廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

自分だけの名盤が増えていく

2017年10月28日 | Jazz LP (Steeplechase)

Duke Jordan / Live In Japan  ( デンマーク Steeplechase SCS-1063/4 )


特に期待もせず拾った安レコだったが、これが予想外に良くてちょっと驚いている。 全部聴いた訳ではないが、それでもこれまで聴いたデューク・ジョーダンの
スティープルチェイス盤の中でも、これは群を抜いた出来の良さだと確信している。

お得意のレパートリーをずらりと並べてただいつも通り弾いているだけなのだが、ピアノの音に深みと輝きがあり、スタジオ録音とは別人が弾いているような
生き生きとしたピアノ音楽が流れてくる。 どの曲も良く似たテンポで弾かれていて、構成としての変化には乏しく、普通なら飽きてもよさそうなところだが、
これがダレるところが全くない。 日本人が愛する彼の哀愁溢れるオリジナル曲が並び、全体がある一つの統一したカラーに染められていく。

技術的には決して上手い人ではないけれど、音楽を魅力的に奏でているこの演奏を聴いていると、ピアニストとしての筋の良さが痛いほどよく分かる。
その音は揺らぐこともなく、まっすぐに聴き手に届く。 楽器の演奏はこうでなくてはならないけど、それができる人はそう多くはない。

ウィルバー・リトルのベースの音は深く重く、ロイ・ヘインズのブラシはデリケートで、この2人の演奏も素晴らしい。 トリオとしてのバランスもとてもよく、
理想的なピアノ・トリオに思える。 観客の反応も良く、3人のご機嫌も上々で、それが演奏にすぐに現れていく。

極めつけは、録音の良さ。 ホール全体に音が響き渡っている様子が非常に上手く録られていて、自然な残響感が心地いい。 楽器の音もきれいに録れている。
音楽が生きている様子が生々しく再現される、見事な録音だと思う。

値段の安さに惹かれて買っただけだったのに、ここまで惹きつけられるとは思いもしなかった。 こうして自分だけの名盤が増えていく。
安レコ買いは愉しい。





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前哨戦としての一枚

2017年10月28日 | Jazz LP

Kronos Quartet / Monk Suite ; Plays Music Of Thelonious Monk  ( 米 Landmark Records LLP-1505 )


日本でクロノス・カルテットが一般的に認知されたのはこのアルバムが出た時で、当時ジャズ誌のディスク・レビューに載って好意的に書かれていたのを私も
よく憶えている。 このユニットがやっているのはクラシックではないけれど、それでもクラシックがジャズに手を差し伸べた、という友好的な姿勢として
歓迎されていたように思う。 ただ今の耳で聴くと、スコープがはっきりしないなという感は否めない。 特にビル・エヴァンス集を知っていると尚更そう感じる。

その1つの要因は、ロン・カーターのウォーキング・ベースにある。 いつものぼやけた感じでベースを弾いているのはまあいいとして、ベースを入れてこういう
弾き方をさせているのは、つまり音楽全体をジャズとして建付けているということで、これがあまりパンチがない。 弦楽四重奏がその魅力を発揮するのは
こういうジャズのような音楽ではないから、そもそも弦楽四重奏としての良さは全然ないし、ジャズとしてのスリルも希薄なことから、どっちつかずの状態で
宙ぶらりんな感じになっている。 これが例えばデイヴ・ホランドがウォーキング・ベースを弾いていたら、またちょっと違った印象に仕上がったと思うけれど、
ロン・カーター先生では限界があるように思う。

楽曲を魅力的に演奏するという観点で見ても、"Round Midnight" はあまり成功しているとは言えないし、"Brilliant Corners" はオリジナルのほうが
全然迫力があって、その足元にも及ばない感じだ。 モンクの音楽なんだから、その一番の本質であるヒップさが上手く表現されなければ、何をやってみても
しっくりこないのは当たり前かもしれない。 ユニークなアプローチだとは思うけれど、企画の面白さだけで終わってしまった感がある。

