廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

懸案盤の緩やかな解決

2023年12月31日 | jazz LP (Atlantic)

Ornette Coleman / The Shape Of Jazz To Come  ( 米 Atlantic Records SD 1317 )


今年のレコード漁りで個人的なトピックスの1つは、このステレオ盤を拾えたことだった。

このアルバムのモノラル盤の音の悪さに気が付いたのはCDを聴いた時で、これはどうしてもステレオ盤を探さねばと長年探していたのだけれど、
これがまったく見つからない。並みいる有名な稀少盤もこのステレオ盤の足元にも及ばないなあ、とここ数年はもう探すことすら諦めていた。
そういう個人的な懸案の1枚が今年ようやく解決した。

楽器の音色の輝きが増し、音楽の高級感がアップして聴こえる。無理やり中央に音像を寄せ集めた感じからは解放されて、音楽が自然な様子で
空間の中を舞っているように変わった。これでようやくモノラルとはおさらばできる、と早々に処分した。

レコードを買っている人であれば誰にも「個人的な懸案盤」があるだろう。これだけはどうしても欲しいとか、持っているけど傷があるから
買い換えたいとか、その動機は人それぞれだが、おそらくそこに共通しているのは自分の中だけのどうしても譲れないこだわりではないだろうか。
そしてそのこだわりはあまり他人には理解できない(言い換えると、他人からみるとかなりどうでもいい)類のものだろう。でも、この自分にしか
わからない自分にとっての大事なこだわりこそがこの趣味の根底を支えていて、これが枯れた時にこの趣味は終わりを迎えるのだろう。

コロナ禍がひと段落して中古市場の状況は大きく様変わりしたが、それでも2020~21年頃の中古の流通が鳴りを潜めたあの耐え難いストレスから
解放される程度までには中古市場は復活しつつある。願わくは来年は更に流通量とスピードが増して、価格がコロナ前のレベルまでは下がって
欲しい。中古レコードの流通は人々の営みそのものを映し出しているのだから。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラジオデイズレコード 初訪問

2023年12月25日 | 廃盤レコード店



親戚の法要で12/23(土)~24(日)は名古屋に行っていたが、その隙間を縫ってラジオデイズレコードへ行ってきた。以前から1度行ってみたいと
思っていたレコード屋さんだった。オールジャンルを取り扱っているが、ご店主はジャズのコレクターなので、きっとジャズの中古が充実して
いるのだろう、と思っていたからだ。

店頭に出ている商品数自体は多くはないが、お店の規模感や他ジャンルとのバランスからすればこのくらいが妥当というところなのだろう。
私好みのタイトルの在庫が複数あって、それ以外に買い換え目的の物も含めて、何枚か手にすることが出来た。初めて訪れたお店でこういう
経験ができるのはうれしいものである。これからは時々名古屋に来ることになるので、またお邪魔したいと思う。

帰りの新幹線の中でつらつらと考えてみると、特に目当てのものもなくお店に行って、レコードをパタパタとめくっていたら探していたものに
思わず出会って、ホクホクした気分で帰るというようなことは今年はまったくなかったことに気付いた。東京のお店は概ね週末のセールまで
レコードは抱え込まれていて、Web上の写真とリストで購買欲を煽りながら競争して買わせるというスタイルが定着しているが、そういうのが
嫌いな私などは、ユニオンでめぼしいレコードを買う機会がすっかり無くなってしまった。

たくさんの買い取りが持ち込まれるユニオンのようなところはそうでもしないと商品の回転が悪くなり、キャッシュフローが悪化してしまうので
止む無くやっているのだろうし、買う側もどの店舗に欲しいレコードが出るかが効率良くわかるので、マス的な需要と供給のバランスは取れている
のかもしれない。ただ、私のようにこの趣味に効率などまったく求めていない人間からしたら、こういうやり方は迷惑以外の何物でもない。
中古レコードは1人でコツコツと探すのが楽しいのであって、他人と奪い合いながら買うなんてことはあり得ないことだ。

だから、私のような人間にとっては、ラジオデイズレコードのようなお店があるのは有難いことだ。ご主人と少しお話させていただいたが、
名古屋はジャズのコレクターの数が少ないのだそうだ。そのおかげでエサ箱が荒れていないのだろう。いくらお店側が努力されているとはいえ、
これが東京だったらエサ箱は引っ掻き回されて、魅力のある在庫を常に維持するというようなことは叶わないのではないかと思う。

規模の論理でレコードを流通させる領域とは別に、マニアの気持ちに寄り添ったお店が存在するというのは我々には心強いことなので、
頻繁に行くことはできなくても、これからも頑張ってお店を続けてもらいたいと思う年の瀬だった。



コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トニー・ベネットを偲んで

2023年12月23日 | Jazz LP (Vocal)

Tony Bennett / Snowfall  ( 日本 CBS・ソニーレコード SONX 60088 )


