廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

深化した好みを満たしてくれるもの

2014年08月31日 | Jazz LP (Prestige)

Cedar Walton / Cedar !  ( Prestige PRST 7519 )


未知の音盤を物色していて、これは聴いてみようと思うポイントはいくつかありますが、その中の1つにピアノを誰が弾いているか、というのが
あると思います。 近年の録音であればホーン奏者が未知の場合が多いのですが、その時にピアノがケニー・バロンだったらまず間違いないだろう、
と思うように、古い録音の場合はシダー・ウォルトンなら間違いないな、と思うことが多いです。

ピアノトリオのレコードがたくさん作られた最初のピークは50年代ですが、この人の名前がレコードで見られるようになるのは60年代に入ってからで、
デビューがあと5年早ければ代表作と言われるようなピアノトリオのレコードがどこかのレーベルで作られていたのになあ、と残念に思います。
ピアニストにとっては名刺代わりになるので、そういうのがあれば仕事がしやすかっただろうに、いささか気の毒になります。

コルトレーンのジャイアント・ステップスやショーター時代のジャズ・メッセンジャーズへの参加でグループサウンドへの貢献を学んだ後で
録音された本作は、これ以上ない極上の2管クインテットを聴かせてくれます。

レコーディングはRVGではなくリチャード・アルダーソンですが、ドーハムのトランペットのナチュラルな音やジュニア・クックの二枚目なテナーの音色も
素晴らしくて、レコードを聴く快楽を与えてくれます。 これは67年の録音ですが、この頃のプレスティッジやリヴァーサイドにはこういういいレコード
がザクザクあって、値段も安いし、もう最高だよな、と思います。 昔レコード漁りをしていた頃はプレスティッジといえばN.Y.Cラベルの若い番号の
ものばかり欲しがっていましたが、音楽の深みが見えてくると、欲しいと思うレコードの対象がこのあたりへと完全にシフトしてしまいました。 




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今週の成果

2014年08月30日 | Jazz CD
なぜか急に涼しくなった1週間でしたので、久し振りに少しつまんでみました。





■ Willem Breuker Kollektief / Metropolis  ( BVHAAST CD 8903 )

名前はもちろん知っているけど、どれを聴けばいいのかよくわからなかったし、いわゆるフリーだし、ということであまり積極的な興味もなく
ここまで来ていたのですが、安いのにぶつかったので聴いてみました。

あのー、これ、ジャズじゃないですよね!? ただの軽音楽です。 映画音楽やライトクラシックに所々でチャルメラ風ソプラノが入るだけ。
ハイドンのコンチェルトやヴォルフの小品が出てくるのですが、こんなのをこのアルバムでやる意味って、一体、何?
調べてみると、この人の音楽はこういうものらしい。 まあ、それならそれで別に構いませんが、なぜこれをフリージャズという括りに入れる必要が
あるのかがさっぱりわかりません。 もしかして、サックスを吹いているから、なんて理由じゃないでしょうね?

欧州にはジングシュピールという伝統が脈々と流れているので、もしかしたらその系譜なのかもしれませんが、どうも私には音楽への敬意が欠落している
ような感じがして、いささか嫌な感じを覚えました。


■ Anthony Braxton / For Aito  ( Delmark DE-420 )

その筋では泣く子も黙る名盤ですが、これまた今までちゃんと聞いたことがなかったので買ってみました。 CDでは意外に見かけないような気がします。

これは文句なく素晴らしい演奏です。 イメージ通りのフリーですが、同時に、無伴奏アルト組曲、と呼びたくなるような格調高さすら漂っています。
アルトソロ、と言えばオーネットのチャパカ組曲で(正確には違いますが、時々そよ風がさっと吹く程度にバックが鳴るだけなので、実質的には
無伴奏と言っていい)、どうしても比べてしまいますが、同じフリーとはいえ、このブラクストンという人はかなり構造的に音楽を捉えているんだなあ、
と直感的に感じます。 逆に、オーネットは脱構造的です。

このCDはアルトの音がとても生々しくきれいに鳴ります。 最後まで途切れることなく一気に聴けるし、このCDで十分ですね。






■ Zbigniew Seifert Quartet / Nora  ( GAD Records CD 001 )