だた、これを踏まえて翌年のエヴァンス集には取り組んだようで、あちらは名作に仕上がっていて一安心である。 そういう意味では、このモンク集は
前哨戦の位置付けだったのかもしれない。 

以前はCDで聴いていたが、レコードのほうが音はずっといい。 だから、今回拾った安レコで聴くと、以前よりも音楽自体はよりしっかりと把握できるようにはなった。
但し、その分、粗も見えてしまうことにはなる。


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おっさんの純情

2017年10月22日 | Jazz LP (70年代)

Shirley Scott / Oasis  ( 米 Muse MR 5388 )


CDを聴いて良かったらレコードも買ってしまうというのは、我々おっさん世代特有の現象なのかもしれない。 つまり、CDというのはあくまで
かりそめの姿であり、正しくはレコードで聴くもの、という意識がどこかにこびりついている。 しかも、2000年以前の録音については
レコードの方が音がいいものが多い、という面倒くさい話もある。 ストリーミングやダウンロードで音楽を聴くことが普及すると、
CDというのはデータを貼り付けたただのボードじゃん、という認識が進み、ますます有難みが薄れていったりする。 だからそれが高じて、
最近の録音物はCDの音が良くなっていてアナログとの差はないのに、つい同じことをしてしまう。

そういうおっさんの純情を弄ぶかのように、先行リリースはCDのみでアナログ発売は数か月後にずらしたりして、しかもそこにはダウンロード用の
コードが付いていたりするもんだから、気が付くと3種類の音源が手許に残っていて、俺は何をやってるんだと首を振ることになる。

この作品は何年か前にCDで聴いて内容の良さに驚いて愛聴していたが、最近になって安レコを見つけて聴いてみたらCDとの音質のあまりの差に
愕然とした。1989年録音なのでレコードのプレス枚数がもともと少ない上に、シャーリー・スコットのレコードなんて日本では誰も買わないから、
これが流通量が少なくて意外にも入手困難盤になっている。 レコードで聴いてしまうと、もうCDには戻れない。

これは極めて上質で品が良くカッコいいモダン・ハードバップの傑作。 何と言っても、冒頭の "Oasis" が刑事物の映画のテーマ曲にピッタリ
くるようなビターな味わいと深い哀愁を湛えた名曲で、これがカッコいい。 シャーリー・スコットのオルガンはアーシーやファンキーとは無縁の
穏やかな雰囲気で、これが都会の夜の雰囲気を濃厚に醸し出している。 サックスやトランペットも音数少なく大人の表情で、クールで苦み走った
雰囲気がやたらとカッコいい。シャーリー・スコットがオルガン・トリオで弾くスタンダードもスマートで洗練されていて、アルバム全体がこのまま
サウンドトラックに使えそうな雰囲気だ。

レコード売り場のCDとレコードの設置面積が逆転したこの時期にリリースされたレコードは、安価だが弾数が少なく、なかなか見つからない。 
こうやって猟盤の新たな愉しみが増えていくのだ。


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ビッグバンドは存在し続ける

2017年10月21日 | Jazz LP

Buddy Childers Big Band / Just Buddy's  ( 米 Discovery / Trend Records TR-539 )


単純にカッコいい。 完全に "ルパン三世" の世界だ。 ビッグバンドジャズが上手くツボにはまった時のカッコよさは無双状態だろう。

リーダーのバディー・チルダースはフリューゲルホーンの吹き振りで、バンドとの一体感が見事だ。 都会の夜をイメージしたようなスマートでキレのいい
アレンジがカッコいい。 アンサンブルも一糸の乱れなく、シャープでスタイリッシュで心地好い疾走感を見せる。 シルクのような柔らかい肌触りもきちんと
表現されているし、演奏力としては完璧だろう。 

スタン・ケントン楽団の流れを汲む系統だろうけど、もっと現代的でわかりやすく、身近な音楽に仕上がっているのがいい。 冒頭の "Nica's Dream" の
カッコよさで、このアルバムの出来の良さは保証されている。 この曲はコンボでやるよりも、ビッグバンドでやるほうがずっといい音楽になると思う。
また、ビッグバンドが "Try A Little Tenderness" をやるのは珍しいけど、シナトラの唄を思い出さずにはいられない抒情感も素晴らしいし、ボブ・フローレンスの
"Pretty" を取り上げているのも、通を喜ばせる。

