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廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジョー・ゴードンに見出されたアルト

2024年03月17日 | Jazz LP (Contemporary)

Jimmy Woods / Awakening  ( 米 Contemporary Records M 3605 )


ジョー・ゴードンは最後のリーダー作にジミー・ウッズというアルト奏者を呼んだが、おそらくはこの時の演奏が注目されたのだろう、2か月後に
ほぼ同一のメンバーによる録音と別のメンバーによる録音が行われて1枚のアルバムが制作された。これがウッズの初リーダー作になる。
ジョー・ゴードンとの演奏は今度はジミー・ウッズ側から見た音楽という切り口になっていて、ジョー・ゴードンはサポートに回っている。

こちらもゴードンに倣ったかのようにウッズ自作のオリジナルが大半を占めており、意欲的な内容で聴き応えがある。楽曲はゴードンと同様に
ハード・バップからは脱した新しい感覚の音楽になっているが、ウッズ自身のアルトが同時期に出てきたドルフィーに少し似た演奏をしており、
ゴードンのアルバムよりも半歩先を行くような印象を覚える。

61年のゴードン他との録音では曲数が足りなかったのか翌年にワンホーンで追加録音をしており、ゲイリー・ピーコックが参加している。
こちらの演奏は先の録音のものとは少し雰囲気が違っており、しっとりとした抒情的な表情を見せている。そのせいでアルバムとしての統一感には
やや欠けるけど、こちらの演奏も見事な出来である。これだけで1枚作ってもらいたかった。

ジミー・ウッズもこの後もう1枚のリーダー作を作って、その後は途絶えてしまっている。レコード・デビューが遅かったのがまずかったのだろう、
60年代も半ばになるとこういう従来の主流的ジャズは急速に市場から締め出されるようになる。ちょうどその時期だった。どんなに優れた音楽が
出来ても、それは時代のニーズには合わないと見做されてレコードが作られることはなくなっていった。彼のこの後の足跡はよくわからない。
だからこうして辛うじて残されたレコードをコツコツと聴くしかないのだ。



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あるトランペッターの進化(3)

2024年03月13日 | Jazz LP (Contemporary)

Joe Gordon / Lookin' Good  ( 米 Contemporary Records M 3597 )


ジョー・ゴードンはシェリー・マンのバンドを経て1961年に2枚目のリーダー作を作るが、これが音楽的に見事な進化を遂げた傑作になっている。
西海岸での録音だったのでコンテンポラリーが受け皿になっているが、このレーベルのカラーには馴染まない東海岸的なポスト・ハードバップで、
この音楽的変遷はまるでマイルスのそれを思わせる。ここで聴かれる音楽はまるで現代のメインストリーマーたちがやっているような超モダンな
感覚で、彼のエマーシー録音からの7年間はまるでジャズが辿った70年間に相当するかのような錯覚を覚える。

このアルバムはジャケットにも記載があるようにスタンダードは排した全曲ジョー・ゴードンのオリジナルで、彼がトランペット奏者ではなく
音楽家であることを指向していたことがわかる。単にその時代のジャズを演奏しましたということではなく、自分の中に澱のように溜まっていた
音楽的な想いを自身でメロディー化して演奏したところにその他大勢のアルバムとは一線を画す価値がある。どの曲もわかりやすいメロディーで
構成されていて、この時期に台頭していたニュー・ジャズの影響もまったくない。憂いに満ちた翳りのある楽曲も多数あり素晴らしい出来だ。

相方にはエリック・ドルフィーのエピゴーネンのようなジミー・ウッズを選んでいるところが面白いが、このアルバムは全体の雰囲気がゴードンの
曲想で統一されているので、ウッズの個性もうまくその中で中和されていて適度なアクセントとして機能している。全体の演奏にはキレがあり、
ダレる瞬間もまったくなく、正対してじっくり聴くとそのクォリティーの高さには感銘を受ける。

短い期間の中でこれほど正統的に進化を遂げた人はなかなか珍しいのではないか。真面目に音楽に取り組んだことがきちんと形に残るところが
素晴らしいし、何より音楽が変に捻じれておらず、スジがいいところがよかった。彼の音楽や演奏はこの2か月後の別の録音で途絶えてしまうのが
何とも残念でならない。