まったく知らない人でしたが、アルトのワンホーンで「廃盤」「当店推薦盤」とのことでしたので買ってみました。

ポーランドのミュージシャンで、一般的にはジャズ・ヴァイオリニストとして知られているんだそうですが、活動初期はアルト奏者だったようで、
これは1969~1970年にワルシャワで行われた3つのライヴ公演での演奏を集めたものだということが判りました。

時代が時代だけにコルトレーン・カルテットの影響が色濃く、ポスト・モーダルなジャズを中々アグレッシブに演奏しています。 
演奏はいいのですが、録音があまりよくないです。 これだから、ライヴ録音はあまり好きではないのです。 
他にアルトでの録音があれば聴いてみたいですが、どうやら無さそうで残念です。 


■ Nick Brignola / On A Different Level  ( Reservoir Music RSR CD 112 )

コレクターには Reese Markewich Quintet のレコードでお馴染みのバリトン奏者のワンホーン。 バロン、ホランド、ディジョネットという
魅惑のトリオが聴きたくて買ったのですが、バリトンもペッパー・アダムス系で好きなタイプです。 とにかくこの人はバリバリバリバリと
延々と吹きまくります。 よくもまあ、ここまで吹き続けられるもんだ、とあきれつつも感心してしまいます。

バリトンという楽器はソロ楽器には向いていないにも関わらず、こうやってアルバム1枚をつくってしまう人が何人も現れて止まないのは
この楽器にはきっと演奏する上で何か魅力があるんでしょう。 聴く側にしたって、普通に考えればお世辞にもきれいな音とは言えないのに
こうやって最後まで聴いてしまってそれなりに感動しているのですから、楽器というのは不思議です。

ペッパー・アダムスはこの楽器が持つ独特の効果音をうまく使って聴き手を魅了しましたが、この人はまるでアルトかクラリネットのように
この楽器を軽々と扱っている感じがします。 内容も現代の優秀なハードバップで、これはとてもよかったです。



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Red Garland の凄み

2014年08月24日 | Jazz LP (Prestige)

Red Garland / Revisted !  ( Prestige PRST 7658 )


レッド・ガーランドのアルバムで私が一番好きなのが、このアルバムです。 先月のDUのセールの売れ残りの中にこれを見つけた時は嬉しかったなあ。

ここに収められた曲は Groovy のセッションと同時期に行われたものですが、なぜかその時点での発売が見送られて、ガーランドが故郷に戻って
表舞台から姿を消した後にプレスティッジが発売しました。 その際、元々モノラル録音だったものがステレオへリマスタリングされて、
ジャケットの表面の上部に朱書きで、" This Album Has Been ELECTRONICALLY REMASTERED For Stereo " とコメントが書かれています。 
そのせいか、ジャケットの番号は PR 7658 なのに、盤面の番号は PRST 7658 となっています。

さほどステレオへの変更による恩恵があるとは思えないし、RVGのモノラル録音の音の太さは後退してしまっているのですが、不思議な陰影を帯びた
シックな音場には独特の魅力があるように思います。 

アルバムの最後に収録された "It Could Happen To You" の演奏がとにかく素晴らしくて、この曲がガーランド最高の名演だと思います。
技術的にどうこうではなく、この曲の魅力をここまで上手く表現したものは歌ものやインストものも含めて他には見当たりません。
冒頭のソロによる導入部分の感情の込め方やそこからチェンバースとテイラーが加わる入り方などは何度聴いても鳥肌が立ちます。
ドラムのブラッシュの気持ちよさ、ブロックコードによるメロディーライン、たっぷりとタメの効いたスイング感などが相俟って深い陶酔感を
憶えます。 こんな気分にさせられる演奏は他に思いつきません。 この曲があるから、このアルバムが一番好きなのです。

レッド・ガーランドはみんな知っているような気がしているだけで、実際はあまりよく知られていない人だと思います。 なぜ、ある時期から急に
姿を消したのかだって、よくわかりません。 母親が病気になって看病するために故郷に戻ったのだとか、ロックの台頭に嫌気がさしたからとか、
まあ諸説あるようですが、本当のところはどうなのかが実はよくわからないのです。 

誰にとってもわかりやすい演奏をしたせいで誰もが食傷気味で軽く見られていますが、昨今のよくわからないピアノトリオ乱立状態の中で
この人のことをふと想い出すと、その演奏の本当の凄さが身に沁みてきます。 コレクターは相変わらず Groovy ばかりに高値をつけて
同時期の録音であるこの盤に見向きもしない様子を見ると、ガーランドの価値を貶めたのはコレクター達なんじゃないか、と悲しくなります。




