廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

孤独なテナー

2022年10月09日 | Jazz LP (Savoy)

Bill Barron / Modern Windows  ( 米 Savoy MG-12163 )


テッド・カーソンのキャリア初期に相棒として活動を共にしたのがビル・バロン。ハード・バップの終焉時期に出てきたので、彼がやった音楽は
いわゆるニュー・ジャズ、冒頭の出だしはローランド・カークかと思うような感じで始まる。硬く独特なトーンでメロディー感の希薄なフレーズを
ぎこちなく紡ぐ。テッド・カーソンとバリトンのジェイ・キャメロンも同様のプレイで、全体的に捉えどころのない音楽が続くけど、それは決して
不快な感じではなく、この時代に固有の手探りで次のジャズを模索する様子が刻まれている。

ピアノは当然ケニー・バロンで、既に抒情的な演奏スタイルが出来上がっていて、彼のピアノが始まると清涼な空気が流れる。ピアノの音色も
これ以前にはいなかった優しく澄んだ独特なもので、耳を奪われる。その雰囲気はここでやっている音楽にはいささか馴染まないながらも、
その後の彼の活躍を知っている我々の眼から見ると「こんな時期からもう」という驚きを感じずにはいられない。

ビル・バロンのテナーの音は不思議と心に残るところがあって、その硬質で記憶には残りにくい音楽とは相反して彼のテナーの質感だけは
しっかりと自分の中に残る。だから、彼が50年代にハード・バップのアルバムを作っていれば、それはきっといい出来だったに違いない。
ただそうはならず、こういういびつな形の音楽の中で彼のテナーは孤独に鳴るしかなかった。

60年代はジャズをやるには難しい時期で、みんなが暗中模索だったし、脱落していくものも多かった。レコードを作っても売れるわけでもなく、
安いギャラで日々ライヴ活動をして生活していたが、その仕事もどんどん減っていき、ついにはジャズだけでは食えなくなる。それは今の時代も
さほど変わらないのかもしれないけど、ついこの前までは先人たちが普通にやっていてみんなが喜んで聴いていた音楽が、今は誰からも求められ
なくなり、それでもそういう状況の中でジャズ・ミュージシャンとして生きていくのはさぞかしキツかっただろう。そんな時期に作られたこういう
アルバムは人気もなく、今ではエサ箱の中で安い値段で転がることになる。そういう様子を見るとなんだか気の毒になって、そういうものをポツ
ポツと拾っては、当時の彼らの心情を想いながらひっそりとレコードを聴くのである。


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