廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

音質への工夫やこだわり

2015年06月28日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Chet Baker Sings  ( Brazil Hi-Fi Jazz 101 )


Pacific Jazz から出された "Chet Baker Sings" はこのレーベルとしてはよく売れたようで、World Pacificへ改名した後も同じジャケットデザインで
プレスされています。

ただ、Pacific Jazzレーベルのオリジナル盤であってもこのレコードはお世辞にもあまり音がいいとは言えず、そのことはレーベル側もどうやら自覚して
いたようで、ほどなくして疑似ステレオ盤が発売されます。 これが愛好家には評判が悪いようで、ジョー・パスのギターがオーヴァーダビングされて
いたり、1曲差し替えられていたり、左右のチャンネルに無理矢理楽器が片寄せされていたり、風呂場のような悪趣味なエコー処理が施されていたり、
ジャケットが酷いデザインへ変更になっていたり、と散々な言われようです。 やる気のないマニアの私はこの改悪ステレオ盤を聴いたことがないので
実際のところはどうなのかわからないのですが、意匠の素晴らしさでは他を大きく引き離していたこのレーベルもサウンド作りの面では弱点を抱えていた
のは間違いなさそうです。

初版のジャケットの裏面を見ると、ハイファイレコーディングであることやウェスタン・エレクトリック社の640AAというコンデンサーを使ってカスタマイズ
されたマイクをつかって録音されたことがわざわざ書かれているところから、レーベルとしては自信があった様子が伺えます。 私はオーディオ方面は
疎いので、ウェスタン・エレクトリックの名前くらいは知ってはいるものの、この機材がどのくらい優れたものなのかはよくわかりません。 
はあ、そうなんですか・・・、という感じです。

別に庇うわけではありませんが、音がよくないとは言っても、聴いていて不快に感じるようなことはありません。 Pacific Jazzレーベルのマスタリングは
チェットの声を一番前面に出して、伴奏の楽器群をわざと後退させるようにしているので、楽器音の分離が悪く聴こえるし音圧も当然低いので音がよくない
という印象になってしまうのでしょう。 ヴォーカル作品なのでこういう建付けにするのは当然と言えば当然で、意志のある音作りです。

ただ、このブラジル盤を聴いてみると、疑似ステレオなんかにするくらいだったらこういうやり方もあったんじゃないのかな、と思います。
こちらの音は原盤のような奥行き感の演出こそありませんが、チェットの声や各楽器の音が薄皮を1枚剥がしたような明瞭になっていて、各楽器の
音の分離もよく、さらに音が消えていく際の自然な残響もきちんと生きています。 

こちらもジャケット裏面にテクニカルデータに関するうんちくが書いてあり、Jorge Coutinho なるサウンドエンジニアがテレフンケンとアルテックの
コンデンサーを使っていることやらなんやらをポルトガル語で長々と書いてあって、オーディオへの無知に語学力の無さも加わって更に何のことやら
さっぱりわかりませんが、とにかく音質にはこだわってますよということが言いたいらしい。

でも、機材はもちろん大事なんでしょうが、マスタリングというのは本質的には人間がやる作業なんだから、エンジニアの音への見識や感性のほうが
遥かに大事なんじゃないんでしょうか。 World Pacific社もエンジニアを変えるなり、外部の著名なスタジオに委託するなり、もっと他にやり方が
あっただろうに、と思います。 評判のよくないステレオ盤も機会があれば聴いてみたいですが、縁がないのか、そちらはそちらでもしかしたら
稀少なのかよくわかりませんが、今のところ出会いがありません。



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能動 vs 受動

2015年06月27日 | Jazz CD
今週も少しですが、つまみました。





■ Sonny Murray / Sonny's Time Now  ( Jihad / DIW-355 )

サニー・マレイが1965年にニューヨークで自主制作として作った作品で、何と言っても目玉はアルバート・アイラーが参加していることです。
そのために、このアルバムはたくさんあるフリージャズの中でも別格扱いされることが多い。

