない素直な
演奏は悪くないです。 特に、1曲目の "Old Folks" はしみじみといい演奏です。 ただ、この手のアルバムは全部聴き通すのはしんどい。
気に入った特定の曲だけをセレクトして聴くと、長く付き合えます。




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Maria Schneider の飛翔

2014年03月16日 | Jazz CD
女性にできない職業の1つとして、交響曲の作曲家が昔からよく取り上げられます。 明確な根拠があるわけではないけど、歴史上に名を残した
交響曲を書いた作曲家に女性が1人もいないのは事実です。 長編小説をたくさん書いたり、世界中を飛び回りながらモーツァルトのピアノソナタの
全曲録音を2度やったり、という人はいるし、最近は名門オケの常任主席指揮者として交響曲を指揮する人もいますが、なぜかオーケストレーションを
屈指する巨大な曲を作る女性はいませんでした。 女性には元々大局的な視点がないからだとか、妊娠・出産・子育て・家事で大きな仕事をする
まとまった時間が取れないからだ、とかひどいことを言う人もいますが、本当のところはよくわからないとされてきました。

ところが。
オーケストレーションを屈指したオリジナルの大曲を書き、既存の有名曲に誰にも真似できないアレンジを施し、自ら指揮をしてしまうすごい女性が
とうとう90年代のアメリカに現れてしまいました。
それが、マリア・シュナイダーです。

ギル・エヴァンスに師事して、彼の晩年の作品のいくつかは実はマリア・シュナイダーが密かにアレンジしたものだと言われています。
そういう理論の勉強や現場での修行をきちんと経て、満を持して自身のオーケストラを立ち上げてデビュー、着実に仕事を重ねてグラミー賞を
受賞するまでになりました。

ビッグ・バンド好きの私にとっては彼女の作品はどれも大切なもので、ずっと大事に聴いてきました。




■ Maria Schneider Jazz Orchestra / Sky Blue ( artistShare AS0065 )

私が一番好きな作品は現時点ではこれです。 それまでの作品とは違い、タイトル通り、大空に飛翔するかのような解放され自由なムードに
覆われた曲想に圧倒されます。 パット・メセニー的第三世界の楽園の祝祭ムードに溢れた圧巻の曲で幕をあけますが、このCDは全体的に
これまでの作品の中で最もギル・エヴァンスの影響をストレートに表現しており、それが一層自由な飛翔感を際立たせている傑作です。


■ Maria Schneider Jazz Orchestra / Evanescence ( artistShare 0006 )

94年のデビュー作。 ビッグバンドの既成概念に一番イメージが近いサウンドなので、一般的に一番受けがいい作品です。 
管楽器の重奏をメインに置いたサウンドがわかりやすく、楽曲も一番コンパクト。 クラーク・ボーラン・オーケストラの尖った所を削って
速度を落としてマイルドにした感じ、とでも言えばイメージが近いかも。





■ Maria Schneider Jazz Orchestra / Coming About ( artistShare AS0087 )

オーケストレーションやアンサンブルがとても繊細で緻密に織り込まれた完成度のすごく高い作品です。 中盤に大きな組曲を入れているところも
気合いの入り方が違います。 最後に "Waxwing" という名曲で幕を下ろします。 素晴らしい出来です。


■ Maria Schneider Jazz Orchestra / Allegresse ( artistShare 0005 )

重奏を1歩後ろに下がらせて、各演奏家の音を前面に立たせるパートが目立つ作品。 アルバム毎にコンセプトを明確に分けており、
よく考えられています。 この作品から、楽曲の中に幻想性のようなものが現れるようになります。





■ Maria Schneider Jazz Orchestra / Concert In The Garden ( artistShare 0115 )

グラミー受賞アルバム。 クラシックの交響曲の手法が一番濃厚な作品であまりジャズっぽくはないですが、次作の Sky Blue への伏線が
あちこちに見て取れます。 若い頃のジョディー・フォスターに似た彼女の姿が美しい。 


