廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

これも傑作

2022年10月30日 | Jazz LP (Riverside)

Sal Nistico Quintet / Comin' On Up !  ( 米 Riverside RM 457 )


マンジョーネ兄弟のバンドは当時無名の若者たちで構成されていたけど、その中でテナーを吹いていたのがサル・ニスティコだった。
19歳でバンドに加わり2年間活動を共にしたが、そこでのプレイが認められたのだろう、リヴァーサイドに2枚の自己名義アルバムを残している。
ソロ第2作のこのアルバムはバリー・ハリス、ボブ・クランショウらリヴァーサイドお抱えのピアノ・トリオがバックを支える、如何にもこのレーベル
らしい滋味溢れるカラーに染まった傑作に仕上がっている。

冒頭はパーカーの "Cheryl" で幕が開き、ビ・バップのムードで始まる。太くどっしりとしたテナーの音色がよく映える演奏で、ジャズの濃厚な匂いが
部屋に充満するが、2曲目になるとユーロ・ロマネスクな楽曲へと変わり、まるでダスコ・ゴイコヴィッチのアルバムのような雰囲気に一変。
その後も陽気なカリプソ調な楽曲だったり、翳りのあるスタンダードだったり、と何とも引き出しの多い展開になる。

それが散漫な印象にはならず一本筋が通った纏まりの良さがあるのは、ニスティコの太い幹の大樹のようなテナーのおかげだ。21歳の若者が
吹いているとは思えない落ち着きと上手さで、音楽が非常に引き締まっている。リーダー作がなかったトランペットのサル・アミコもデリケートな
フレーズを紡ぐいい演奏で楽曲の幅を拡げているし、バリー・ハリスもフラナガンのような趣味の良いサポートをしており、それらが一体となって
上質な音楽に仕上がった。最後はマイルスの若い頃の楽曲 "Down" で締め括られて、うまく着地する。このアルバムはとてもいい。

3大レーベルの中でこの時期にこういう無名の白人の若い演奏家のアルバムを作っていたのはリヴァーサイドだけだった。ブルーノートは
新主流派を牽引しようとしていたし、プレスティッジはソウル・ジャズへ舵を切ろうとしていた。白人ミュージシャンは発表の場がなく、
埋もれたままで終わった人たちも多かったのだろう。そんな中でセールスの見込みもない若者に機会を与えたリヴァーサイドは偉かったが、
その期待に満点以上で応えた彼らも立派だった。時代が変わる節目のど真ん中にいた若者たちが、その時に何をやろうとしていたかを捉えた、
これは本当に貴重な記録なのである。


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実は大傑作

2022年10月25日 | Jazz LP (Riverside)

The Jazz Brothers / Spring Fever  ( 米 Riverside RLP 405 )


当時、リヴァーサイドの新人発掘担当をしていたキャノンボール・アダレイに見出された無名のチャック・マンジョーネは兄のギャスパールと
"The Jazz Brothers" を名乗ってデビュー、リヴァーサイドにアルバムを3枚残している。半年ごとに立て続けに録音していることから、
期待の新人だったようだ。

メンバーは全員無名の若手で、何とも溌剌とした気持ちのいい演奏をしていて、くたびれた大人の澱んだ心を浄化してくれるようだ。
若者らしく、アルバムを出すごとに音楽が眼に見えて進化しているのが凄いが、最終作であるこのアルバムが実は大傑作に仕上がっている。
それまでのアルバムと様子がまったく違っていて、少し欧州ジャズっぽい雰囲気が漂う。

バンドとしての纏まりの良さが格段に進歩していてリズム感も抜群だが、ただ勢いに任せるだけではなく十分な間を生かせるようになっており、
静寂をうまく表現する瞬間が随所に見られる。そこにチャックの濡れたラッパの音が切なげに鳴り響く様が圧巻。"朝日のように爽やかに" では
マイルスとギル・エヴァンスが "Dear Old Stockholm" でやったアレンジを取り込んで恐ろしくカッコよく仕上げていて、こういうところが
欧州の若者たち、例えば The Diamond Five のような若者たち、がジャズへの憧れを抱いて演奏した感覚と共通している。如何にも50年代の
ジャズを聴いて育ちました、という感じがストレートに出ていて、そういう飾り気のない素直さが聴いている私の心を打つ。

デビュー・アルバムのいささか肩に力の入った硬さなどはここでは皆無で、メンバーたちの余裕のある一体感や演奏のキレの良さは素晴らしく、
こんなにも短い期間でここまで成長するのかということに軽い嫉妬混じりの羨ましさを感じずにはいられない。

