廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ケニー・バレル3部作と呼びたい1枚

2022年08月27日 | Jazz LP (Argo)

Kenny Burrell / The Tender Gender  ( 米 Cadet LPS 772 )


Argoレーベルは1965年にCadetと名前を変えているが、このアルバムは1966年4月にニューヨークで録音されている。RCA Studioで録音され、
レコードもRCAでプレスされたので品質がよく、音もいい。

リチャード・ワイアンズのピアノ・トリオをバックに歌いまくるバレルは、まるでワン・ホーン・カルテットのような雰囲気。ブルース・フィーリングが
ベースになっているけれど、時代の空気も流れ込んでいて、明るくポップなところもある。普段はガンガン鳴らすワイアンズのピアノも、ここでは
バレルのバッキングに徹していて、決してギターを邪魔しない。全体の纏まり感はとてもいい。

そんな中を流れるバレルのギターの音色がざっくりとした質感で素晴らしい。増幅されたフルアコの音色がギターの快楽を感じさせてくれる。
お約束の無伴奏ソロによるスタンダードも、いつものバレルらしい解釈。ギターっていいな、と思う。自作の楽曲が多く、そのどれもが聴かせる
メロディーを持ったいい曲ばかりなのも嬉しい。

同時代のジャズ・ギタリストたちの中では、最もオーソドックスな弾き方をするのがケニー・バレルだと思う。決して技巧に走らず、常に歌うことを
優先しているから、曲芸的バカテクを期待する向きには合わないかもしれないけれど、これがジャズ・ギターなのだ。管の入らない編成で聴くと、
全編に渡って彼の演奏を堪能できて、満足度が高い。

アーゴのヴァンガードでのライヴ盤、ファンタジーのヴァン・ゲルダー盤と並ぶ、バレルのギター3部作と呼びたい1枚。素晴らしい。



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満点の仕上がり

2022年08月21日 | Jazz LP (Imperial)

Harold Land / Jazz Impressions of Folk Music  ( 米 Imperial LP 12247 )


「ジャズを通して見たフォーク音楽」というタイトルでどの曲も知らないものばかりだが、確かにフォスターの「草競馬」みたいなメロディーの
曲もあったりして、どれも明るくわかりやすい曲調ばかりで非常に親しみやすい音楽になっている。着眼点がよかったのだと思う。

ハロルド・ランドのなめらかなテナーがきれいな音色で録れていて、演奏の良さがよくわかる。50年代のものよりも演奏がはるかに上手く感じるのは
わかりやすい音楽で歌い所が満載だからだろう。私が今まで聴いたこの人の演奏の中ではこれがダントツで出来がいい。フレーズも現代の奏者が
吹いていてもおかしくないような雰囲気があって、この感性の若さというか、何十年も先取りしたようなところには驚かされる。

カーメル・ジョーンズ、ジミー・ボンドを含め地味なメンツだけど、演奏は非常にしっかりとしていて、グループとしての纏まりも素晴らしい。
このレコーディングのためだけに集まったとはちょっと思えないほどの出来の良さだ。アメリカのジャズ界の層の厚さというか、体力の根本的な
違いみたいなものを感じる。

おまけに、このステレオ盤はおそろしく音がいい。インペリアルのようなマイナー・レーベルからは想像もつかないような高品質なサウンドだ。
最近の録音だ、と言われても疑うことなくそのまま信じてしまうような音質で、これにも面喰う。

演奏の圧倒的な素晴らしさ、音楽の出来の良さ、驚きのサウンド、どれをとっても満点の出来で、最近聴いて一番驚いたレコードの1つ。
他のタイトルと比較しなくても、聴いてすぐにこれがハロルド・ランドの最高傑作なんだろう、ということがわかる。
優れたアルバムというのはそういうものだと思う。



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初期ロイ・エアーズの傑作

2022年08月17日 | jazz LP (Atlantic)

Roy Ayers / Virgo Vibes  ( 米 Atlantic SD 1488 )


ハード・バップをやらないミュージシャンは相手にしてもらえないこの偏狭な世界において、ロイ・エアーズは当然のように認知してもらえない。
ただ、デビュー後の数年間は良い仲間にも出会えて、しっかりとジャズをしていた。世代的にはハード・バップをやるには生まれたのが遅過ぎた
世代なので音楽の感性も次世代的なものだったが、初期のアルバムは内容がとてもいい。

チャールズ・トリヴァーとジョー・ヘンダーソンが加わるサイドと、トリヴァーに加えてハロルド・ランド、ジャック・ウィルソンに代わるサイドに
分かれるが、この2つのセッションがまるで違う雰囲気になっているのが面白い。演奏家の個性がそのまま音楽に反映されている。

ジョー・ヘンダーソンが入るサイドは明るい演奏で程よくファンキーだが、サイドが代わるとグッとシブく深みのあるブルース感が溢れ出す。
ハロルド・ランドとジャック・ウィルソンの組み合わせはこれ以外では知らないが、これがすごくいい。ミルト・ジャクソンのように誰とやろうが
全てを自分色に染めるタイプとは違って、共演者の色に上手く溶け込んでその都度違う音楽を生み出すのがこの人の才能のようだ。A面とB面で
こんなにも雰囲気が変わるアルバムも珍しい。

ハロルド・ランドの太く重い音色、トリヴァーの気怠い旋律がゆったりと流れる中、ジャック・ウィルソンの独得のピアニズムが音楽を主導する。
そして、その流れがロイ・エアーズに引き渡されて曲が静かに終わる様は素晴らしい。よく考えられた構成になっていて、全編通して聴き終わった
あとには深い余韻が残る。50年代のジャズにはなかったメロウ感が取り込まれるようになったのはこの辺りからかもしれない。



