廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

季節外れの雪の日に聴くマイナーなピアノ・トリオ

2020年03月29日 | Jazz LP

Gerald Wiggins / Reminiscin' With Wig  ( 米 Motif Records ML 504 )


朝から雪が降っている。稀に見る暖冬で、今年はとうとう雪が降らずに冬が終わったなあと残念に思っていたが、今週から4月になるというこの
時期になって雪が降り出した。しかもただ降っているだけではなくて、しっかりと積もっている。まるでコロナ騒ぎで世界がひっくり返りそうな
嫌なムードを鎮めようとするかのように、音もなく降り積もっている。

こういう日はマイナーな古いピアノ・トリオがいい。ピアノ・トリオの分野にはマイナーなレコードが多い。それはピアノという楽器がポピュラーで、
演奏できる人が他の楽器と比べて相対的に多く、参入しやすいからだろうと思う。そういう気分に合う盤はいくらでもある。

ジェラルド・ウィギンズのレコードはジャケットが酷いものばかりで買う気にならないが、例外的にこのモティーフ盤には食指が動く。特に珍しくも
ないレコードだけど、雰囲気のあるジャケット、重たいフラットディスクで、古き良き時代のレコード感に溢れている。

地味なスタンダードが1曲のみ、あとは知られていない楽曲ばかり。演奏はメリハリの効いたしっかりとした演奏で、聴き終えた後に手応えが残る。
隠れた名盤、と持ち上げるほどの内容ではないし、激レア盤、と騒ぐような盤でもないし、買うにも持つにも何の負担にもならないレコードだ。

1つ声高に褒めるところがあるとすれば、非常に音がいいというところ。楽器の音の分離がよく、音像がくっきりとしていて、非常に音圧も高く、
少し驚くようないい音で鳴る。でも、あまりにマイナーな盤なせいか、誰からもそういうところを褒めてもらえない。気の毒なレコードだ。

昔はフレッシュ・サウンズがリイシューしたりして、それなりに有難がられていたように記憶しているけれど、イマドキは誰からも相手にされない
風化しつつある作品になろうとしているようだ。サブスクで音楽を聴く世の中になると音源自体の価値が下がっていくので、こういう類いの作品は
淘汰されてしまう。レコード1枚買うのに何十分も店頭で呻吟して、家に帰って聴いてみて、その内容の良し悪しに一喜一憂するような時代じゃ
ないとこの手の盤は人々の記憶には残って行かないだろう。幸か不幸か我が家はそういう前時代的な感じなので、風前の灯的レコードがこうやって
ひっそりと生息することができる。


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アルバム・タイトルに偽りあり

2020年03月28日 | Jazz LP (70年代)

Zoot Sims / Zoot At Ease  ( 米 Famous Door HL-2000 )


後期ズートの最高傑作はこれだろうと思う。時折、無性に聴きたくなる。捨て曲なし、とは正にこのアルバムのことだ。

私がこのアルバムを凄いと思うのは、ここで鳴っている音楽が持つ、ある種の独特の暗く殺気立った雰囲気だ。このアルバム・タイトルは内容に
合っていない。後期のズートは全体的にリラクゼーションの塊のような言い方をされることが多いけれど、私にはそうは聴こえない。
この人は若い頃はレイドバックしていたけれど、歳を重ねると独特の陰影を帯びた音楽をやるようになったと思う。ちょうど、チェット・ベイカーが
そうだったように。

特に、このアルバムはズート以外のメンバーもズートのそういうところに影響されて、かなりシリアスな演奏をしている。70年代に入ると、ジャズ
ミュージシャンたちの演奏もかなりロックの影響を受けて、それまでのありきたりの4ビートのノリでは演奏しなくなる。ここでの演奏はもちろん
主流派のそれだけど、感覚的には時代が変わりつつあるのがわかる。そういう全体の雰囲気がうまくブレンドされて、特別な内容になったのだと思う。
このピアノをブラインドで聴いて、ハンク・ジョーンズだとわかる人はいないだろう。

ソプラノの演奏もキレが良く、スピード感がある。主流派の古参がやる懐古的な演奏ではなく、みずみずしい感覚で素晴らしい。そして、それと
対比するかのようにテナーの音色が硬質でずっしりと重く、この見事なバランス感がアルバム全体が単調なものになるのをうまく回避している。