タレント・スカウトのキャノンボールはいい仕事をしたが、期待に応えた5人の若者たちも立派だった。この素晴らしい勢いがここでプツリと
途切れてしまうのが何とも惜しいが、それでもこうして傑作が残ったというのは有難いことだった。



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ステレオ盤の圧勝

2022年10月22日 | Jazz LP

Jimmy Raney / Two Jims And Zoot  ( 米 Mainstream S / 6013 )


このレコードはモノラル盤が多く流通しているが、とにかく音がこもっていて音楽の良さがさっぱりわからず、残念なレコードの筆頭だった。
シブいメンツが揃った内容的には最高であるはずのレコードだが、まあ、音が悪い。ズートが入った盤なのに何とも残念だよなあということで、
エサ箱で見かける度に手にとっては見るものの「これ、音が悪いんだよなあ」とため息をついて、後ろ髪を引かれつつも毎回スルーしていた。

ところが、あまり見かけないステレオ盤が転がっていたので拾ってみると、これが音が良くてびっくり、目から鱗が落ちた。
ジミー・レイニーは右チャネル、ジム・ホールとズートは左チャネル、スティーヴ・スワロウとオジー・ジョンソンは真ん中、というよくある
中抜けのサウンドだけど、スピーカーから出る音は違和感なく定位しており、なにより楽器の音がハイファイでクリア。
特にいいのはズートで、深みのある淡くまろやかな音色がサイコーである。60年代のズートの演奏では、これが最も音がいいのではないか。

ツイン・ギターによる粗い網目の中をズートのテナーが悠々と揺蕩うように泳いでいく。ピアノレスなので全体が落ち着いた雰囲気で、
ひんやりと冷たい空気が漂う。趣味の良い人たちが夜中に集まって、静かに語り合っているような親密なムードがとてもいい。

知らない楽曲が多い中、ジム・ホール作の "All Across The City" の寂寥感に泣かされる。短く儚い演奏だが、ズートにしか出来ない究極のバラード
演奏が心に染みる。モノラルではわからなかったこのレコードの真価が、ステレオ盤を聴くことでようやくわかった。


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ドリス・パーカーの趣味

2022年10月16日 | Jazz LP

Yusef Lateef / Lost In Sound  ( 米 Charlie Parker Records PLP-814-S )


チャーリー・パーカーの法定相続人だったドリス・パーカーが散逸した彼の音源資産を守るために興したのがこのレーベルだが、パーカーの演奏
以外にもオリジナルアルバムをいくつか作成していて、これがなかなか聴かせるものが多い。このアルバム裏面のライナーノーツも彼女自身が
書いており、多面的な側面を持ったラティーフの真の実像をここで紹介したい、と率直な想いを書き残している。彼女にはレーベル・オーナー、
レコード・プロデューサーとしての才能があったようでこれには驚かされるが、パーカーと結婚するような人だから元々只者ではなかったのだろう。

彼女が言うように、ユーゼフ・ラティーフはフルートやオーボエなどを操りながら第3世界の音楽要素をミックスした独自の世界観を表現する
アーティストで、我々凡庸なリスナーにはなかなかその実態がよくわからないというのが正直なところだろう。そのエキゾチックな雰囲気から
カルト的アーティストとして一目置かれてはいるが、彼への理解度はその範囲を出ることはない。それは当時も同じだったようで、ドリスは
そういう呪縛を払拭させるために彼にテナーに専念させ、トランペットとリズム・セクションを充ててごく普通のハード・バップを演奏させている。
ラティーフ以外はまったくの無名アーティストたちだが演奏はしっかりとしており、一体どこから連れて来たんだ?とこれにも驚かされる。

ラティーフのテナーの硬質な音色が気持ちいいサウンドで、フレーズも普通のコード進行をベースにしたもので、彼の演奏としてはこういうのは
珍しい。トランペットもケニー・ドーハムやブルー・ミッチェルを思わせるような音色とフレーズで、何だかリヴァーサイドのレコードを聴いている
ような気分にさせられる。バックのピアノトリオ(特にドラムス)の演奏が闊達で、土台がしっかりとしているとこが素晴らしい。

どうも突拍子もないフレーズは吹くなと指示を受けていたような雰囲気があって、ラティーフは極めてお行儀よく演奏しているので、
そういう意味では少し拍子抜けする感があるかもしれない。ここで聴かれる典型的なハード・バップはこのレーベルに残された他のアルバム
全体にも共通する雰囲気で、それがドリス・パーカーの音楽的嗜好だったのだろう。ジャケットやレコードの質感がチープなので典型的な
安レコとしてエサ箱の肥やしになっているが、内容は第1級のハード・バップが聴けるいいレーベルだった。



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最近の復刻盤事情

2022年10月10日 | Jazz LP (復刻盤)

Chet Baker / Sings Vol.2  ( EU Valentine Records 896701 )


世界的なレコード・ブームというのはやはり本当のようで、次々と新品レコードがリリースされている。過去の名盤の復刻もあれば、真っさらの
新作もあり、ユニオンのブログを見ているだけで楽しい。まあ、積極的に買おうという気はないので基本は眺めているだけなんだけれど、
ごく稀に「これはちょっと聴いてみたいな」というのがあって、手を出すこともある。

このチェットのアルバムもそんな1枚。"Sings And Plays" をベースに、他アルバムへ散逸していた歌物やおそらくは未発表だったものを
1枚に纏めて、例のカヴァーを流用して第2集という形にしてる。チェットのヴォーカルだけに集中できるという点で非常に優れた編集で、
これは有難いアルバムだと思う。ジャケットのカラーも新しいグリーンがよく効いていて、発色もよく、とてもきれいだ。

音質も良好で、"Sings And Plays" 収録の曲はオリジナルとまったく同じ音質で驚く。曲によって音圧や音場が異なっていて、どうやら
オリジナルのマスターを何もいじらずにそのままカッティングしているようで、それがよかったのではないか。音の鮮度がいい。
それにプレスの品質も高い。まるで溝に針が吸い込まれるかのように、きれいに完璧にフィットしているのが目に見えるようだ、
まったくノイズが出ない。イマドキのレコードプレスの品質の高さは本当に驚くべきことだと思う。

こうやって聴いていると、彼は随分たくさんの歌をこのレーベルに録音していたんだなあということに改めて驚かされる。
どれも飾り気のない歌い方だが、そこがよかった。上手い歌手はいくらでもいるが、まるで独り言を言っているかのように歌い、
それがこんなにも心地よい気分になる例は他にない。稀有な歌い手だった。

180gの重量盤というのはもはや常識になっているのだろう。薄っぺらい盤よりはその方がいいから、そのことについては何も文句はないが、
ジャケットの作りがいただけない。ちゃんと厚紙仕様にするべきだと思う。ラミネートコートしてあると、尚のこといい。
でも、そうするとコストアップになるんだろう。レコードというのは、盤よりもジャケットの方が遥かに金がかかる。
最近の新品レコードの課題はここにある。






John Coltrane / Blue Train ~ The Complete Masters  ( 米 Blue Note / UMG Recordings 454-8107 )


私の場合、ブルーノートの音はクセが強くて確かにジャズっぽいけれど、さほど音がいいという訳ではない、というのが昔からの持論。
だから、世間が言うほどの有難みは特に感じてはいないので、最新リマスターというのには興味がある。特に、このタイトルはステレオ盤が
聴いてみたかったので買ってみた。

結論としては、とても良好でいい音だと思う。音場感が立体的になって、3管編成の良さがより際立っていると思う。
私の好きなアート・ブレイキーの "Mosaic" のステレオ盤がちょうどこんな感じのサウンドで、非常に好ましい。すっきりとしているけれど、
しっかりと厚みがあって、ブルーノートらしい暗い残響感がちゃんと残っている。モノラルだと音が潰れがちなフラーのトロンボーンも
音色の輪郭がくっきりとしている。各楽器の位置関係が明確になり、それにより音楽そのものも整理されているように感じる。

ヴァン・ゲルダー自身のカッティングだと言われても違和感なく信じる人がいるかもしれない、そういう感じの音だと思う。
ブルーノートらしさが失われることなくしっかりと出ていて、音の輝きもブリリアント。うまいリマスタリングではないだろうか。

人によっては眉を顰めるであろう別テイクを収めた2枚目の方も、私は興味深く聴いた。繰り返しリハーサルをやったと言われるブルーノートの
録音の様子が手に取るようにわかる、というところに価値があるし、演奏自体もそんなに悪くない。どの別テイクでも、やはりモーガンが一番
輝いている。この日の彼はベスト・コンディションだったんだろうなということがよくわかる。

こちらはジャケットがラミネートコ-ティングされていて、写真の解像度も高く、オリジナルと比べてもまったく遜色ない。金がかかっている。
その分、値段が高いのが難点だけど、最近のビル・エヴァンスの未発表レコードのジャケットの質感のチープさを思えば、似たような値段でも
こちらはまだ納得できるのではないだろうか。とにかく気になるのが音質だろうと思うけど、ケチをつけるべきところは何一つない。
手に入れて後悔することは、まずないだろう。


