廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジャズ・ピアノとしての弱さ

2023年05月28日 | Jazz LP (Riverside)

Randy Weston / Trio And Solo  ( 米 Riverside RLP 12-227 )


お洒落なスーツにオレンジ色のシャツ、背後にはクラシック・カー、とわざわざこのアルバムジャケット用に写真を撮っている。リヴァーサイドは
カタログの初期にランディー・ウェストンのアルバムを立て続けに出していて、異例とも言える好待遇をしている。彼のレコード・デビューは
このリヴァーサイドだったようなので、キープニューズの新人発掘力の賜物だったのかもしれない。他のレーベルがまだ手を付けていない才能を
紹介するというのはレーベルにとっては大事なパブリシティーになるだろうし、当時三顧の礼をもって迎えたセロニアス・モンクとよく似た個性を
持つこのピアニストは、キープニューズの眼には大きな逸材として映ったのかもしれない。

ただ、このリヴァーサイドとの契約が終わった後はあまりパッとはしなかった。彼は長生きして、生涯ジャズ・ピアニストとして活動して
たくさんの作品を残したけれど、ジャズ・ファンからの評価とは無縁だった。モンクとよく似た間の取り方やフレーズを弾くが、あそこまで
徹底はしておらず、個性としては弱かったことは否めない。モンクが古いラグタイムやブギウギを基盤にしていたのに対して、この人の場合は
そういうリズム感の面が弱く、ジャズっぽくない。だからモンクはどんなにねじれていても常にジャズの核心に触れた音楽になっていたけど、
この人はそういう中心からは大きく離れた外縁部付近にいて、そういうところが一般的なファンには届かなかったのだろうと思う。

このアルバムはA面がブレイキーらとのトリオ、B面はソロ演奏で彼のピアノがよく堪能できる内容となっているが、流麗・闊達とは言えない
ピアニストとして弱さが浮き彫りになっている。ただ、そうは言いながらもレコード自体はこうして手元に残っているのだから、私自身は
嫌いではないということなんだろう。頻繁に聴くというわけではないにしても、たまに聴いてみるかと取り出すことがあるのだから。

録音はハッケンサックのヴァン・ゲルダー・スタジオだが、モンクのレコードと同様にRVG刻印がない。当時のリヴァーサイドのレコードは
これが標準だったのかもしれない。



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実は傑作(3)

2023年05月21日 | Jazz LP (Warwick)

V.A / The Soul Of Jazz Percussion  ( 米 Warwick W 5003 ST )


錚々たるメンバーが参加しているが、誰のリーダー作でもなく、パーカッションというキーワードを出していることから顧みられることなく、
スルーされる不幸なアルバム。メンバーはビル・エヴァンスを筆頭に、カーティス・フラー、ドナルド・バード、ブッカー・リトル、ペッパー・アダムス、
ドン・エリス、マル・ウォルドロン、フィリー・ジョー・ジョーンズ、ポール・チェンバース、アディソン・ファーマー、その他ラテン系が参加していて、
楽曲によって演奏するメンバーの組み合わせが変わるという万華鏡的スリルがある。

ラテン音楽を基調にしようとするコンセプトになっているが、実際はラテン臭さはなく、ハード・バップが主軸になったとてもいい内容だ。
ビル・エヴァンスは4曲、その他はウォルドロンが楽曲を受け持っており、ここが分水嶺となって音楽の雰囲気が少し違っている。エヴァンスは
ちょうどポートレートの頃の演奏なので一番良かった頃の彼の演奏がそのまま聴けるし、ウォルドンのほうはよりラテン風味を生かした楽曲と
なっていて、カラフルな雰囲気になっているのが好ましい。ウォルドロン作の "Quiet Temple" ではエヴァンスのピアノが真骨頂を見せ、
短いながらもまるで "Blue In Green" の世界を描き出すかのよう。

各楽曲の出来がよく、どれもラテンの哀愁感がよく出ており、音楽的な感銘も受ける。充実した管楽器の演奏も素晴らしく、満点の出来だ。
なぜこんなマイナーレーベルでここまでゴージャスで質の高いアルバムを作ることができたのかはよくわからないけれど、このレーベルは
他のアルバムも質が高いものが多く、いい音楽スタッフがいたんだろうなと思う。こういうところにジャズという音楽の底力を感じる。



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評価は一旦お預けのレコード

2023年05月14日 | Jazz LP (United Artists)

