廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ハーモニー宣言

2020年11月29日 | Jazz LP (Prestige)

Gil Evans / Gil Evans & Ten  ( 米 Prestige PRLP 7120 )


このアルバムを聴くと、写真でしか見たことのない50年代のニューヨークのモノクロの街並み、風景を想い出す。
ソフト・フォーカスでぼんやりと霞んだ建物の形、光と影の淡いコントラスト。

何とも言えないノスタルジックな雰囲気が漂う独特なハーモニーが圧倒的に素晴らしい。聴いていると、様々な心象風景が
目の前に浮かんでは消えていく。映像喚起力がハンパない。

10人で生み出す豊かなハーモニーの能率の高さは凄いとしか言いようがないが、そのデリケートでありながらリッチな色彩感は
クロード・ソーンヒル楽団の生き写し。ソーンヒルのハーモニーは正にギル・エヴァンスのハーモニーだったわけだ。

ギル・エヴァンスのラージ・アンサンブルではジミー・クリーヴランドのトロンボーン・ソロが頻繁にフィーチャーされるが、
ここでも彼の夢見るような伸びやかなソロが印象的だ。また、スティーヴ・レイシーの苦み走ったソプラノもよく効いている。

揺蕩うような霞みがかったギル・エヴァンスのハーモニーが通奏低音のように流れ続ける、至福の時間を味わうことができる。
ある意味、ジャズの生命線とも言うべきスイングやアドリブよりも、ハーモニー優先でジャズを構成することを宣言した作品で、
その穏やかなラディカルさに、マイルスをはじめ、多くのミュージシャンが夢中になったというのはよくわかる。


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バディ・コレット、この1枚

2020年11月26日 | Jazz LP (ABC-Paramount)

Buddy Collette / Calm, Cool And Collette  ( 米 ABC-Paramount ABC 179 )


バディ・コレットは掴みどころがないというか、スコープに捉えるのがなかなか難しい人ではないかと思う。
一般的には、チコ・ハミルトンのグループでの活動や渡欧時のアルバムなどで認識されているだろうが、生粋の西海岸の人で、
その地域の音楽性や共演者たちからの影響がブレンドした、かなり捻りの効いた音楽だった。
イタリア録音は力作だったと思うが、決定打となる名盤に欠けたため、人々の視界にはあまり入ってこないのが実情ではないか。

私もあまり熱心に聴くこともなくこれまで来たが、このABC盤はそれまでの認識を改めるのに十分な好内容だと思った。
ワンホーン・カルテットで、フルートとサックスが1曲ごとに入れ替わるラインナップだが、どちらも素晴らしい。

フルートの印象が強い人だが、サックスの演奏がとても心に残る。飾り気や気負ったところのないストレートな吹き方で、
楽曲を魅力的に聴かせるのに長けた人だと思った。カルテットとしての纏まりもよく、軽快でとてもわかりやすい音楽だ。
全体的に人柄の良さがにじみ出ているように感じる。

アドリブのフレーズもなめらかでよく歌っている。バックの若いピアノ・トリオも抑制の効いた上質な演奏で支えている。
アート・ペッパーのワンホーン・アルバムを彷彿とさせるところがあって、聴けば聴くほど味わい深い。
これは長く付き合える、隠れた名盤と言っていい。


余談だが、週末の半日をかけて、複数店舗を丁寧に探してこの1枚しか拾えなかった。もちろんこのアルバムは大収穫だったが、
新入荷も含めて、店頭在庫は寂しい状況である。今週末から年末セールが始まるようだが、ランナップを見る限り、
どこも苦戦を強いられているのがアリアリとわかる。緊急事態宣言の一歩手前の状況も重なり、とても人混みに紛れる気分ではない。


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バイプレーヤーとしての生き方

2020年11月23日 | Jazz LP (Prestige)

Curtis Fuller / New Trombone  ( 米 Prestige PRLP 7107 )


カーティス・フラーは気が付くといつの間にかハード・バップのど真ん中で活躍していた、という印象がある。デビューに際しては何か
目立ったエピソードがあった訳でもないのに、初リーダー作がプレスティッジ7000番台だったというのは稀に見る幸運だった。
この後、すぐにブルーノートへ移ってアルバムを固め打ちするし、次のサヴォイでもしっかりとリーダー作を作っている。
そして、すぐにジャズテットに加わり、ジャズ・メッセンジャーズへと続く。

演奏が飛び抜けて上手いという訳でもないし、曲が書ける訳でもないのに、この堂々たるエリート街道は一体何だったのか。
それはおそらく、トロンボーンというハードバップ期における脇役楽器のプレイヤーだったおかげなんだろうと思う。