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優れた新譜たち

2014年08月23日 | Jazz CD
先週、今週とも、中古CD漁りはやりませんでした。 西日本の記録的豪雨が甚大な被害をもたらす中、なぜか都内はまったく雨は降らず、
逆に日中は雲一つない空から太陽光線が照りつけて、とても外を歩くことなんかできない状態でした。 暑いのではなく、熱いのです。

なので、今月手にした新譜で良かったものを少し。





■ Xan Campos / Canjazz Reunion   ( Free Code Jazzrecords FC42 CD )

最近元気のいいポルトガルの新興レーベルから少し前に発売されたものですが、DUの店頭で試聴して、不覚にも1曲目で身体が揺れてしまいました。
ゆったりとテンポよくグルーヴするとてもいい曲です。 ギターのまろやかなトーンが素晴らしく、全体のサウンドカラーがセピア色のようです。
少しクラブジャズっぽい雰囲気がありますが、あくまでも雰囲気程度に留めてあって、瑞々しいジャズになっています。

そして、めっけものがテナーの Marcus Stricklandで、レスター系の音色を見せながら現代的な感覚で吹いていく様は素晴らしいです。
この人のCDを少し探してみよう、と思います。


■ Don Menza / Bones Blues  ( Delmark Records Sackville SK 4004 )

77年に録音されたテナーのワンホーンの復刻。 実力派、と言われながらも、ビッグ・バンドでの活動がメインだったためリーダー作があまり
残されておらず、まともに評価されることが無い人です。 まずCDの音の良さにびっくりさせられますが、ロリンズにとてもよく似た音色で
名曲たちを淡々と吹いていきます。 バックのピアノトリオも上手く、選曲にも変化があるので、一切ダレることなく最後まで聴けます。

ドン・メンザはただひたすらに誠実に吹いて行くので、その真摯さに心を打たれます。 さすがに演奏も抜群に上手く、これは素晴らしいです。
Poor Butterfly なんて懐かしいロリンズの演奏を思い出してしまい、ジーンとさせられます。






■ Charles Davis / For The Love Of Lori  ( reade street Records reade-1111-cd )

この人も Sun Ra での活動が長く、これといって知られたリーダー作もなく、まともに愛好家から評価されたこともないでしょう。
そういう人のリーダー作が作られるというのは素晴らしいことです。 スター不在の時代だからかもしれませんが、貴重な作品であることは
間違いないので、きちんと聴いてあげたいですね。

tpとtbの加わった6重奏団ですが、ご老体のチャールズのテナーは音程はふらつくし音も弱いしで、多管編成とせざるを得なかったようです。
ただ、ジョー・マグナレリのtpがチャールズ以上に音程が不安定でよく外れるので、テナーの不安定さが目立たないという皮肉な結果になっている。
唯一安定しているスティーヴ・デイヴィスのtbがアンサンブルのキーになっています。

ところが、部分部分を見るといろいろあっても、音楽全体は非常に安定した穏やかさを見せていて、これがすごくいいのです。
セクステットのハードバップだからといって、なにもガンガン、ゴリゴリだけが魅力じゃないことをこの盤が証明しています。

DUの試聴で一発で気に入って、即買いでした。 貴重な演奏でもあるし、多くの人に聴いてもらえるといいなと思います。


■ Sergio Gruz / Point De Vue  ( Bop City BOPY 10005 )

アルゼンチンのピアニストによる2管クインテットで、ミンガス、モンク、ゴルソンの楽曲を取り上げたもの。 こちらも再発です。
このピアニストのことは知りませんでしたが、どうやらこの人には異色の才能があるようです。 

お馴染みの楽曲を取り上げているにも関わらず、どの曲も独特な解釈とアレンジがされていて、原型をほとんどとどめていないのです。
だから、どれもまるで初めて聴く曲のような、まったく別の曲を聴いているような感じがします。 特に驚かされるのはモンクの "Reflections" で、
まるでECMの現代音楽のピアノトリオを聴いているかのような仕上がりになっています。 こんな解釈は聴いたことがありません。