身売り後にいろんなレコード会社を転々としたトレンド・レーベルがこの時代にもきちんと残っていたというのにも泣かされる。 ジャケットからレコードを
取り出してこの "TREND" のデザイン文字が見えた時は何とも嬉しかった。 1985年のデジタル録音で、音質も素晴らしい。 どこにもケチのつけようがない。

ビッグバンドを維持するのは大変で、コストも大きいし、膨大な練習量も必要でとにかく効率の悪い商売だろうに、いつの時代も廃れることなくどこかで必ず
素晴らしい楽団が活動している。 ビッグバンドはジャズには無くてはならない存在なのだ。 ジャズという音楽がある間はビッグバンドも存在し続ける。
それは、音楽にはジャンルを問わず、この形式でしか表現できないものがあるからだ。 それを無視してはきっと音楽を十全に語ることはできないのだろう。


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美しいブラシ

2017年10月15日 | Jazz LP

Jo Jones / Jo Jones Trio  ( 米 Everest LPBR-5023 )


ドラムスの音のバランスがおかしいレコードの代表と言えば、やはりこれに尽きる。 ミキシングの常識ではあり得ない音量のバランスになっている。

ドラムスの音が中央の一番前にいて、ピアノはその右側奥、その隣にベースがいるような配置に聴こえる。 ジョー・ジョーンズのブラシが終始目の前で
カサカサ、シュッシュッ、と鳴っている。 ドラム好きの私には心地好いサウンドだけど、普通はこんな音のバランスにはしないものだ。 でも、これは
もちろんワザとそうしているわけで、編集ミスなんかではない。

ドラマーがリーダーになっている作品はたくさんあるけど、よく考えてみるとこういう建付けの作品は他にはほとんどない。 普通はドラムソロのスペースを
大きく取ってドラムソロを多めに入れるというのが常套手段で、これが大抵はさほど面白くない。 ドラマーたちもどちらかと言えば自分の技を見せつける
というよりは、作曲センスやグループ演奏としての纏まりをアピールして、演奏家というよりは音楽家としての自分を表現したがっているような印象を受ける。
だから、こうやってブラシワークやドラムの音そのものを聴かせようとする作品は他にはあまり例がなく、唯一同じ傾向として思い出すのはミルフォード・
グレイヴスのアルバムくらいだ。 スイングジャズとフリージャズが思わぬところで邂逅しているのを見る想いがする。

ジョー・ジョーンズのブラシは特に強いスイング感を発しているというわけではない。 そういうことよりも、正確なリズム感と繊細で上品でスマートな
ブラシさばきで、音そのものが美しいという感じだと思う。 音楽をドライヴさせるということにかけては他にもっと長けたドラマーがいくらでもいるわけで、
ドラムをまるで歌うように(本当にその言葉通りの意味で)扱っているのがここまでどストレートに聴けるというのがこのレコードの凄いところなのだと思う。

更にそのブラシの繊細さを際立たせているのが、レイ・ブライアントのピアノ。 まるでヴォーカルのバッキングをしているかのように、究極のデリケートさで
ジョーを優しくサポートしている。 "Embraceable You" の優しい表情なんて筆舌に尽くし難い。 ちょっと特異ではあるけれど、忘れ難いレコードだと思う。


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モノラルプレスの "Miles In Berlin"

2017年10月14日 | Jazz LP (Columbia)

Miles Davis / Miles In Berlin  ( 独 Speakers Corner 4260019715418 )


10月に入ると、DUでは中古品の店頭出しがパッタリと途絶える。 冬籠りの準備を始めたエゾリスのように、入荷した中古レコードをひたすら貯め込むのだ。
だから、この時期の店頭在庫は棚はスカスカ、新着は国内盤ばかりで、手ぶらで帰る日々が続く。 まあ、店に行ってレコードをパタパタとめくるのが
楽しいわけだから、別に買う物が無くても構わないけどね。