私は Al & Zoot の音楽は退屈だと思うけれど、コンビを解消して再びソロで吹き込むようになったステレオ期のズートがやった音楽は本当に
素晴らしいと思う。冒頭の "朝日のように" の疾走感は圧巻だし、 "InThe Middle Of The Kiss" はこの人にしかできない語り口で聴かせる最高の演奏だ。
ズートが吹く "Rosemary's Baby" の物悲しいメロディーを忘れることができる人なんて果たしているだろうか。

イージー感やリラックスとはおよそ無縁の、いい意味での緊張感に溢れる素晴らしい音楽を全身に浴びたい時には最高のアルバムだと思う。

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何も変わらない、ということ

2020年03月24日 | Rock CD、LP

Huey Lewis And The News / Weather


なんと、ヒューイ・ルイスの新作が先月出た、というのを今頃知って、慌てて聴いた。何も変わってないのに驚いた。
19年ぶりなんだそうだ。

私がロックを熱心に聴いていたのは大学1年の頃までで、以降はジャズばかり聴くようになってしまったので、
ロックの知識や嗜好はその時点で完全に凍結されている。もちろん時々は聴いていたけれど、新しいアーティストを
探すようなことはなくなって、それまでの嗜好の延長だけを漁る程度で、それは今も変わらない。
だから、ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースは守備範囲に入っている。

ジャケ写を見ると、今の方が若々しく見えるのに驚いてしまう。まあ、若い頃から老け顔・老け声だったから
そう見えるんだろう。

そして、出てくる演奏がこれまた昔と何も変わってなくて、唖然とするしかない。
昔のようなヒットチャートを意識したようなキャッチーなメロディーは影を潜め、自然体この上ない、シンプルなロック。
ハーモニカを吹いて、「プリティー・ガール」を連呼している。

歌声も何一つ変わってない。今の方が若いくらいだ。今年は何年だっけ? と思わず呟いてしまう。
何も変わっていないように聴こえる音楽を聴いて、久し振りに鳥肌がたった。


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見た目はイケてないのに名盤になった作品 ~その2~

2020年03月22日 | Jazz LP (United Artists)

Art Farmer / Brass Shout  ( 米 United Artists UAL 4047 )


酷いジャケットである。あまりに酷い。なんで金粉ショーなんだ? 金管楽器が叫んでいるつもり? ファーマーのジャケットは酷いものが多いが、
これはその中でも際立っている。これじゃ、誰も買うわけない。ファーマーはツイてない。本人の能力とは関係ないところで足を引っ張られている。

でも、これはベニー・ゴルソンの劇的なアレンジを愉しむためのアルバムで、実に素晴らしい内容だ。冒頭の "Nica's Dream" のカッコよさは筆舌に
尽くし難い。ゴルソンの編曲はどうすれば原曲がより魅力的にレベルアップするかに腐心していて、彼から見て不十分に思える原メロディーの箇所に
新しい旋律で上書き補充しているようなところがある。それが原曲にダブル・ミーニングを持たせる効果をもたらしている。そういうメロディーを
最重視するスコアだから、ファーマーのようなリード奏者にはうってつけだと思う。

リー・モーガンやカーティス・フラーがリードを取る箇所もあって、豪華な顔ぶれによるジャズのフィーリングに満ち溢れたサウンドが素晴らしい。
アンサンブルにはアラも見られるけれど、常設のバンドではないんだから当たり前の話だろう。重要なのは全体を覆うマイナー・ムードである。

小編成のコンボでは決して出せない、ラージ・アンサンブルだけに許された重層的な快楽を与えてくれる。ギル・エヴァンスの抽象性とは違い、
ゴルソンのわかりやすさには普遍性があり、誰にでも受け入れられる。簡単なようで、これができる人は多くない、稀有な才能だ。

ファーマーのソロのスペースはさほど多くはないが、これはそこにこだわる必要はなく、全体観を愉しむ内容だ。ジャズが如何にもジャズらしい
雰囲気を持っていた時代の空気をたくさん吸った素晴らしい音楽が鳴り始めると、ジャケットのことは忘れてしまう。

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見た目はイケてないのに名盤になった作品

2020年03月21日 | Jazz LP (Dootone)