個性派揃いの作曲者の上を行く個性で楽曲全体が無国籍風に塗り替えられている、という意味ではキースのスタンダーズと似ているかもしれません。
ただし、それをクインテット全体でやってしまうところが中々凄いところだと思います。 

バップのような躍動感に煽られて聴くタイプではありませんが、不思議な雰囲気を漂わせるこの盤が今月の一番の当たり盤でした。
いろんな演奏があるんだなあ、と改めて実感した一枚です。




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汚れたレコードをクリーニングしながら

2014年08月17日 | Jazz LP (Riverside)

Ernie Henry / Seven Standards And A Blues  ( Riverside RLP 12-248 )


このレコードがうちに来た時は、ジャケットの表面には薄黒いリングウェアが土星の輪のようについていて、盤もジャリジャリというノイズが
出ていました。 これは返品かな、と思ったのですが、一応掃除だけはしてみるかと思い、盤はレイカのA液・B液で拭いてみるとノイズは
無くなりました。 問題はジャケットですが、このレコードは表面がラミネートコーティングされているので、試しにブラスティック消しゴムで
軽くこすってみると黒墨は消えていきます。 やりすぎるとラミネートも傷めてしまうので、時間をかけてゆっくりとこすっていくと、
思った以上にきれいになりました。 まあ、これなら返品することもないか、ということで一段落しましたが、そもそも買い手にこんなことさせるなよ、
と思いました。

レコードを購入する際にはいろんないきさつがあって、いいこともあれば悪いこともある。 愛好家はみんなそれで苦労していて、ネットでも
いろんな話を知ることができます。 買い手にも問題のある言動が多いのでしょうが、売り手にも最低限の礼節が欠けていると思うことが多いのも
事実です。 昔は購入チャネルが限られていたので買う側がいろいろ我慢しなければいけないことが多かったですが、現在はそんな我慢をする必要は
全くありません。 昔のことを知っている身としては、今の状況はまるで夢のようです。 今買わなければ今度いつ出会えるかわからない、
なんていうのはもはや今ではほぼあり得ない話だし、購入チャネルや機会の数の多さは圧倒的に買い手側に有利な状況なので、不愉快なことを
我慢する必要はない。 気持ちのいい音楽生活を送ることを最優先すればいいと思います。 買う際に不快なことがあったら、それは自分が
不必要な無理をしてしまったからなんだな、と思ったほうがいいんでしょうね。


アーニー・ヘンリーは大成する前に亡くなってしまった不幸な数多くのミュージシャンの1人ですが、レコードが残されたお蔭で今でもこの人のことを
語ってくれる人がいる、幸せな人です。 今では掃いて捨てるほどあるアルトのワンホーンも、この録音当時は数が少ないせいもあって、これは
レコードとしては少し目立つ存在かもしれません。 

ブリリアント・コーナーズに参加していたせいもあってか、クセのある吹き方だとよく言われますが、私はそう感じることはありません。
現代のいろんな演奏を聴いた耳には、意外と素朴で普通に伸びやかな吹き方に聴こえます。 タイプとしてはソニー・クリスを思わせますが、
アルトの音色そのものはキャノンボールにとてもよく似ています。 そこがオリン・キープニューズ好みだったんでしょう。

スタンダードを全てアップテンポで処理していて、全体的にはメリハリがなく音楽的な深みはありませんが、アルトの音と一本気な吹き方で
最後まで聴かせてしまう感じです。 内容的には特に優れているとは思いませんが、演奏の潔さを上手く捉えられているな、と思います。




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ちょっとまわり道

2014年08月14日 | Jazz LP (Blue Note)

Dexter Gordon / Gettin' Around  ( Blue Note BST 84204 )


一週間の夏休み、ダラダラと無為に過ごすのは最高の贅沢です。 天気のいい午後には都内をブラブラと歩き、気が向いたらDUに寄ったりします。
そういうゆるい時間の中でデックスの探していたアルバムが8,000円で転がっていました。 盤もジャケットもこんなにきれいな状態でこの値段と
いうのはなんだか申し訳ない気がしますが、これは無欲の勝利かもしれません。

デックスの4000番台はとにかく絶対にステレオ盤で聴くべきなので、これは嬉しかったです。 こうやってゆっくりと少しずつ買っていければいいな、
と思っています。 これらは稀少でも何でもないので、別に慌てることはありません。 タイトルのように、まわり道するのも悪くない。