だからというわけでもないけど、マイルスの "Miles In Berlin" のモノラル・プレスがドイツからリリースされたというので、早速聴いてみた。
このアルバムはマイルスのライヴでは一番好きな作品だけど、公式録音ではなかったので独コロンビアのオリジナル盤でも音質はイマイチだった。
しかも録音自体はモノラルだったのに疑似ステレオとしてリリースされて、これがステレオ効果があまり無く、全体的に音が籠っている。
内容が超一流なのに、何とも勿体ないレコードだった。

結論から言うと、今回のレコードの方が音は良い。 まず、管楽器の音の輝きが違う。 オリジナルはマイルスのトランペットもショーターのテナーも
音色がくすんでいて籠っていて少し奥に下がっている感じだが、こちらは音色がちゃんと管楽器らしく自然な感じで輝いていて、音場の一番前に出ている。
特にショーターのテナーの活きの良さが顕著だ。

ハービーのピアノもオリジナルはのっぺりと生気のない感じだが、こちらはもう少しソリッド感が増していて、演奏がクッキリと締まっているし、残響感も
きちんと捉えられていて良くなっていると思う。

トニーのドラムはオリジナルは他の楽器の音がダメな分、相対的に大きな音量に聴こえて違和感がありながらも大迫力だったが、こちらは各楽器の音が良くなった分
それらと互角なバランスに落ち着くようになって、比較すれば迫力は少し後退しているけど、オリジナルは元々バランスが少しおかしいのでこちらのほうが
アンサンブルとして自然な感じだ。

全体としては、オリジナル盤は淡く薄いレースのカーテン越しにライヴを見ている感じだったのが、今回はカーテンを取っ払った感じと言っていい。
劇的に改善しているわけではないけど、少なくとも今回のレコードは聴いていて気が散るようなサウンド上の違和感が消えてくれているのは間違いないと思う。

ドイツは50年越しで、ようやく雪辱を晴らした。 今後は当然こちらを聴いていくことになるから、もうオリジナル盤は私には必要なくなった。 処分決定、である。


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作曲家としてのビル・エヴァンス

2017年10月09日 | DVD

Kronos Quartet / Music Of Bill Evans  ( 米 Landmark Records LLP-1510 )


ジム・ホールはエヴァンスゆかりの人ということもあって、ここにも3曲だけだが参加している。 "Turn Out The Stars" での彼の演奏は素晴らしい。
どんな形式の音楽であっても、臆することなく取り組んだその姿勢は素晴らしいと思う。

ビル・エヴァンスの作曲家としての顔をクローズアップさせたのは、この作品が初めてだったように思う。 エヴァンス自身の演奏ではメロディーラインの美しさが
よくわからなかった "Very Early" や "Turn Out The Stars" がこんなにも優美な曲だったのか、ということをこのアルバムが教えてくれた。

この演奏がよかったのは、これらをジャズとしては捉えずに現代音楽として消化したところにある。 エヴァンスが作ったこれらの曲をエバンス以外のジャズ
ミュージシャンが弾いて上手くいった事例は私の知る範囲ではほとんどないけど、それは元々がジャズ向きの曲ではないからじゃないだろうか。 和音の構成も
織り込まれたリズムも、ジャズの規則ではまったく処理ができないような種類のものであることは明らか。 だからこそクロノスの目に引っかかったのだろう。

クロノス・カルテットはこれらの曲からエヴァンス特有のリズム処理をすべて削ぎ落して、旋律とハーモニーだけを抽出する。 すると、エヴァンスの演奏では
濁って響いていたように聴こえていた和音の箇所も、実は合理的に音が重ねられていたのだということがよくわかるようになっている。 そうやって隅々まで
楽曲を整理し直して演奏されているから、結果的にこれ以上ないほど美しい音楽として残ることになった。 一般的にはジャズ・ピアニストとしてしか見られる
ことのないビル・エヴァンスを違う側面から見せるこの作品は、ジャズファンに心地好い衝撃を与えてくれる。


