Richie Garcia / A Message From Garcia ( 米 Dawn DLP 1106 )
若い頃に憧れたレコードの1つにズート・シムズの "The Modern Art of Jazz" があった。 当時読んでいた油井先生の名盤100選に載っていたそのアルバムは
当然ながら廃盤で、入手はおろか、現物を見たことすらなかった。 だから何年か過ぎてそのレコードを手に入れた時の嬉しさとガッカリ感はハンパなかった。
とにかく音がこもっていて、まるで分厚いカーテンの向こうで鳴っているのを聴いているような感じだった。 結構高い値段だったにもかかわらず、すぐに
聴かなくなってしまい、早い段階で処分したように思う。 それ以来、この "DAWN" というレーベルに良い印象が無くなってしまった。
ところが、数年前に同レーベルのアル・コーンの渦巻きアルバムを聴いて、それまでの固定観念は崩壊した。 まあ、恐ろしいくらいの音が鳴るレコードで、
このレーベルにもこういう音が出る盤があるんだ、ということを知った。 誤解が氷解すれば、後はボチボチと聴いて行けばいい。
先のヴィンソン・ヒルと一緒に拾って来たこのリッチー(ディック)・ガルシアもとてもいい音で鳴る。 アル・コーンのようなこちらを脅すような音場ではなく、
もっと品が良く、それでいて豊かな残響が奥行き感と立体感をホログラムのように表出させるような感じだ。 楽器の音も明るく輝いていて、ハーモニーも
音が潰れて濁ったりすることもなく、構成音がきちんと分離して聴こえる。 音圧も高く、見事なモノラルサウンドで部屋を満たしてくれる。
白人の小粒な奏者が集まって演奏しているから、きっとサロン風の退屈な内容なんだろうなというこれまた誤った先入観で手に取ることなく来たのだが、
きちんと聴いてみるとこれが予想を覆す素晴らしい内容で、これまたビックリした。 そもそも、ビル・エヴァンスが数曲弾いているなんて知らなかった。
でも、ここでの聴き所はジーン・クイル。 涼し気で清潔な澄んだ音色が本当に美しく、初めてこの人のアルトに感動した。 今まで聴いていたルースト盤や
プレスティッジ盤は一体なんだったんだろう。 トニー・スコットと楽曲を分担しているのが惜しい。 全編クイルだったら、このアルバムの評価は
おそらく一変していただろうと思う。
どの曲も短いが繊細で清涼な雰囲気があって、それでいて軟弱ではなく聴き応えのある音楽になっているのが素晴らしい。 これは思わぬ拾い物だった。