廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

日本ビクター盤で聴く "Waltz For Debby" の愉楽(3)

2021年11月27日 | Jazz LP (国内盤)

Bill Evans / Waltz For Debby  ( 日本ビクター SMJ-6118 )


日本ビクターが75年にリリースした第2回目のプレス。この時に選ばれたマスターはアメリカのマイルストーン・レーベルのマスターだった。
だから、第1回目のペラジャケとは当然音が違う。マイルストーン・レーベルのマスターは以前このブログでも取り上げた通り、キープニューズが
版権を買い戻してファンタジー社のエンジニアにリマスタリングさせたものだが、どうやらビクターも更にマスタリングし直しているようだ。

マイルストーン盤のナチュラルさをベースにしながらも、各楽器の音の輪郭が格段にクッキリとしていて、より生々しくなっている。
1番改善されているのはモチアンのブラシで、音圧が上がり、音楽がより踊っている。このアルバムの成功の立役者がモチアンだったことが
この版を聴くことで初めて明らかになる。

そして、店内の客の会話がより遠くの席のものまで聴こえ、店員がグラスをかたずける様子も非常に生々しく聴き取れる。
これが音場感の奥行きを作り出していて、あたかも自分が店内に座っているような感覚を生み出すのだ。

エヴァンスの音も美しく、ラ・ファロのベースも音が締まり、音楽の真価が目の前に立ち現れてくる。
"Milestone" でスティックに持ち替えたシンバルの音の質量の変化までが手に取るようにわかる。

アメリカのステレオ・オリジナル、国内初版、そしてこの盤へと聴き進んでくると、ここで急にサウンドの視界がクリアになり、
高級な質感に変わることが明瞭で、これは否定のしようがない。オリジナルのクラシックとしての魅力は認めつつも、
そういうものを一旦横に置いて聴いてみると、日本ビクター盤が披露して見せたこの音の世界は、このアルバムの真価を改めて
世に問い直した瞬間だったのではないだろうか。

70年代はレコード制作の質が世界的に大きく劣化した時代。チープで粗悪なジャケット、薄くペラペラのレコード盤で物としての有難みが
急速に堕ちていったが、そういう時代に厚紙ジャケット、丁寧な仕上がりのプレス、そして何よりも音楽の質的転換をももたらした音質の向上を
やってのけた日本ビクター盤の存在意義はあまりに大きい。


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日本ビクター盤で聴く "Waltz For Debby" の愉楽(2)

2021年11月24日 | Jazz LP (国内盤)

Bill Evans / Waltz For Debby  ( 日本ビクター SR-7015 )


日本で最初にこのタイトルがリリースされたのは1962年ということになっていて、この年に本国アメリカを含め、西側各国でもリリースされた
ということになっている。欧州ではフォンタナやフィリップスがプレスしていて、リヴァーサイドの共同経営者だったビル・グラウアーが
海外販路拡大を狙って各社と提携を進めたが、その時、日本のような小国は考慮されていなかったようで、日本ビクターはフォンタナ社から
マスターを取り寄せてプレスしたらしい。そういう流れだったから、果たして62年に本当にリリースされたのかどうかは定かではないけど、
60年も前のことなのでよくわからない。しかも、欧米ではモノラルとステレオの両方がリリースされたが、日本はステレオだけの発売だった。
以降、日本ではモノラルは1度もリリースされなかったんじゃないだろうか。

いわゆる "ペラジャケ" での発売で、ジャズに限らずクラシックなども当時のプレスは概ねこの形状となっていて、当時は欧州のレコードを
お手本にしてレコードが制作されたのだろう。日本のレコード会社が海外のタイトルをレコードとして国内生産して発売したのはおそらく
クラシックの方が先だったろうから、その流れでジャズも欧州からの流れになったのだと思われる。

このペラジャケ盤の音は、オリジナル盤に近い音場感。私はフォンタナ盤を聴いたことはないけど、アメリカのステレオ初版と音質が似ている。
当時は日本でリマスターするという発想は無かったのではないだろうか。そういうエンジニアも少なかっただろうし、
まずは如何に海外盤に忠実に作るかということが最優先事項だったのだろう。

グラスの触れ合う音、観客の笑い声はそのままだし、エヴァンスのピアノの音のくすみ具合、ラ・ファロの弦の軋む音、モチアンのシンバルの
音量、そしてそれらの配合やバランス感が原盤に忠実に再現される。その意味で、ビクター盤のプレスレベルは高いと言っていいだろう。
これを聴いて音が悪いというなら、そもそもオリジナルを買う意味などない。


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日本ビクター盤で聴く "Waltz For Debby" の愉楽(1)

2021年11月20日 | Jazz LP (国内盤)
  
  


これまでさんざん書いてきたことだけど、日本ビクター盤はとてもいいレコードだ。

私はプレスティッジやリヴァーサイドのレコードに関してはビクター盤を聴いて育ったから、特別な愛着がある。
最低限の範囲できちんと調整されたオーディオ環境で音量を上げて聴けば、ビクター盤の本当の真価がわかる。
国内盤は音が悪くて、と言っている人がいたら、それはオーディオの設定がおかしいのだと思った方がいい。