ブルーノートのデックスのカタログの中でこの盤はなぜか格下扱いになっているようですが、バリー・ハリスの黒く湿ったシングルトーンは
川底に向かって真っすぐに沈んでいく石のようにどこまでも重く、ボビー・ハッチャーソンのヴィブラフォンは静かにひんやりと冷たく、
この2人のサウンドがこのアルバムだけに漂う独特な雰囲気を決定づけています。 この不思議なムードには忘れがたいものがあります。 
デックスはいつもと変わらず悠々として太く、それでいてどこか浮遊感のあるテナーを聴かせてくれます。

この頃になるとステレオ録音も成熟してきて、初期のような楽器が左右に強制的に振り分けられたような違和感もなく、音像がきちんと真ん中で
定位していて、楽器のきちんと分離した配置感も自然で、まるで目の前で5人の姿を見ているような気分になります。

やっぱり、実際に店舗で何千枚もある在庫の中から好きなレコードを見つけ出すのは本当に楽しいですね。 ネットに掲載されたリストなんかを
見るのとは、楽しさに雲泥の差があります。 別に買いたいものが見つからなくても全然構いません。 あのレコードはせっかくの初版だったのに
盤面にすり傷があって残念だったな、とか、いくら何でもあの値段の高さはないよな、とか思いながら家路につくのも趣きがあっていいものです。




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渡米前の Victor Feldman

2014年08月10日 | Jazz LP (Europe)
私はアメリカ西海岸のロックが昔から大好きで今でも日常的によく聴くのですが、そういう音楽の中でヴィクター・フェルドマンの名前を
時々見かけます。 彼は渡米して西海岸に住んだので、自然とそういう人たちとの交流ができたのでしょう。 昨日もアーロ・ガスリーの
CDを聴いていたら彼の名前が出てきたので、こんなところにも参加してるのかと少し驚きました。

ヴィクター・フェルドマンは変化にきちんと対応できた賢いミュージシャンで、アメリカに移住してから音楽の幅が大きく拡がりました。
ロックのレコーディングにも積極的に参加したけど、そもそもそういう人たちから誘ってもらえるということが凄いことです。
英国ジャズで好きな人はいませんが、唯一、この人だけは自分から殻を破って外へ行くことができたので偉いなと思います。

渡米前の若い頃は、英国でオーソドックスで辛気臭いジャズを真面目にやっていて、その片鱗は少し記録に残っています。



Victor Feldman Septet  ( Tempo LAP 5 )

ディジー・リース、ジミー・デューカー、デレク・ハンブルが加わった七重奏団による演奏ですが、これが例によって何がやりたいんだかが
よくわからない演奏に終始しています。 アメリカの白人ビッグバンドのスタイルで退屈な楽曲をやっているのですが、若者たちが集っているせいか
勢いはあります。 ただ、聴いていてもすぐに退屈になるので、ディジー・リースの音はドナルド・バードにそっくりだなあ、とか、デレク・ハンブルの
アルトソロが聴けるのは珍しいけどこの人はなんでリーダー作がないのかなあ、とか、そういうどうでもいいことを考えるようになります。

一定の調性とリズムの上で持ち寄った楽器たちがただ鳴っているのを聴いているだけで、音楽を聴いているという実感が持てません。
私が英国ジャズを嫌うのは、そういうものが圧倒的に多いからです。

聴き終わっても、どういう曲だったのかがさっぱり思い出せないし、どういう演奏だったのかも思い出せない、管楽器が勢いよく鳴っていて、
その背後でヴィブラフォンが鳴っていたなあ、という印象しか残りません。 どこかでこの音楽が流れていても、自分がそのレコードを持っているとは
全くわからないんじゃないか、と思います。 裏を返せば、聴くたびに初めて聴く演奏のように思えるから新鮮かもな、という訳のわからないことに
なりかねないレコードです。



Victor Feldman / Modern Jazz Quartet  ( Tempo LAP 6 )

こちらはヴィブラフォンにピアノトリオという編成でスタンダードも少し入っています。
明らかにMJQを模倣していて、全体的にしっとりとして落ち着いた演奏になっていて、これは内容的にはいいんじゃないかと思います。
ただ、この10inchくらいの長さでちょうどいい感じであって、これ以上長くなると変化の無さに飽きてくるだろうと思います。