Curtis Counce / Exploring The Future  ( 米 Dootone DTL 247 )


何とも言いようのない趣味の悪いジャケットで、ゲンナリする。このジャケットを店頭で見て、買おうという気になる人が果たしているのだろうか。
このレコードがリリースされた1958年と言えば、前年にソ連が人類初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功して、焦ったアメリカは58年にNASA
を設立し、ソ連を追い抜くべくマーキュリー計画をスタートさせて、米露の宇宙競争が幕を開いた。そういう世相を反映してのことなのだろうとは
思うけれど、これはないよなと思う。カーティスご本人はぎこちないポーズで引きつった笑顔をさせられて、何とも気の毒になる。

という困った見た目にもかかわらず、これがなかなか聴かせる力を持った演奏なのだ。ロルフ・エリクソン、ハロルド・ランドの2管フロントに
エルモ・ホープを迎えた珍しい顔ぶれで、一体どんな演奏をするんだろうと興味津々で聴き始めると、案の定グループとしての纏まり感はなく、
トップクラスとは言い難い管楽器もいささか不安定な感じでガタガタしたところがあるにもかかわらず、なぜかグッとくる演奏になっている。

このレーベルは西海岸のレーベルで、ちょうどエルモ・ホープがかの地を訪れていてパシフィック・ジャズなんかにも録音していた時期にあたるが、
彼のダークな音色に導かれて展開される音楽はまさにブルーノート的粗削りなハードバップで、これこれ、これだよ、という美味しさ全開の内容だ。

前回記事のコロンビアのメッセンジャーズの技術的にも音楽的にも遥かにレベルの高い内容と比べると、演奏力も音楽的な仕上がりも大きく見劣り
する感じで、比較するのが気の毒なくらいであるにもかかわらず、ジャズという音楽の魅力が全編に満ちているのはこちらの方なのだ。
特に目立つのはハロルド・ランドで、ロリンズの強い影響下にある胴回りの太いテナーを吹いていて、ブラウン・ローチのバンドがロリンズの後任に
この人を選んだのはこの音色にロリンズを見たからなんだな、ということがよくわかる。

レコードの音質も、マイナーレーベルらしく録りっぱなしの金をかけていない素の音質であるところが却ってこのタイプの音楽にはよく合っている。
粗挽きな演奏であるが故の原石としての潜在的な美しさがうまく再生されて、音楽を魅力あるものにしていると思う。

音楽の魅力とはなんぞや? という難問への答えを考えるヒントを与えてくれる内容で、ハードバップの愉楽に満ちたいいレコードだと思う。
これがもしヴァン・ゲルダーのスタジオでアルフレッド・ライオン立ち合いの下このまま録音されていたら、きっとシビれる名盤になっていただろう。

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見た目はイケてるのに名盤になれなかった作品

2020年03月20日 | Jazz LP (Columbia)

The Jazz Messengers  ( 米 Columbia CL 897 )


マニアでなくても食指のそそるアルバムだ。ブルーノートお抱えのメンバーなので表向きはメンバーの名前を出せなかったにもかかわらず、
ジャケットを見ればブルーノート・セッションと同等内容であることは一目瞭然。でも、聴き終えた後には物足りなさが残る。

メンバーの演奏はいつも通り溌剌としていて、勢いもある。典型的なハードバップスタイルだし、ドナルド・バードもモブレーもよく鳴っている。
名曲 "Nica's Dream" も入っていて、ちゃんとゴルソン・アレンジで演奏している。この曲でのモブレーの長尺のソロは極めて秀逸で、彼の良さが
よく出ている。ホレス・シルヴァーのソロも素晴らしい。シルヴァー、ワトキンス、ブレイキーの3人の演奏はこの時代の1つのモデルケースと言える
演奏で、まあ、完璧だ。これ以上の演奏は望めないだろう。

そうやって個々の要素を見ていけば満点なのに、なぜか、物足りない。それが不思議でツラツラと考えていくと、いくつかの欠点が見えてくる。
まず、コロンビアの優等生的な音場感と典型的なハードバップ・スタイルとのミス・マッチだ。無菌室のような、塵一つないショーウィンドウのような
清潔な空間で鳴る紫煙漂うハードバップはどことなく居心地の悪さを感じる。この録音は極めて良好だけど、この音楽のタイプにはあまり合わない。