最近DVDとして発売されて話題になったブルース・スピーゲルの "Time Remembered, The Life And Music Of Bill Evans" も同様で、もっと多角的に語ることで、
レコードからだけでは絶対にわからないエヴァンスの実像が浮かび上がってくる。 エヴァンスの暗い側面を公平に扱っていて、それがどれほどエヴァンスと
その音楽を蝕んでいたかがよくわかるけれど、それ以外にも今まで知らなかったエピソードがたくさん出てきてなかなか面白かった。

例えば、デビュー作の "New Jazz Conceptions" が発売直後の1年間の総売上枚数がたったの800枚だったとオリン・キープニュースが苦笑いしながら
語っていたり(だからこのレコードは中古市場に全然出てこないのだ)、海外ではセカンド・アルバムの "Everybody Digs" の評価が高いという話だったり、
ヴァンガードでのライヴの時のエヴァンスはドラッグでボロボロで、とてもレコーディングできるような状態ではなかったという話だったり、そのどれもが興味深い。

ジャズという音楽がどれほどビル・エヴァンスという人に負っているか、ということがいろんな作品に接すれば接するほどよくわかる。





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クラウドファンディングとジム・ホール

2017年10月08日 | Jazz CD

Jim Hall / Magic Meeting  ( 米 ArtistShare 2060107000088 )


マリア・シュナイダーも所属しているクラウドファンディング・レーベルの先駆けであるアーティスト・シェアから2004年に5,000枚のみリリースされたジム・ホールの
最晩年の作品。 その後、しばらく絶版状態が続いて高額廃盤化していたが、この度ようやく再発された。 こういう地味な作品は地道に新譜リリース情報を
追い駆けていないとどうしても取りこぼしてしまう。 怠け者の私にはそういうのは無理なのではなから諦めているが、今回は偶然知ることができた。

2004年4~5月に行われたヴィレッジ・ヴァンガードでのギター・トリオのライヴで、ジム・ホールの音楽家としての変わらない日常のひとコマを切り取ったかのような
内容だが、彼が常に進化して歩みを止めなかったことを証明するような演奏になっている。

自身の3つのオリジナル曲やジョー・ラヴァーノのオリジナル曲を中核に置いた構成で、これが抽象性の高い演奏になっていて、彼の先鋭さをよく表している。
枯れて停滞した様子は皆無で、エフェクターを屈指してみたり、アコギのような音を出してみたり、と曲ごとにその表情は変わるし、浮遊するような感じや
無機質で幾何学的な感じを取り入れたり、といろんなことをやっている。 だから、ジム・ホールは聴く価値のあるアーティストなのだ。 老人の退屈な手遊び
とは無縁の人である。

ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴというと音質の悪い録音で当たり前、という暗黙の了解があるけれど、このCDは音がとてもいい。 残響でごまかすことなく、
生々しいリアルな音場感だ。 楽器の音もクリアで、バランスも極めて自然。 時代が変わったんだな、と思う。

2000年代に入ってからアメリカではジャズに限らず、ロックなんかの世界でも既成の資本には頼らない形でのアルバム制作が目立つようになってきた。
テクノロジーの進化で音楽産業はすっかり様変わりして、音楽を聴く側からすると手段が細分化された分、却って不便さを感じることのほうが多くなった。
レコードを買うか、コンサートに行くか、の2つで事足りた時代にはもう戻れない中で、アーティストもリスナーも手探りで音楽と戯れる時代が十数年続いている。
このアルバムも当初はアーティストシェアのネットでCDをオーダーする形式だったらしいが、そういうのはなんだか味気ない話だと思った。
週末の大雨が降る中、仕事帰りにお店に立ち寄って音盤を買って、家に帰ってオーディオセットで聴くという慣れ親しんだ行為に安らぎを覚える。
CDという媒体自体には別に何の愛着もないけれど、聴くまでのプロセスというか、関わり方というか、そういうところには少しこだわりがあっていい。
ジム・ホールの音楽はそういう聴き方が相応しい、という気がした。


