廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

称賛の理由

2017年04月30日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Buddy Rich / Big Swing Face  ( 米 Pacific Jazz PJ-10117 )


何と言う切れ味の良さ、ドライヴ感。 シャープで一糸乱れない管楽器群はケニー・クラークとフランシー・ボランのビッグバンドそっくりで、少し翳りが
あるところなんかもよく似ている。 ただ勢いよくて迫力があるというだけではなく、憂いのある表情も併せ持っていて、深みのある音楽であることが
すぐにわかる。 だからこそ、多くの称賛を集めたのだろう。 イェーイ、ノリノリだぜー、というようなアタマの弱いアホな話ではない。

バディー・リッチのこのバンドでの鬼教官ぶりは有名だけど、これだけ大勢の人を自分の思うように統率するにはそうせざるを得なかったんだろう。
TVで中学・高校の軽音楽部の奮闘物語なんかをよくやっているけど、そのノリはどう見ても体育会系のそれだし、汗と涙の根性物語になっている。
経験者によるとそれは一種異様な世界らしいけど、それでもそういうものに支えられていたのであろうことは容易に想像できる。

スイング・ジャズを大胆に発展させたモダン・ビッグ・バンドの音楽にはポピュラー音楽の要素がかなりたくさん取り込まれているので、実際はかなり汎用的な
内容で聴きやすい。 スイング・ジャズは見かけは単純で陽気な音楽に見えるけど、実はかなり純度の高いジャズ・ミュージックで専門性も高く、聴く人を
選ぶようなところがあるけど、モダン・ビッグ・バンドはそういうスイング・ジャズが持っていたある種の排他性みたいなものを取っ払ったわかりやすい音楽だ。
だから、もっと広く聴かれてしかるべきだと思う。 更にポピュラリティーだけではなく、楽器の数が多い分、複雑な味を愉しめる高級さもあるのだ。

このアルバムはライヴ演奏ならではの生き生きとした表情が素晴らしいけど、それ以上に収録された曲にいい曲が含まれているのが最大の魅力。
何と言っても、ボブ・フローレンスの "Willowcrest" に止めを刺すけど、リッチの娘が歌う "The Beat Goes On" もキャンディー・ポップを本格的な
ジャズに仕立てあげていて、1度聴くと忘れられない。 愉しいエンターテイメント性と極めて高度な音楽性が同居する画期的な仕上がりになっている。


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新しいヴィブラフォンの響き

2017年04月29日 | Jazz LP (RCA)

Gary Burton / Something's Coming!  ( 米 RCA LPM-2880 )


ジム・ホール、チャック・イスラエル、ラリー・バンカーというエヴァンス一派がバックアップを務めるゲイリー・バートンの若き日の知られざる傑作。
知的で、涼やかで、繊細で、新しい感覚で演奏されていて、これが素晴らしい。 私のゲイリー・バートン観を物の見事にひっくり返してくれた。
まるでポール・デスモンドのRCAの諸作のような、静かで落ち着いていて、ひんやりと冷たい雰囲気を放っている。

ジム・ホールがシングル・ノートでしっかりと弾いている。 彼の枯れた音がヴィブラフォンの冷やかでカラフルな音と対比されて、サウンド全体が安定している。
イスラエルとバンカーの演奏はまんまエヴァンス・トリオの雰囲気で、これが全体を落ち着いたトーンに仕上げている。

バートンは両手にマレットを2本ずつ持って演奏するので、ミルト・ジャクソンのような旋律主体ではなく、和音主体になる。 ピアノで言えば、ブロック・
コードでフレーズを弾く感じだけど、叩きつけたりすることはないので和音は濁らずとても澄んでいて、ジャケット・デザインの印象通りの音楽になっている。