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孤独なテナー

2022年10月09日 | Jazz LP (Savoy)

Bill Barron / Modern Windows  ( 米 Savoy MG-12163 )


テッド・カーソンのキャリア初期に相棒として活動を共にしたのがビル・バロン。ハード・バップの終焉時期に出てきたので、彼がやった音楽は
いわゆるニュー・ジャズ、冒頭の出だしはローランド・カークかと思うような感じで始まる。硬く独特なトーンでメロディー感の希薄なフレーズを
ぎこちなく紡ぐ。テッド・カーソンとバリトンのジェイ・キャメロンも同様のプレイで、全体的に捉えどころのない音楽が続くけど、それは決して
不快な感じではなく、この時代に固有の手探りで次のジャズを模索する様子が刻まれている。

ピアノは当然ケニー・バロンで、既に抒情的な演奏スタイルが出来上がっていて、彼のピアノが始まると清涼な空気が流れる。ピアノの音色も
これ以前にはいなかった優しく澄んだ独特なもので、耳を奪われる。その雰囲気はここでやっている音楽にはいささか馴染まないながらも、
その後の彼の活躍を知っている我々の眼から見ると「こんな時期からもう」という驚きを感じずにはいられない。

ビル・バロンのテナーの音は不思議と心に残るところがあって、その硬質で記憶には残りにくい音楽とは相反して彼のテナーの質感だけは
しっかりと自分の中に残る。だから、彼が50年代にハード・バップのアルバムを作っていれば、それはきっといい出来だったに違いない。
ただそうはならず、こういういびつな形の音楽の中で彼のテナーは孤独に鳴るしかなかった。

60年代はジャズをやるには難しい時期で、みんなが暗中模索だったし、脱落していくものも多かった。レコードを作っても売れるわけでもなく、
安いギャラで日々ライヴ活動をして生活していたが、その仕事もどんどん減っていき、ついにはジャズだけでは食えなくなる。それは今の時代も
さほど変わらないのかもしれないけど、ついこの前までは先人たちが普通にやっていてみんなが喜んで聴いていた音楽が、今は誰からも求められ
なくなり、それでもそういう状況の中でジャズ・ミュージシャンとして生きていくのはさぞかしキツかっただろう。そんな時期に作られたこういう
アルバムは人気もなく、今ではエサ箱の中で安い値段で転がることになる。そういう様子を見るとなんだか気の毒になって、そういうものをポツ
ポツと拾っては、当時の彼らの心情を想いながらひっそりとレコードを聴くのである。


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隠れた実力派

2022年10月02日 | jazz LP (Atlantic)

Ted Curson / The New Thing And The Blue Thing  ( 米 Atlantic 1441 )


1964年に欧州へ演奏旅行へ行った際にジョルジュ・アルバニタと知り合いになり、それが縁となって帰国後に彼を含めて録音されたのが
このアルバムということらしい。ビル・バロンという曲者も加わり、硬派でいながらもストレートなジャズとなっている。

キャリアのスタートからセシル・テイラーやミンガスのバンドで演奏してきたこともあり、アヴァンギャルド派の印象があるのか、
日本では人気が無い不遇なミュージシャンの代表格のような人だが、この人の作品はどれも硬派な内容だが、聴きにくいということはなく、
真面目に音楽に取り組んだ成果がアルバムの中に刻まれている。

タイトルが暗示するように、既存のハード・バップやモードの語法に拠らない、第3の感覚のジャズということになるのだろうけど、
この路線はブルーノートの4000番台を含めて60年代の一大勢力だったわけで、その中でもアルバニタがアメリカのピアニストとは
一味違う色彩感で演奏していることもあり、新鮮な空気感が漂っている。アトランティックのサウンドの中で鳴るアルバニタのピアノは
マッコイのような音色と響きに聴こえるとこが面白い。また、ビル・バロンのテナーが太く硬い大木の幹のような存在感を発揮していて
音楽に重量感があり、浮ついたところがないのが好ましい。

テッド・カードンのトランペットの技量は高く、上手い演奏をするなあと感心させられる。ミンガスのバンドで相当しごかれたんだろう、
演奏に安定感があり見事だ。"Star Eyes" をバラードとして演奏していうけど、情感の込め方も上手く、一流の演奏家だったことがわかる。
あと10年早く生まれていたら、一端のミュージシャンとして人気を獲得していただろう。



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