廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

駄盤の典型

2023年08月06日 | Jazz LP (Jubilee)

Mike Cuozzo / With The Costa Burke Trio  ( 米 Jubilee Records LP 1027 )


サックスのワンホーンはジャズのフォーマットとしては最も理想的で名盤が生まれやすい形式だが、演奏者の力量がストレートに反映されるし、
音楽的な変化をつけるのが難しいことから、名盤と駄盤がクッキリと分かれる。

このアルバムは演奏者の力量の弱さがそのまま映し出された駄盤。マイク・コゾーはリーダー作を2枚残しただけで早々とこの世界からは退いて
いるが、これではそれも仕方ないと思わせる。アドリブラインは凡庸で冴えがなく、音色も個性がなく魅力的とは言えない。エディ・コスタが
ピアノ1本で通しているのはよかったが、精細に欠けて音楽全体がぼんやりとしている。すべてを通して似たようなテンポが続いて1本調子で
とにかく退屈極まりないのが残念だ。褒めたくても、褒めるところがどこにもない。

ただ、このレコードにはレコード道の蘊蓄の面で面白いところがあるから、それだけの理由で手元に残っている。
このレーベルは1946年にR&Bを主力に設立されたマイナー・レーベルで、ジャズは50年代中期にごく気まぐれ程度にしか録音していない。
マイク・コゾーのアルバムは1956年に録音され、この時はブロードウェイ1650に会社があった。この時にプレスされたレコードは青レーベルで、
黒盤でグルーヴガードの形状だった。ただ、おそらくはノベルティーとしてカラー・ワックス盤がごく少量だけプレスされていて、そちらは
フラットディスクなので違うプレス機で作られたようだ。手元にあるのはRED-WAXだが、BLUE-WAX盤もある。






その後、1958年に47番街西315へ会社が移転し、その頃にプレスされたのがこれらの黒レーベルやマルチ・カラーレーベルだ。黒とマルチでは
盤の材質が少し違うのでおそらく別の工場で製作されたのだと思うが、時期は同じ頃だっただろうと思う。デッド・ワックス部の刻印は青も黒も
マルチも手書きで "LP-1027-A, B" とだけ書かれていてすべて同じ。ただ、このレーベルの場合は初版よりもセカンドである黒やマルチのほうが
音がクッキリとして音がいいものが多く、このコゾー盤も例外ではない。正確に言うと、マルチ≧黒>青、の順で音がいい。初版が一番音がいいと
いうのは妄信で全てには当て嵌らず、レコードによっては最初のプレスの瑕疵を後で修正するケースがあって、これは製造業では当たり前のこと。
こういうことは自分の耳でいろいろ聴いてみて初めてわかることなので、噂に左右されてはいけない。



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ひんやりと冷たいカナダのジャズ

2023年07月02日 | Jazz LP (Jubilee)

Moe Koffman / The "Shefferd" Swings Again  ( 米 Jubilee JGM 1074 )


カナダのマルチ・リード奏者のモー・コフマンの最高傑作はおそらくこれ。ロクに相手にされない人で、そもそもレコードが出回らないから実態が
よくわからないけど、メインがフルートというせいもあるかもしれないが、それにしてもあんまりだと思う。これも確かワンコインだったと思う。

ピアノレスでエド・ビッカードを含むカナダ人リズムセクションをバックに、A面はフルート、B面はアルト、の各々ワン・ホーンで臨んでおり、
ゆったりとしたミドル・テンポ以下の演奏が圧倒的に素晴らしい。フルートの音色は太く奥行きがあって美しく落ち着いているし、アルトは
レニー・ハンブロのようになめらかで清らか。旋律はよく歌っていて陰影のつけ方もうまく、聴いていてうっとりとさせられる。

カナダのジャズにはアメリカのように常に変化を求めるような性急さは見られず、割とのんびりとしていたんじゃないだろうか。
そう思わせるようなゆったりと穏やかに流れていくような雰囲気があり、全体的に上質な音楽となっている。

ジュビリーのレコードはJLP規格で青レーベルがオリジナルと言われているが、私がこれまで聴いてきたタイトルはどれもJGM規格の
黒レーベルのほうが盤の材質が固くて重く、音もずっといい。だから、この黒レーベルのほうを狙って拾うようにしている。
このアルバムも音質は非常によく、ひんやりとした空気感の中で楽器がクリアに鳴っている。このレーベルの中では特に好きな1枚だ。


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不思議と惹かれる演奏

2021年01月05日 | Jazz LP (Jubilee)

Randy Weston / Piano A-la-mode  ( 米 Jubilee JGM 1060 )


ピアノ音楽を聴く楽しみは、何と言ってもこの楽器が本来持っている美しい音色に耳を澄ますことだったり、和音の調和を楽しむこと
だったり、紡ぎ出されるメロディーに酔うことだが、こういう楽しみ方のすべてを否定するのがランディー・ウェストンである。