Booker Little / Bokker Little 4 & Max Roach  ( 米 United Artist UAL 4034 )


ブッカー・リトルとジョージ・コールマンの演奏が聴ける貴重な音源だが、音が良くなくて演奏の良さがさっぱりわからず興ざめする非常に残念な
レコードだ。ステレオ録音したものをモノラルへミックスダウンした際に失敗したような感じの音のこもり具合で、楽器が音が死んでいる。
ルイス・メリットという人が録音技師を務めていて、マスタリングをやったのが誰かは記載がないけれど、この人は1959年にUnited Artistから
リリースされたレコードの多くを手掛けていて、その中のサド・ジョーンズの "Motor City Scene" やセシル・テイラーの "Love For Sale" 、
ジョージ・コールマンの "Down Home Reunion" なんかもモノラルは一様に音が冴えないから、やはり何か問題があったのだろう。

だからステレオプレスが聴きたいと思って長年出会いを待っているんだけど、これが全然縁がない。中古漁りをする人にとってこの縁があるとか
ないとかいうのは本当に厄介な問題だ。

熱のこもった演奏をしているようなのでちゃんとした音で聴ければその良さを堪能できるのだろうが、これでは評価のしようがない。
ということで、これはいい/悪いの評価は一旦お預けとせざるを得ない。こういうレコードは他にもいろいろある。



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ライムライトという語感に沿う音楽

2023年05月08日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Milt Jackson / Born Free  ( 米 Limelight LM-82045 )


1966年12月の録音だが、この頃になるとハードバップは完全に蒸発してその姿は見えなくなり、ジャズ界にはまったく違う風が吹くようになる。
主にこの時代を20代として過ごした若者たちによってその新しい風は吹かされていて、30代の大人たちは何とか上手く乗り切っていたが、
ミルト・ジャクソンのような40代になるとなかなか厳しかったようだ。色々と試行錯誤していたが、根っからの新しい音楽にはなり切れなかった。
ただ、そういうニュー・タイプは難しくても、かつてやっていたメロディー重視の音楽をベースにそれを発展させるタイプになると、このアルバムの
ように独自の良さが発揮されるものも現れ始める。

盟友のジミー・ヒース、当時は期待された若者の1人だったジミー・オーウェンズをフロントに迎えて、美しいメロディーを持った曲やジャズメンの
優れたオリジナル曲を集めて、アドリブは抑えてメロディーを聴かせるスマートな演奏に徹したところがうまく成功した。音楽のタイプは少し違う
けれど、マリガンの "Night Lights" なんかと同じ方向を志向したタイプの内容で、それがイージー・リスニングに堕ちずにきちんとジャズになっている
ところがさすがの仕上がりだと思う。

このアルバムで初めて聴いた曲も多いが、中でも "We Dwell In Our Hearts" という曲がとてもいい。この曲が聴きたくてこのアルバムを手にする
ことが多いが、そういう楽曲が入っているアルバムは幸せだなと思う。

このライムライトというレーベルはマーキュリーの傍系だが、その名の通り、ソフトな音楽を提供することがコンセプトだったようだ。
かつての大物たちが数は少ないながらもアルバムを残していて、中には傑作と言っていいような出来のものもある。盤に貼られたレーベルの
左上にあるちっちゃなドラマーのデザインが可愛く、いつもこれを見るとほっこりとした気持ちになる。



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フィリー・ジョーの最高傑作

2023年05月01日 | Jazz LP (Riverside)

Philly Joe Jones / Drums Around The World  ( 米 Riverside RLP 12-302 )


フィリー・ジョー・ジョーンズはリヴァーサイドに3枚のリーダー作を残しているが、このアルバムがダントツで出来がいい。
おそらく、こんなに豪華なメンバーが集まって演奏をしたアルバムは他のどこにもないのではないだろうか。ドラマーとして多くの管楽器奏者を
支えてきたこの人のためなら、ということで集まったメンバーたちは当時のジャズ・シーンを支えていた重要なメンツばかりで驚かされる。

冒頭のリー・モーガンのソロが爆発してキャノンボールに渡すところなんてもう最高にカッコいい。このアルバムでのモーガンとキャノンボールは
最高の演奏を聴かせるが、これはやはりフィリー・ジョーのドラミングが背後から彼らを煽り立ててくるからだろう。管楽器のアンサンブルは切れ味
抜群で凄まじく、聴いていると頭がクラクラする。