もう1つは、ここで披露される音楽があまりにも紋切り型だということだろう。定規で採寸されたかのようなスタイルがスリル感を削いでいる。
メンバーの演奏も寸分たがわぬイメージ通りの演奏で、絵に描いたような予定調和な世界。聴く前に抱くイメージを音楽を聴きながら後追いで
確認し続けるような作業になることの退屈さ。美しく完成された造形がもたらす行き止まりの閉塞感、みたいなものをどうしても感じてしまう。

そこまで突き詰めて考えなくても、聴いた時に直感的に全身で感じる痺れるような良さみたいなものが希薄であることは間違いない。これだけの
メンツが揃いながらも名盤の列に入れなかったのは、それなりの理由があるということだと思う。

尤も、これはマニア受けするレコードなので、そういう意味では有難みのある存在かもしれない。メンツの良さ、コロンビアの優秀なモノづくり、
メジャーレーベルで聴ける良質なハードバップは意外と少ないので、存在感はそれなりにある。ジャズはマイナーな音楽だったんだなということが
改めてよくわかる。

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パーカーをステレオ盤で聴くのは邪道なのか

2020年03月15日 | Jazz LP

Charlie Parker / "Bird" Symbols  ( 仏 Musidisk 30 CV 982 )


パーカーのダイヤル・セッションは彼の公式録音の中では最も出来の悪い演奏群であるにも関わらず、昔から代表作のような言い方をされているのが
どうにも気に入らない。パーカーの伝説から受ける印象と最もギャップのあるこの録音を聴いて、「パーカーの凄さがわからない」と感じるなら、
それは正しい感覚だと思う。なぜなら、これらの演奏は凄くないからだ。

"Lover Man" の話を持ち出すまでもなくこの時のパーカーの体調は最悪の状態で、まともな演奏など望める状態ではなかった。私はこのセッションを
聴くと悲しくなるので、ダイヤル録音は嫌いだ。こんなに精彩も閃きもないパーカーは聴いていられない。

但しこのバード・シンボルズには思い入れがあり、悲しいながらも愛着のあるレコードだ。私が初めて自分で買って聴いたパーカーのレコードがこの
アルバムだった。パーカーの法定相続人だったドリス・パーカーが、パーカーの遺産を後世に残そうと非公式録音や買い戻したライセンスを発表する
ために興した "Charlie Parker Records" というレーベルから出されたダイヤル録音の音源を、ファースト・サイドとスロー・サイドに分けて編集した
レコードで、私はスロー・サイド冒頭の "Bird Of Paradise" の虜になった。

"All The Things You Are" をまったく別の曲に塗り替えたこの曲のメロディーの物悲しさがあまりに切なく、胸に突き刺さる。その後に続くバラード群
の哀感深い雰囲気もあり、私の中にはチャーリー・パーカーという人は天才インプロヴァイザーとしてではなく、天才メロディーメーカーとして
その名が刻まれることになった。

このサイドには "Scrapple From The Apple" も収録されているが、パーカーのアドリブ・ラインがあまりにメロディアスなので、バラード群の中に
混ざっていても違和感がない。パーカーの演奏が覇気や殺気が影を潜めているせいで、アップテンポの曲ですらバラードの中に溶け込んでしまう。
本来のパーカーを聴くことができないこれらの演奏を逆手に取った上手い編集で、このレコードは結果的にとてもいい仕上がりになっている。

このタイトルは複数の国で発売されているが、ステレオにリマスターされた盤もリリースされている。ステレオと言っても、元々の録音が楽器毎に
チャンネルを与えられていたわけではないので、楽器を左右に振り分け直す方式ではなく、一塊となった音源全体にエコー処理をかけたような感じ
の音場感でしかない。でも、このやり方が功を奏していて、悪くない聴感を与えてくれる。大きなホールの中で残響感の中に浮かび上がる演奏を
聴いているような感じで、これが悪くない。

パーカーの凄さを聴くというよりは、ノスタルジーを掻き立てる音楽としての効用を愉しむにはちょうどいい感じだ。ダイヤル・セッションを
聴くのは、これくらいで十分だろうと思う。


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まさに野生のバラという雰囲気

2020年03月14日 | Jazz LP (70年代)

Dollar Brand / Sangoma ( カナダ Sackville Recordings 3006 )


