

Don Elliott / Sings ( 米 Bethlehem Records BCP 15 )
複数のいろんな楽器を演奏する人は他にもいるが、歌まで歌ってしまう人は珍しい。ミルト・ジャクソンもピアノを弾いたり歌を歌ったアルバムを残しているが、
マルチ振りはドン・エリオットの方が1枚上手だろう。手にメロフォンを持っている姿が写っているが、この日はボーカルだけのセッションとは別にメロフォンだけを
演奏したインストのセッションも同時に録音していた。
彼のヴォーカルは他のアルバムでも所々で聴くことはできるが、ここでのボーカルは徹底した2枚目路線で行っており、コロンビア時代の若きシナトラのような優しい
クルーナー・スタイルで歌っていて、これが聴かせるのだ。決して上手い歌唱というわけではないのだが、かえってその方が好ましいと感じさせるところがある。
全編がしっとりとした雰囲気で統一されており、そのムードと彼の淡い声質がうまく溶け合っていて、印象的なアルバムに仕上がっている。
よく知られたスタンダードは最小限に抑えられ、ここだけで聴ける無名の楽曲を大事そうに歌っていて、プライベートな時間にプライベートな思い出を静かに語っている
ような雰囲気があって、そういうところが何か特別な感じがする。大人の時間が過ごせるアルバムだ。
ベツレヘムはボーカルのアルバムをたくさん作ったが、よく出来ているものが多い。バート・ゴールドブラットの写真をメインに使ったところもよかった。
外装の意匠が音楽をうまく表現していて、レコード作りの上手さが光るレーベルだったと思う。