ヴィヴラフォンはピアノとパーカッションの合いの子のような楽器で、きれいな音がなることにかけては随一ですが、インパクトがある分、
最初の感動はすぐに薄れるし、人間の身体に直接触れずに鳴らすので音色の変化も出しづらい。 これ一本でやっていくのはいろいろ難しいだろう
というのは容易に想像できる訳で、この人もピアノやパーカッションでもレコーディングするようになります。 でも、この人は楽器の種類だけ
ではなく、自分がやる音楽そのものも拡げていけたので、音楽家としての寿命は長かった。 上記のレコードに参加している他の面々はそうは
なれなかったわけで、楽しきゃそれでいいでしょ、ということだけでは世の中やっぱりマズイようです。




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渋谷 HMV Record Shop と 今週の成果

2014年08月09日 | Jazz雑記
週半ばに用事があって渋谷に行ったついでに、新規オープンで話題になっている HMV Record Shop に行ってみました。

中古レコード業界に参入ということで、おいおい、マジかよ、と思いましたが、開店初日は長い行列ができたとか。
別に何かを期待していたわけでもないので、財布にお金を補充することもなく、フラリと立ち寄りました。

十分な広さのフロアの1FはRock、J-Popや7inchやなどで、お目当てのJazzは2Fです。 壁は打ちっぱなしのコンクリートだったりして、
意外と殺風景だな、と思いながら階段を上がります。 このフロアは、Soul、Club、Reggae、Jazz、Fusionなどです。





案の定、こんな感じです。 Jazzのレコードは3列、CDは棚2列のみ。 たぶん、ジャンルとしては一番量が少ないんじゃないかと思います。
置いてあるのは再発盤や国内盤のみで、1~3千円台のものばかり。 どれもジャケットなんかはかなり痛んで汚いです。 確かに海外から
買い付けてきました感が漂っています。 オリジナル盤は1枚だけフェイスで飾られていましたが、英国Fontanaのピアノトリオ(ジャケットは
よく見るのですが、興味がないのでよく知りません)で、17,000円。 CDは定番の安いものばかり。

他のジャンルのレコード事情には残念ながら疎いのでどういうレベルなのかさっぱりわかりませんが、Soulのレコードは比較的量もあって、
値段も5~6千円台のものが結構ありました。 クラブDJのXXさんのコレクションコーナー、なんてのもあって、土地柄を反映したディスプレイが
目立ちます。

開店してまだ1週間なので棚だしはまだまだこれからなんでしょうが、少なくともJazzに関しては一番肩身が狭いような感じで、私のような偏屈な
マニアは場違いな感じでした。 こういう総合ジャンルを扱うお店に来ると、Jazzという音楽の相対的な位置づけがよくわかります。

しかし、HMVさんは今後どうやってこの事業を展開して行くんでしょうか。 ブックオフやレコファンのような路線でいくのか、はたまたDUのような
路線なのか、現時点では私にはよく見えませんでした。 業界最大手の1つで由緒正しい世界的な歴史をもつ超名門レーベルが果たしてこういう
ニッチな分野で成功できるかどうかは当然疑問です。 プライドを捨てて、泥臭い中古屋に本当になれるのでしょうか。 大企業なので、当然
財務諸表が最優先となるはずで、事業方針がすぐにブレてしまいそうです。 どこまで徹することができるのか、今はみんなが静観の構えなんでしょう。

でも、そういう大人の事情は別として、東急ハンズの向い側ということで、昔この隣にあったタワーレコードを思い出しました。 私はあの店舗の
雰囲気が好きで、よく通ってはロックの輸入盤とかを買っていました。 懐かしいですね。 だから、個人的には長続きして欲しいです。 
今の私の価値観では買うものがなくても、この場所にこういうお店があるということ自体が嬉しいですからね。



などと呑気なことを考えながら、今週も少しつまみました。 まずは、Jazz Tokyoから。





■ Hod O'Brien Quartet featuring Ted Brown / I Hear A Rhapsody  ( Blue Jack BJJR029 )