ドラマーのリーダー作ということでドラミングにスポットが当たる箇所が多いが、大きくうねるような流れと強弱のバランス、フロア・タムを多用
した豊かな低音部など、飽きることなく聴かせる。こういう風にソロが鑑賞に堪えうるところがアート・ブレイキーやマックス・ローチとは全然違う。
フィリー・ジョーはブレイキーやローチなどの前時代のドラマーたちとトニー・ウィリアムスら次世代とをつなぐ架け橋をしたんだなということが
これを聴いているとよくわかる。

ベニー・ゴルソンがいるのでアンサブルのスコアもカッコよく、音楽的な充実度も素晴らしい。演奏の凄さとしっかり両立している。
"Stablemates" はマイルスの演奏とこれが双頭の出来だ。

おまけに、このアルバムは音が素晴らしい。ジャック・ヒギンズがリーヴス・スタジオで録った録音だが、楽器の音の鮮度が高く生々しいし、
ほの暗く深い残響感がニューヨークの夜を思わせる。全体を覆う管楽器の深い重層感と疾走感がジョニー・グリフィンの "Little Giants" とよく似た
雰囲気だが、こちらのほうがよりスマートで都会的な洗練さを感じる。リヴァーサイドは時たまこういう大化けするアルバムを作った。
私はジャズ喫茶が嫌いで行かないけれど、これだけはああいう大音量で聴ける環境で聴きたいと思う。



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セカンド・プレス愛好会(2)

2023年04月27日 | Jazz LP (Impuise!)

John Coltrane / A Love Supreme  ( 米 Impulse! AS-77 )


どうもこのレコードはオリジナルに縁がない。他のタイトルに比べてプレス数が少ないということはないと思うけれど、なぜか私の場合は
巡り合わせが悪い。まあ、誰しもそういうタイプのレコードがあるんじゃないかと思う。尤も、インパルスの場合はこのセカンド・レーベルの
プレスであってもオリジナルとの質感にあまり差はない。ジャケットや盤の手触り感もそうだし、VAN GELDER刻印があれば音質も特に違いはない
ように思う。もちろんタイトルにもよるけど、ただ貼っているラベルの種類が違うという程度のことに過ぎないのではないか。なので、さほど不満も
なく長年この版で聴いている。

「至上の愛」という邦題の語感の影響を多分に受けて最高傑作と言われてきたけれど、どうかなあと思う。最高傑作という言葉は、その本来の意味と
は別に、裏を返すと「万人受けする」という側面がある。特にコルトレーンのような特殊なミュージシャンの場合は、「コルトレーンらしさを十分
残しながらも最も拒絶感が少なく聴ける作品」という観点での話になっているような気がする。

コルトレーンについての私見はこれまで散々書いてきたのでここで繰り返すのは避けるけど、この作品がインパルスの作品群の中で比較的万人受け
しやすいのは、とにかく事前に非常によく作りこまれた楽曲群であったということに尽きる。延々と果てしなく続くインプロヴィゼーションは
影を潜めて、4つの組曲としてのがっちりとした構成感が最優先となっていて、とにかくこの時代のコルトレーンにしては例外的に聴きやすい、
ということだ。特にパートⅠ、Ⅱには印象的な主旋律のメロディーがあって、すぐに覚えらる。ここにコルトレーンという人の本質的な特性が
よく出ていると思う。誤解を恐れずに言うと、全体的にまったりとして即興感の薄い歌謡曲っぽさがあるだ。

コルトレーンがライヴでこの楽曲をほとんど演奏しなかったのは、マイルスがライヴで "Nefertiti" を演奏しなかったのと同じで、単にこれらが
当時のジャズ・ライヴ向きの曲ではなかったからだろう。コルトレーンはレコードとライヴはまったく別の物として明確に区別していた。

私が「どうなかあ」と感じるのは、そういう刺激の薄さのせいだと思う。音楽的な感動の大きさでは "Africa/Brass" やそのスピンアウトのアルバム
のほうが遥かに勝るし、演奏の臨場感で言えば "Ascension" には遠く及ばない。この「至上の愛」には硬質なダンディズムがあって、そこはいいと
思う。なりふり構わずの純粋さもあり、演奏力も極まった時期なので素晴らしいと思うが、判で押したように「最高傑作」と言われると、一言
モノ申したい気持ちになってしまう。