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ナット・アダレイは歌う(3)

2022年08月12日 | Jazz LP (Riverside)

Nat Adderley / In The Bag  ( 米 Jazzland JLP 975 )


ナット・アダレイが1962年にニュー・オーリンズへ演奏旅行へ出かけた時に現地で初めて聴いた地元ミュージシャンたちの演奏に感銘を受けて、
彼らとレコーディングしたいということになり、このアルバムは誕生した。普通なら彼らを本場ニューヨークへ呼び寄せてレコーディング
するのが定石だが、大抵の場合、レコーディングに慣れていない若者たちは大都会の雰囲気に呑まれてしまい、自分たちの個性を十分発揮
できないままで終わってしまう。そのことをよく知っていたナットは、まず、キャノンボールとサム・ジョーンズの3人でニューヨークで
アルバムの準備を整えてから再度ニュー・オーリンズへ乗り込み、このアルバムのレコーディングをした。

アルバムの表紙にその時の3名の名前が列記されているところからも、ナット・アダレイの思い入れの強さが十分に伝わってくる。オリン・
キープニューズによると、これはニュー・オーリンズで録音されたおそらく初めてのモダン・ジャズのアルバムではないか、とのことだ。

何と言ってもこの中ではエリス・マルサリスの名前に目を惹かれるわけだが、その他の2名のことはよくわからない。テナーのパーリリアトは
ジャズ・ミュージシャンとしては喰っていけず、タクシードライバーをしていたらしく、35歳で病死している。気の毒な話だ。

演奏を聴いて驚くのは、このテナーの力強さとピアノの音色の新鮮さ。テナーはストレートな吹き方で音が深く、前へと力強く押し出して
きて、これが素晴らしい。とてもいいテナー奏者であることがよくわかる。そしてエリス・マルサリスのピアノも打鍵がしっかりとしていて、
その音色も濁らずクリアだ。それまでのキャノンボール兄弟のアルバムの中では聴いたことのないような音色で、新しい雰囲気を感じる。
リズム感も正確で非常に落ち着いた佇まいで見事だ。

音楽はしっかりとしたハード・バップで、ニュー・オーリンズ・ジャズの要素はまったくない。これはおそらく、ニュー・オーリンズの連中だって
こんなに上手くモダンをやれるんだよ、ということをキャノンボールたちが世に示したかったのではないだろうか。そうすることで彼らにも
もっと仕事が回ってくるだろう、という計らいだったんじゃないかと思う。ただ、なかなかそううまくはいかなったわけだが。アダレイ兄弟は
どちらかと言うと控えめな演奏に終始していて、3人にしっかりと演奏をさせるような構成にしている。演奏時間はテナーが一番長い。

そんな中で、ナット・アダレイはやはりよく歌っている。用意されたバラードでは幻想的な素晴らしい演奏を披露していて、彼が一流の
バラード奏者であることがよくわかるし、アップな曲でもアドリブ・ラインが明快でこれは上手い演奏だなと感銘を受ける。

アダレイ兄弟たちの仲間を思いやる優しさに溢れたアルバムで、単に演奏が素晴らしいということだけではなく、そういう面にも感動させられる。
ナット・アダレイはとてもいいアルバムを残してくれた。



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ナット・アダレイは歌う(2)

2022年08月07日 | Jazz LP (Riverside)

Nat Adderley / Naturally !  ( 米 Jazzland JLP 47 )


A面がジョー・ザビヌルのトリオ、B面がウィントン・ケリー、チェンバース、フィリー・ジョーのマイルス・バンドという豪華なバックで固めた
硬派で超本格派の内容。コルネットのワン・ホーン・アルバム自体が珍しいのに、更にこういう面子というのはおそらくこれが唯一ではないか。
こういうメンバーの影響か、私の知る限り、これが最もストレートど真ん中の胸をすくようなハード・バップだ。

冒頭からなめらかで澄み渡った音色で伸びやかに歌う。明るい曲調で、聴いていると胸の中のつかえが取れていく。わかりやすい、屈託のない
音楽が続き、なんと心地よいことか。その素直さや実直さにただひたすら感心してしまう。これはきっとナット・アダレイという人の人柄
そのものなんだろうな、ということがしみじみと感じられる。彼のアルバムに私が惹かれるのは、きっとそういうところなんだと思う。

ザビヌルはバップのピアニストとしては凡庸で何の聴き所もないけれど、このアルバムではそういうところがナットの実像を際立たせる
ことになっていて、ピアノ自体は上手いので裏方としては十分な仕事をしている。ルイス・ヘイズもツボを抑えたドラミングで安定感が高く、
バンドとしての纏まり感は素晴らしい。

ウィントン・ケリーのサイドになると、音楽は更に躍動する。ピアノは雄弁に語り、ブラシが音楽を大きく揺らす。やはりこの3人の演奏は独特だ。
2曲目の "Image" はソニー・レッドの曲だが、コード展開がマイルスっぽくて、マイルスのアルバムに入っていてもおかしくないような演奏である。
人が変われば、音楽もガラリと変わる。

聴いていくうちに、ナット・アダレイという人の優しいパーソナリティーが映し出された上質な音楽に心奪われていることに気付く。
演奏者と聴き手が近い距離感を保つことができる、とても良いアルバムだと思う。



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