ジャズの世界はマイナー・レーベルが有難がられて、RCAのようなメジャー・レーベルのレコードは軽く見られるけれど、それは本来はおかしいことだ。
予算が潤沢で録音機材や環境も良く、制作ノウハウも豊富なメジャーレーベルが作る作品は高いクオリティーのものが多い。 特に、RCAはクラシックで
録音技術を鍛え上げたレーベルだから、そのサウンド品質は見事だと思う。

デビューの契約がRCAというのは選ばれた人だということを意味していて、その期待を裏切らない作品になっているのではないか。 こうなると、他の作品も
聴かなきゃな、と認識も新たに安レコ漁りに邁進する日々がまだまだ続くのである。


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北欧の街で鳴り響いていた音

2017年04月28日 | Jazz LP (Steeplechase)

Stan Getz feat. Niels-Henning Orsted Pedersen / Live At Montmartre  ( デンマーク SteepleChase SCS-1073/74 )


1977年、アメリカや日本でV.S.O.P.が盛り上がっていたその時、北欧でスタン・ゲッツはこういう演奏をしていた。 

スティープルチェイスとしては自国の天才ベーシストの名前を表に出してはみたものの、ジョアン・ブラッキーンのピアノの存在感の大きさに終始押され気味。
それでも、ペデルセンのベースの音はしっかりと録られていて、ゲッツのレコードの中では少し珍しいサウンドカラーとなっている。 この人、ソロはあまり
面白くないけれど、ウォーキング・ベースは最高にいい。 こんなに正確なピッチを刻める人は他にいない。

それにしても、ブラッキーンのピアノはよく目立つ。 抒情味のかけらもない一定のテンションで弾き切っていく。 そのせいか、この時期のゲッツの演奏も
いつになくハード・ドライヴィングだ。 まろやかさや幻想味は封印してる。 だから、音楽家ゲッツというよりはサックス奏者ゲッツの姿が浮かび上がる。

歌物のスタンダードを排して、ジャズメンのオリジナルを中心にプログラムを組む。 この時期、ショーターの曲をよく演奏していたようで、特にお気に入りは
"Lester Left Town" だった。 私もこの曲は大好きで、ついついこの曲をやっているサイドCばかり聴いてしまう。

デンマークを訪れるミューシャンは必ずと言っていいくらいジャズハウス・モンマルトルでライヴをやるけど、ここはおよそライヴ・レコーディングには向かない所で、
せっかくレコーディングしても残響感ゼロのオーディオ的快楽度の低い録音になる。 だから、音楽を雰囲気だけで聴くリスナーには不評を買うことが多い。
でも、このスタン・ゲッツ・カルテットの演奏の集中度の高さと質の高さの前ではそんな感想は出てこない。 楽器の音はクリアで曇りもないので、演奏の
素晴らしさがよくわかる、いい録音だと思う。 LP2枚組の作品だけど、あまりに充実した演奏だから尺の長さなんて全然感じないし、もっと聴きたいとさえ思う。

70年代、アメリカではジャズはすっかり廃れてしまっていたけれど、北欧デンマークの中心地でジャズはちゃんと生きていた。 それはまるで近い将来、
息を吹き返すのをじっと待っているような感じだったのかもしれない。 スタン・ゲッツのこの演奏はそれを教えてくれる。


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謎解きはおあずけにして

2017年04月24日 | Jazz LP (Columbia)

V.S.O.P. Quintet / The Quintet  ( 日本 CBS-SONY 40AP 798-9 )


どんな音楽であれ、理由もなく急に聴きたくなることってある。 だからDUに行くと、恒例のワン・コインで転がっていた。 あるといいな、があるのだ。
最後に聴いたのはいつだったかなと考えてみると、おそらくもう15年以上前のことになるかもしれない。

このバンドのアルバムの中では、このアメリカでのライヴが一番いいと思う。 演奏もまとまっているし、音質も良好だ。 今聴き返してみると、案外保守的な
音楽だったんだなと思う。 以前聴いていた頃は、もっと尖った音楽に聴こえた。 演奏しているメンバーたちの年齢を追い越してしまったせいかもしれない。