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R.I.P アーマッド・ジャマル

2023年04月23日 | Jazz LP (Argo)

Ahmad Jamal / Portfolio Of Ahmad Jamal  ( 米 Argo LP 2638 )


アーマッド・ジャマルが92歳で逝去したが、SNSでは海外からの哀悼のコメントはたくさん流れているのに比して、日本からの惜しむ声は
圧倒的に少ない。チック・コリアやショーターの時とは大違いだ。それが不憫で、申し訳ないとさえ思えるので、こうしてアーマッド・ジャマル
のことを書いている。

マイルス・デイヴィスの逸話があるので、ジャズが好きなら誰しも1度はジャマルの音楽を聴いているはずだ。恭しい気持ちを抱きながら
最初はレコードを聴いただろう。ところが実際に聴いてみると、それがイメージとはかなりかけ離れていることに戸惑うことになる。
あのマイルスが一目置いたのだから、もっと深みのある凄い音楽だと思っていたのだが、というのが大方の感想だったのではないだろうか。

日本人は変に真面目というか、音楽を気軽にリラックスして聴くことが苦手だ。きちんと正座して、オーディオ・セットと正対して聴かないと
音楽を聴いた気がしないし、そうしないとアーティストに申し訳ないという罪悪感すら覚えてしまう。そして、そういう意識の延長で、
軽い音楽を軽蔑したり、いろんな要素がブレンドされた音楽は純粋じゃないと眉を顰める。

音楽家にはいろんなタイプがいて、5年とか10年という短い期間に将来の種までも含めて自分のすべてを燃焼させて燃え尽きる人がいる一方で、
早い時期に完成させた自身のスタイル(そしてそれはしばしば他の誰にも真似できない傑出したものであることが多い)を緩やかに相似させながら
息の長い音楽活動を続ける人もいる。どちらがいいとか悪いということではなく、単に生き方が違うというだけのことだが、前者のほうが芸術家
としての生き方に相応しいという価値観が相変わらずある。

アーマッド・ジャマルは軽い音楽をやった人で、デビュー時で既にその独自性は確立されており、以降はその延長線上で活動を行った。
生活している地元を離れるのを好まず、大作を作ろうという野心もなく、自身の内なる声に従って音楽を演奏した。我々レコードマニアの視界に
入るのは初期のアーゴやエピック時代だが、それらはどのアルバムを聴いても基本的には同じような内容で、特に違いがない。
音数少なく、間を大きくとった演奏で、ライヴ録音ではそれが特に顕著だ。お客はリラックスして聴いていて、会場の楽しそうな雰囲気が
よく伝わってくる。そこにはジャマルの音楽の楽しみ方のお手本が示されているような気がする。私たちもそれでいいではないか、と思う。



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フランク・ストロージャーがいたユニット

2023年04月16日 | Jazz LP

Walter Perkins' MJT + Ⅲ ( 米 Vee Jay VJLP - 1013 )


ウォルター・パーキンスと言えば、まずはアーマッド・ジャマル・トリオを思い出すことになるけど、あまり知られていないながらも
この "MJT+Ⅲ" というレギュラー・グループを一時期率いていた。ベースのボブ・クランショウと彼が双頭リーダーとなり、ハロルド・メイバーンの
ピアノ、フランク・ストロージャーのアルト、ウィリー・トーマスのトランペットという2管編成で上質なハードバップを演奏した。

アルバムは4枚残していて、最初のアルバムはメンバーが違っていて演奏が地味だが、2枚目となるこのアルバムからはメンバーが固定されて
管楽器演奏のレベルが格段に跳ね上がる。演奏がしっかりとしていてどれも聴き応えがあるが、音楽的にはこのアルバムが一番出来がいい。

フランク・ストロージャーはリーダー作を作る機会にあまり恵まれなかったせいで過小評価されているが、抜群に上手いアルト奏者で定番の
ビッグ・ネームたちと比べても何も遜色がない人。このグループの演奏でも中核的存在を担っていて、彼の演奏を聴くにはうってつけの内容だ。

コロンビア時代のセロニアス・モンクやキース・ジャレットのスタンダーズのように、アルバムをたくさん残してもマンネリだとか金太郎飴だとか
言われたりすることもあるけれど、それでも音楽家はできるだけたくさんアルバムを残すべきだと思う。アーティストというのは、結局のところ、
作品を通じてでしかその実像を知りようがないからだ。それが満足できるものであっても、そうでなくても、作品があって初めて話がスタートする
のであって、それがなければどうにもならない。