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ロリンズとドーハムの名演

2017年10月07日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Max Roach / + 4  ( 米 Emercy MG 36098 )


サキソフォン・コロッサスの3か月後に収録されたこの作品は、言うまでもなくソニー・ロリンズを堪能する作品である。 切れ込みの深く鋭いロリンズのフレーズが
とにかくかっこいい。 そして、ケニー・ドーハムも珍しく絶好調の名演を聴かせる。 ケニー・ドーハムがいい演奏をしているアルバムはものすごく少ないので、
これはそういう意味でも貴重なアルバムだ。

"Body And Soul" ではロリンズが絶品のバラードプレイを披露する。 ここでの歌いまわし方は "You Don't Know What Love Is" そのまま。
あのアルバムがあれだけべた褒めされてこのアルバムがここまで無視されているのは、ひとえにマックス・ローチのお気楽な表情のせいかもしれない。

収録された楽曲も魅力的で、冒頭の"Ezz-Thetic" はジョージ・ラッセル作だが、メロディ-ラインは違えどその構造やコード進行は "Open Sesami" のそれだし、
"Mr.X" は "Woodyn' You" の変奏曲だったり、とアルバムの隅々にまで旧き良きハード・バップのムードが充満している。

ロリンズとドーハムの2人が並んで写っている姿なんて他では見られない貴重なショットなのに、このザマは一体何だろう。 契約関係上、この2人を前に出すことは
出来なかったという事情はわかるけど、それにしてもこれはない。 「ブラウニーへの追悼」と言われることもあるけど、だったらなんで1人笑顔なのだ?
おかげで、この名演が詰まった作品が駄盤扱いになったまま埋もれてしまっている。 この凄い演奏群を一発で駄盤に変えてしまうマックス・ローチと言う人は
一体何者なのか。 永遠に謎が残る。


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名盤と駄盤の境目

2017年10月01日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Max Roach / Jazz In 3/4 Time  ( 米 Emercy MG 36108 )


マックス・ローチがあまり好きではないので、今まではこういうレコードは完全無視してきた。 特にこのレコードはジャケットを見るだけでげんなり・・・
なんだか食欲が無くなるような感じだ。 こんなレコード、一体誰が買うんだ?とずっと思ってた。

ところがこれはソニー・ロリンズが素晴らしい演奏をしているレコードだったということがわかった途端、見方が180度変わってしまう。 サキソフォン・コロッサスを
録って間もない頃のロリンズなのだから、まあ、悪い訳がない。 ケニー・ドーハムとの2管なので演奏スペースが限られているのが惜しいけれど、それでも
ロリンズの魅力が炸裂している。 硬く重く引き締まった音色、構造的なフレーズ、ゆったりと大きく深いタメた感じ、どれをとっても完璧だ。

3拍子の楽曲ばかりを収録した企画物で全体的に穏やかな表情で、半年前に録音された "+4" のシリアスで硬派な作風とは好対照になっている。 ピアノの
ビリー・ウォレスは初めて聴くが、これがなかなか頑張っている。 

ブラウニーがいた時の音楽はアレンジ過多で、どんなに彼の演奏が素晴らしく輝いていても音楽自体はあまり好きにはなれなかったが、この第2期ともいえる
メンバーによる演奏は1957年の東海岸の正統ハードバップで、音楽的にはずっと自然でいい。 まあ、役者が違うということだ。

それにしても、1番の聴き所にまったく触れずにレコード化してしまうこのレーベルの感性は理解し難い。 当時のマックス・ローチは高名だったようだから、
売る分には別にこれでも問題なかったのかもしれないけど、見た目と音楽の内容がここまで噛み合っていないアルバムも珍しい。 同じミュージシャンの姿を
使うにしても、これがリード・マイルスの写真とデザインだったら、内容の良さも手伝って今頃は「名盤」ともてはやされていたことだろう。 そう考えると、
名盤と駄盤は本当に紙一重だったんだなあと思う。


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