廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

たった1枚のリーダー作(2)

2024年06月23日 | Jazz LP

Richard Williams / New Horn In Town  ( 米 Candid Records CJM8003 )


リチャード・ウィリアムスの演奏はいろんなところで聴くことはできるけれど、リーダー作はこの1枚しかない。しかもそれがキャンディドなんて
日陰のレーベルだったこともあり、ここまでたどり着ける人はあまりいない。でも、たどり着けた人は幸いである。何と言ってもこのアルバムは
最高に素晴らしい作品だからだ。ビッグバンドを渡り歩いたそのキャリアが影響したのかもしれないけど、一時期ミンガスのグループにいたことが
あって、その縁でミンガスがキャンディッドへ紹介したとも言われているけど、その辺りの経緯はよくわからない。

共演しているメンバーも彼と同じようなタイプの人たち、つまり実力はあるのにリーダー作には恵まれなかった人たちばかりが見事に揃っていて、
よくもまあここまで、という感じなんだけど、だからこそ一層このクオリティーの高さには驚くことになる。昔はこのアルバムの良さはそこそこ
知られていたが、今では完全に忘れられた感がある。

よく鳴るトランペットだが、ただ音が大きいだけではなく、優雅で内省的な響きを帯びていて抒情感が濃厚な音色。音程も正確で運指もなめらか。
それらの美点は2曲のバラードで真価を発揮する。よく歌うメロディーで心を奪われる至高の名演だ。その他の楽曲でもトランペットの音色が
印象的で、単なるストレートなハードバップには終わらずワンランク格上げされた音楽になったような感じだ。そこが素晴らしい。

このアルバムは1960年の9月にニューヨークで録音されているが、それはこういう粋なハードバップの演奏ができるのはギリギリの時期だった。
もはや独自の個性が求められる時代であり、いくら音楽が良質であってもそれが他人を押しのけるようなものでないと生き残れないような状況
だったせいでこの後が続かなかったんだろうと思う。このアルバムを聴いていると押しつけがましさのない素直さを感じるけど、こういう人柄の
良さだけではアルバムを作ることは許されなかったのではないだろうか。そう思うと何とも切ない気持ちになる。



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複雑な思い(2)

2024年06月15日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Bud Shank / Bud Shank Plays Tenor  ( 米 Pacific Jazz Records PJ-4 )


バド・シャンクのレコードはたくさん残っていていろいろ聴いてきたが、いいと思えたアルバムは非常に少ない。アルバム作りが下手だったという
ことなんだろうけど、そんな中でこのアルバムは出来がいいと思った数少ない一枚。

まず、楽器の持ち替えをせず、サックス1本でじっくりと吹いたところが何よりいい。正直言って、この人のフルートには良さは何もないと思う
けど、本人は気に入っていたのか、アルバムの中で多用した。でも、これが聴いていてまったく面白くない。早く次の曲に行ってくんねえかな、
と思いながら聴くことになり、面白くないからそのアルバムは聴かなくなるのだが、このアルバムにはそれがない。

そして、意外にもテナーの演奏に味わいがある。音色はズート・シムズに似ていて、フレーズはスタン・ゲッツによく似ている。イメージしやすい
ように説明するとそういうことになるが、それらの物真似をしているということではなく、この人独自の個性として演奏によく表れている。
音色に深みがあり、リズムによく乗る演奏で素晴らしいと思う。ズートやゲッツのワン・ホーンアルバムを聴いた時と同様の満足感が残る。

バックのトリオは当時の常設メンバーで "Quartet" と同じだが、こちらの演奏は悪くない。クロード・ウィリアムソンも別人のような陰影感のある
演奏をしており、音楽全体が上質な仕上がりになっている。このアルバムはワン・ホーン・テナーの傑作と言っていい。

でも、それがアルト奏者だったはずのバド・シャンクのアルバムだと言うところがなかなか複雑なのである。たくさんのアルバムを作る機会があり、
実力も十分あったはずなのに、なぜアルトでこれが出来なかったのかと文句の1つも言いたくなる。これは57年の録音で、彼は60年代に入っても
アルバムを作ったがイージーリスニングの色が濃くなり、ジャズの主流からは遠のいていく。渡欧せずアメリカに残って音楽で食っていくには
そうするしかなかったわけだが、おそらくそれは本意ではなかっただろう。50年代後半のごく限られた短い時期にどれだけの傑作を残せたかで
その後の評価が決まったこの世界で決定打が出なかったのは何とも惜しいことだった。



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複雑な思い

2024年06月08日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Bud Shank / Bud Shank Quartet  ( 米 Pacific Jazz Records PJ-1215 )


バド・シャンクと言えばまずはこれなんだろうけど、このアルバムを語るのは難しい。

バド・シャンクを素晴らしいアルト奏者だと認識したのは、とある動画を見た時だった。(https://www.youtube.com/watch?v=P-keeHBoz8A
ワンホーンで前傾姿勢と取りながらひたむきに疾走する演奏がカッコよく、なんて素晴らしいんだろうと思った。そして、この素晴らしさが
彼のレコードには収められていないのが残念だなあとも思った。

退屈なアレンジものを量産した西海岸のレーベルの中でこのレコードは目を引く存在だ。アンサンブル要員の1人に過ぎなかった彼が群れの中から
抜け出してワンホーンで臨んだ作品で、ジャケットの意匠も素晴らしく、本来であれば名盤となるはずだっただろうけど、そうはならなかった。

まず、バックのピアノ・トリオの演奏が単調過ぎる。クロード・ウィリアムソンの悪いところが出ていて、抑揚も陰影もなく一本調子な演奏は
単調で味気ない。ベースとドラムの演奏も弱々しくて覇気がなく、音楽に厚みがない。この凡庸さが悪目立ちしていて、バド・シャンクの演奏の
良さを感じる上で障害物になっている。

選曲もあまり良くなくて、音楽的魅力に欠ける。演奏仲間のボブ・クーパーやウィリアムソン作の曲を取り上げる気持ちはわかるけど、楽曲と
してはつまらないし、そこにエリントンやマイルスの曲を入れても喰い合わせが悪い。せっかく "All This And Heaven Too" なんていうメル・
トーメも歌ったいい曲を取り上げているんだから、そちらに寄せてもよかったのではないかと思う。曲が良ければ他の欠点をカバーしてくれる
場合もあるのだが、それがここではなかった。

このアルバムは1956年の録音で先の動画の6年前ということもあり、バド・シャンクの演奏は上手くてきれいな演奏ながらもその1歩先の力強さに
欠けていて、演奏の力で聴き手を説得するようなところがまだない。観賞する上では申し分ないけれど、あと少し訴求力があればもっといいのに
と思わずにはいられないところがあるのが惜しい。

まだ若い頃の演奏だから多くは望まず、もっと寛容な気持ちで聴けばいいのはわかっているけれど、退屈な演奏が多いウェストコースト・ジャズの
中では「これは」と期待させる条件が揃っているレコードなので、つい、ぜいたくなことを言ってしまう。そういう複雑な気持ちになるのが
このレコードなのではないか。



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