そういう意味ではこのMJT+Ⅲのアルバムはストロージャーを聴くためのものと言っていいけれど、他では聴けないウィリー・トーマスという
なかなかしっかりとした演奏を聴かせるトランペッターを知ることができるという点でもありがたいものだ。ストロージャー同様、楽器がよく
なっており、フレーズもしっかりとしていて、バンド・サウンドを強固なものするのに大きく貢献している。彼らの演奏を聴いていると、どことなく
アート・ファーマーとジジ・グライスのユニットの演奏を思い出す。音楽の傾向は少し似ている。

アルトとトランペットの2管編成というのはパーカー&ガレスピーを起源にして脈々と流れる系譜の1つであるけど、このグループの演奏も
その中にしっかりと足跡を残しているといっていい。このアルバムも名盤の風格はないかもしれないけど、聴けば印象に残るいい出来である。



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アート・ファーマーらしいレコード

2023年04月02日 | Jazz LP (ABC-Paramount)

Art Farmer / Last Night When We Were Young  ( 米 ABC-Paramount ABC-200 )


このアルバムは1957年4月24日と29日にニューヨークで録音されている。クインシー・ジョーンズの編曲を小編成の弦楽隊が上品に演奏する中、
ファーマーは穏やかにメロディーを奏でる。ピアノはハンク・ジョーンズで、バリー・ガルブレイスも加わるなど、全体が洗練と上質の極みのような
雰囲気だ。57年のニューヨークと言えばハード・バップがピークを迎えていた時期だが、そんなのはどこ吹く風と言わんばかりに、ファーマーは
優し気にスタンダードを歌っている。

アート・ファーマーはキャリアの早い時期からレコーディングの機会に恵まれていて、レコードはその生涯を通じてたくさん残している。
駄作と呼べるようなものはなく、どれも一定水準以上の出来を誇っているし、中には歴史的名盤と呼べるようなアルバムもある。
ジャズミュージシャンには切っても切れないドラッグ問題にも無縁だったようだし、ジャズ業界の浮き沈みもうまく乗り切って最後まで
第一線のミュージシャンとして生きることができた。こんな堅実な人生を送ったビッグ・ネームは他には思い当たらない。

彼のそういう穏やかな人格はそのまま作品に反映されていて、ここでも本当に気負うことなくまっすぐ素直な演奏をしている。
既に彼の持ち味である独特の歌い方は完成していて、ややもするとチープなイージーリスニングになりがちなフォーマットを第一級のジャズとして
キープさせているのはさすがとしか言いようがない。雰囲気的にはブラウニーのウィズ・ストリングスのアルバムとよく似ていて、あそこまで
トランペットに圧はないけれど、それでもよく鳴る音色でスタンダードを崩すことなく、この人らしく心地よく扱っている。

このアルバムは意外と見かけない。アート・ファーマーのレコードとしてはレアな部類に属する。そもそもたくさん売れるタイプの作品ではないし、
当然1度のプレスだけで終わったようだから、弾数は少ないのだろう。



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ソフィスティケートな音楽の系譜

2023年03月25日 | Jazz LP (Prestige)

Tadd Dameron / Fontainebleau  ( 米 Prestige PRLP 7037 )


私にラージ・アンサンブルの良さを教えてくれたアルバム。ジャズの何たるかがわかっていなかった学生時代に聴いた時からずっと大好きだった。
そして、ジャズという音楽においても楽曲の良さというのが如何に大切か、を知ることになったアルバムでもある。

タッド・ダメロンが若々しく活躍した時期はスイングからビ・バップへ移行する時期で、その演奏はほとんど残っていない。クインシー・ジョーンズの
先駆けのような人で、自身の楽器演奏力には早々に見切りをつけて、作曲や編曲の領域に軸足を置いたというせいもある。それでも、あと5年遅く
生まれていれば彼のレコードはもっとたくさん残っただろうに、と思えるだけになんとも残念でならない。

このアルバムでは貴重な彼のピアノが聴けるが、その弾き方はクロード・ソーンヒルそっくり。アンサンブルの編曲もソーンヒル楽団のものと
酷似していて、彼はソーンヒルをお手本にしていたことがよくわかるのだ。ソフィスティケートな雰囲気があまりに似ている。