ESPとの契約の関係で Sunny ではなく Sonny という綴りになっているし、アイラーも Albert ではなく Albbert という綴りで表記されています。
また、オリジナル・マスターはステレオ録音なのに、レコードが作られた際はミックスダウンしてモノラルとして発売されていますが、DIWはマスター
テープのままステレオとしてこのCDを作っています。 

アイラーの客演は珍しいのでそういう観点でどうしても聴いてしまいますが、やはり上手いサックスです。 この人は上手い。
アイラーはオーソドックスなフリースタイルとゴスペル調のスピリチュアルスタイルの2種類をアルバム毎に使い分けた人ですが、ここでは前者の形式で
吹いています。 ただ、それでも演奏は大らかでゆったりしているし、もう一方の管のドン・チェリーも奇音を発することなく普通のオープンホーンの
音なので、リード2人の音に不快感はない。 それよりも、誰かの"ウー"という低い唸り声がずーっと曲の間じゅう聴こえるのが不気味で、これが全体の
トーンを支配しています。 

サニー・マレイのドラムは所謂パルスビートでこれが革新的なことだったと言われる訳ですが、果たしてそうなんだろうかと疑問に思います。
リズムを作ることを拒否した時点で、ドラムという楽器はその存在意義を失ってしまいます。 じゃあ、その時ドラムは一体何をするのかというと、
何か音を出さなければいけない以上は選択肢は自ずと絞られてくるだろう。 スネアとシンバルを同時に鳴らし続けるこのやり方もルーツはきっと
ネイティヴアメリカンドラムなんだろうし、全く同時期にトニー・ウィリアムスも始めていますが、トニーの演奏には感動するのに、サニーの演奏には
特に感動しません。 大事なのはそういう形式上のことではなく、やはりクォリティーなんだと思います。 この人の演奏にそういう何か特別なものを
感じるかというと、そんなことはありません。

注意して聴くと確かに耳につくことはつくし、フリー以前の音楽では見られないものですが、でもそれはそれまでの音楽がそんなものを必要としなかったから
であって、サニー・マレイの場合はどちらかというとフリージャズからの要請にただ従っただけのことなんじゃないかという気がします。

だから、逆に主流派の中にそういうドラミングを持ち込んだトニーのほうが文字通り革新的だったし、そもそもリズムを作るためにこのやり方を選んだ
というのは、リズムを叩かないためにそれを選んだサニーとは正反対の発想だよな、と思うわけです。



■ Maria Schneider Orchestra / The Thompson Fields  ( artistShare AS0137 )

待望の新作です。 DUの週間売り上げチャートでは上位に入っていたようですが、なんだか不思議な気がします。

トンプソンフィールズというのはマリアの故郷であるミネソタにある広大な森林地帯の名前で、そこで彼女が感じたいろんなことをオリジナルの
楽曲として作品に仕上げたものを1枚のアルバムとして世に問うたものです。 

この人のこれまでの足跡を丹念に追ってきた人であればこの作品に違和感を感じることはないでしょうが、そうではない人にはいわゆるジャズっぽさが
まったくないこの内容にがっかりするんじゃないでしょうか。

豪華なブックレットの中には、草原に佇む彼女の姿や野鳥の挿絵、著名な森林学者の箴言などが載っていて、彼女の溢れる想いが詰まった作品である
ことがよくわかります。 そういう詩情豊かな音楽をこれまた豪華なビッグバンドを使って描き出していくのですが、各楽器の稼働率は低いので、
団員たちはジャズと演奏してるというよりはブルックナーの交響曲を演奏しているような気分だったのではないでしょうか。