見かけると、つい、拾ってしまうダラー・ブランド。350円、と人気の無さはトップクラスだ。こういうのは、買取価格は50円である。
いまどき50円で売買契約が成立するものなんて他にあるだろうか。

冒頭の "The Aloe And The Wildrose" に魅せられる。欧州のジャズピアニストが弾きそうな雰囲気の曲だ。この人の出自である南アフリカという要素は
影を潜め、歴史ある古い街並みを1人で物思いに耽りながら逍遥するような美しくも内省的な楽曲。それを適度な抒情感で弾いている。このくらいの
気持ちの入れ方で弾いてくれるのがちょうどいいと思う。

ピアニストにとってソロ・ピアノはごまかしようのない様式だから、表現意欲の高い人は好んでソロ・ピアノ作品を作る。その押し付けがましさと
うまく付き合えるかどうかで作品への評価も変わってくるが、キースほど巨大な渦で聴き手を巻き込んでくることはなく、世界の片隅で1人孤独に
弾いている感じが私にはちょうどいい距離感だ。

心酔するエリントンやモンクへ捧げた曲もあるが、この人のピアノにはさほど2人からの影響は見られない。奏法そのものへのこだわりよりは、
音楽性への共感が強かったのだろうと思う。自身の個性を強固な土台として音楽を創り上げていったところに、その影響があったと思う。

作品数が多く、全容を把握するのは骨が折れるけれど、裏を返せば気長に聴いていけるアーテイストということだ。このレコードは音質も良く、
非常に楽しめる内容だ。とっつきにくい印象があるかもしれないが、この人の演奏は非常にわかりやすい。これからもボチボチと聴いていきたい。


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国内盤の底ヂカラ その6

2020年03月08日 | Jazz LP (国内盤)

Charles Mingus / Pithecanthropus Erectus  ( 日本 ビクター SMJ-7228 )


目から鱗が落ちた。音がすごくいい。管楽器の音が輝いていて、ベースも重低音でズンズンと腹に響く。

1956年1月に録音されて、オリジナルは同年にアトランティックからモノラルで発売されている。日本では1965年にステレオで出されたこのペラジャケ
が初出のようだが、これが見事な音場感で鳴る。アトランティックのステレオ盤は見た記憶がないが、発売されているのだろうか。
なかなか納得いくコンディションのものとの邂逅がなくてオリジナルはまだ手許にないが、これならもう高い値段を出して買う必要もないなと思う。
そのくらい満足度が高いサウンドだ。アトランティックのモノラルプレスはいろいろと面倒臭いので、これで十分じゃないかと思う。

ミンガスを代表する名盤と言われるこのアルバムは当時としては表題曲の型破りさがウケたのだろうと思うけれど、私の感覚だとモントローズも
マクリーンもイマイチ中途半端な演奏に思えて、もっとキレッキレでもよかったのにと少し残念な印象がある。楽曲のスピードにもキレがなく、
精彩に欠けるのがちょっとなあ、と思う。やろうとしたことはよくわかるし正しい感じがするけれど、当初期待したほどの強い感銘は受けなかった。

それでもユニークな音楽であるのは間違いなく、それなりに愛聴しているアルバムなので、状態のいいオリジナルをと思っていたが、このビクターの
ペラジャケはそういう物欲から解放してくれるのに十分なサウンドだった。

適度な残響感の中、自然な配置で楽器がリアルな音で鳴っている。これも元はステレオ録音だったのだろうか。マトリクスは「SD 1237」という
アトランティックのステレオ盤の体系だ。

ジャケットの発色もよく、盤も硬質でしっかりとしたつくりで質感も高い。国内盤は侮れない、とやはり強く思う。最近は安レコ専門ハンターと
化していて、どっぷりとその沼にハマっているけれど、この世界は底なしに面白い。当分の間、抜け出せそうにはない。


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ジミー・ジュフリーをさらに見直す

2020年03月07日 | Jazz LP (Verve)

Jimmy Giuffre / In Person  ( 米 Verve MGV-8387 )


1960年8月、ファイヴ・スポット・カフェにて録音されたアルバムだが、これがいい。カルテットで、ジム・ホールが入っているのがミソ。この人は
ジム・ホールと相性がいい。ジムも遠慮することなく、普段よりしっかりと弾いている。

