

The Don Elliott Quintet ( 米 RCA Victor Records LJM 1007 )
器用貧乏の最右翼と言えば、ドン・エリオットである。トランペット、ヴィブラフォン、メロフォン、ボンゴ、ヴォーカルまでこなし、挙句の果てはリスがスキャットする
レコードまで存在するが、この手の人の常でこれといった決め手が見当たらない。器用にいろんなことをこなすが、結局のところ、広く浅くで終わっているように思う。
芸術として人の心を動かすには多かれ少なかれある種の「極み」が必要なんだろう。それがなければ、言い方は悪いかもしれいが、エンターテインメント留まりとなるのは
どうやら確かなようである。
長くレコード漁りをしているのでリーダー作に接する機会は多く、気が向いたら手に取って聴いてきたがピンとこないものが多かった。どうもこの人のやった音楽は少し
普通の感覚では理解しにくいタイプのものが多かったような印象で、永く繰り返し聴くかと言えばとてもそういう気にはなれないものが大半だったが、そんな中でこれは
まだマシかなというのがこのRCA盤だった。
モルト・ハーバートのベースが珍しいピアノトリオにジョー・ピューマが加わる上品なカルテットをバックにエリオットが穏やかにソロを取る内容で、これがなかなかいい。
お世辞にも傑作とか佳作ということではなく、せいぜいBGMに毛が生えたような感じではあるが、音楽が始まるとこれが何とも心地よい。トランペットのワンホーンで
臨む "Long Ago And Far Away" はチェット・ベイカーそっくりだったりして、後のリーダー作で見られるような変なクセのない、いい意味で力の抜けた白人のジャズが聴ける。
見開きの厚紙ジャケット、厚手のフラットディスクと丁寧な作りのレコードで、当時のモノづくりへの拘りを感じるところもいい。古き良き時代のレコードだ。