ジャズという音楽の形が崩壊して10年経って、誰もがジャズの復権を待ち望み、その機運が沸点に達していた時期に登場したということで爆発的に受けた、
というのがお決まりの解説だけど、マイルスの最後のアコースティック・バンドが再結成したからみんなが大喜びした、というのが実際のところだったんだろう。
気持ちはよくわかる。 

久し振りに聴くと、よくできた演奏にやっぱり感心するし、古臭さもないし、さすがにジャズの核心を掴んだ人たちだけにできる音楽だよな、と思うけれど、
何か物足りなさがあることも同時にひしひしと感じる。 このメンバーたちがブルーノートの4000番台に残した作品群に見られる、未だに解決できない
「大きな謎」のような不可解な要素がここにはない。 彼らは自分たちが提示した謎をあそこに置き去りにしたまま、マイルスの新しい音楽を作るのに
夢中になり、10年後にそれをなぞってみせる。 最初から、今回は謎解きをする気はないんだよ、ということだ。

それがわかっていながらも、こうやって無性に聴きたくなる音楽であることには変わりはないし、聴くと心奪われるものがある。 謎解きは別の機会に、
という大人の分別でもって愉しめばそれでいいんだろうな。



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モンクへの接近

2017年04月23日 | Jazz LP (Steeplechase)

Paul Bley / My Standard  ( デンマーク SteepleChase SCS-1214 )


セロニアス・モンクが80年代まで活動してスタンダード集を録音したら、きっとこんな感じの作品になったんじゃないか。 

ポール・ブレイの音楽の異化の仕方は明らかにモンクのやり方に近い。 だから、このピアノを聴いてエヴァンスの名前が出てくるのはよく理解できない。
ここに並んだタイトルを見た時に連想する演奏と、実際に流れてくる音楽のギャップは相当大きい。 私が長らくこのアルバムを聴いてこなかった理由は、
どうせ退屈なスタンダードものなんだろうという間違った先入観からだった。 でも、実際に聴いてみると全然違っていた。

モンクのような先天的な異化の感覚とは違い、ブレイのそれは長年の研鑽による後天的なものだろうけど、それでも音楽のことを深く考えることでこういう
演奏になっていくというのは私には自然なことに思える。 剽窃としての、ギミックとしての演奏とは質的に違うこらこそ、繰り返し聴こうと思えるのだろう。

そういう解釈の中で原メロディーの断片が現れると、その本来の美しさはより一層際立つ。 崩れたメロディーと整ったメロディーの対比が一定の速度の
中で絡み合う様子は妖しい。 「私のスタンダード」とは、「私の演奏のいつものやり方」という意味合いなのかもしれない。

ECMほどではないにせよ、このレーベルのデジタル録音はなかなか健闘している。 控えめな残響の中で楽器の音は輪郭が明確で、ベースの音が前に出てくる。
こちらのほうが機械を通さずに聴く生音に近いように思う。 そういう音場感が音楽の良さを大きく後押ししてくれている。

見かけに惑わされてはいけない、きちんと意味のあるピアノ音楽になっていると思う。


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私的ナンバーワンの愛聴盤

2017年04月16日 | Jazz LP (Columbia)

Art Farmer / The Time And The Place  ( 米 Columbia CL-2649 )


ようやくきれいな初版を見つけた。 これは私にとってはあの世に行く際に持っていく数枚の中の1枚。 特に傑作と大げさに騒ぐような内容ではないけど、
このライヴ演奏の中にたち込めているある種の雰囲気がどうしようもなく好きなのだ。 