冒頭、クラリネットの楽曲から始まるが、この人のクラリネットは古臭さがない。この楽器はクラシックの世界では非常に洗練された役割をこなす
のだが、ジャズという音楽になるとどうも懐古調の響きをもたらす、いささか厄介な楽器だ。でも、ジュフリーが吹くと、なぜかクラシックでの
この楽器の風情が漂う。不思議だ。"My Funny Valentine" もクラリネットで演奏しているけれど、この楽器で演奏をしているのは珍しいだろう。
他の事例がすぐには浮かんでこない。このモダンな楽曲には合いそうにないにもかかわらず、これがすごくいいのだ。

ベースはビュエル・ネイドリンガーで、セシル・テイラーのバンド以外でこの人を見かけるのは珍しい。テイラーのバンドでベースの演奏を賞味する
のは至難の業だけど、こういう普通の(と言ったら失礼か)人たちの中で聴くと、ものすごく上手い演奏をする人だったんだなというのがわかる。
これにはちょっと驚かされた。

ジュフリーのこのライヴ・アルバムを聴いていると、この人は一体どれだけの「顔」を持っているのだろう、と考え込んでしまう。今まで聴いてきた
どのアルバムとも音楽の感じが違う。クラリネットとテナーを交互に持ち替えて演奏しているけれど、ここでのテナーはゲッツ風でもなく、ロリンズ
風でもない。また違う風味なのだ。不思議だ。

この様々な「不思議」がこの人の持ち味なのかもしれない。深夜のファイヴ・スポットで繰り広げられるこの音楽は、誰にも似ていない。
ハードバップではないし、クールでもない。初めて聴くよう気がするけど、妙に懐かしさも感じる。Intimateな音楽、という語感が一番しっくりと
くるかな、と思う。

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エリントンのレコードを買うことの難しさ

2020年03月01日 | Jazz LP

Duke Ellington and His Orchestra / Ellington Moods  ( Sesac Recordings N 2701 / 2702 )


先々週、エリントンとベイシーがまとめて放出されたというので、数日遅れだったが新宿に立ち寄った。確かに今まで見たことがないようなボリューム
で出ていて、コレクターがまとめて処分したのだろう、8割方が非公式プレスのコレクター向けレコードという内容だった。

エリントン好きの私だが、これには参った。どれを買えばいいのかさっぱりわからない。DETSという40年代のラジオ番組の音源をレコード化した
シリーズが膨大に並んでいて、どれも500円くらいだったが、こういうのはエリントン・コレクターではない私には手が出せない。ラジオ音源だから
録音は悪くないだろうけど、基本的には金太郎飴だろうし、中途半端に買ってもライブラリーとしての収まりが悪いし、消化不良感が残る。
困ったなあ、と思いながら結局拾って来たのがこのシザックの1枚だけだった。

エリントンはどのタイトルも例外なく安い。これは2,000円+消費税で、どちらかと言えば高い方だろう。今回並んでいたものの大半は3ケタだった。
識者に伺うと、エリントンのレコードはコレクターですら全容が把握できないほど種類は多いそうだから、私なんかに全貌がわかるはずはない。

シザックは放送局向けにレコードを作っていた会社だから、ここに収められた楽曲はラジオ放送の中で使えるよう演奏時間が短く、私が好むタイプの
演奏ではない。他のビッグ・バンドであれば楽曲が長いと退屈さが増すので聴くことはないけれど、エリントンの場合は長ければ長いほどいい。
2~3分間の演奏で、このビッグ・バンドの真価が発揮されるとはとても思えない。

エリントンのような柄の大きい音楽家は基本的にレコードには向かないなあと思う。同じことは、例えばロリンズにも感じる。それでしか聴くすべが
ないから我々はレコードを聴くわけだけど、それが傑作であればあるほど、欲求不満の度合いが増していく。この人たちは本当はこんなもんじゃない
はずだ、というのが直感的にわかるからだ。彼らはレコードの中ではいささか窮屈そうだ。

エリントンのレコードが膨大にリリースされ続け、コレクターが際限なく買い続けるのは、どれだけ聴いてもその実像を感じきることができない、
という無意識のフラストレーションから来ているんじゃないか、とさえ思えてくる。エリントンのレコードを買うのは難しい。


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