この artistShare というレーベルはクラウドファンド型の投資レーベルで、ファンが投資することで作品の制作が始まり、投資した人への特典として、
その制作過程の様子など様々なプレミアム情報が提供されます。 だから、マリアはこのアルバムに収録されているいくつかの楽曲を資金集めのために
すでに2年前からコンサートで繰り返し演奏・お披露目していて、それに賛同し投資が集まったのでこの新作が出来上がっています。 
つまり、マリア・シュナイダーの次回作がどういう内容になるのかは、事前に簡単にわかるのです。

この作品、せわしない殺風景な東京の街の中で聴くのは相応しくない。
残念ながら今はその中にいるしかないのですが、いつの日か、もっといい環境の中でこの作品を愉しめるようになれたらいいなあ、
と夢見ながら聴いています。




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ロマンティックで、ほんのりとビター

2015年06月21日 | Jazz LP

Buddy De Franco / Takes You To The Stars  ( GNP 103 )


バディ・デ・フランコはノーグランにレコードがたくさん残されているので(そして、大抵は売れ残っている)、その気になればいくらでも聴くことは
できるけれど、そうなってくると何となく有難みがないような気がするし、いつでも聴けるからまた今度、となってますます手に取ってもらえなくなる
感じです。 でも、それはこの人がどうこうというのではなくて、単にクラリネットというリードが人気がないということです。

確かにどうしても古臭いイメージが付きまとうし、音量も小さくてうるさいバップ以降の音楽には向きません。 クラシックの下地がある欧州では
もともとハイドンの時代から先鋭的な現代音楽に至るまでクラリネットを普通に使ってきたのであまり気にせずこの楽器でジャズをやりますが、
アメリカではスイングやディキシーランドからは結局は抜け出せないままです。 そんな中でこの人はワンホーンでモダンジャズを率先してやって
なんとか風穴を開けようとした人で、その姿勢は静かながらもなかなかアグレッシブだったと思います。

この人のクラリネットの音はどこまでもまっすぐに伸びていくきれいな音で、それでいて木管の暖かみも常に感じられるところがいいと思います。
そういうところを買われたのか、ジーン・ノーマンが作ったこの小さくて可愛いレコードのリードに選ばれています。

題名に「星」が入った曲ばかりを集めて、バックに男女混成の学生コーラスを配置した、とにかく思いっきりノスタルジックでロマンティックな
古き良きアメリカ音楽の詰まったレコードですが、ピアノにケニー・ドリュー、ベースにジーン・ライト、ドラムにアート・ブレイキー、となぜか
超豪華なメンバーが置かれているし、B面最後の曲はサブー・マルティネスのコンガを入れたアフリカン・チャントにするなど、単なる懐古趣味では
終わらせない一クセある内容です。 この最後の本物のアフロビートがあるおかげでアルバムの印象がギュッと締まってビターな感じになり、
アルバム作りの上手さに感心させられます。


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こだわりの第2作目

2015年06月20日 | Jazz LP (70年代)

Allen Houser / Washington Jazz Ensemble  ( Straight Ahead ARS002 )


アレン・ハウザーの自主レーベル Straight Ahead 第2弾がこのWashington Jazz Ensemble。 前作の "NO SAMBA" から5年後の1978年制作で、
何とものんびりとしたリリースです。

トランペット、テナー、ヴァルヴ・トロンボーンの3管セクステットで、前作のような時間をかけて練り上げられた雰囲気とはがらりと変わって、
スタジオ一発取りのようなライヴ感の強い生々しい雰囲気が素晴らしいです。 

50年代終わりから60年代初め頃のハードバップのような内容で、特に1曲目はショーター時代の3管ジャズメッセンジャーズによく似ています。
楽曲としての出来もよく、この人はそういう才能もあった。 2曲目はテナーの渋いソロが全面に出たバラードで、ベン・ウェブスターのような
深く悠然とした演奏が素晴らしい。 B面最後の曲もシダー・ウォルトンが書きそうな曲で、緩いリズムながら全員ノリノリで掛け声が自然と
出たり、と雰囲気も抜群です。