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あるトランペッターの進化(2)

2024年03月09日 | Jazz LP (Contemporary)

Shelly Mann & His Men / At The Blck Hawk Vol.1  ( 米 Contemporary Records M 3577 )


ジョー・ゴードンのようなマイナーなアーティストになるとその詳細な足跡はわからないが、どうやら1958年に西海岸へ移ったらしい。
どういう理由で西海岸へ行くことになったのかもよくわからないけど、西海岸には彼のようなブラウニー直系のトランペッターがいなかった
からか、すぐに仕事に就くこともできたようで、亡くなる1963年まで彼の地で活動した。

そして1959年頃からはシェリー・マンのバンドの常設メンバーとして参加するようになり、このバンドのカラーを変えることに成功している。
それまでのシェリー・マンのバンドと言えば退屈な編曲重視のアンサンブルものが多く、各メンバーの実力が活かされることのない駄作を
量産していたが、ジョー・ゴードンが加わってからのこのバンドはまるで別のグループへと変貌を遂げた。非常に洗練されたハード・バップの
一流バンドへと。

その最も理想的な成果がこの4枚のアルバムに収められている。コンテンポラリーからのリリースなので一連のシェリー・マンのレコードの中に
埋もれがちだが、これは西海岸で最も優れたジャズ・グループによるスイートで心奪われる名作である。ライヴにも関わらず、まるでスタジオで
演奏されているかのような端正で抑制の効いた演奏が素晴らしい。

まず何と言っても、リッチー・カミューカのテナーに聴き惚れることになる。この人はその実力の割に作品に恵まれず、一般的に代表作と言われる
モード盤もこの人の本質を捉えているとはとても言えず、この4枚のライヴに比べると退屈極まりない駄盤に思えてくる。それに比べてここでの
ふくよかで濃厚な音色によってこれ以上なくなめらかに旋律が歌われる様は筆舌に尽くしがたい。他のレコードで聴く演奏とはまるで別人のよう。

デビュー盤ではブラウニーの影響下にあるような演奏をしていたゴードンは、ここでは各所でデリケートな演奏を聴かせる。"Summertime" や
"Whisper Not" ではマイルスばりのミュートで魅了するし、アップテンポの曲でも伸びやかなトーンとリズムを外すことのないタイム感で
アドリブフレーズを奏でる。どの局面でも音数が適切でここまで豊かな表情で安定した演奏をするトランペットはちょっと珍しいのではないか。
彼の演奏の雰囲気が著しく好ましい方向へと進化しているのが何とも嬉しい。

通常であれば1枚のアルバムとしてまとめるであろうところを4分冊でリリースしているところからも、レーベル側が演奏を切り落とすところが
ないと判断したことが伺える。現にこの演奏はちょっと、というところがどこにもない。アルバム4枚に分けてリリースするというのは異例の扱い
だが、冗長さを感じることはなく、この演奏であればもっと聴きたいという欲求を満たしてくれる。

東海岸のビ・バップに対抗するために始まった西海岸の白人ジャズが初期の形式から脱出しようとした時期にジョー・ゴードンとの邂逅に恵まれ、
世の中の状況に敏感だったシェリー・マンが彼を軸に新しいバンドを作ったのだろう。ジョー・ゴードンにはそうさせる力があったということ
だったのではないかと思う。













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ジャケット・デザインに惚れて聴く

2023年12月03日 | Jazz LP (Contemporary)

Hampton Hawes / Vol.2, The Trio  ( 米 Contemporary C 3515 )


ジャズ界屈指のジャケット・デザイン。最も好きなジャケットの1つだ。麻薬中毒者らしく痩せぎすで退廃的な姿がモノクロの風景の中に
浮かび上がる。モノトーンのレタリングが背景にうまく溶け込み決まっている。

1955~56年にかけて録音された複数の演奏が3分冊にまとめられたよく知られた内容だが、選曲的にもこの第2集が一番いい。
"あなたと夜と音楽と" で始まるというのが何ともいい。この人は自身のピアニズムで聴かせる人ではないので、選曲が重要になる。
自分の好きな楽曲が入っているアルバムを選ぶといいのだろう。