2テナーの新作が良かったので、テッド・ブラウンが加わったワンホーンということで購入。 このシリーズはかなり貴重な未発表の放送音源を
出してくれる優良レーベルで音もいいのですが、これは少し音質が粗いです。 それでも、テッドのテナーはとてもいいです。 この独特の音が
クセになるし、なにより上手いテナーです。 ただちょっとピアノが耳障りです。 この人がリーダーなので演奏時間の割り当てが一番長いのですが、
とにかく何の陰影もないのっぺりと平面的なピアノを長々と弾いてくれるのには辟易です。 でも、テッドの音盤は数が少ないのでこれは有り難い。


■ Rosario Giuliani / Connotazione Blue  ( Philology W144.2 )

DUさんがブログでよく褒めてる音盤ですが、うーん、平凡な気がします。 イタリアの若いアルト奏者のワンホーンですが、確かに随所で
フィル・ウッズを思わせるのですが、音楽自体はあまりパッとしません。 流れが悪いし、纏まりにも欠けます。 バックのピアノトリオが
違うメンツならもっといい演奏になったような気がします。 残念。


次は、新宿ジャズ館です。




■ Sergio Wagner-Alan Zimmerman Sexteto / Backstage Sally  ( Rivorecords RR-06 )

アルゼンチンの若手による3管セクステットで、ショーター、ドーハム、ピアソンらの作った楽曲を取り上げた現代のハードバップ。
明らかにジャズ・メッセンジャーズを意識した演奏ですが、アメリカのジャズよりもスッキリとしたムードです。 演奏は上手くて纏まりも良く、
スピード感もあってダレません。 憧れのアメリカのジャズを演る喜びに溢れた演奏で、好感をもって聴くことができます。
若いって、いいですね。


■ Les Arbuckle / No More No Les  ( Audioquest Music AQ-CD1019 )

今週一番の当たりはこれでした。 何者かさっぱりわかりませんが、ケニー・バロンやセシル・マクビーがバックを務めるテナーのワンホーン、
ということで聴いてみると、これが太くしっかりしたテナーの音でガツンとやられました。 バックのトリオも抜群です。 録音もいいし、
楽曲もいいし、けなすところがひとつもありません。 テナーのいいジャズを聴きたくなったら、すぐにこれをお勧めしたい名盤。




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涼しげな水色

2014年08月03日 | Jazz LP (Riverside)

Harold Land / West Coast Blues  ( Jazzland JLP 20 )


夏の日のプールの水を思わせる淡く涼し気なブルーのジャケットが印象的で、安直だけど夏になるとよく取り出すレコードです。

サム・ジョーンズのベースの音が凄いレコードとして知られていますが、たくさんの楽器が鳴っている中でこれだけ音がしっかり聴き取れるのは
エンジニアが優秀だったおかげです。 サム・ジョーンズなんて褒めてくれる人は全然いないし、そもそもこの人について言及されることすらないのが
現実ですが、このレコードを聴けばそのピッチの正確さやウォーキングベースの間の良さに感動するでしょう。 この人のベースの音がアルバム全体を
支配していて、音楽に深みを与えているのがよくわかります。 リヴァーサイドというレーベルで大事にされた人でした。

ハロルド・ランドのテナーはチャーリー・ラウズのテナーに少し雰囲気が似ているところがありますが、音はもう少し硬く、ラウズほどフレーズが
長続きせず、途中でブツッと終わってしまいがち。 だからワンホーンのアルバムがあまり作れなかったんだろうと思います。

B面にいい曲が集まっていて、2曲目の "Terrain" というマイナーブルースではフロントの3人が均等にタメのきいたフレーズを奏でるし、
3曲目の "Compulsion" はブルーノートの1500番台でモーガンやモブレーのアルバムに入っていそうな勢いのあるマイナー・ハードバップで、
かっこいい楽曲です。 ここでのサム・ジョーンズの轟音は凄まじい。

このアルバムを聴いてハロルド・ランドのテナーは素晴らしい、と褒めるのは無理があります。 せっかくリーダー作の場を作ってもらったんだから
もっとしっかり吹けばよかったのに、これがこの人の限界だったんだなあと思います。 でも、バリー・ハリスを含めたリズムセクションがとにかく
素晴らしくて、ジャズランドというレーベルのさっぱりとしたサウンド感も好ましく、アルバムとしては愛着の持てる内容です。