テナーのバック・ヒルは郵便局員として生計を立てていたそうだし、みんな音楽だけでは喰っていけない中で週末の夜や休日に集まっては
こういう演奏をやっていたんだろうと思います。 難しいことは考えず、誰の目を気にすることもなく、自分たちの好きな音楽をやって、
気が向いたらこうしてレコードにして、そういうのは何て素晴らしい人生だろう。

この後も徹底して自分のレーベルからのみレコードを出し続けたこだわりは、きっと誰かの意向に沿った音楽なんてやらないぞというポリシーに
沿ったものだったんだろうし、地元での活動に固執して他のアーティストの作品への客演も一切やらなかったその徹底ぶりは大したものですが、
もっとたくさん作品を残してくれたらよかったのに、と思ってしまいます。

カタログは第6作まではあるようですが、第3作以降はまだ聴いたことがないのでぼちぼち探していこうと思います。



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70年代最高のアルバムの1つ

2015年06月14日 | Jazz LP (70年代)

Allen Houser Quintet & Sextet No Samba  ( Straight Ahead ARS001 )


こういうレコードを買うことができた時、自分がマニアでよかったな、と思います。

70年代の音楽界を席巻したのは言うまでもなくロックで、音楽が一大ビジネスになることに気が付いた世慣れた大人と純粋な志を持った若者たちが
集まってあっという間に大きな波を創り出し、世界を飲み込んでいきました。ここから音楽はマスを志向するようになり、そうじゃないものは
次第に相手にされなくなっていく。

一方でジャズはと言えば、60年代に自浄作用が働いてフリーという形で一旦は解体されますが、フリージャズ奏者たちの最大の問題点であった
解体後の再構築ができなかったという大失態のおかげで、メインストリームはすっかり干上がって枯れてしまいます。唯一、マイルスの電化だけが
フュージョンという形に姿を変えて、そこにロックとソウルの要素を取り込みながら発展していきます。これが無ければ、フュージョンへの反作用
としての80年代末からの主流派ジャズの復興はあり得なかった。だからマイルスの電化は当時は禁断の手法として猛烈に批判されたにも関わらず、
結局は正しかったわけです。彼だけが先を読めていたのであって、現在もジャズが生きているのはマイルス・デイヴィスという恩人のおかげです。

70年代に最盛期を迎えた世代の主流派ジャズミュージシャンはそういう意味では不幸でした。40~50年代であれば無名ミュージシャンの受け皿と
なるマイナーレーベルがたくさんあってレコードを作れるチャンスがちゃんとあったのに、彼らにはそういう受け皿がなかったし、特に白人の場合は
尚更難しかっただろうと思います。

アレン・ハウザーがこうして自主制作に踏み切ったのは必然だったのだろうと思います。 60年代初頭に亜流だったフリーが自主制作しか選択肢が
なかったように、70年代前半のローカルな主流派には自主制作しか選択肢がなかったというのは皮肉なことです。 

でも、自主制作盤やマイナーレーベルには、例えばアイラーの "Bells" を持ち出すまでもなく、いろんなこだわりが凝縮されているものです。
この盤もこの時代のレコードにしては異例ともいえるジャケットの厚紙の厚さやがっちりとした作りが嬉しいし、同様に厚みのある盤の質感もいい。
北欧の画家が描いたエッチング画のようなセピア色の絵画や裏面の詩など、意匠としての素晴らしさに所有する歓びを覚えます。

そして、そういう外観をも遥かに上回る音楽の素晴らしさ。 タイトルそのもののメキシコの沈む夕陽を眺めているような情感溢れる"Mexico" や
抒情的なバラードの "Charlottesville" などの最高の楽曲が並び、それらをアレンの伸びやかで輝くトランベットと深い音で鳴るバック・ヒルの
テナーがしっとりと演奏して行きます。 最高級で、洗練の極みとも言える演奏です。 