彼女の音楽は分類するとすればコンテンポラリー・ビッグ・バンドなので、聴く側がオープンマインドでなければいけません。
ジャズとはこういうもの、とか、ビッグバンドはスイングしなけりゃ、とか言ってる人はお呼びじゃない。
あなたが自由に音楽を愉しめる人なら、間違いなくお宝になるでしょう。




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CD三昧な日々

2014年03月15日 | Jazz CD
相変わらずレコードには目もくれず、CD三昧の日々です。 今週新しく買って聴いたものの中から、感想などを少々。





■ Gildas Scouarnec Quintet ( 仏 Ref A.D.J.B. K.001 )

オークションで2万越えのレア盤、と鳴り物入りでの再発で、なんと、5,250円です。 再発オファーをしたら、アーティスト本人から契約金額を
ふっかけられたんだそうです。 まあ、内容がそれに見合うんなら、我慢しますけど。
で、聴いてみたら、これがひどい内容でした。 まず、録音があまりよくないです。 20年前のマイナーレーベル(もしかしてプライヴェート?)
なので仕方ないのかもしれませんが、デッドで平面的な音場、出力レベルも弱く、そのくせ音量を上げると急に耳が痛くなるような轟音になるし、
なぜか楽曲の途中で何度も出力レベルが弱くなったり強くなったり・・・ プロの仕事ではないですね。
肝心の内容はと言うと、焦点のはっきりしない音楽です。 モーダル、とか宣伝文には書かれていますが、いやいや、普通にハード・バップの
曲を書こうとしたんだけど実は才能なくて、こんな中途半端な曲しかできませんでした、というのが本当のところでしょう。 テナーは演奏が
はっきり言って下手だし、アルトは音の取り方が変で、よく聴くとピッチがずれているというか・・・ これ、チューニングが合ってない?
音や吹き方には勢いがあってそれはいいけど、これじゃミュージシャン失格なのでは? 1曲目はベースを軸にしたクラブDJとかが好きそうな感じの
曲ですが、あくまでも雰囲気だけがそうで、演奏は稚拙です。 普通の音楽愛好家であれば、これは買わないほうがいいと思います。 
投機目的の人は・・・・ まあ、お好きなように。


■ Piana-Valdambrini Sextet featuring Enrico Pieranunzi ( Think DTHK019 )

これは発売日を愉しみに待っていたのですが、これもひどいことになってます。 左側の音の出力の仕方がおかしくて、一応音は出ているのですが、
異様に籠っていて(耳に毛布を充ててその向こうで音が鳴っている感じ)、音楽鑑賞を妨げてくれます。 元々こういう録音だったのか、
今回の再発向けに施したマスタリングミスなのかよくわかりませんが、いずれにせよ、商品として発売できる品質ではないのでは?
音楽や演奏がいい悪いとか、それ以前の問題です。 正直言って、返品したいです。






■ The Cookers Quintet Vol.1 ( Do Right! Music DR056 )

アマゾンではまだ発売開始されてないにも関わらず、既に中古コーナーに出てました。 カナダのグループらしいですが、このジャケットに
惹かれてなのか、売れているそうです(ちなみにCDを取り出した後に現れる内ジャケ写真はさらにセクスィーな感じ)。 
日本のモダン・ジャズ・オヤジたちは、普段、そんなに欲求不満なんでしょうか?
若々しいハード・バップですが、がっちり固め過ぎなアレンジがちょうど Cherkasy Jazz Quintet そっくりで、なんだが週刊ヤングマガジン
みたいなお子様感いっぱいです。 あのなあ、大人をナメるなよ、と言いたくなります。 


■ Graeme Lyall meets the Joe Chindamo Trio / Smokingun ( New Market Music NEW 3180.2 )

アルトのワンホーンということで買ってみました。 このアルト奏者は初めて知ったのですが、とてもいいです。 音もいいし、何よりも
すごく上手いです。 間をすごく大事にした演奏をする超一流の腕、とお見受け致しました。 録音も綺麗です。 ちなみに、Joe Chindamo は
私はどうでもいいです。 このピアノトリオは演奏がすごく上手いですけどね。 ただ、これは好みの問題ですが、ちょっと音楽がポップ過ぎる
のが私にはマイナスでした。 Take Five でのデズモンドのサックスの音の物真似はよく出来ていて、驚きます。 こんなにそっくりな音は
初めて聴きました。