管楽器にはサヒブ・シハブ、セシル・ペイン、ジョー・アレキサンダーやケニー・ドーハムらが参加しており、このシブい面子にも泣かされる。
特にアレキサンダーのテナーは他ではあまり聴けないので、貴重この上ない。ちゃんとソロの出番があり、深く幽玄な演奏を聴かせてくれる。

彼の書くメロディーには独特の哀しみのような情感が漂っていて深い郷愁を誘うが、同時に淡いアイロニー感も持ち合わせて、その音楽は
複雑な構造を示す。そういう重層感にこの人特有の音楽の深みがある。とても一介のジャズマンが書く音楽とは思えず、一体どうやってこういう
音楽的素養を身に着けたんだろうと不思議に思う。ベニー・ゴルソンがダメロンを自身の音楽上の指針にしたのもよくわかる。

ビ・バップというムーヴメントを支えた1人としての評価はその通りだと思うけれど、それよりもクロード・ソーンヒルからタッド・ダメロンへと
流れて、それがベニー・ゴルソンへと繋がるジャズの中の1つの洗練された系譜のほうが私にはより重要なことに思える。



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セシル・ペインとデューク・ジョーダン(5)

2023年03月12日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Rolf Ericson / And His All American Stars  ( 米 Emercy MG-36106 )


れっきとしたロルフ・エリクソンのリーダーセッションなのに、タイトルをこうせざるを得ないほど2人の音楽に支配された内容になっている。
そのおかげで、このアルバムは非常に優れたアメリカのハード・バップの名盤に仕上がった。

ロルフ・エリクソンは1947年から約10年間、アメリカで活動している。ジャズを志すならアメリカに行かねば、ということだったのだろうか、
チャーリー・バーネットやウディー・ハーマンのオーケストラで研鑽を積み、その後は西海岸へ行き、様々なセッションや録音に参加している。
そして1956年の春にスエーデンに戻り、当時渡欧中だったジョーダンやペインらとすぐにスタジオに入り、これらの録音をした。

現地ではメトロノーム社から7インチ盤が同年にリリースされたが、この時に未発表だった曲を加えて57年には英国Nixa、58年にはアメリカの
エマーシーから12インチとしてリリースされた。エマーシーは欧州のレーベルと提携して各社の音源を積極的にアメリカでリリースするなど、
優秀なレコード会社だったのだ。

エリクソンはトランペット奏者としては凡庸。音色はよく鳴りはするものの特徴はないし、アドリブがイマジネイティヴということもないし、
フレーズがよく歌うということもない。この人ならでは、というところは何もないけれど、ここでの演奏は音楽全体の勢いに上手く乗っており、
音楽の仕上がりの良さに大きく貢献している。デューク・ジョーダンの憂いの深いピアノがよく響き、セシル・ペインのずっしりと重いバリトンが
よく歌い、演奏全体は非常に重量感のある手応えで素晴らしい。このレコードは音もよく、すべてが理想的だ。エマーシーというレーベルは
いろんなタイプの演奏をカバーしているのでレーベルとしての統一した印象が持ちにくく、そういうところで損をしているけれど、これは
正真正銘の良質なハードバップで、デューク・ジョーダン色に染まっているところは Charlie Parker Recordsレーベルの "危険な関係" に雰囲気が
似ている。あのレコードが好きなら、これもお宝の一枚となるだろう。


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R.I.P Wayne Shorter

2023年03月04日 | Jazz LP

Wayne Shorter / Wayning Moments  ( 米 Vee Jay VJLP 3029 )


想えば若い頃から既に巨匠の雰囲気が漂う不思議な人だった。外見の風貌にもそんなところがあったが、何より彼が演奏に参加した途端、
音楽からはそれまで聴き慣れたものとはどこか違うムードが漂った。演奏そのものは革新的だったというわけではなく、どちらと言えば
オーソドックスなプレイの側に立脚していたけれど、操る言語はそれまでのテナー奏者とは明らかに違っていたし、演奏から発せられる
匂いのようなものが独特で、それがその音楽を今まで見たことが無いような色彩に染めてしまうようなところがあった。

だから、ウェイン・ショーターの魅力とは何か、を語るのは難しい。そして、その難しいという点にこそ彼の魅力の核心があったように思う。
簡単に言葉で説明できる特徴ではなく、その「妖しさ」のような抽象性に惹かれるのだ。