70年代に録音されたジャズのアルバムの中では、これが最高の1枚ではないかと思います。


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今週の成果~ノルウェーGemeniレーベルのテナー

2015年06月13日 | Jazz CD
新宿ジャズ館の外壁工事で中古CDの販売を一時的に別ビルでやるということで、最終日に行ってみました。 新着5,000枚というのはハンパない量で、
1時間かけても半分しか見れず、その時点で疲れてしまってギブアップしてしまいました。 既に買いたい候補が8枚くらい手元に揃いましたし、
残りはまた来週以降の愉しみにとっておけばいいか、という感じです。 新着がなきゃないと文句を言うし、多けりゃ多いと文句を言う、で
あまりいい客とは言えません。

3日間の仮設売り場で無造作に段ボール箱に突っ込んだだけの状態でしたが、これが玉石混淆の状態で探しているうちに面白くなってきました。
半分くらいはやはりピアノものですが、そのうちに面白そうなものがぽろぽろと出てくるようになって、探す愉しみが大いに刺激されます。
こうなってくると買うことよりも「ウオッ!?」という驚きの快感のほうが優ってきます。 が、持久力が無くてすぐに力尽きてしまう。
でも、財布のことを考えればこれくらいでちょうどいいのかもしれないな、と自分を慰めます。

転売屋さんが喜びそうなものが結構あったし、こんなことなら初日から来ればよかったかなと思いながらも、候補の中から買うものを数枚選びました。
ノルウェーのGemini Recordsに残されたテナーのワンホーンものがメインです。




■ Bjarne Nerem / How Long Has This Been Goin' On  ( EMI/ODEON Gemini Records GMCD 72 )

ビャルネ・ネレムが残した71年、48年、81年の3つのセッションをまとめたもので、テナーのワンホーンにところどころでストリングスのオケが
入ったりする内容です。 レスターがよく吹いた楽曲がメインになっています。

このバックのオケがムード歌謡丸出しのダサさで、なんじゃこりゃ、とズッコケてしまいます。 当時のノルウェーはこういうのがよかったんでしょうか?
でも、テナーは音鳴りがとても良く、なかなか聴かせます。 このちぐはぐなギャップが面白いと言えば面白いかもしれません。

バックのオケもテナーも全体的に一本調子で抑揚もなく、音楽的には聴くべきところはあまりありません。 ただ、こういう音楽もあったんだなあ、
ということを知ることができたので、まあいいか、という感じでした。


■ Bjarne Nerem / Everything Happens To Me  ( Gemini Records GMCD 71 )

こちらは76年のレコードと77年のラジオ放送音源が収録されています。 内容は上記の音盤と同じ路線で、テナーのワンホーンにところどころで
ストリングスのオケがからみます。 

同じようにオケはダサく、スタンダードのみの構成でどの曲も短く、テナーの音鳴りはとてもいい。 何と言うか、何の進歩もありません。
そんなことにはまるで興味はないようです。 ただ、上記の盤よりもこちらのほうが少し落ち着きが出ていていいと思います。


ビャルネ・ネレムは50年代にはハリー・アーノルドのオーケストラに参加していたり、ラース・ガリンのコンボに入っていたり、と脇役が多かったのですが、
こうやって70年代になってようやくリーダー作が作られるようになった遅咲きの人。 ベテランらしく演奏は上手い人で、時代の要請でこういう
イマイチな作りの作品になってしまっていますが、別に聴いていて嫌な感じはしません。 テナー自体は逆にいい印象があります。




■ Totti Bergh / I Hear A Rhapsody  ( Gemini Records GMCD 48 )

1985年のオスロでのスタジオ録音で、テナーのワンホーンでスタンダードをゆったりと録音しています。
これはとてもいい作品です。 男前で深みのある音色が素晴らしく、テナーの魅力が目一杯味わえます。

