廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

静かなモーニング・ソング

2017年01月02日 | ECM

Carla Bley / Andando el Tiempo  ( 独 ECM 2487 478 4863 )


新年の静かな朝に何度も何度も繰り返し聴いている。 この休暇のモーニング・ソングになっている。

カーラのこの新作のことはずっと気になっていたんだけれど、アンディー・シェパードという人に昔からあまりいい印象を持っていなかったせいで、しばらく
買うのを躊躇していた。 何枚か聴いたリーダー作が退屈極まりない内容だったからだが、それはかなり前のことであれからは随分と時間が経っているし、
これはカーラの作品だから大丈夫なんじゃないかと半ば自分に言い聞かせるようにして入手してみた。

結論から言うと、心配は杞憂に終わった。 サックスはカーラの音楽を邪魔することなくうまく調和している。 テナーの音はテナーらしく、ソプラノの音は
ソプラノらしく魅力的に鳴っていて、重要な役回りを上手にこなしている。 ECMという特別な音響空間の中で、控えめにではあるが確かに存在している。

両面聴き終えて、しばらく目を閉じて余韻に浸っていると、頭の中にじんわりと響きが残っているのはスティ-ヴ・スワローのエレベの音であることに気が付く。
昔からベースをリード楽器のように弾いてきた人だけど、ここではエレベの最大の美点である音色操作によって非常にマイルドでくすんだ柔らかい音色を
作っていて、これが非常に心地好い。 上手い音を作ったものだ。 

スワローのそういうベースの音を通奏低音としてカーラのピアノが瞑想するように流れている。 2人の揺蕩うような旋律の戯れでどこかに流されそうに
なるのをシェパードのサックスが海中に降ろされた錨のように船体を留めて、ゆらゆらと揺れる船上から陽光を反射しながら穏やかに波打っている海面を
いつまでも眺めているような、そういう気持ちになってくる。

カーラも既に80歳。 手持ちの残り時間が多いとは言えなくなった今、限られた時間をどこまでも引き延ばそうとするかのように、旋律で音楽を語るのではなく、
意識の流れで音楽を進めていく。 傑作とか駄作とか、そういう切り口では語ることはもはやできないものとしてそこにある。

アナログの柔らかな音場が素晴らしい。 前作もアナログ・プレスしてくれないものだろうか。 淡い期待をしながら待つことにしよう。


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