アーリー・ジャズでは主役の座に居たトロンボーンは、ビ・バップという激しい音楽が始まると、早いパッセージを吹くことが難しく、
音色もぼやけていることから、脇役へと下がらざるを得なかった。しかし、ハード・バップへと移行すると、それまでの旋律一本から
ハーモニー重視へと価値観が変わり、サウンドに厚みを持たすためにはトロンボーンが必要になってくる。

ジャズ奏者として名前を上げるために有能なプレーヤーはサックスやトランペットへ殺到したから、トロンボーンの座席は
ガラガラだったのだ。だから、彼は時期的にちょうど重宝された。セッションでちょっとトロンボーンが欲しい、という時、
大物のJ.J.を呼ぶ訳にはいかない中、気軽に声を掛けられる奏者は彼くらいしか居なかった。

競争の激しい世界には身を置かず、スター・プレーヤーの傍にいるという生き方も「あり」だったのだ。
彼はまだ健在で、近年はバークリー音楽院で名誉博士の称号を与えられるなど、長年の功績が認められたエスタブリッシュメント
として敬意をもって迎えられている。

その彼のスタートが、このデビュー・アルバムだ。とにかく地味な内容で、相方のソニー・レッドもまだ覚束ない演奏だし、
名盤というには程遠い。一番目立っているのはダグ・ワトキンスの重低音で、如何にも彼らしい縦ノリの規則正しいリズム感で
音楽がしっかりと建付けられている。

耳に残る楽曲もなく、話題性にも欠ける内容なので、まったく売れなかったのだろう。初回プレスのみで、NJ追加ブレスもなく、
80年代のOJCまで再発もなかった。そのせいで、今となってはプレスティッジの中でも指折りの稀少盤になってしまっている。


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聴き所はどこに?

2020年11月21日 | Free Jazz

Albert Ayler / Bells  ( 日本フォノグラム BT-5004 )


3管編成であることから、アイラーのサックスにどっぷりと浸ることはあまりできない故、このアルバムの聴き所は何処か、
と問われると、その答えは難しいなあと思う。後半にいつもの軍隊マーチの旋律が出てきて、そこをユニゾンで吹くところなんかは
サウンドがカラフルで楽しいけれど、ラッパやタイラーのサックスは結局アイラーの演奏をコピーしているだけではないのか、という
醒めた目線から離れることができない以上、3管である必然性に説得力を感じない。

まあ、タウンホールでのライヴということで、音楽性の追求や創造という狙いは元々なく、聴衆を前提にした彼らの考える"現代(今)"を
披露したということだろうから、これはこのまま受け取るしかないのだろうと思う。裏面のライナーノートで評論家が「フリージャズの極北」
とか「情念力」とか「情動性」という言葉を用いて熱弁を奮っているけれど、当時の空気感からは完全に断絶したこの現代において、
アイラーをそういう用語で語られても、その解説は聴き手の理解の補助にはならない。

ジャズのグループ演奏というのはいろいろ難しくて、例えば、パーカーとディジーのコンボのようにお互いが刺激し合いながら音楽を
高めていくという姿を見る時、聴き手は自然と興奮を覚えるものだし、マイルスのバンドでコルトレーンが急速に成長していく様子が
ある種の感慨を引き起こしたり、とグループ内での化学反応というか人間の姿の変容が一般的には深い感動をもたらすものだ。

ところが、アイラーのこのグループでの演奏にはそういう雰囲気があまりなく、巨人の演奏スタイルを(言い方は悪いが)そのまま
コピーして、それを持ち寄った形で合奏(競奏ではない)している様子には、イマイチ乗り切れないものを感じる。
フリー・ジャズはごく短期間のうちに急成長したジャンルだから、この分野の各人が先駆者のコピーの域を出るまでの時間があまり
確保できなかったという事情があるのはわかるけれど、だからこれはこれでいい、と寛容になれるほどこの分野に偏愛がある訳でもない。

このライナーノートのように、アルバート・アイラーという高名な人のアルバムだから何でも素晴らしい、という態度には疑問がある。
私自身は、この有名なアルバムにはあまり聴き所が無いと思っている。


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ハード・バップの原型

2020年11月19日 | Jazz LP (Decca / Coral)

Herb Jeffries / Time On My Hands  ( 米 Coral CRL 56044 )


デューク・エリントン楽団で40年代に2年ほど歌っていたことで知られるハーブ・ジェフリーズだが、ジャズ・シンガーとしての実像は
レコードがあまり残っていないため、よくわからない。低い声質のクルーナー・タイプのシンガーだが、他のクルーナーたちよりも
よりムーディーな歌い方をするので、どちらかと言えばボビュラー歌手側に寄っている。そのせいか、ジャズ・シンガーとして
取り上げられることは稀だ。

一番まとまった形の作品はベツレヘムのアルバムだが、あれ1枚だけでは歌手としての実力はよくわからない。
それを補完するのが。こういう古い10インチになってくる。

静かなピアノ、ギター、ベースをバックに、古いスタンダードを落ち着いたトーンで歌う。
歌い方はビング・クロスビーの影響が濃厚で、この時代の男性ヴォーカルは皆、クロスビー・チルドレンと言っていい。

アーヴィング・バーリン、ロジャース=ハート、ヴィンセント・ユーマンスらの中でも渋めの楽曲を選び、丁寧に歌う。
こういう歌手たちの歌が後のハード・バップという音楽の基盤になっているわけだから、ジャズにとっては重要な音楽である。
ハード・バップが永遠の人気を保っているのは、それがこういうベーシックでわかりやすいポピュラー音楽をインストとして
継承・発展させた音楽だからだ。

ジャズの原型であるこういう古い音楽を10インチのノスタルジックな音質で聴くのは何とも言えない雰囲気がある。
できれば夜の深い時間にバーで酒を飲みながら聴きたいけれど、そういう店は現実世界にはあまりなさそうで、残念である。


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ボブ・ブルックマイヤーの最高傑作

2020年11月15日 | Jazz LP (Verve)

Bob Brookmeyer / 7 × Wilder  ( 米 Verve V-8413 )


トップ・ウォントとして長い間探していた1枚がようやく昨日新宿で拾えた。ボブ・ブルックマイヤーの最高傑作である。
にもかかわらず、あまりに地味過ぎて人気も需要もなく、結局こういうのが入手が一番難しい。

アレック・ワイルダーは滋味溢れる名曲をたくさん書いたのに、それに見合うだけの評価を受けることはなかった気の毒な作曲家。
キース・ジャレットがこの作曲家のことが殊の外お気に入りで、 "The Wrong Blues" 、"Moon And Sand"、"Blackberry Winter" などを
レパートリーとして取り上げている。

このアルバムが素晴らしいのは、そういう題材のクオリティーが高く、それらを最大限に生かすためにブルックマイヤーが何曲かで
ピアノを選んで弾いているからだ。このピアノがしみじみとした雰囲気で泣けてくる。

ジム・ホール、ビル・クロウ、メル・ルイスの静かなバッキングの中、ブルックマイヤーが静かにメロディーを奏でる。
ワイルダーに捧げた自作の "Blues For Alec" の仄暗く深い情感が素晴らしい。

眼を閉じて聴いているといろんな情景が浮かんでくるような、とても豊かな音楽だ。
1人で静かに聴き続けたい。



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ドビュッシーは古い録音で

2020年11月14日 | Classical

Alfred Cortot / Debussy ~ Preludes  ( 仏 LVSM FALP 360 )


いつもより遅い時間に起きて、ターンテーブルにレコードを載せて聴き始めるが、どうもステレオ盤の音が冴えない。
いつもの大きく拡がる音場感が出てこない。理由はわからないが、今日はステレオ系統は機嫌が悪いらしい。
何だよ、一体、とブツブツ言いながらも何枚か試してみるが、どれもイマイチ。
こういう日は諦めるに限る。ご機嫌を取ったりもしない。近づかないのが一番いい。

しかたがないので、古いモノラル盤に切り替える。こちらは問題なく、いつも通りの音色が出てくる。
コルトーが弾くドビュッシーの前奏曲。

コルトーは昭和の時代、おそらく日本で最も人気のあったピアニストだろう。でも、現代の耳で聴けば、その演奏はガタガタと
言わざるを得ない。大家の芸風、という言えばまあそうなんだけど、若い頃の演奏はSP初期の劣悪な音でしか聴けないから、
こういう晩年の演奏が聴く対象とならざるを得ないが、もはや大芸術家としての不動の地位もあり、昔から誰も文句など言わず、
ありがたく拝聴されてきた。

そんな訳で私はコルトーを熱心に聴くことはないのだけれど、このドビュッシーだけは例外。
抽象芸術の先駆者であるドビュッシーの曖昧なピアノ曲を、私はこのコルトーの古い演奏を聴いた時に初めて、そういうことだったのか、
と思うことができた。それまでは現代のピアニストたちが高音質な環境で録音してきたディスクをいろいろ聴いたが、
音楽の輪郭がまったく掴めず、その良さがさっぱりわからなかった。

ところが、このコルトーの演奏を聴いた時に目から鱗が落ちた。初めてドビュッシーの前奏曲が本当の意味で理解できた気がした。
楽譜に記された音符の連なりが初めて見えた。

それ以来、ドビュッシーやラヴェルに関しては、初めての曲を聴く時は古い演奏をまず聴くところから始めた。
そうやって、私は近代フランス楽派の音楽を覚えてきて、今に至る。

このコルトーの古いレコードは、私にドビュッシーを最初に教えてくれた、思い入れのある1枚。
忘れた頃に取り出してきて聴くと、何かを想い出させてくれる。


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唯一のリーダー作が語るその後

2020年11月13日 | Jazz LP

Barney Bigard / S/T  ( 米 Liberty LRP 3072 )


私の知る限りでは、バーニー・ビガードのリーダー・アルバムはこれ1枚だけである。このリバティー盤は1955年にリリースされているが、
この時期にこういう古いスタイルのリーダー作が出るのは珍しい。

30年代のエリントン楽団で活躍していた頃の話は語られるけれど、退団後の活動はよくわからない。ジャズと言えば、40年代後半から
始まったビ・バップからハード・バップがメインとなり、こういうオールド・ジャズは日陰の(少なくとレコード産業、ジャーナリズム、
そして一般的な聴衆にとっては)存在に周るため、この分野の人たちが何をしていたのかがよくわからなくなる。

このアルバムは、当時ビガードが一緒に演奏していた人たちを集めて、自作のオリジナルとオールド・ジャズのスタンダードを選んで
レコーディングした肝入りの内容だ。この人は文才があったようで、自伝を書いているし、このアルバムのライナーノートも自分で
書いている。

リーダー作とは言っても、自身の演奏を全面に押し出すのではなく、あくまでもグループとしての演奏に終始しているので、
ビガードのクラリネットを堪能するという感じではない。彼のクラリネットの凄さを聴くなら、エリントンのレコードの方が
向いている。後任のジミー・ハミルトンは退団後もリーダー作がいくつか残っているのに、この人のレコードがこれしかないのは、
前に出て目立とうとはしない人柄が影響していたのかもしれない。

アルバム最後に置かれた "Mood Indigo" は彼が書いた代表作。しっとりとして憂いに満ちた静かな演奏で、心に染み入る。
このアルバムを聴いていると、ルイ・アームストロングやエリントンらと共に世界を股にかけて活躍した若い日々の後、
気の合う仲間と過ごした彼の穏やかな生活が目に見えるような気がする。


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国内盤の底ヂカラ(その17)

2020年11月10日 | Jazz LP (国内盤)

Chet Baker / Chet Baker Sings  ( 日本ビクター SMJ-7183 )


有名な "Chet Baker Sings" にジョー・パスのリズム・ギターをオーヴァー・ダビングして、更にステレオ・サウンドへリマスタリングしたもの
としてよく知られている。曲順も大幅に変えられて、"Plays And Sings" から1曲追加もされて、ジャケットも変更された。
原典主義というか国粋主義というか、そういうのが幅を利かせるこの世界ではこういうのは歓迎されるはずもなく、概ね冷たい視線を
送られて終わっているが、これがなかなか面白い。

これは国内盤になった時に変更がされた訳ではなく、ワールド・パシフィック時代にアメリカでこの版が制作された。
どういう理由からこうなったのかはわからないが、このペラジャケは1964年に出ていて、アメリカでもおそらくは同じ時期に
制作されたのだろう。このレーベルの他のタイトルではこういう改変がされたという話は聞かないので、特別な扱いだったのだろう。

ジョー・パスのリズム・ギターが加わることで音楽はよりリズミックになっていて、新たにフォーク・ソングっぽい雰囲気も漂う。
当時の人々の音楽嗜好を満足させてレコードをよりたくさん売るためには必要な措置だったのかもしれない。
かなり丁寧に手を入れていて、やっつけ仕事ではなかったようだ。オリジナルはドラムの音が奥に引っ込んでいて、リズムパートの
サウンドが弱かったので、その対策を当時レーベルお抱えだったジョー・パスに依頼したということだろう。

サウンドはもちろん疑似ステで、歌声や楽器が左右に無理やり振り分けられているタイプではなく、モノラル音源全体にエコー処理を
かけたような感じ。前者のタイプは不快なサウンドになりがちだが、これはそういう印象はなく、各パートに立体感が出てくることで
奥行きが感じられるようになり、これは悪くない。オリジナルの乾いたサウンドよりこちらのほうがいい、と感じる人もいるのではないか。
この残響付加によりベースの音圧が上がり、重低音感が増してサウンド全体が分厚くなる副次的効果もでている。

これはこれで単純に面白いと思う。人気作品の宿命で、時代ごとにアピール・ポイントを付加しながらアルバムがリリースされる
その軌跡の1つとして、こんな時代もあったんだね、と楽しめばそれでいいのだろう。







3枚目の "Sings" が仲間入りした。やっかいなことに、全部音質が違う。


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意外にビター・スウィート

2020年11月07日 | Jazz LP (Verve)

Ben Webster / Music with Feeling  ( 米 MG N-1039 )


ウィズ・ストリングスとは言っても、ラルフ・バーンズのアレンジと指揮なので単に甘い旋律が流れるわけではなく、そこはひと癖ある。
それがよかったのだろう、聴き飽きることのない、息の長いアルバムとなった。

ベン・ウェブスターのバラードもアルバム1枚分となるとさすがに重くて辟易となりそうなものだが、バックのキリッと締まった演奏の
おかげでこってり感が上手く中和していて、全編が心地よく聴ける。ノーマン・グランツはよく考えたものだ。

選曲もエリントン作の楽曲を散りばめてあるため、甘々の雰囲気にはなっておらず、意外と渋味を感じる。ウェブスターは結構アルバムを
残している中、モダン・ファンにも好まれるような作品は意外と少ないが、これは聴く前のイメージをいい意味で裏切るなかなかの佳作。

リラックスして聴けばいい音楽だからそれ以上の意味を探る必要もないが、イージー・リスニングも飽きさせずに心地よく聴かせるのは
それなりに難しいものだと思う。そういう案外高いハードルをセンスよく上手く飛び越えることができていて、素晴らしいと思う。
この人のブロウは単調でうるさくて、いいところは何もないから、こういうミディアム以下のプレイしか聴く気になれないが、
べっとりと甘い駄作に陥る危険な罠をうまく回避できたのは実によかったと言える。


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コロナ禍の中で

2020年11月06日 | Jazz雑記



先日ユニオンで聴かなくなった古いレコードを少し処分した時に馴染みの店員さんと少し話をしたが、
今秋の買取アップキャンペーンは不調らしい。とにかく誰も店頭買取に持ち込まず、壊滅的な状況だそうだ。
なんでだろう?と聞くと、老コレクター達はレコードを持って外出する気になれないんじゃないか、とのことで、
間違いなくコロナの影響だろう、とあまり元気がない様子だった。

12月のセールはやるの?と聞くと、一応やろうと思っているけど、このままじゃできないかもしれない、と
いうことだった。

例年なら、この時期はバイヤーが欧米へ買付けに行って持って帰って来た安レコの叩き売りがある時期で、
国内の中古市場ではあまり出回らないタイプの珍しいものが安く手に入るはずなんだけど、今年は買付けに
行くこともできず、そういう楽しい買い物が出来そうにない。私もここ1ヵ月で買ったのは500円のレコードが
2枚だけ、という惨憺たる状況だ。

欧米がまたひどい状況になっている中、日本の街はそれなりに人出は多いが、レコードの方は動きが悪いままで、
受難の日々は続いている。当面は手持ちのレコードたちを細々と聴くしかないかもしれない。


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United Artists のステレオ盤

2020年11月01日 | Jazz LP (United Artists)

Zoot Sims / In Paris  ( 米 United Artists UAJS 15013 )


ズートのアルバムで一番好きなものがこれなので、ステレオ盤も当然聴いている。このレーベルは全般的にモノラル盤のイメージが
強いけれど、実はステレオプレスの音が良い。タイトルによって音場感はまちまちだけれど、過剰なステレオ感ではなく、
非常に自然なサウンドを聴かせて、好感度が高い。

このアルバムはズートが演奏旅行でパリに滞在していた時に録音されているので、アメリカのスタジオなどで録られたものとは空気感が
違う。全体的にノスタルジックな雰囲気が漂っていて、そこがいい。セピア調に色褪せした古いモノクロ写真を見ているような印象があり、
このムードを再生できるかどうかがカギになる。

ステレオプレスは、それが非常に上手く再現される。過剰な残響は付与されておらず、ほんのりとした奥行き感と楽器の音の立体感が
増していて、この奥ゆかしさがいい。空間表現も良くて、この名演がより素晴らしいものへとグレードアップする。
なんという自然な音場感だろう。モノラルプレスが持っていた柔らかい質感を損ねることなく、窓を開けて新鮮な空気に入れ替えたような
清々しさが心地よい。

好きなアルバムがこうして多面的に聴けるというのは、贅沢だけど幸せなことだ。このタイトルは他の選択肢があまりないので、
このステレオ盤の存在は特に重要になってくる。


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