ロイ・デュナンの録音だが平均的なモノラルサウンドで際立った特徴は見られないが、レッド・ミッチェルのベース音がよく効いていて
トリオとしての纏まりや躍動感が優れている。よく出来たピアノ・トリオの作品になっている。

60年代以降になると独特の深みを見せるようになるけれど、この時期はまだ若さが勝った演奏でこれはこれで悪くない。
ピアノの腕1本で勝負するんだという気概が強く伝わってきて、その潔さが気持ちいいアルバムである。


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"My Fair Lady" を巡るあれやこれや

2023年08月15日 | Jazz LP (Contemporary)

Shelly Manne & His Friends / Modern Jazz Performances Of Songs From MY FAIR LADY  ( 米 Stereo Records S 7002 )


ジャズも40年間聴いていると日々聴くのは地味なレコードばかりになっていて、定番のアルバムを聴くことはもうほとんどない。
そういうのは耳タコになっていて初めの頃に感じた感動はもはや微塵も感じないからだけど、偶には溝の掃除もしなきゃ、と
本来の目的とは全然違う動機で針を落とす程度だ。

このアルバムも1年生の頃に夢中になって聴いたレコードで、シェリー・マンのドラムの凄さに腰が抜けたものだけど、今聴いても
これは凄いよなと感心する。冒頭の "時間通りに教会へ!" の慌ただしい曲想を上手く表現した風圧を感じるドラミングからして圧巻だが、
その後も全編を通して凄まじい。その風圧で音楽が飛ばされてしまわないようにしっかりと地べたへ繋ぎ止めるアンカーとしての
ヴィネガーの重量級のベースも、そしてクラシカルな素養を敢えて前面に押し出したプレヴィンの傑出したピアノも素晴らしく、
コンテンポラリーの中ではダントツで傑出した作品となっている。

それらの素晴らしい演奏を100%堪能するにはこの Stereo Records盤が最適だ。すっかり音がいいという評価が定着した Stereo Records盤だが、
私はこの音場感があまり好きではなくて、アート・ペッパーもロリンズも聴いてがっかりして早々に処分したクチなんだけど、このアルバムは
このステレオ盤のほうがいい。







基本的にコンテンポラリーはモノラルのほうが好きなのでモノラル盤も手元にある。このモノラルは左側のジャケットがファーストだと
されているが、私はそれは違うと思っている。なぜなら、左右どちらのジャケットも1956年に刷られているからだ。

おそらく試験的に2種類のデザインで刷られたが、左側のものは "My Fair Lady" の字体が小さく、見た目でこのアルバムがマイ・フェア・レディ
からのセレクトだということがわかりにくい。そこで左側はボツとなり、右側が正規版として残ったのだろうと思っている。
現にこのアルバムを見て、最初に目に飛び込んでくるのは中央にレタリングされた "MY FAIR LADY" という太い文字だ。
発売当時、ラジオを聴いて気に入った人びとにレコード屋の店頭でこのレコードを買ってもらうためには右側のほうがよかったのだろう。

そんな今となっては確かめようのないあれやこれやを考えながら聴くのも、古いレコードの愉しさである。



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時代からこぼれおちた翳りの美

2020年07月04日 | Jazz LP (Contemporary)

Phineas Newborn Jr. / Harlem Blues  ( 米 Contemporary S76634 )


エルヴィンが入っているのが珍しい。エルヴィンは共演者の演奏をよく聴いて、その人に1番合う演奏をする人だったそうだが、ここでも確かに
フィニアスのピアノをよく聴き、上手く彼を乗せるサポートをしているのがわかる。そのおかげで、音楽に躍動感がある。

フィニアスの演奏は初期の頃と比べるとすっかり様子が変わっている。多少食い気味で突っ走る若々しさや猛々しさは消え、ブロック・コードで
主題を処理したり、間を長く取ったリフを多用するなど、まるで別人のようなプレイになっている。フィニアスやオスカー・ピーターソンのような
技術力の高いピアニストはスタンダードのメロディーを崩す際に似たような傾向を見せるが、ここでのそれは以前よりもテンポを抑えた禁欲的な
崩し方をしていて、その抑制感がちょうどいい塩梅に着地しているように思う。