そういう妖しいムードはマイルスの下ではっきりと開花するわけだけど、それ以前の演奏でも既に十分過ぎるほど染み出ていて、
アート・ブレイキーだろうが、ウィントン・ケリーだろうが、そのリーダーのそれまでの音楽をひっくり返してしまうような内容にしてしまう。
ただ、そういうムードも「何となく」という適当さではなく、若い頃に受けた音楽教育が基礎部分に硬い岩盤のように横たわっており、
音楽そのものを堅牢なものにしている。理論的な抽象性というか、冷酷に徹底された妖しさのようなものに貫かれているのが見て取れる。
だから彼はフリーやアヴァンギャルドに走る必要がなかったし、常にシーンの中央にいることができたのだろうと思う。時点時点で常に
何をすればいいのかがわかっていたような全能感があったような印象があり、そういうところも不思議だった。

彼のアルバムは近年のものも含めて基本的にはどれも好きだが、その中でも1番好きなのはこの若い頃のレコードだ。フレディ・ハバードとの
2管編成で、エディ・ヒギンズら格下とも思えるバックとの釣り合いが悪いのではと思いきや、これが何とも新緑の芽吹きを想わせるような
新鮮でみずみずしい演奏になっていて、聴くたびに深い感銘を受ける。

難解さは皆無のわかりやすい音楽で、ちょうどコルトレーンのプレスティッジ時代に相当するような作品だ。ただその音楽は既に完成度が
非常に高く、ほんのりと漂う妖しさがそれまでのハードバップとは一線を画す見事なアルバムとなっている。テナーのプレイはコルトレーンの
影響をまだ色濃く感じるところがあるが、音色は大きくなめらかで素晴らしい。彼の普通のジャズアルバムとしてはこれが完成形だった。

20年ほど前に来日して野外のスタジアムで演奏した彼を見たが、大きな身体で音数少なく慎重に選びながら吹くその演奏はマイルスの吹き方に
よく似ていた。やはり、彼はマイルス・チルドレンなんだなあと思ったことを憶えている。

R.I.P ウェイン・ショーター。これからもあなたの音楽を聴き続ける。



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実は大傑作(2)

2023年02月25日 | Jazz LP (Bethlehem)

Australian Jazz Quintet + 1  ( 米 Bethlehem BCP-6015 )


オーストラリアン・ジャズ・カルテット(クインテット)のことを真剣に聴こうなんて人はいないようで、中古も大体ワンコインで転がっていて、
総じてクズレコード扱いとなっている。オーストラリアとジャズが結びつかないということもあるだろうし、ジャズの世界は個人名ではなく
グループ名を名乗るようになると、途端に人気が無くなる傾向がある。こういうところはロックなんかとはずいぶん事情が違うようである。
ジャズは個人の顔やプレイが連想できないと、なぜか魅力が減じるらしい。

私がこの人たちの良さを認識したのは、ジョー・デライズの12インチ盤を聴いた時だった。デライズは歌手としては3流以下の魅力に乏しい人だが、
それでもレコードは飽きることなく最後まで聴くことができて、それはバックで演奏するこのグループの質の高さに耳が奪われたからだった。
元々はクリス・コナーのライヴでバックを務めたりしていたらしいから、歌伴には慣れていたのかもしれない。

レコードはベツレヘムに数枚残っているだけだが、その中でもこのアルバムは際立って出来が良く、傑作と言ってもいい仕上がりになっている。
特にA面のビル・ホルマン作曲の組曲はマイナー・キーの翳りのある曲調をドラマチックに演奏していて、これが物凄くいい。
アルトとテナーが深みのある音色で素晴らしく、この曲の魅力を最大限に引き出す。アルトがフルートに、テナーがファゴットに持ち替えられる
パートになっても演奏の魅力はまったく落ちることなく進んで行く。ピアニストも非常にセンスのいいフレーズを弾くし、このアルバムだけに
参加しているオジー・ジョンソンのブラシが強烈にスイングするし、とメンバー全員が一丸となって演奏する様は圧巻の一言。
なぜ、こんなにも素晴らしい演奏が評価されないのかがさっぱりわからない。