■ Marco Postacchini Octet feat. Fabrizio Bosso / Do You Agree? ( Notami Jazz NJ007)

イタリアのテナー&マルチリード奏者の八重奏団にF.ボッソが客演したハード・バップで、これはすごくいいです。 とてもすっきりとして、
それでいてきちんとハード・バップになっているし、どの楽曲もいい曲ばかり。 最近の愛聴盤です。


■ George Colligan / The Endless Mysteries ( Origin Records 82654 )

これ、最高です。 硬派で賢そうで抜群にキレのいいピアノトリオで、今週1番の成果でした。 3人とも凄い演奏技術で、驚異的。
上手いだけでなくて、音楽的にも満足できる内容です。 特に、デ・ジョネットの演奏が素晴らしく、この人のおかげで名盤の仲間入りが
できたんだと思います。 キースのスタンダーズでは粗さがかなり目立ちましたが、あの印象で聴くとこの成熟した洗練さに驚くでしょう。
美メロ・ピアノトリオや激レアピアノトリオなんか、クソくらえ! と思います。 



Gianni Basso , Renato Sellani / Isn't It Romantic? ( Philology W 201.2 )

<番外編>
がっかりしたり、舞い上がったり、とアップダウンが激しい疲れた耳に優しく響く老テナー。 モードやフリーをきちんと通り抜け、
晩年はスタンダードばかりをゆったりと録音し続けた名匠の音盤はどれもすべていい、というわけでもないですが、中古で見つけたこれには
癒されました。 疲れた週末の夜に聴くにはもってこいの音盤です。



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Barry Harris を堪能する

2014年03月08日 | Jazz LP (70年代)
ピアノ・トリオの音盤が溢れかえり、みんなが自分の個性を前面に押し出そうと躍起になる中で、いつも変わらず淡々と弾き続ける人です。
だから、新しい刺激を求めていろんな音盤を漁り続ける日々の中で、時々無性にこの人を聴きたくなるのは本来の自分に戻ろうとする意識の表れから
なのかもしれません。 彼の音盤で一番好きなのは、これです。


Barry Harris Plays Tadd Dameron ( Xanadu 113 )

Argo盤やRiverside盤も悪くないですが、この盤の魅力にはやはり勝てません。 タッド・ダメロンの素晴らしい楽曲の魅力もありますが、
それを素直に表現するバリー・ハリスのピアノとそれをサポートするジーン・テイラーとリロイ・ウィリアムスの淡麗でいて深みのある音楽が
たまらない。

バド・パウエル直系の、という受け売りがよく付いてまわりますが、私はこの人のピアノを聴いてバド・パウエルを感じたことは1度もありません。
ビ・バップが彼のスタイルの基礎になっているのはその通りですが、だからといって短絡的にパウエルの名前を出してくるのはお門違いも甚だしい。

私の感覚では、例えばこちらのほうが遥かにパウエルの精神的息吹を感じます。


Abe Rabade Trio / Simetrias ( Xingra.com XC-0502-CD )

かつては高額廃盤CDの代表格としてその名を馳せたんだそうですが、もちろん私はその当時のことはまったく知りません。 
最近再発されて、DUで試聴可能だったので聴いてみたら、その尖った個性全開の演奏が素晴らしかったので買った訳です。 
全編オリジナル曲で固めた意欲作で、硬質でスピード感のあるタッチは直感的にパウエルを思い出させます。 どれも似通ったタイプの曲なので
最後まで聴き通すのはしんどいですが、内容は本当に素晴らしいと思いました。

上述のバリー・ハリスのレコードはそういう技術的な卓越さや音楽的な興奮とは無縁ですが、最初から最後まであっと言う間に聴き通せて、
尚且つもっともっと聴き続けたいという想いが残るのです。

これはかつて紙ジャケCDとして発売されて今では廃盤CDセールの常連になっていますが、ザナドゥのCDはソニー・クリスも含めて音場に立体感が
なく、聴いていて違和感ばかりが残ります。 ところがレコードのほうは3人の音が綺麗に分離されて立体感があり、聴いていて気持ちがいい。
特に、ベースの音がくっきりと再生されます。 これはレコードで聴くべきですね。 値段も中古CDの半分以下で買えます。