管楽器を入れた録音が少なく、ピアノトリオというフォーマットにこだわりを見せた人で、演奏の仕方には大きな変化があったが音楽の内容が
変化することはなかった。このアルバムも1969年2月にロサンジェルスのスタジオで録音されたもので、時期的にはジャズという音楽も大きく
様変わりしている頃で、そういう状況からは完全に逸脱している。少し引いてみると時代から大きく取り残されたような寂しさがあるけれど、
その翳りのようなものがなぜか私には愛おしく感じられる。リリース時もきっと大した話題にもならなかっただろうと思うけれど、私にはなぜか
惹かれるところがこのアルバムにはある。大丈夫、ちゃんと聴いているよ、と言いたくなる。


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自分だけの名盤を探す

2020年07月02日 | Jazz LP (Contemporary)

Phineas Newborn Jr. / The Newborn Touch  ( 米 Contemporary S7615 )


既に評価が確立した定番の名盤ばかり聴いていても、音楽は面白くない。それは他人の価値観であり、自分には何の関係もない。言ってしまえば、
ネットなんか見ているようではダメだ、ということだ。人間は見ると欲しくなる生き物で、ネットに載った音盤で自分が持っていないものだと、
つい欲しくなる。でも、そういう他人の後をついて回るような買い方をしていても、心はいつも満たされず、渇いたままだ。

フィニアス・ニューボーンJr. も定番の "Here Is Phineas" や "A World Of Piano" だけ聴いて済ませても、その良さはわからない。この人の場合は、
話題にならない他のアルバムの方がずっと味わい深い。そういうことはネットには書かれておらず、実際に聴いてみて初めてわかる。
だから、ネットなんか見てる暇があるなら、実際にレコード屋に行って、音盤を手に取って聴くほうがいいのである。

このアルバムは、ジャズ・ミュージシャンが作った秀逸なオリジナル曲だけを取り上げた、ある種のコンセプト・アルバムになっている。そんなことは
どこにも書かれてはいなけれど、これは明らかにそういう陽の当たらない優れた楽曲にスポットライトを当てようと意図されたものだということが、
実際にレコードのレーベル面に書かれた曲目を見て、聴いてみて初めてわかる。A面だとベニー・カーター、ラス・フリーマン、ハンプトン・ホーズ、
アート・ペッパー、オーネット・コールマン、というコンテンポラリー・レーベルに所縁の深い人たちが作った、実は名曲である楽曲を丁寧に選んだ
とても優れた内容だ。

ペッパーの "Diane" は有名だけど、この中ではフリーマンの "Double Play" やオーネットの "The Blessing" が素晴らしい。こういう曲を選んでいる
慧眼が素晴らしいし、フィニアスの音数を抑えた演奏が素晴らしい。代表作と言われる先の2作などはテクニックバリバリの覇気のあるプレイが
圧巻だけど、少し弾き過ぎで、ジャズのフィーリングに欠けるところがある。おそらくそういうところについて、周囲から色々と指摘されたのかも
しれない。60年代半ばを過ぎた頃になると、彼の演奏は変化し始める。ピアノを弾き切るというよりは、楽曲を歌わせるようになる。それから
程なくして心も破たんしていくことになるわけだけれど、コンテンポラリー時代の後期はしっとりとした演奏にペーソスが漂い、味わい深い。

代表作が本当に代表的なのかは疑ってかかる方がいい。自分の家のラックには「自分だけの名盤」を残したい。


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チック・コリアが吹かせた新しい風

2018年03月31日 | Jazz LP (Contemporary)

Joe Henderson / Relaxin' at Camarillo  ( 米 Contemporary 14006 )


チック・コリアの素晴らしいピアノが全編に渡って聴けるのが印象的だ。 コンテンポラリーの高品質な録音がチックのピアノの音を眩しく輝かせている。
こうやってテナーのワンホーンの中で聴くと、チックという人は本当に過去の巨匠たちからの影響を感じない人だ。 一体どうやってジャズピアノを
習得したんだろう、と不思議に思う。