モンクとの類似を挙げられることが多いけれど、私にはあまりこの2人が似ているという印象はない。根っこのところが違うような
気がする。モンクは伝統を重んじるリズムの人、この人は伝統的なものを嫌い、フレーズの断片をコラージュする人。
彼が書いた代表作 "Little Niles" は1度聴くと忘れられない後ろ髪を引かれるような不思議な印象を残すが、あの感覚である。

レコード・デビューしてまもない時期の演奏だが、不思議な余韻が残る、心に引っかかるアルバムだ。ピアノ・トリオの王道なんて
最初から相手にしておらず、自由なインスピレーションで思うがままにピアノを弾いていて、その屈託のなさが好印象を残す。
メロディーの美しさや調和のとれた和声の心地よさとは無縁なのに、この演奏にはある種の安らぎのようなものを感じるのだ。
不思議なレコードである。

このアルバムは青色の大レーベルが初版だが、なぜかこのセカンド・レーベルのほうが音がいい。だから、初版には手を出さず、
この黒色の小レーベルが出るのを待っていた。盤の形状がリヴァーサイド盤と似ているので、同じ工場でプレスされたのかもしれない。

この版で聴くペック・モリソンのベースの音色が素晴らしく、気が付くと彼の出す音色に耳をすまして聴いている。
ウッド・ベースの木が鳴っているのがよくわかるとてもいい音だ。ペック・モリソンの音色のことなんて、今まで考えたこともなかった。
コニー・ケイのシンバルも生々しい音で録られており、このサウンドはいろんなことを教えてくれる。

アルバムの最後に置かれた "Fe-Double-U Blues" が何とも言えないカッコいい雰囲気のブルースで、何度も聴き返したくなる。
ここにランディー・ウエストンの底力が込められているのだ。



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短信 ~ これ、なかなか聴かせる

2019年02月06日 | Jazz LP (Jubilee)

Herb Geller / Stax Of Sax  ( 米 Jubilee JLP 1094 )



ハーブ・ゲラーの作品の中でこのアルバムは軽く扱われる、というかほぼ無視されているような感じだ。

でも、これはなかなか聴かせるのだ。

アルトのワンホーンで爽やかに吹いていて、何だか気持ちのいい風を正面から受けているよう。

嫌味のない、素直な、シンプルで感じのいいジャズ。 おまけに、値段も安い。

こういうのが、いいレコードなんだと思う。


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暗黒時代だなんて、誰が言った?(4)

2018年09月22日 | Jazz LP (Jubilee)

Art Blakey and The Jazz Messengers with Sabu / Cu-Bop  ( 米 Jubilee JLP-1049 )


ジャッキー・マクリーンが離脱した穴を一時的に埋めたのは、ジョニー・グリフィンだった。 その時どういうやり取りがあったのかはわからないけれど、
おそらく最初から一時的な応援ということだったのではないだろうか。 そして、立派に大役を果たしている。 そういう背景を考えながらこのレコードを眺めると、
こちらの聴き方も感じ方も当然変わってくる。 

グリフィンもマクリーンと同様、自身の音楽観を曲にしたりアレンジにするタイプではなく、ひたすら演奏一筋の人だったから、そういう時になってようやく
ブレイキーは自身の音楽観を前面に出してくる。 例えば、こうやって秘密兵器であるルイス・"サブー"・マルティネスを連れてくるのである。

コンガやボンゴが入ると言っても、サブー・マルティネスの演奏は例えばルー・ドナルドソンのバックでチャカポコやっているようなあの感じではなく、
もっとシリアスで切れ味が全く違う。 普通のドラムセットでは出し切れないテイストを補完する役割を担っていて、リズムセクションの色彩をもっと何か
意味のあるものにしようとする。 その響きはもっと切実なものを孕んでいるし、もっと遠くまで響こうとする。 この音楽を聴いていると、サブー抜きでは
ちょっと考えられないよな、と思えてくる。 そのくらい、サブーの演奏にはこちらに響く何かがある。

独特の濃い空気感が漂う中、ハードマンとグリフィンの管楽器も存在感のある演奏をして、しっかりと爪痕を残す。 グリフィンのテナーはずっしりとした
重量感があり、音楽の表情がよりシリアスなものになっていく。 まったく物怖じせず、素晴らしい演奏を残している。 ハードマンのトランペットも
難しいフレーズを危なげなくこなしており、素晴らしいと思う。 誰1人落ちこぼれることなく、恰幅のいい大きな音楽が作られていく様は圧巻だ。
こんなに熱を帯びた演奏が刻まれたマイナーレーベルのレコードは珍しい。 これを聴いても、それでもまだ暗黒時代と言うのか、という感じである。 


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重厚なピアノトリオ

2018年08月14日 | Jazz LP (Jubilee)

Eddie Costa Vinnie Burke Trio  ( 米 Jubilee LP 1025 )


このアルバムのいいところはエディ・コスタがヴァイブをあまり演っていないところ。 この人のピアノは音が太くて聴き応えがあるけれど、ヴァイブは
これといって特徴もなく、悪くはないけれど面白味には欠ける。 余技としてヴァイブを演る人は他にもいるけれど、まあ大抵は面白くない。
ヴィニー・バークとの双頭バンドという名前の通り、ベースを前面に押し出しているところにありふれたピアノ・トリオにはしないという工夫が施されている。