アート・ファーマーのレコード群を注意深く見ていくと、実にいろんなことをやってきた人だったんだなあということがわかる。 ジャズ・トランペッターとして
(フリーを除く)ありとあらゆる形態の音楽に取り組んできたんじゃないだろうか。 しかも、それが自身の音楽的探究の軌跡として作品が流れるように
記録されているのではなく、順不同でいろんな形式のアルバムが発表されている。 ピアノレスのカルテットをやっていたかと思えば、急にオーケストラと
共演したり、欧州で録音したかと思えば、アメリカで2管ハード・バップをやったりする。 マイルスやゲッツのように、ディスコグラフィーが意識の流れとして
並んでいることはなく、既に音楽的遍歴や訓練は修了していて、至る所からどんな種類の仕事の声がかかってもすぐに対応できた、なんだかそんな感じがする。

このアルバムも前後の脈絡なく、唐突に登場している。 日常的に行っていたライヴのひとコマを切り取ったような、スナップショットのような1枚。
何の野心もなく、信頼できる仲間が集まって如何にもこの人らしいとても端正で、そしてライヴに相応しい適度な覇気をもって演奏をしている。
時代背景的にハード・バップを通過して少しポピュラー音楽に寄ったところがあるけれど、それが非常にうまく主流派ジャズに溶け込んでいて、何とも言えず
いい雰囲気を醸し出している。 観客の反応もすごく良くて、みんな大きな歓声を挙げながら拍手している。 まあ、最高なのだ。

普段はバラードとして演奏される "いそしぎ" はドラマチックな演出を施した男性的な表情になっていて、これがカッコいい。 また、通好みの佳曲である
"Make Someone Happy" や "On The Trail" もとても上手く演奏されていて、これらの曲の筆頭とも言える仕上がりになっている。 どの曲も最高だ。

ジミー・ヒースも、それまでのスタジオ録音での印象の残らない凡庸な演奏家、という印象を完全に覆す素晴らしい演奏をしていて、これがすごくいい。
シダー・ウォルトンもアドリブラインとは思えないくらいメロディアスなフレーズを連発していて、音楽的な完成度の最後の仕上げに大きく貢献している。
どの演奏陣も、最高にいい。

このレコードを聴くたびに、心の底から幸せな気分になれる。 演奏が終わり、レコード針がラン・アウトを走るたびに、ジャズは素晴らしいと感激する。


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ワン・コインのレコードたち

2017年04月15日 | Jazz LP (安レコ)


今週拾った安レコたち。 エヴァンス以外はどれもワン・コイン。 

最近は国内盤の良さを再認識している。 特に East Wind は内容が SteepleChase あたりと近い雰囲気があり、もっと知りたいと思うようになった。
当時は人気があったらしく、結構版を重ねてプレスされていて、この中の初版規格のものはレコードの造りも丁寧で、音質もとてもいい。

このあたりは元々CDで聴いていた作品で、家聴き用にレコードに切り替えるために拾っている。 その際CDは処分するから、実質的な支出はほぼゼロだ。
レコードの値段が下がったお陰で、こういうことができるようになったわけだ。 DUに行くと、こういう安レコの在庫が唸るほど置いてある。 




Art Farmer / Yesterday's Thoughts  ( 日本 East Wind EW-8025 )

全編フリューゲルホーンで通しているけど、この音色の美しさはどうだろう。 適度に残響が効いた音場感も素晴らしい。

甘ったるいところがなく、整理された抒情感が硬派な雰囲気すら醸し出している。 シダー・ウォルトンも熱が入った演奏をしている。 これが日本
オリジナルということが誇らしい。 日本はファーマーを丁寧に処遇したのがよかった。 いいレコードがたくさん残っていて、これはその代表作の1つ。

"Yesterday's Thoughts" はベニー・ゴルソンが書いた隠れた名曲で、ファーマーが穏やかな表情で吹き切った名演。 
このアルバムは、本当に素晴らしい。




Hank Jones / Hanky Panky  ( 日本 East Wind EW-8021 )