もちろんすべてのタイトルが、というわけではないけれど、主要なタイトルに関してはビクター盤には固有の素晴らしさがあって、
とても楽しみながら聴くことができる。だから、例えば "ワルツ" に関しては4つの版を聴いていて、これが全部違う音であることを承知している。
この違いが楽しいのである。

ビクターが最初に "ワルツ" を出したのは1962年で、オリジナルと同じ時期ということになる。以降、70年代、80年代、90年代と
10年おきにプレスし直してリリースしており、これは律儀で真面目な日本人だらかこそ、の仕事である。

このタイトルのオリジナル盤は高音質でもなんでもなくて、滋味に溢れた穏やかなサウンドであることは周知の事実。
そこで、果たして日本ビクターがこれをどう料理したか、というところが最大の聴き所ということになる。

人気作なので2000年以降も再三リリースされているが、それらは未聴。それらもきっと違いがあって面白いのだろうけど、
そこまでは手が回らない。ビクター盤だからこそ何枚でも聴いてみよう、という気になるのだ。



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上善は水の如し

2021年11月14日 | Jazz LP

John Puchett / Meet John Puckett And His Piano  ( 米 King Records 546 )


部屋の模様替えをする必要があって、レコードの棚卸をしていたら出てきたレコード。持っていることなんて、すっかり忘れていた。

正体不明のピアニストで、ネットで調べると過去に言及されたのはマイナー盤に光を当てる "A Place In The Sun" での記事1度のみ(さすが)。
面白い話が紹介されていて、どこかのお店のHPで25万円で売られていて(どこだろう?)、それが売れたのを目撃したけど、どう考えても
こんな値段になるレコードには思えず、おそらくネット上の値段表記は桁間違いだったのだろう、という冷静な考察をされている。

実際のところはどうなんどろう、と以前旧ヴィンテージの池田さんに「どう思いますか?」と訊いてみたら、「確かに珍しいレコードだけど、
25万はあり得ない、どんなに頑張っても2~3万が限度だと思う」とのことで、常識ある人たちの結論はみな一緒だった。

桁間違いじゃない場合、こういう不可解な値段を付ける店と言えば1軒思い当たるフシが無きにしも非ずだけど、私が拾った時も1,700円だったし、
改めて中古レコードは水商売なんだよなと思わされる。このレコードを見るたびに「ぼったくりには気を付けなきゃ」と自戒の念を覚える。

正体不明のピアニストにこれまた正体不明のベースとドラムが付くピアノ・トリオによるスタンダード集だけど、上善如水のようなクセのない
ストレートな演奏で、カクテル・ピアノなんかではなく、ダレたり退屈するような感じはないけど、取り立てて印象に残るようなところもない。
変な先入観なく聴けば、まずまず普通のピアノ・トリオによるスタンダード集として聴ける。

新宿の東口界隈を歩いていると「路上勧誘は犯罪、ぼったくりに注意!」という街頭アナウンスがいつも大きな音量で流れている。
レコード漁りをした帰り道にこのアナウンスを聴かされると、「今日は俺、ぼったくられなかったかな?大丈夫かな?」とつい考えてしまう。


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日本版仏シネ・ジャズ

2021年11月07日 | Jazz LP (国内盤)

Modern Jazz Playboys / Modern Jazz Screen Mood  ( 日本 Nitchiku Industrial Company NL 1015 )


中古漁りはもう壊滅的な状況で、何1つ買えない状態が続いている。コロナ禍前は安レコ・ミドルクラスだったものが軒並み高額盤になり、
ちょっと信じられないような値段でセールに出ている今のこの状況は、一体何なのだろう。もう、ジャズの中古市場は終わったのかもしれない。

今、一番元気なのはJ-Popなんだろうなと思う。文化の日にレコード屋に行ったら竹内まりやのレコードが大量に並んでいて驚いたけど、
ああいう風に再プレスされるくらいだから、それだけニーズがあるということなんだろう。ロックも国内盤が景気のいい値段がついて
たくさん並んでいるから、それなりに盛況のように見える。やはりダメなのは海外の原盤に頼るジャズとクラシックで、特にジャズの状況の
酷さは際立っている。とにかく、レコードがないのだ。

そんな中なので、数カ月ぶりに拾ったのもこういうよくわからない安レコが1枚、という有り様。渡辺貞夫や宮沢昭らが仏シネ・ジャズを
やっていて、"殺られる" や "死刑台のエレベーター" を演っている。昔はこういうレコードが日本でもたくさん作られていた。
和ジャズには興味がないのでこのレコードがどういう位置付けにあるのかはわからないけれど、調べたらCD化もされているようだ。

演奏はしっかりとしていて、当時の日本のプレーヤーのレベルの高さがよくわかる内容だ。マイルス風だったり、ジャズ・メッセンジャーズ風
だったり、MJQ風だったり、とオリジナル・スタイルを基本的に踏襲した演奏になっている。ただ、やっぱり全体的には情感不足の印象は
避けられない感じだ。もう少し想い入れたっぷりに演奏すれば、もっとよくなっていただろうと思う。ただ、企画物だから所詮はコピーで、
さほど気合いは入らなかったのかもしれないし、まあ、それは仕方がないかなとは思う。



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