アメリカのようにジャズの最前線であればこんなのどかな演奏の作品を作ることなんてきっと許されないでしょうが、辺境の地であればそういう
うるさいことを言う人もあまりいないのか、喧噪からは遠く離れた静かで落ち着いた作品になっています。
残響を抑えた録音もよく、この人のテナーの音を何の脚色もなく素直に捉えていて、説得力のある内容です。

もう1枚ヴォーカル入りのこの人の作品があったのですが、試聴してみるとピアノの代わりにギターが入ったせいか演奏が少し浮ついた感じだったので
そちらは残してきました。


これらのGeminiレーベルの音盤はレコードのほうはよく見かけるしいつでも買える感じですが、CDのほうは逆にかなり珍しいように思います。
今回まとめて入手できたのはラッキーだったのかもしれません。


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ミスマッチなレコード

2015年06月07日 | Jazz LP (Dootone)

Dexter Gordon / Dexter Blows Hot And Cool  ( DOOTONE DL-207 )


ヘロイン所持が原因で1952年末から2年間刑務所で治療を兼ねて服役し、仮出所できた1955年にデックスはベツレヘムとドゥートーンにアルバムを
録音しますが、その後またドラッグに手を出してしまい、再度投獄されて今度は1960年まで服役します。50年代にデックスのアルバムがまともに
残されていないのはそのためです。

本来は50年代のアメリカでロリンズ、ゲッツと並んで3大テナーの一翼を担うはずだったのに、こんなことで一番重要な10年間を棒に振ってしまう。
その後のキャリアを見ればわかる通り、元々はレコーディングが好きな人なので、その逸失利益の大きさを痛感してしまいます。

ドゥートーンはロサンゼルスのサウス・セントラル・アヴェニューに居を構えていましたが、ここはロスの中でも最も治安の悪い地域として
昔も今も有名なところです。その界隈に出入りしていたのなら、悪い誘惑も多かっただろうことは想像に難くない。 
このレーベルは1951年に設立されて73年頃まで存続しましたが、メインの録音ははリズム&ブルースやコメディアン、ポピュラー・ヴォーカルで、
ロス周辺の低所得者向けのレコードを多く作っていた。なぜかジャズのレコードが5~6枚ありますが、どれも気まぐれで作られたような感じです。

このレコードはよく聴くとデックスのテナーがとても調子がいいのがわかります。 音が太く安定していて、フレーズも非常にしっかりしている。
生涯変わらなかった音はここでも健在でいつものあの音だし、アップテンポの曲でもこの人が吹き始めると途端にミドルテンポの雰囲気に変わる
ところも相変わらずで、アルバム全体がデックスの音に支配されています。

但し、問題はバックのピアノトリオとの相性で、カール・パーキンス・トリオの乾いて抒情味の欠ける演奏とは明らかにミスマッチです。 
各楽曲が短く、とても落ち着いて聴く雰囲気ではない。だからアルバム全体としての印象は地に足が付いていないような散漫な感じがします。
この人の演奏家としての力量が発揮される前に曲が終わってしまって、あれっ、前奏だけで終わったのか?という感じです。 
だから、デクスター・ゴードンのアルバムを聴いている、という実感があまり持てない。

この有名なジャケットが「どんなに凄いジャズが聴けるんだろう」という期待を大きく煽りますが、実際に出てくる演奏はカラカラに乾いた
コンパクトな演奏なので、そのギャップに戸惑わされるレコードだと思います。



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バイヤーの見識と矜持

2015年06月06日 | Jazz CD
今週はめぐり合わせが良くて、かなり成果がありました。 買った枚数も多くて、20枚弱。 そのうちの半分はフリーですが、これらはテーマごとに
まとめて書いたほうがよさそうなので別の機会に譲るとして、残りの半分は主流の新品でした。

別に強制されている訳でもなく好きで中古漁りをやっているのですが、その中で思うのは、新品で買えるんならさっさと新品で買っとけ、ということです。

中古漁りというのはモノを買うこと以前に「探すこと自体が愉しい」という重要なファクターがありますが、その反面、しんどいなと思うこともあるし、
費やす時間のことを考えるとぞっとすることもあるし、欲しいものがあってもコンディションのことで悩まされることもある。 だから、新品で買える
ならさっさと新品で買っとくほうがいいのです。 だから、新品のチェックも抜かりなくやります。