クラウス・オガーマンの名曲 "Favors" をここでもやっている。 素晴らしい演奏だと思う。 いつもの鍵盤の上に指を置いていくような弾き方ではなく、
かなりしっかりとアドリブをとった演奏になっているけれど、そこはこの人らしく上品で無駄がないラインで、すべてのピアニストのお手本になるような
ピアノと言えるのではないか。 地味ながらもいい選曲で、聴いていて飽きるということがない。




Gil Evans / Live At The Public Theater (New York 1980)  ( 独 Blackhawk BKH 525 )

この時期のギル・エヴァンスは自己のオーケストラからアンサンブルを排除することで、それまでのビッグ・バンドの既成概念を覆した。 メンバーたちの
スポンティニアスな飛翔を誘発するために大きくスペースを拡げて、自由に遊ばせる。 ビッグ・バンドを音数少ないスモール・コンボのように演奏させた。
アーサー・ブライスのアルトが悲しげに鳴る "Alyrio" が素晴らしい。

オリジナルは日本のトリオ盤だけど、これは後発のドイツ・ブラックホーク盤。 トリオ盤は聴いたことがないけど、この独盤はやたらと音がいい。




Bill Evans / Eloquence  ( 米 Fantasy F-9618 )

エディ・ゴメスとのデュオが半分、エヴァンスのソロが半分、という未発表曲集。 国内盤は違うデザインに差し替えられて(当然だ、これじゃ売れん)、
スイング・ジャーナル誌のゴールド・ディスクになっている。

ここに収められた演奏は、他の未発表集に比べてエヴァンスのピアノの出来がいい。 きっと発売当時は歓迎されたんだろうと思う。 エヴァンス・ファンが
ブートレグを追いかける気持ちがよくわかる。 演奏途中でエレピに切り替えたり、ライヴ演奏があったり、とごった煮な感じだけど、エヴァンスの
圧倒的なピアニズムという一本の横糸が通っているので、不思議と全体的には統一感があるのだ。 これは正規作品にも勝る名盤だと思う。


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ブルーノートを卒業した頃に

2017年04月09日 | Jazz LP (United Artists)

Curtis Fuller / Sliding Easy  ( 米 United Artist UAL 4041 )


裏ブルーノート、と言ってもいいこういうレコードは表側が浴びる脚光が強すぎて、ここまで光が届くことはまったくない。 カーティス・フラーがリーダーで
あること、リー・モーガンがいること、3管の憂いに満ちた分厚いハーモニーでコーティングされていること、などのすべての要素がブルーノートのムードに
包まれているにもかかわらす。

ゴルソン・ハーモニーはハード・バップの中で最も優美で洗練された様式の1つだろうと思う。 これを聴くと、例えばウェストコースト・ジャズのアンサンブルが
如何に無味乾燥でつまらないかがよくわかるし、たった3本の管楽器でエリントン楽団のハーモニーを聴いた時に感じるのと同じような深い充実感を得られる
のがとにかく不思議で仕方がない。 そして、このハーモニーのキーになっているのがカーティス・フラーの滲んだような音色で、これが無いとゴルソン・
ハーモニーは実は成立しない。 

それは例えば、同レーベルの "& The Philadelphians" を聴けばよくわかることで、こちらはトロンボーンがいない2管なので、旋律の重ね方は似ているのに
ゴルソン・ハーモニーの妖艶さがなく、それでいてハーモニーを重視するような演奏の建付けをしているので、いくら「木曜日のテーマ」が名曲だとはいえ、
音楽的には物足りない内容になっている。 

更に付け加えるとトランペットはモーガンでもファーマーでもさほどハーモニーには影響がなく、これも不思議なのだ。 "Blues-ette" も "Gone With Golson"
もトランペットはいないのに、見事なまでにゴルソン・ハーモニーになっている。 どうやら、ゴルソン・ハーモニーとはカーティス・フラーのためのハーモニー
なのだと言い切ってしまっても間違っていないのかもしれない。