やっぱり、リヴァーサイドは後半のカタログがいいなと思います。




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4000番台のステレオ録音の素晴らしさとCD技術の進化

2014年08月02日 | Jazz LP (Blue Note)
今週の中古CD狩りは不調に終わりました。 新着の数はいつもより多く出ていたのですが、これは、と思う物には出会えませんでした。
またお盆休みの頃にセールでもやるんでしょうか、目ぼしいものはみんなそちらへ廻されているような雰囲気です。 私のようにセールには
行かない人間にとってこういうのはキツいんですが、DUさんも商売上集客手段としてセールの企画は止められないのでしょう。
でも、日常の物出しの中にも少しいいのを混ぜてくれると、こちらとしても通い甲斐があるんですけど・・・・

そういう訳で、前回の効き比べ対決の第2弾です。



Dexter Gordon / A Swingin' Affair  ( Blue Note BST 84133 )



audio wave music社 xrcd24


私が一番好きなデックスのアルバムがこれです。 ブルーノートの録音はどれもが傑作、という訳ではないのですが、これはソニー・クラークの
ピアノが音楽全体を素晴らしく抑制するバッキングをみせて、全体が物凄く落ち着いた雰囲気に終始する傑作。 風格、という言葉は
この人にこそ相応しい。

思い入れのある盤なのでこれまでいろいろなヴァージョンを聴いてきましたが、今のところ手元に残しているのは上記の2つ。 
この2つを聴き比べてみると、面白いことがわかります。

このオリジナルのステレオプレスは深く深く残響が効いた音がとにかく素晴らしく、絶対にモノラルではなくステレオで聴くべき音盤です。
これを基準として、CDを比較してみます。

xrcd24の音は、4つの各楽器の音が1つ1つきれいに磨かれて分離よくクッキリとしています。 シンバルの音も原盤よりも大きな音で鳴っています。
各楽器が意識的に大きな音でリマスタリングされています。 この録音が元々持っている残響感を最大限生かした自然な音場感になっていて、
CDにありがちなぎこちなさは全くなく、まるでアナログを聴いているような感じがします。 どうすれば、こういう音が再現できるのでしょうか。
全体的にオリジナル盤よりも明るい音色に調整されているのが顕著で、常識的な感覚で聴けば、こちらのほうがいい音だと感じる人が多いでしょう。

ただ、私のように25年間このオリジナルステレオプレスを聴き続けてきたものにしてみれば、xrcd24の音は不自然に明るく色付けされたような
感じがします。 レコードの音は典型的なRVGの音で、ピアノやベースが独特な暗いくぐもった音になっているので、デックスのテナーの音が
それと対比されてよく聴こえる効果を生んでいるのですが、CDのほうは全ての音が明るい光に当てられている感じです。 

いずれにせよ、このCDから出てくる音の滑らかさは従来のCDの再生音の概念を覆すものであることは間違いなく、古いアナログの復刻という
言葉ではうまく表現できない質感があります。 「CDはレコードよりも音が悪い」という類の話は、もはや20年くらい前の昔話になっていることは
明白です。 その事実から目を背けてレコードばかり賛美するのは、さすがにもう賛同できる姿勢とは言えないと思うのです。

今、このブルーノートの復刻で起きている事象(75周年記念リマスターやxrcd24)が注目に値すると私が思うのは、この技術やノウハウが
一般的なものになり他レーベルに広がっていくと、レコードのオリジナル盤に関する現在の価値感というのは間違いなく変わってくるだろう、と
思うからです。 CDが市場に出回り始めて30年くらいになる訳ですが、この数年で明らかに技術革新が起こっているようで、最近再発される
音盤の音には驚かされることが多い。 Enjaの1,000円再発シリーズの音も凄いことになっています。 
明らかに、それまでのリマスターと言われていた音とは質感が違うのです。

この事実に人々が気付き出せば、古いレコードに非常識に高額なお金を払う意味を感じなくなる人が出てくるのは間違いない。 
もしCDの進化がこのまま進めば、私の感覚では、近い将来、オリジナル廃盤の資産価値は下がっていくだろうと思います。 
逆に、CDの販売数は増えていくでしょう。


ところで、75周年記念リマスターシリーズにはデックスの盤が1つも含まれていなくて、これがとにかく悔しいです。 
この盤なんかも、もしこのシリーズで出てくれば、xrcdとは少し違う、オリジナル盤と同じ指向性をもった音になるはずです。

早くそちらのシリーズで出てくれないかなあ、と心待ちにしています。 お願いします、ユニヴァーサルミュージックさん。



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