Bud Powell / Swingin' With Bud ( 米 RCA Records LPM-1507 )
レッド・ロドニーの演奏する "Shaw Nuff" を聴いていてすぐに思い出したのがこのパウエルの演奏で、私の中ではこの曲の基準はパウエルのこの
レコードになっている。もちろんパーカー&ガレスピーの演奏がマスターピースで、管楽器で演奏するのが正道だろうと思うけど、ピアノで弾く
この曲の良さには独特なものがあるのを証明している。ピアノ奏者が演奏している例は少ないようだけど、ビ・バップを作った面々の一人である
パウエルならではということなのだろう。
バド・パウエルはモダン・ジャズ・ピアノの演奏スタイルを作った人なのでその路線で語られることがほとんどだけど、私はそういう話にはあまり
興味がなくて、この人の音楽センスにシビれて心酔している。このレコードはたくさん残っているパウエルの記録の中でもそういう彼のセンス、
つまり作曲能力や素晴らしい楽曲を選ぶセンス、そして音楽の良さを大事にする演奏という点で筆頭に挙げられるものだと思っている。
彼は素晴らしい曲を書ける人で、ここでは名曲 "Oblivion" や "Midway" が収録されている。"Oblivion" はマーキュリー盤が初演であちらはソロ演奏
だけど、こちらはトリオでより豊かな雰囲気に仕上がっている。いくら演奏力が高くても、楽曲がつまらなければ聴いていても面白くない。
また、演奏する楽曲を選ぶセンスにも長けていて、このアルバムではジョージ・シアリングの "She" やトミー・フラナガンがムーズビル盤で冒頭に
置いた "In The Blue Of The Evening" 、ジョージ・デュヴィヴィエの "Another Dozen" のような名曲を選んでいる。マイルスやキース・ジャレットが
選曲力の良さで知られているけど、その元祖はパウエルだったのだと思う。これらの知られざる名曲があるあかげで、このアルバムは上質な香り
が濃厚に漂う仕上がりになっている。
そして、こういう優れた楽曲たちの原曲が持つ良さを最大限に生かすように旋律を大事にしながら驚異的なアドリブを混ぜて弾くところに
バド・パウエルのバド・パウエルたる所以がある。演奏力の凄さだけではなく、総合的に豊かな音楽を生み出す天才を感じるのだ。
そして、このジャケットの写真はバート・ゴールドブラットが撮影している。写真の構図としては平凡だが、なぜか心に残る写真ではないか。
そういういろんな面を持った素晴らしい1枚となっている。