そういうハーモニーに包まれながら、楽曲は進んでいく。 1曲目の "Bit Of Heaven" ではゴルソンのテナーがまるでスタン・ゲッツかと思うような
くすんだような音色となめらかでおおらかなフレーズで驚かされる。 "I Wonder Where Our Love Has Gone" ではフラーの誰かに語りかけるような
吹き方に癒される。 全体的にゴルソンの演奏がとてもいい。

ハード・バップがビ・バップを洗練させたものとして定義されるのなら、これはその完成形の1つと言っていい。 内容だけで言ったら、3大レーベルの比ではない。
音圧の高い分厚く骨太なモノラルサウンドで鳴るのもハード・バップには似つかわしい。 ブルーノートばかり有難がるのはそろそろ止めたらどうだろう。


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アルトの巨匠の傑作ライヴを安レコで

2017年04月08日 | Jazz LP (安レコ)


今週拾った安レコは、アルトの巨匠たちの傑作ライヴ。 趣味の良さと高い音楽性を兼ね備えた、大人のための音楽。
ジャズが好きな人が最後にたどり着くのは、きっとこのあたりだろうと思う。

そういうレコードたちを抱えて店を出て、ドトールで珈琲を飲みながら煙草を燻らせて、三千円でお釣りがくる。
疲れていたはずの週末なのに、家に向かう足取りはなぜか軽い。




The Paul Desmond Quartet / Live  ( 米 Horizon SP-850 )

エド・ビッカート、ドン・トンプソンらカナダのギタートリオをバックにトロントのバーボン・ストリートで行われたライヴをベースのドン・トンプソンが
録音した作品。 そのせいか、手作り感と親しみやすい音場感を持ったレコードだ。

デスモンドが作曲した "Wendy" が桜の花のようにほんのりと切ない。 こんな曲を書くんだからなあ。 デスモンド・トーンがどこまでも優しい。
エド・ビッカートのギターも全体のトーンをシックで穏やかに染めていて、上品なことこの上ない。 デスモンド・ファンの期待を裏切ることのない作品だ。




Phil Woods / Live From The Showboat  ( 米 RCA Victor BGL2-2202 )

フィル・ウッズ中期の最高傑作はこれだろう。 艶やかで輝くようなトーンで理知的に制御した演奏に終始している。 バックは無名のミュージシャンで
固めているにもかかわらずとても上手くて纏まりのいい演奏をしていて、ライヴにありがちな粗いところはまったくなく、スタジオ録音かと思うような
仕上がりになっている。

軽快に弾むような "A Sleepin' Bee" で始まるとワクワク感が一気に高まってくる。 ブラジリアン音楽のテイストが効いた曲も多く、しっとりと
丁寧に演奏されていて、2枚組の全編が素晴らしい。 こういう作品はジャズではちょっと珍しい。

音質の良さにもぜひ触れておかねばならない。 オーディオ的な快楽度が高く、音楽の素晴らしさをありのままに伝えてくれる。


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次へのステップの準備

2017年04月01日 | Jazz LP (Verve)

Stan Getz / The Stan Getz Quartet In Paris  ( 仏 Verve 711 109 )


ボサ・ノヴァに一区切りつけて、次にゲッツが取り組んだのがゲイリー・バートンとのピアノレス・カルテットだった。 カフェ・オー・ゴー・ゴーでのライヴ録音
(ということになっている)での共演がきっかけだったのだろうけど、当時のバートンはまだ無名のミュージシャンだった。 大スターだったゲッツが無名の
バートンが書いた曲を積極的に取り上げてこのグループで演奏している。 バートンのヴィブラフォンはそれまでのこの楽器奏者たちとは感覚が全く違うので、
ゲッツはそこに目を付けたんだろう。 こういうタレントスカウトの才能はマイルスとよく似ていると思う。