DUさんは全体で共通して販売する新品CDとは別に、各店舗ごとに独自の視点で新品の仕入れをしていて、その店舗でしか買えないCDというのがあります。
これが面白いものが多くて狙い目なんですが、この部分に一番力を入れているのが Jazz Tokyo です。 どうやって探し出してくるのかはよくわかりませんが、
その種類の多さや頻度や回転の速さはなかなか凄くて、私にはついて行けなくて買い逃してしまうこともよくあるくらいです。
ただ、ここ最近入荷したものの中には他の物を全て後回しにしてでも買っとかなきゃいけないものがいくつかありました。





■ Paolo Fresu Quintet / Ballads  ( Splasc(s) Records CDH366.2 )

これは長らく廃盤で入手困難だったものの再入荷です。 夜のしじまに漂うような深いバラードばかりのアルバムで、素晴らしい出来です。

トランペットはマイルスのようなレガートを多用したなめらかな奏法で、ミュートなんかはマイルスそのもの。 硬質で深いトーンのテナーも
控えめに吹いていて、全体的なアルバムのムードを壊さないように注意を払った演奏で好感が持てます。

録音も抜群に良くて、真夜中に歩道を歩くコツコツという音が静かに響いているような、静寂感に満ちた音場が部屋の中に拡がります。


■ Alf Kjelman / Feather, But No Wings  ( Reflect NO EFY 0802 )

テナーとトロンボーンの2管編成で、1999年ノルウェーのスタジオ録音。 こちらも何度目かの再入荷です。

2管のハーモニーが何とも柔らかく、ゴルソンハーモニーとはまた別の独自のシルクのようなハーモニーとなっていて、これが素晴らしいです。
全体的にゆったりと穏やかな演奏で、全曲オリジナル曲にも関わらずどれもが聴かせる佳作揃い。 王道のモダン4ビートですが、北欧ジャズが
伝統的に持つ清潔さに覆われているので、極上の雰囲気があります。 現代の欧州ジャズが持っている最良の部分がうまく前面に出た傑作だと思います。





■ Josep Tutusaus / Missing Link  ( Temps Record TR1467-GE14 )

2014年のスペインのスタジオ録音で、トロンボーンのワンホーンカルテットに所々テナーがオブリガートをつけますが、これが傑作です。
大げさな販促文も、今回ばかりは嘘のない内容です。

何よりトロンボーンの音がとても大きく張りと艶があって、まるでトランペットのように聴こえる箇所があります。 もこもこ、ぼそぼそ、と
こもった音を出す人が多い中で、これは最大の美点です。 バックのピアノトリオも切れ味抜群で粒立ちの良さが際立つ素晴らしさで、
ダレる箇所が1つもない。 どこを切っても素晴らしい演奏です。

オリジナル曲とスタンダードのミックス構成ですが、オリジナル曲のほうの出来がいいです。 こういう風にスタンダードの良さに頼らずに
アルバムの出来がいいというのは素晴らしいことです。

とうとうトロンボーンのアルバムの真打ちが登場した感があります。 これを超えるアルバムはなかなか出てこないのではないかと思います。


これらの優れたアルバムを聴きながら、Jazz Tokyo のバイヤーさんの見識と努力は素晴らしいと思いました。
もちろんただ仕事をしているだけなのかもしれませんが、ジャズが心底好きじゃなきゃ、こうはいかない。 
評価の固まった名盤・廃盤やマニア本に載ったレア盤の周りをただうろついているだけの停滞した行動とは一線を画す、素晴らしい姿勢だと思いました。
これが、DUの途切れることのない発展を底支えしているんだろうなあ、と思います。



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