このアルバムはゲッツの "Sweet Rain" に似ている。 窓が大きく解き放たれて部屋の空気を入れ替えたような感じがあり、そういうところが"Sweet Rain" に
似ているのだ。 その新鮮で汚れていない空気の中で、ヘンダーソンのテナーはよく鳴っている。 彼のプレイは以前のそれよりもずっと上手くなっている。
ヘンダーソンのテナーは旋律がはっきりしないところはベニー・ゴルソンと似ている。 ベニー・ゴルソンのテナーを嫌う人は多いけれど、ヘンダーソンは
唯一ゴルソンの系譜を継いでいる人だ。 ヘンダーソンのテナーは褒められて、ゴルソンのテナーは褒められないというのは私にはよくわからない。
ゴルソンは作曲家のイメージが強く、ヘンダーソンのように演奏家として見られることは少ないからなのかもしれない。

また、ドラムスにトニー・ウィリアムスとピーター・アースキンが参加していて、これが演奏全体を強力にグルーヴさせている。 トニーはいつものように
煽情的なシンバルワークで全体を煽るし、アースキンはスティーヴ・ガッドとよく似たドラムの叩き方をしていて、これがなかなか板についている。

このアルバムは1979年のロス・アンジェルス録音だが、ちょうどこの70年代はアメリカでも過去のバップ系は1度きれいに清算されて、新しい雰囲気を持った
ジャズが始まった時期。 それは世界を席巻したロックの影響も大きいし、60年代のフリージャズがバップを焼け野原にした後の必然でもあっただろうけど、
このアルバムはそうやって自浄的な新陳代謝として最初の新しい現代ジャズが始まっていた時期に作られた作品で、その当時の新鮮さを愛でることができる
絶好の内容だと思う。 演奏力の尋常ではないレベルの高さ、クリアな音場を提供する好録音、どれをとっても文句なく愉しめる。


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真っ当な名盤

2017年08月05日 | Jazz LP (Contemporary)

Art Pepper Meets The Rhythm Section  ( 米 Contemporary C 3532 )


ここ数か月間の記事を振り返ると、世間一般からは全く褒められることのないレコードばかりを愛でてきた。 今後もその姿勢は変わらないと思うけれど、
似た傾向が続くと自分でもさすがに飽きてくる。 その辺りのバランスを取るためにも、たまにはド定番にも手を出す必要に駆られてくる。

私が初めて買ったアート・ペッパーのレコードがこれだった。 もちろん中古の国内盤で、DU新宿店の地下1Fにジャズフロアがあった学生時代のことだ。
当時は復帰後に来日してライヴレコーディングしたビクター盤が新品として普通に売られていたけど、50年代のカタログはどれも廃盤になっていて、更に
今ほどオリジナルもたくさん流通していなかったから国内盤とはいえ手放す人も少なく、中古でも弾数はさほど多くはなかったように思うが、このタイトルに
限ってはよく見かけた。

初期アート・ペッパーが人気があるのはアルトが艶やかな音色で、その音楽が甘く口当たりがいいからだけど、そんな中でこれは4人が極めて高度な技術で
互角に張り合った最も演奏力の際立った力作。 それが入門したての初心者にもウケるような憂いのある洗練さをまとっているところに本当の凄さがある。

だから私も一聴してすぐにハマったわけだけど、その時も今も、A-1 "You'd Be~" の冒頭イントロのガーランドの右手のシングルノートとフィリー・ジョーの
殺気だったブラシワークにヤられてしまう。 私にとってこのレコードの1番のピークはこの開始早々のイントロであって、その後は "Imagination" が
終わったあたりから緩やかに興奮は醒めていく。

バラードも少なく、楽曲面での魅力は他の盤に比べるといささか見劣りがする(このレコードのB面が死ぬほど好きだという人はあまりいないだろう)にも
かかわらず、稀代の名盤となっているのはひとえに演奏力の凄さからに他ならない。 世の中には「これのどこが?」と言いたくなるような名盤がたくさんある
けれど、そういう意味ではこれは正真正銘の真っ当な名盤だ。

レコードの溝が擦り減るくらいに何度も聴いてきた演奏なので、もはや新鮮味などはどこにも残っていないけれど、この盤から出てくる「立った」演奏の凄さが
擦り減ることはこの先もないだろう。


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