全体的にヴィブラフォンの幻想的なサウンドカラーが上手く効いている。 アストラット・ジルベルトの声質やこのバートンの透き通ったシリンダーなど、
この時期のゲッツはこういう他のジャズでは決して見られない独特のサウンドカラーに敏感にこだわっていたようだ。 それはロック・ミュージシャンが
シンセサイザーを積極的に取り入れて新しいサウンドを創ろうとした姿に重なる。 このあたりが一般のジャズ・ミュージシャンとは感性が違うところだ。
ただ、こだわったのはサウンドだけなく、演奏もこれまでのジャズをベースにしながらも新しい音楽を明らかに指向しており、決して難解にはならないけれど、
それまでのアメリカのジャズにはなかった独特の浮遊感を生み出している。 そして、それはサウンド・トリックによるものというよりは、少し抽象性を持ち込んだ
ことによるものなんだろう。 このあたりの匙加減は、今聴いても絶妙だと思う。 この音楽は次の "Sweet Rain" への布石となっているのは間違いない。
そういう意味では、このバンドでやった音楽はちょうどマイルスのジョージ・コールマンがいたころの音楽と似ていて、次の時代の新しい音楽への予備段階に
あったと言っていい。

冒頭の "When The World Was Young" からいきなり幻想の国に足を踏み入れたような感覚に襲われる。 とてもライヴ演奏とは思えない幕明けだ。
最後の "The Knight Rides Again" はフランスの観客にせっかくライヴを観に来たんだからとサービス精神で行ったアクロバティックなパフォーマンスに
なっていて、レコード鑑賞としてわざわざ聴く必要のない楽曲だけど、それでもフランスの観客が熱狂して喜んでいる様子がしっかりと記録されていて、
これはこれで微笑ましい。 そこに至るまではゲッツの内的な幻想の世界が延々と展開される内容で、私はこのアルバムがとても好きだ。

会場は大きなホールだったらしく、高い天井と大きな空間を想像させるホールトーンが丸ごと録音されていて、そういう雰囲気もとてもいい感じだと思う。
録音やプレスが欧州制作だったこともあり、音質の品質もとても良い。 このアルバムはアメリカでは発売されず、リリースは欧州諸国だけだった。 



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ズートの晩年の代表作

2017年04月01日 | jazz LP (Pablo)

Zoot Sims / If I'm Lucky  ( 西独 Pablo 2310 803 )


ジミー・ロウルズのトリオをバックにズートがワンホーンで濃密な深夜のジャズを展開する傑作。 晩年になっても衰えることのなかったみずみずしい感覚が
演奏の中に溢れている。 ジミー・ロウルズも単なる歌伴に堕することなく独創的なフレーズを紡ぎ、これが退屈な懐古趣味の演奏になるのを回避させている。

ズートのテナーの音からはくすんだ黄金の粉が吹き出すような淡く煙った空気感が漂い、テナーをテナーらしくする重く深い音の質感が見事に録られていて、
ワンホーンの極みが目の前に立ち現れる。 これを聴いて鳥肌が立たないのであれば、ジャズを聴くのは諦めたほうがいいかもしれない。

ミドルアップテンポの曲とバラードが交互に並んでいるが、ここで聴かれるバラードはまさしく夜の深い時間に流れるジャズ。 ワンホーン・テナーの最終目標が
ここにあるのではないだろうか。 ミドルアップテンポの曲も年齢に相応しい落ち着いた佇まいがあり、騒がしくない。 全体的に絶妙なバランス感だと思う。

電化ジャズにもフュージョンにも走らず、ひたすら自分のスタイルで演奏し続けた人の説得力には敵わない。 小手先でこういう演奏することが不可能なのは
明白で、その重みが何とも心地よい。

以前CDで聴いた時はスカスカな音でこの作品の良さはまったくわからなかったけど、こうしてレコードで聴くと再生される音場感はまるで別物で、このアルバムが
ズートの代表作の1つであることが理解できる。 発売はUS盤が先だが、この西独盤のモノづくりの完成度の高さには抗えない魅力がある。
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