B面に移ってもレイ・ブライアントの "Cubano Chant" から始まるなど、クオリティが落ちることはない。全編を通して演奏レベルの高さに
驚かされる。ファゴットを多用するところが食わず嫌いされるかもしれないが、彼らのやる音楽のスジの良さがそういうハンデを軽く一蹴する。
扱う楽器から2人の管楽器奏者にはクラシックの素養があるようで、それがこのグループの音楽の品質に一役買っているように思える。
最後に置かれた "You'd Be So Nice~" の素晴らしさはどうだ。この曲はアート・ペッパーやヘレン・メリルだけではないぞ、という感じだ。

グループとしての活動は4年ほどで、1958年には解散している。おそらく経済的な理由からだろうけど、何とも惜しいことだった。



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セカンド・プレス愛好会(1)

2023年02月18日 | Jazz LP (Prestige)

Stan Getz / Long Island Sound  ( 米 New Jazz NJLP 8214 )


「オリジナルだけが偉い」とチヤホヤされるこの偏狭な世界では、セカンド・プレス以降のレコードたちは皆どことなく悲し気だ。
何も好き好んで2番目として生まれてきたわけでもないのにな、とみんなそう思っている。

新入荷のエサ箱にパリッとした真新しいビニール袋に入れられて晴れやかな気持ちで中古デビューを果たしたのに、朝一番にやって来たお客から
「なんだ、セカンドかよ」と吐き捨てるようなセリフを浴びせられてスルーされる。それでも気を取り直して精一杯の笑顔で次に手に取られるのを
待つけど、中々手にしてもらえない。1日が過ぎ、また1日が過ぎ、時間が経つにつれて並ぶ列を移動させられ、気が付くとアルファベット順に
区画された場所に移される。そこでは時間は静かに流れ、孤独の中に取り残される。

このスタン・ゲッツのレコードも、そういう感じで転がっていた。でも私がこれを買ったのはなにも憐憫の情にほだされてというのではなく、
この表紙のデザインが好きだったからだ。この趣のある風情がクールな内容には似つかわしく、お気に入りのレコードになっている。
RVGの刻印もしっかりとあって、そのサウンドは輪郭がクッキリとしていてオリジナルよりもこちらの方がいいんじゃないかとすら思う。

どのレコードにもそれぞれの存在理由があり、それぞれの良さがある。このレコードはそういう当たり前のことを教えてくれる気がする。
セカンド・プレスを愛でることができてこそ、本物のヴィニール・ジャンキーと言えるんじゃないだろうか。



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バカラックが亡くなった夜に聴いたアルバム

2023年02月11日 | Jazz LP

Hampton Hawes / High In The Sky  ( 米 Vault SPL-9010 )


全編に漂うほのかに暗い情感に、ハンプトン・ホーズと言う人の内面がにじみ出ているのを強く感じる。50年代にコンテンポラリーで確立した
リズミカルで明るいピアノ・トリオの顔とはまるで別人の、憂鬱で斜め下に目線を落としたような物憂げな表情。

ブロック・コードはあまり使わず、マイナー・キーのメロディーを延々と紡いでいく弾き方に変化していて、B面の "Carmel" から "Spanish Girl" に
かけて流れ出てくる情感は、まるでキースのスタンダーズ・トリオを聴いているかのような錯覚すら覚える。そういう意味では、ここで聴かれる
演奏は現代ピアノ・トリオがやっている音楽を10年以上先取りしていたのかもしれない。短くコンパクトにまとめた演奏とは違い、こんこんと
湧き出てくるフレーズをどこまでも追い続けていくように一心不乱にピアノを弾いている様子にこちらも聴き入ってしまう。

彼はピアノの音色で聴かせるタイプのピアニストではなかったので、その名前を聴いても好きなフレーズが頭をよぎるようなことはないが、
曲の造形を作るのが上手かったので、演奏した楽曲が1つの形として明確に手触り感があり、それが記憶に残る。演奏の仕方が変わっても
そういうところは変わることはなく、ここでも演奏された曲はどれもその質感がしっかりと残るので、このアルバムは名盤として記憶される
ことになる。

一昨日亡くなってしまったバート・バカラックの "The Look Of Love" が聴きたくて久し振りに取り出してきたが、やはりこのアルバムは
ハンプトン・ホーズの傑作の1枚であることを再確認することとなった。バカラックの名曲が霞むほど、彼が書いたオリジナルの楽曲は
どれも素晴らしく、その独自の境地に達した演奏はいつまでも色褪せないものだった。



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