"Get Happy" ではお得意の低音部の強い打鍵で長い旋律を弾いているが、これを聴いているとバド・パウエルの演奏を思い出す。 演奏が似ている訳では
ないけれど、音楽に強い勢いがあるところがパウエルを思い出させる。 クロード・ウィリアムソンを聴いてパウエルを感じることなんてまずないけれど、
コスタのピアノにはパウエルを感じる瞬間がある。

このレコードはなかなか音がいい。 ヴィニー・バークのベースの音が非常に生々しくて、アルバムを通して聴くとピアノよりも印象に残る。 この人は
軍産工場で働いている時に小指を切り落とす事故にあったそうだが、そういうハンデはまったく感じない。 コスタのピアノの音も分厚くて重量感があり、
全体的に重厚なピアノトリオのサウンドになっている。 マイナーレーベルの白人のピアノトリオだからな、と特に期待もせずに聴き始めたのだが、
チャラチャラと軽い演奏ではなく、かなり腹の底に響く音楽だった。

ジュビリーというレーベルは色々と紛らわしくて、間を置かずしてJLP規格とJGM規格がプレスされているし、レーベルも複数種類あって、アルバムによっては
初版のJLP規格よりもJGM規格の方が音が良かったりして、なんだかよくわからない。 かなり格下のマイナーレーベルの割にはいいアルバムが残っていて、
ビル・エヴァンスの演奏が聴ける盤もあったりして、無視することはできないレーベルではある。


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東西ミックスの味

2016年09月04日 | Jazz LP (Jubilee)

Herb Geller / Fire In The West  ( 米 Jubilee JLP 1044 )


苦手な西海岸モノだが、ハーブ・ゲラーはあまりちゃんと聴いたことがなかったし、安値で転がっていたのでダメもとで聴いてみることに。
ケニー・ドーハム、ハロルド・ランドを加えたセクステットで、ルー・レヴィー、レイ・ブラウン、ローレンス・マラブルという珍しい顔合わせになっている。

予想通り、アレンジが施された軽快でコンパクトな演奏だが、アレンジ自体はさほどガチガチではなく、各人のアドリブパートではそれぞれがしっかりと
演奏しているので、思ったよりも聴き応えがあった。 ベニー・カーターがアイドルだったというだけあって、ハーブ・ゲラーのアルトは太い音でなめらかに
流れていく。 直感や閃きに頼るタイプではなく、ある程度のシナリオを前提にしたようなフレーズになっている。

自身のリーダー作なんだからもっと前に出てしっかりと吹けばいいのに、そうはなっていない。 とにかく、ハロルド・ランドの硬質で重心の低いテナーと
ルー・レヴィーの見事なソロばかりが印象に強く残る。 これじゃ一体誰がリーダーなのかよくわからない。 まあ、こうやってソロを出すまでにいろんな
ビッグバンドで仕事をしてきた人なので、公平にソロを取れるアレンジをするのが本人には当たり前だったのかもしれない。

このアルバムを作るにあたり、当初はドラムはフランク・バトラーがやる予定だった。 ところがリハーサルをやる約束の時間になってもバトラーは現れない。
せっかく招いたドーハムの手前もあり、急遽マラブルをスタジオに呼んでリハーサルを行い、本番もバトラーはクビにしてマラブルでやることになった。
それを知ったバトラーは怒り、レコーディングの2か月後のある日、ゲラーが自宅に帰ると窓ガラスがこじ開けられてTVやシャツや現金が無くなっていた。
ちょうどその頃マイルスのバンドがLAに来ていて、フィリー・ジョーがゲラーの家にやって来て「フランク・バトラーがお前ん家のTVを持ってるぞ」と
教えてくれた。 そして、しばらくしてバトラーは窃盗の常習者として逮捕・投獄された。 このアルバムにはそういう裏話がある。

ジュビリーは東海岸のレーベルだから、このレコードも西海岸特有の乾いたサウンドではなく、東海岸のレーベルらしい腰回りの太い音がする。
そのせいもあって、音楽の建付けは西海岸のジャズなのにも関わらず、聴いていてそういう感じがあまりしないミスマッチ感がちょっと面白い。
レーベルカラーというのは不思議なものだ、と思いつつも、そういうものを凌駕するほどの個性や力はなかったんだなと切ない気持ちにもさせられる。

愛妻ロレイン・ゲラーが30歳の若さで肺水腫で亡くなり、すっかり気落ちした彼はスタン・ゲッツの助言などもあり、渡欧してドイツに移住してNDRオケなど
地元のビッグバンドに席を得て、アメリカには戻らなかった。 渡欧する直前、バードランドでブッカー・リトル、スコット・ラ・ファロらと演奏する話があったが、
落ち込んでいたこともあってそれを蹴ってしまった、あの時東海岸に行って彼らとバードランドに出ていれば自分はジャズの世界でもっと有名になっていたかも
しれない、と晩年に語っているけど、このアルバムを聴いた限りでは「さあ、それはどうかなあ?」というのが正直なところかもしれない。


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