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廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

エリントンの手引きで

2020年05月18日 | Jazz LP (Reprise)

Bud Powell / In Paris  ( 仏 Reprise RV. 6098 )


1963年2月にチューリッヒにいたエリントンは紹介されて演奏を聴きに行ったダラー・ブランドのトリオを当時自身が契約していたリプリーズ社へ
働きかけて録音させたが、これと並行して同じく2月にパリにいたバド・パウエルにもリプリーズ社で録音させている。当時のパウエルは欧州各地の
クラブでの演奏は積極的に行っていたが、スタジオでのアルバム収録が少ない。アメリカからかつての仲間がパリにやって来た際に声を掛けられて
レコーディングに入る、という程度だったようだ。エリントンはそんな旧友に対して、スタジオに入ってレコーディングをするよう、勧めたのでは
ないだろうか。この2月のリプリーズ社のレコーディング・プロジェクトは、どちらかと言えばこのパウエルのほうがメインだったのかもしれない。

一聴すれば明らかなように、パウエルはとても調子が良かったようで、闊達な指捌き、陽気な唸り声、演奏の明るい表情などが強く印象に残る。
自身がよく知ったスタンダードばかりを選び、それらのテーマのメロディーの歌わせ方がとてもきれいだ。この部分一つとっても、パウエルの
意識がすっきりとクリアだったことがわかる。

全盛期の神憑りの演奏と比べて取っ付きやすいと言われることが多くて、それはそうかもしれないけれど、やはりこれはどこからどう聴いても、
パウエル特有のピアノ演奏だ。この独特のタイム感、ノリの感じはパウエルだけのもので、全盛期と言われる頃の雰囲気そのままである。
誰にも追い付くことのできない疾走するシングルノートによる長いフレーズなどは出てこないけれど、このゴツゴツとした固有のノリはまったく
失われていない。表情の明るさが際立っている分、却って昔にタイムスリップしている感すら漂う。

当時、既に早くからフランスに移住していた "カンサス・フィールズ" によるしっかりしたドラムにも支えられて、トリオの演奏には華と勢いがある。
「晩年のバド・パウエルは・・・」というネガティブな枕詞は必要ない。バド・パウエルだけがみせることができたジャズの神髄の1つを聴けばよい。
レコーディング終了後、レコードはすぐにアメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、アルゼンチンなどの各国で発売された。
世界中がバド・パウエルを待っていたのだ。


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セロニアス・モンクの研究

2020年05月17日 | Jazz LP (Reprise)

Dollar Brand / Duke Ellington Presents The Dollar Brand Trio  ( 米 Reprise R-611 )


1963年に欧州を巡演していたデューク・エリントンがダラー・ブランドのことを知り、LP3枚分の録音をさせて、その中からセレクトして
リリースされたのがこのアルバムで、これがアメリカ市場でのデビュー盤となった。だから、このアルバムは一定の意図をもった編集が
されていて、このアルバムを聴いてダラー・ブランドはこういう人、と決めつけると見誤る可能性がある。

とにかくモンクの "Brilliant Corners" を演っているのが驚きで、ほとんど誰も演奏しないこの難曲のオリジナルの雰囲気をバッチリと再現していて、
これが後について回る「モンクの影響を受けた」という解説に繋がっている。他は自身のオリジナル曲で、ピアノの弾き方は明らかにエリントン~
モンクの中を通過している最中。この時期は、まだ手探りで模索している様子がありありとわかる。エリントンにしてみれば、自分と同じ匂いを
嗅ぎ取ったからこそ手を貸したのだろうけど、後の姿を知っている我々にはまだ習作の時期だったんだよ、これは、ということがわかるのである。

音数の少ない、隙間の多い弾き方で、"African Piano" と同一人物だとはとても思えない。楽曲もモンクの作風を真似たものが多く、その研究成果は
上々だと思う。まじめにモンクを研究し、愚直にコピーするところから始めたんだろう。まだ本来の個性は表出していないけれど、打鍵のタッチが
きれいで、ピアノの上手さが強く印象に残る。

ピアノ・トリオとして聴けるレコードは少ないので、そういう意味では貴重な1枚。次作からはこういうモンクへの心酔からはきちんと卒業して、
自分の道を歩き出そうとする姿が捉えられている。そうなる前の珍しい姿が記録された1ショットだ。


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