近年の録音の中では、やはりこれが素晴らしいです。


Barry Harris / In Spain ( Nuba Records 7754-2 )

ずっしり重くて漆黒く濡れたようなピアノの音が絶妙なブラッシュワークと絡み合ってのっそりと進んでいく様は何度聞いても身震いします。
深い静寂を感じさせる音場をつくる録音も素晴らしく、バリー・ハリスの辿り着いた音楽的頂点がここにあります。





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テナー2管 新旧聴き比べ

2014年03月02日 | Jazz LP (Europe)
テナー2管による録音には、バトルを楽しむことを目的にしたものと、ポリフォニーを楽しむことを目的にしたものの2種類があります。
バトルものは初めて聴く時は、おーなるほど、と楽しめますが、そう何度も聴く気にはなれないというのが実情で、そもそもレコードという形で
残しておく必要があるのかと疑問に思うことがあります。 一方、後者のものはそれなりにグループとしての志向性があるので、うまくいけば
永く聴き続けられるものが出てくるように思います。

後者のタイプで、最近とてもいいCDに出会いました。


Seamus Blake , Chris Cheek / Reeds Ramble ( Criss Cross Criss 1364 CD )

現代の録音に通じた方にはよく知られたこの2人を私は初めて聴きましたが、とても上手い演奏をするのでとにかく感心します。 音鳴りもよく、
グループとしての調和を優先しながらも自分のパートではやりたいことをしっかりやる、という内容が素晴らしい。 

1曲目が楽曲としてとてもいい曲で、ドラムスのブラッシュワークが素晴らしく、気持ちよくこのCDの世界に入っていけます。
そして、特筆すべきはこの Jochen Rueckert というドラムスの演奏の上手さ。 6曲目の "Til I Die" でのドラミングの壮絶さには言葉を失います。
これは素晴らしいCDでした。

Criss Crossというレーベルはジャケットデザインが共通で1つ1つの識別が難しく、アルバムの個性や内容が反映されないのでジャケ買いも
できなかったりで、どれを買えばいいのかよくわからないのが難点。 だから、一般リスナーのレビューがもっと発達すればいいのにと思います。
内容のクオリティーは総じて高く現代のブルーノートと呼ぶ人もいるくらいなのに、もったいないなあと思います。



過去に目を転じると、一番有名なのはアル&ズートだろうと思いますが、彼らの良さはどうもレコードではうまく伝わってこないように思います。
理由はよくわかりませんが、少なくともずっと手元に置いて聴こうというものが私には見当たりません。 でも、きっと実際のライヴは良かった
んだろうと思います。 いいレーベルを見つけられるかどうかはミュージシャンにとっては重要なことです。

次点は、この人たちでしょうか。



Tubby Hayes And "The Jazz Couriers" Featuring Ronnie Scott ( Tempo TAP 15 )


この名義での正規発売は12インチ4枚くらいだったような気がしますが(もっとあるかもしれません)、そのうちの3枚が手元にあって、
少なくともこの3枚については演っている曲が違うというだけで、演奏自体はどれも同じです。 テナーの音は2人ともよく似ていますが、
タビー・ヘイズのほうが少しエモーショナルなので聴き分けはできます。 テクニックはしっかりしていてアレンジにも隙がなくどれも立派な
演奏なので、初めて聴くと音圧の高いカッティングのせいもあって圧倒されますが、聴き慣れるとスイング感のないタテノリな演奏に退屈になります。



The Jazz Couriers Featuring Ronnie Scott and Tubby Hayes / The Last Word ( Tempo TAP 26 )


こちらは全曲スタンダードで固められているので、他のアルバムより平易でポップな印象です。 それだけ曲想に忠実なアレンジが出来ていて、
それを忠実に守っているということですが、常に何かが足りない感じが拭えません。 アレンジ偏重の当時の英国ジャズの残り香がやはりあって、
そこから1歩外へ踏み出せてはいますが、もう1歩進めて欲しかったです。



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