先日亡くなったトニー・ベネットの最初のクリスマス・アルバム。と言っても1968年発売で、他のビッグネームと比べると遅いリリースだ。
経緯はよくわからないが、クロスビーやシナトラ、ナット・キング・コールらの有名アルバムがある中では制作に慎重だったのかもしれない。
メル・トーメやサラ・ヴォーンもこの時期にはアルバムを作っていない。おそらく、アメリカではポピュラー歌手たちが数えきれないほどの
クリスマス・アルバムを作っていただろうから、そういう有象無象とは一線を引いたものにしなければという自負があったのかもしれない。

私が子供だった頃に比べると、最近のクリスマスはその有難みのようなものは随分と希薄になってしまったような気がする。昔は12月になると
デパートに行くのが楽しみで仕方がなかった。飾り付けはクリスマス一色となり、ジングルベルのメロディーがずっと流れていて、そこはまるで
別世界だった。今よりも冬はもっと寒かったが、そこだけは暖かく、甘い匂いが漂い、人々は幸せそうな顔をしていたような気がする。
私がクリスマス・アルバムが好きなのは、自分の中でクリスマスがそういう記憶と結びついているからだろう。

ゴージャスなオーケーストラをバックに、トニー・ベネットの歌声が響き渡る。いつものことだが、オーケストラのサウンドに負けることのない、
素晴らしい声だ。亡くなったことが今更ながらだが悔やまれる。

クリスマス・アルバムはそれ自体が幸せだ。トニー・ベネットがクリスマス・アルバムを残してくれたことを噛みしめて聴いていたい。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2nd ジャケット愛好会

2023年12月10日 | Jazz雑記
私の経験上、オリジナルだ、初版だ、と騒いでいるうちは白帯。再発盤もオリジナルと同じように愛でることができるようになって、
初めて「レコード愛好家」を名乗って黒帯を締めていい。特にセカンドプレスあたりは製造時期がさほど離れているわけではないので、
オリジナルとはまた別の風格というか独自の質感あって、愛すべきレコードたちである。そこに気付くことができるかどうかはこの趣味に
気持ちの余裕をもって接しているか次第。オリジナルを追求するのはもちろん楽しいが、度が過ぎて視野狭窄に陥ってしまうと
この趣味の愉しさは半減する。

セカンドプレスがいいのはそういう風格の良さだけではなく、値段が安いこと。オリジナルではない、ということだけで値段は大幅に下がる。
ここに載せたものは、すべて5千円未満だった。




ジャケットデザインは私はこちらの方が好きだ。若い頃に何かの本でこのアルバムが取り上げられているのを読んだ時にはこのジャケットが
紙面に載っていて、そのせいでこちらのデザインがオリジナルだと長年思い込んでいた。つまり、このジャケットにチープさを感じなかった
ということだろう。音質も初版と特に変わらない。






国内盤が出た時はこのデザインが採用された。初版のデヴィッド・S・マーチンの絵は正直イマイチで、こちらのジャケットの方が愛着が湧く。





如何にもサヴォイ、というデザインで、これはこれで良いと思う。"featuring Canonball" って、Adderleyまで入れてやればいいのに、と
思うけど、そういう雑で投げやりなところもサヴォイらしくて美味しい。チェンバースもバードも若いなあ。





版権がサヴォイに移ってから再リリースされたもので、盤はサヴォイとしてのセカンドプレスになり、RVG刻印がない。
でも、この方がなぜか音質がヴィヴィッド。特に、シンバルの音の良さが全然違う。だから、普段はこちらを聴く機会の方が多い。

とまあ、こんな感じでセカンドプレスもそれ自体で立派なジャンルの1つなのである。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャケット・デザインに惚れて聴く

2023年12月03日 | Jazz LP (Contemporary)

Hampton Hawes / Vol.2, The Trio  ( 米 Contemporary C 3515 )


ジャズ界屈指のジャケット・デザイン。最も好きなジャケットの1つだ。麻薬中毒者らしく痩せぎすで退廃的な姿がモノクロの風景の中に
浮かび上がる。モノトーンのレタリングが背景にうまく溶け込み決まっている。

1955~56年にかけて録音された複数の演奏が3分冊にまとめられたよく知られた内容だが、選曲的にもこの第2集が一番いい。
"あなたと夜と音楽と" で始まるというのが何ともいい。この人は自身のピアニズムで聴かせる人ではないので、選曲が重要になる。
自分の好きな楽曲が入っているアルバムを選ぶといいのだろう。

ロイ・デュナンの録音だが平均的なモノラルサウンドで際立った特徴は見られないが、レッド・ミッチェルのベース音がよく効いていて
トリオとしての纏まりや躍動感が優れている。よく出来たピアノ・トリオの作品になっている。

60年代以降になると独特の深みを見せるようになるけれど、この時期はまだ若さが勝った演奏でこれはこれで悪くない。
ピアノの腕1本で勝負するんだという気概が強く伝わってきて、その潔さが気持ちいいアルバムである。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする