廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

Riversideは後期が断然いい

2014年06月29日 | Jazz LP (Riverside)
よく考えたら、うちにはリバーサイドやブレスティッジのレコードが殆どありません。 理由は簡単で、昔たくさん持っていてたくさん聴いたから。
25年くらい前はこの2つのレーベルは総じてどれも安くて、殆どのレコードが1万円以下で買えました。 もちろん高いのもありましたが、
それは特定の数枚だけに限られていたし、そんなものは殆どの人が相手にしていなかった。 多くの人が安い値段でいいレコードを手に入れて
当たり前に聴いていた。 ところが最近の値段ときたら、私には理解できない状態になっています。

リバーサイドでいえば、チェット・ベイカーやブルー・ミッチェルやジョニー・グリフィンなんて8~9千円も出せばきれいなオリジナルが普通に
買えました。 ところが今や、このへんのレコードが5万円?とかその前後の値段で並んだりしてます。 あのね、そんな値段で買うような
レコードじゃないですよ、と誰かが一度きちんと言わなければいけませんよね。 間違っています。 第一、稀少じゃないんです、こういうのは。
大人がそういうことをきちんと次の世代に教えなければいけないのに、サボっているからこんなことになる。

それに、リバーサイドのレコードは後期のもののほうが内容は遥かにいい。 後期のものは録音が61~62年に集中していて、つまりハードバップの
最終期。 肩の力が抜けて、みんなが音楽を完全に自分のものにしていた一番いい時期です。



Milt Jackson Orchestra / Big Bags  ( Riverside RLP 429 )

タッド・ダメロンとアーニー・ウィルキンスが編曲したスコアで大編成のオケがバックをつけたミルト・ジャクソンの傑作。 vibももちろん素晴らしい
ですが、このアルバムはバックのオケが実は主役だと思います。 特に、ダメロンのオーケストレーションは素晴らしくて、メランコリックで
デリケートで、まさにジャケットの写真が映し出す摩天楼の風景を目の前に再現してくれます。 これは私が秘かに愛するアルバムで、
リバーサイドの中ではダントツで好きなレコードです。

手持ちの盤はUK盤です。 これはフォンタナのプレスなので盤の材質が良く、US盤では避けられない材質起因のバックノイズが皆無で、CDのような
クリアさで鳴ります。 尤もそれが理由でこれを買ったのではなく、US盤のきれいなのがなかなか見つからない中でこれが1,000円で出ていたから。




Bill Evans / Interplay  ( Riverside RM 445 )

これはビル・エヴァンスのレコードとして聴くのではなく、5人のクインテットによる最上のモダン・ジャズとして聴くのが正しいのでは
ないかと思います。 そうやって聴くと、本当に極上の音楽として聴けます。 表題にもなっている"Interplay"が見事なブルースです。
少しアレンジを変えて"Loose Blues"というタイトルでズートともやってますよね。 ここでのズートは素晴らしい歌心を見せています。

このUS初版はパーシー・ヒースのベースの音がすごくて快感です。 くっきりと一番大きな音圧で鳴ります。 ジム・ホールも珍しくシングルトーンで
しっかりと弾いているし、フィリー・ジョーも貫録の余裕でリズムを刻む、大人のジャズです。 ここまで成熟した音楽はエヴァンスにしかできない
ものだし、リバーサイドの、それも後期の盤でしか聴けないものです。 私がそれに気付くことができたのは、コレクターを卒業できたからでしょう。


これからは、デジタル・リマスターされた安いCDで後期のカタログを聴きながら、気に入ったもののレコードを探すということを
気長にやっていこうと思います。 何が出てくるか、愉しみですね。



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今週の成果

2014年06月28日 | Jazz CD
今週のとある日の、DU新宿ジャズ館の2F中古CDフロアにて。

店員A 「これ、出しといてくれる?」
店員B 「ええっ、これ出すんですかぁ? 勿体なくないっすか?」
店員A 「んー、普通だったらセール行きなんだけど、ほら、今月はヤバいから、そんなこといってられないんだよね」
店員B 「あー、そうっすねえ、ヤバいっすねえ」

きっと売上目標に届いてないんでしょうね。 ふむふむ。 確かに、今月の中古の新入荷はいつもよりショボかったぞ。
頑張れ、若者よ。 買取りに力を入れて、いいのをたくさん出しておくれ。

若い店員BはCDの束を抱えて、新入荷の棚へ補充していきます。 すかさずそれらをチェックしてみましたが、さて、どれのことだったんだろう?
確かに2千円台のものがいくつかありますが、どうも私にはその価値がわかりませんでした・・・・ 残念。
中古音盤は、やっぱり趣味で買う側のほうがいいですね、気楽で。


さすがに2週間もブランクが空くと、いくつか目の前に現れてくれます。 少しつまむことができました。





■ Jerry Weldon / Midtown Blues  ( Amosaya Music AM-2535 )

税込みで3,086円。 私のルールに抵触する値段ですね。 でも、2週間振りなんだし、まあいいでしょう。 この程度のゆる~いルールです。
このテナーは全然知らない人です。 tsとtpのクインテット。 迷いましたが、ここは直感に従え、という声がするので買ってみました。 

で、これがとてもよかったです。 とても骨太で、無骨で、余計なことは何もせず、ただひたすらハードバップを演奏しています。
これこそがミュージシャン魂ですね。 たくさんの演奏家とスタッフたちがいろんな音楽を試行錯誤する中でこういう何の衒いもないジャズを聴くと、
心底嬉しくなります。 

この人はライオネル・ハンプトンやジャック・マクダフのバンドで活躍したそうで、この盤は1995年のFat Tuesdayでのライヴです。
こういうミュージシャンはたくさんいるんでしょう。 多くのこういう人にチャンスを与えて欲しいです。 それは結局、我々のような
愛好家のためにもなるのです。


■ Matt Otto / Dig  ( JMJ discs CD 12292 )

西海岸の無名のミュージシャンで、完全私家録音だそうです。 テナーとソプラノのワンホーンです。 ネットで調べると、2~3年前に
盛んに行われていた廃盤CDセールに時々出ていたようで、当時は5,000円前後だったようです。 しかしブームが去ると、こうやって
3Fでいつまでも売れ残ることになるんですね。 15% offで1,500円です。

ロリンズばりの豪放なテナーによるハードバップ、とのことで、おいおい、またかよ、と思いましたが、いつものように騙されてみました。
で、聴いてみると、演奏は悪くないです。 一生懸命な熱意は伝わってくる。 ただ、全曲オリジナルの楽曲の半分くらいが出来が悪いです。 
ちょっと頑張り過ぎたのか、欲を出し過ぎたのか、こんな曲を書くくらいなら普通にブルースを演奏してくれればよかったのですが・・・・

まあ、でもアメリカのジャズの層の厚さを実感できる音盤です。 ざらっとした録りっぱなしの音もなかなか味があります。





■ Marty Krystall / Plays Herbie Nichols  ( K2B2 Records K2B2 3469 )

うーん、苦手なハービー・ニコルズです。 テナーにヴァイオリンも加わるクインテットで、ますます怪しい。 でも、怪しければ怪しいほど
興味が出てきます。 700円と安いし、買ってみました。 こういう迷ったりするのも、楽しいですね。

聴いてびっくり、深みのある音です。 テナーも太く伸びやかな音で、ヴァイオリンは全然うるさくなく鑑賞を邪魔しません。 なんだかドルフィーの
レコードを聴いているみたいな演奏です。 ニコルズの曲想を活かそうとしているのでしょうし、ドルフィーのことも多分に意識しているのでしょう、
それに演奏自体も上手いです。 調べてみると、この人は録音がたくさんあるようで、ブラームスやウェーベルンのクラリネット・ソナタも
録音している。 本格派なんですね。

なんか不思議な快感がある音盤ですので、もうしばらく聴き込んでみようと思います。


■ Richie Beirach - George Coleman / Convergence  ( Triloka Records 320182-2 )

これが今週一番の成果でした。 ジョージ・コールマンのサックスがこんなきれいな音で全編堪能できたのは初めてです。 サックスとピアノの
デュオ作品というのは、大体が室内楽的な退屈さに終わるものですが、これはリッチー・バイラークが上手く音楽全体を制御しているからだと
思います。 しっとりと落ち着いていて、それでいてジャズのフィーリングを忘れない素晴らしい音楽に仕上がっています。

ジョージ・コールマン、この不遇な演奏家の実像を掴むのは難しい。 マイルスのバンドで、あの永遠に忘れられない名盤たちの中でイマイチ
実力を発揮できずに終わってしまったおかげで、その後はあまり恵まれなかったようですが、私のような人間はますます興味を惹かれます。

数少ない音盤を探しては聴いてきてもなかなかこの人の魅力がわかる盤に出会えなかったのですが、これでようやく溜飲が下がりました。
いつまでも我が家のラックの中で大事にされる音盤になることでしょう。



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ひっそりと存在する隠れ名盤

2014年06月21日 | Jazz LP (Warwick)

Pepper Adams - Donald Byrd / Out Of This World  ( Warwick W 2041 )


中古CD漁りが不調な時に限って探していたレコードに出くわすみたいで、これを購入。 4,500円です。
昔このステレオ盤を持っていて、盤面は疵だらけだったにも関わらず、7~8,000円くらいしたように記憶しています。 安くなったんですね、これは。
だからDUの廃盤セールには顔をみせないのか・・・ 当時からこの演奏が好きで、ここ1年程買う機会がやってくるのを待っていました。

ステレオ盤はまるで教会か洞窟の中で演奏しているみたいなエコーがかかっていてなんかすごいレコードだなあと思っていましたが、
モノラル盤を聴いてみると、こちらも残響豊かな再生音で元々こういう録音だったんですね。 でも、嫌いじゃないです、こういうサウンド。

これは素晴らしい演奏で、音楽的にも大変豊かな隠れた名盤。 ドナルド・バードもペッパー・アダムスも超一流の演奏をひっそりとしています。
"It's A Beautiful Evening" でバードはノンビブラート奏法で素晴らしいバラードを演奏して真骨頂を見せます。 Savoy盤の "I Married An Angel"と
一緒です。 録音の多い彼ですが、こういう演奏を聴けるのは数が少なく、本当に貴重です。 アダムスもいつも通り、バリバリバリッ、っと
空を引き裂くように立ち上がる轟音で演奏に加わってきます。 それでいて全体的に非常にすっきりしているのは、ハービー・ハンコックの
清流のような澄んだピアノのおかげでしょう。 これはハービーの初録音作品で、既に独特の感性で弾いています。

バードとアダムスは一時期スモールコンボを組んで活動していました。 全米を渡ってクラブで演奏し、時々レコードを録音していた。
レコード会社がグループとして売りに出さなかったのであまり知られていませんが、かなり本気で活動していたのだろうと思います。
このレコードを聴けば、その場で集まって始めた演奏ではあり得ない緻密で自然な一体感があります。

彼らはブルーノートの4000番台にも何枚か録音を残していますが、あちらの演奏はなぜか途中で聴き疲れを覚えるのに対して、
この盤は本当にナチュラルで、最初から最後までその素晴らしさに感心しながら聴き終えてしまいます。 このメンバーの演奏では
私はこれが一番好きです。 こういうレコードは常に手元に持っていたい。

ドナルド・バードはハードバップのど真ん中にいた人ですが、この人がコアメンバーとして残した演奏はなぜかコテコテ感がなく、
不思議とさっぱりしています。 何か独特の洗練されたセンスがあったのかもしれません。 トランペットの音も一聴してすぐにわかる、
何と言うか、唇の厚い音、というか何というか・・・・ これも独特の音です。 そういう感性があったからペッパー・アダムスと
一緒に活動できたのかもしれませんね。 

Warwick というレーベルは昔は稀少レーベルとしてそれなりの扱いをされていたように思いますが、ジャズではこれとアンドリュー・ヒルの
"So In Love" くらいしかなかったはずで、そのせいかもう忘れらたのかもしれません。 アンドリュー・ヒルのほうも確かそんなに悪くは
なかったはずですが、ブルーノートの印象からなのか、最近は敬遠されているのかなあ・・・



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サックスの快楽~定番編

2014年06月21日 | Jazz CD
今週も中古CD漁りは不調に終わりました。 新入荷はそれなりにあるのですが、定番が多く、マイナー盤はあまり見られません。
在庫が少なくなってきたのか、それともみんなセール用に廻されているのか・・・・ いずれにせよ、そういう時は無理矢理何かを買ったりせず、
さっさと諦めて手ぶらで帰ります。

でも、当たり前ですが、定番がいけないという訳ではありません。 ジャズはこの定番たちがあってこそ、ここまで栄えることができたのです。
現に、レコードの世界で高値安定しているのは定番のものが多く、結局、みんなそういうのが好きなのです。

最近はCDの買い方も変わってきたのでうちのCDラックの顔ぶれは昔とは大分様相が変わってきましたが、それでも半分以上は定番モノで、
それらの大半は高音質盤で再発される度に何度も買い直したりしていて、常にラックの中で不動の位置を占めています。 そこにはジャズの
魅力が詰まっているし、何十年聴き続けても飽きることはありません。

私にサックスという楽器の魅力を教えてくれたのも、そういう定番たちでした。





■ Chappaqua Suite / Ornette Coleman  ( Sony Music Japan SICP 4043-4 )

私が一番好きなオーネットの音盤。 私にとってこれはフリーでも何でもなくて、ただひたすらアルトサックスの魅力だけで聴く音盤です。 
オーネットの透き通ったクセのないアルトの音にただただ聴き惚れます。 ここまで全編に渡ってアルトの快楽が堪能できる音盤は他にない。
少なくとも、アート・ペッパーのどのレコードよりも、快楽度はこの盤のほうが上です。 時々オリジナル盤も見かけますが、CDがとてもクリアで
いい音なので今更レコードが欲しいとは思わない、これで十分。


■ Charles Mingus / Mingus Ah Um  ( Sony Music Japan SICP 30239 )

もう何度買い直したのかよくわからないけど、これは最新のBlu-spec 2 仕様で、とにかくびっくりするくらい音がいい。 もちろん、元々録音が
いいので、実際はどの規格で聴いてもさほど変わらないんでしょうが・・・ トランペットを入れなかったのがミソの、素晴らしいサックスサウンド。
昔から必ずいろいろ小難しい解説がついてまわりますが、そんなの読む必要は全くなくて、サックスの快楽だけに浸ればいい音盤です。
これだけ音が良ければ、当然レコードは必要ない。





■ The Dave Brubeck Quartet / Dave Digs Disney  ( Sony Music Japan SICP 3213-4 )

オリジナル発売以降モノラルプレスしか発売がなかったのですが、2011年になって初めてステレオサウンドとして発売、これがまるで
昨日録音されたかのような自然で綺麗な音がします。 このCDはモノラル盤とステレオ盤の2枚組。 ブルーベックのピアノやモレロのドラムが
薄皮を剥がしたようなクリアで3Dな音場になることで、4人の演奏に見事な奥行き感を与えてくれます。 この名盤がこういう音質で聴けるのは
本当に凄いことです。 ブルーベックの音盤ではデズモンドは当然自分の持ち場だけの演奏になりますが、その短い演奏がソロアルバムとは違い、
却って逆に強烈に印象に残ります。 


■ Branford Marsalis / Renaissance  ( CBS/SONY 32DP 878 )

ブランフォードもこのころまではとても良かったのに、その後だんだん・・・・ この兄弟は、なかなか難しいですな。
このアルバムはワンホーン・テナーの王道で大傑作ですが、ソプラノで吹く "The Peacocks" が幻想的なバラードで素晴らしい。
ソプラノサックスがこれ以上ない理想的な音で鳴っています。 そろそろ、最新のリマスター盤が出て欲しい。






■ Johnny Hodges with Billy Strayhorn and The Orchestra  ( Verve 340 557 0543-2 )

1961年12月、クリード・テイラーのプロデュースで作られた傑作。 エリントンがいなくてもエリントン楽団の音楽になるから驚きます。
これも凄い音で鳴るCDで、ホッジスのアルトの轟音に眩暈がしそうになります。 パーカーの影響を受けなかった偉大なスタイリストですが、
ビッグバンドの大きな音の中でも埋没しない音の芯の強さに感動します。 こんなきれいな音でエリントン・カラーのサウンドが聴けるのは最高です。


■ Pepper Adams / The Adams Affect  ( Uptown Records UPCD 24.31 )

初めて聴いた人は必ず腰を抜かす、ペッパー・アダムスのバリトンの音。 地面が割れて、中から恐竜が現れるような轟音。
ジャズの初心者はなぜか皆必ずパシフィックのマリガンに一度ハマって、あれがバリトンの音だと思い込むものですが、大分時間が経ってから
この人を聴いて(これまた大抵がチェットのリバーサイド盤やドナルド・バードのブルーノート盤)脳天をかち割られる。
これはアダムスの死の1年前に録音・発売された音盤で、RVG録音。 素晴らしい音で鳴ります。 これを聴いたら、もう他のバリトン奏者の
音盤は聴けなくなるでしょう。



こうして眺めてみると、定番の音盤というのは改めて凄いな、と思います。 いくらマニアが稀少盤の有難みを喧伝してみたところで、
やはりこういう音盤の前では何を言っても無力です。 音楽はやはり才能のものであって、好き嫌いはもちろん別としても、
優劣は残酷なくらいはっきりとしています。





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風説の流布

2014年06月15日 | Jazz LP (Jazz Line/Jazz Time)
5か月前、最後に買ったレコードはこれでした。



Duke Pearson / Hush ! ( Jazz Line 3302 )


内容については以前からCDで聴いていて知っていたのですが、世評の高さに反して私にはあまり良さが感じられませんでした。 ただ、それは
CDの音質のせいなのかもしれないな、と自分の感想に自信が持てませんでした。 そう思った理由は、どこかでオリジナル盤は音がいいという話を
読んだ記憶があったからで(どこだったか思い出せませんが)、ちゃんとした音で聴けば印象も変わるのかもな、とぼんやり思っていました。
こういうのは如何にもコレクター的な発想です。 

でも、実際にオリジナルを聴いてみると、音は別によくありませんでした。 いや、正確に言うと、録音自体がプアなんです。 でも、その貧弱さを
そのまま再現してくれているので、そういう意味では盤の音鳴り自体は悪いとは言えないのかもしれません。 うーん、わかりにくい。

全体的に薄いベールで覆ったようなくすんだ録音で、全体の音圧も低く、特にベースやドラムは音が小さすぎてよく聴こえない。 
だから、演奏の躍動感が全く伝わってこない。 実際の演奏にはあったのかもしれませんが、それを伝えないような音です。 
ドナルド・バードとジョニー・コールズの2トランペットという珍しい構成ですが、2人の違いがよくわからないという声が聞かれるのも
これでは無理もないと思います。 

じゃあ、内容はどうかというと、1962年のニューヨーク録音ということがちょっと信じられないような軽やかで清潔な感じの演奏です。
これは全てデューク・ピアソンという人の稀有で得難い個性の賜物です。 "Childs Play" の最後で見せる印象的なアレンジを聴けば
この人が後年ビッグバンドの編曲を手掛けるようになるのも頷けるし、"Angel Eyes" で見せるピアノトリオのクリスタルのような響きも
この人にしかできないもの。 そういうこのアルバムにしかない美質を、プアな録音が台無しにしているような気がします。
つまり、CDで聴いてもオリジナルで聴いても、どうも本当の良さがよくわからない、ということです。

このレーベルを興したFred Norsworthyは英国から渡米後、最初はパシフィック・ジャズでプロモーションの仕事をしながらレコードビジネスを学び、
出資者を集めて夢であった自身のレーベル "Jazz Time"を設立、有名な3枚を3日間で録音しますが、これが全く売れなかった。 だから、レーベルは
すぐに活動不能となります。 そこへドラマーのデイヴ・ベイリーが共同出資者となり、名前も"Jazz Line"と変えて"Bash"とこのレコードを
創りますが、これも全く売れず、すぐに倒産しました。 だから、録音がプアなのは仕方ないのだと思います。 とにかく、金が無かった。

1962年のニューヨークと言えば、その数ヶ月前にコルトレーンはヴィレッジ・ヴァンガードで"Impressions"を録音し、マイルスは自身の音楽の
根本的な見直しを図るためにスタジオには一切入らなかった時期。 そういう時代が大きく変わろうとしている最中に、こんな牧歌的で
覇気のない音楽が評価されるはずがない。 明らかに、KYです。 

どこかであるレコードのオリジナル盤の音がいいという話が出ると、それがあっという間に流布します。 でも、稀少盤だから音がいい、
オリジナルだから音がいい、稀少盤だから内容が素晴らしい、オリジナルだから内容が素晴らしい、というような幻想や思い込みが
拙い文章表現力と相俟って、稀少盤を買った喜びと内容の評価がごちゃ混ぜになって語られていることが多い。 でも、高額盤は簡単には
手に入れられないし、そもそも手にできる人は限られてくるから、大抵の場合、真実を確かめようがないというのが実情でしょう。

結局は真実を知るには自分で確かめるしかない世界ですが、このブログはあまり風説には惑わされず、ありのままを書いていこうと思います。
誰かがいいと言ったから私もいいと言う、そんなことはないように。



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ジャズ・メッセンジャーズの最高傑作

2014年06月14日 | Jazz LP (Blue Note)
今週は中古CDの収穫はゼロでした。 新着はたくさん出ていましたが、私に引っかかりそうなものが見つけられませんでした。
まあ、こんな時もあります。 新品CDを1枚だけ買いましたが、これだけでは記事にならないので別の機会にまわします。

そのかわり、5か月ぶりにようやくレコードを1枚買いました。 



Art Blakey & The Jazz Messangers / Mosaic ( Blue Note 4090 )


私にとってのジャズ・メッセンジャーズの最高傑作はこれです。 だから、セカンドを買いたくなるのを我慢して何度も見送って、
完オリに出会うのをずっと待っていました。 これは盤もジャケットも無傷の新品同様で、こんなにきれいなのは今まで見たことがない。
これで14,000円なら間違いなく底値なので、迷わず買いました。 別にここまできれいじゃなくてもよかったんですが、まあそれはいい。

ショーターが在籍した時期の3管セクステットは、長いこのグループの歴史の中でも間違いなく音楽的な頂点だったと思います。
各人が作曲したオリジナル曲の質が抜群に高く、演奏にも纏まりと激しい勢いが両立しながら疾走して、どれも最高です。
現代のハードバップ録音の多くが、間違いなくジャズ・メッセンジャーズのこの時期の演奏を目指している。

私の大好きな "Children Of The Night" の初演が聴けるだけで満足なのですが、このレコードのハイライトはB面で、カーティス・フラー作の
"Arabia" が演奏のピーク、ここでの6人は凄まじい。 特に、カーティス・フラーは自身の最高の演奏を残しています。 
最後の "Crisis" はフレディー・ハバード作ですが、これも名曲。 そして素晴らしい演奏で、言葉も出ない。

これは、久し振りに買って嬉しいレコードでした。 20年前に聴いて感激して以来、内容の素晴らしさはまったく色褪せない。
入手が難しいだけの偽名盤とは違い、本物のジャズが聴けるまっとうな名盤です。 レコード買いはこうじゃなきゃ、と思いました。

ブルーノートのアート・ブレイキーのレコードは最近は1500番台が高くなっているようですが、間違っても5~6万円なんか出して買うレコードでは
ありません。 メンツは超一流だし昔から評論家が褒めてきたせいもあるんでしょうが、現代の耳で聴けば平均点のハードバップで、特に面白味もない
内容です。 このショーターの時期以降の演奏が遥かに良くて、70年代のプレスティッジ録音も素晴らしい。 お金を出して聴くならそちらのほうが
いいです。 "Child's Dance" とかね。 今はそういうのはCDで聴いていて別に何の不満もないのですが、いずれはレコードでも聴きたいなと
思っています。 DUをこまめに探していればすぐに見つかるのかもしれませんが、レコード売り場にはあまり立ち寄らないのでよくわかりません。 
いずれにせよ、売り手が図に乗るので高額盤に手を出すのはやめましょう。 あせらなくても、アート・ブレイキーは必ず適価で買えます。




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雨の日にはチェット・ベイカーを聴いて

2014年06月07日 | Jazz LP (Pacific Jazz / World Pacific)

Chet Baker Sings ( Pacific Jazz PJ-1222 )


雨の日の薄暗い朝、ぼんやりと何か聴きたい時にターンテーブルに載せるレコードです。 梅雨のこの時期、割とよく聴くような気がします。

不思議なもので、西海岸のレーベルのレコードというのはどれも大体演奏と一緒い乾いた空気も溝に刻まれているものです。
レコードをかける度に乾燥した空気も流れ出してくるような気がします。

このレコードもチェットの湿った声やトランペットの後ろでこのレーベル特有の乾いてシンプルな演奏が対比的で面白い。
"That Old Feelig" でのラス・フリーマンの演奏が本当に見事です。

中古市場では常時出回っているレコードなのに、きれいな状態のものを見つけるのは最近は皆無。 昔は1万円出せばきれいなものが
簡単に買えましたが、だんだん難しくなっているようです。 ただ、これはオリジナルでも音が別にいいわけではないので、あまりそういう
ところにこだわる必要もないように思います。 気軽に楽しめればそれでいい音盤です。




Wiliam Claxton / Jazz

ウィリアム・クラクストンの写真集。 レコード・コレクターにはお馴染みの写真もたくさん載っています。

よくレコードの魅力はジャケット芸術にあるといいますが、やはり写真を見るとその力強さが違います。 たくさんのことを語りかけてくる。
そこには我々がよく知っているミュージシャンが写っていますが、彼らがいる場所、風景が実に質素であることに気が付きます。
みんな、こういうところで生活をしていたんだなあ、という素朴な感慨に打たれます。

簡素な部屋や殺風景な街角にいる彼らの生々しい肉体だけが、そこにくっきりと写っています。 この身体の中から、あの数々のウェストコースト
ジャズが生み出されたんだと思うと、聴き慣れた乾いた音楽たちもまた違った印象で私に迫ってくるような気がします。




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今週の成果

2014年06月07日 | Jazz CD
今週も少しCDを摘まみました





■ Viacheslav "VP" Preobrazhenski / Nightfall ( Dolphin Music 002 )

先日聴いた"Fair Weather"が良かったので、他にはないのかと探してみると2枚見つかりました。 これは同じくストックホルムのスタジオでの録音で、
今度はドラムスが別の人なので期待して聴くと、これがデリケートな演奏で素晴らしい。 全てオリジナル曲ですがどれもストイックに硬派な
演奏が展開されてとてもいい。 この人のテナーの音が好きであれば、全編魅力的な音を楽しめます。 録音もとてもいいです。 こういう現代風な
演奏もきちんとできる人なんですね。 才能の豊かさを感じます。


■ Viacheslav "VP" Preobrazhenski / We All Hope ( Sintez SRCD 00002 )

こちらはレッド・ミッチェル、ホレス・パーランという西側の巨人を迎えたドラムレスのトリオ。 スタンダードを非常にゆったりとムーディーに
演奏しており、これは素晴らしい内容です。 3枚の中では一番ジャケットがチープだけど、私はこれが一番気に入りました。 これはDUでも
頻繁に見かけるような気がしますが、このジャケットのせいかあまり人気がないようです。 でも、ちゃんと聴けばその良さがわかると思います。
もったいないことです。 どうせバラードアルバムを創るんだったら、これくらい徹底して音楽的感動を追及するべきだと思います。 最初の
2曲はオーケストラがバックをつけますが、これが絶品。 ロシアは伝統的にオケが素晴らしいのでこれは当然かもしれませんが、これなら
全編オケ付きでやって欲しかった。 でも、きっと予算が足りなかったんでしょう。 コールマン・ホーキンスがバラードアルバムを創ったら、
きっとこんな感じになっていたはず。 傑作です。






■ Fabrizio Bosso / Fast Flight ( Red Records 123287-2 )

ボッソのファースト・ソロで、イタリア録音。 テナーとの2管編成で若さがほとばしる演奏ですが、楽曲の出来がイマ一つのせいか、あまり印象に
残らない気がします。 しかしこの人は本当に演奏がうまくて、あまりにスムーズで滑らかなので、トランペットを聴いているという感覚を
忘れてしまうくらいです。 こんな人が世に出てきてアルバムをポンポンと出されたら、これからのトランぺッターは大変ですね。


■ Mark Lopeman / Nice Work If You Get It ( レーベル、番号なし )

完全な私家録音のようですが、一応、Ken Peplowskiがプロデューサーを務めており、無名だけど実力を評価されての制作だったのだろうと思います。
曲によってはtpやtbも加わる構成ですが、あくまでもこの人の管を前面に押し出した演奏に好感を覚えます。 アップテンポの曲にはまだまだ
改良の余地がありますが、スローバラードになると魅力が爆発します。 "I'm A Fool To Want You"他、バラードを聴くアルバムと認定。




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説明が難しいレコード

2014年06月01日 | Jazz LP (Europe)

Roy Haynes ( 仏 Swing M.33.337 )


昨日ダメ出しした Jimmy Gourley は、ここにもその名前が見られます。 この頃の録音にはよくあるいろんな楽器のごった煮のようなセッションで、
テナー、バリトン、ギターを入れたセクステットが何をやりたいのかよくわからない演奏を繰り広げますが、バルネの初録音とも言われる演奏が
聴けることや渡仏したロイ・ヘインスを中心にしたよく纏まった演奏になっているところなどはまあまあいけるかな、という内容です。

"Jordu"ではギターがテーマの主旋律を弾いてアンサンブルを引っ張るアレンジで悪くないかなと思いますが、他の曲では陰影に乏しい単音の
フレーズを弾いていて、アメリカのギタリストたちと比べると魅力に欠けます。 この人も確か生まれはアメリカだったはずですが、
この頃から既にフランスで活動をしていたようです。 

この頃の古いレコードというのは内容の説明が難しくて、これ以上何か書こうにも何もなくて本当に厄介です。 聴くべきところも見当たらず、
未熟な音楽という以外に何もありません。 そう考えると、同時期にアメリカで大量に作られていたダンス・ミュージックなんかはレコードと
しての価値は低くても、内容は立派だったなあと思います。 少なくとも、それなりに楽しめますからね。 こういう無味乾燥なレコードを
聴いた後は、例えばボビー・ハケットのキャピトル盤のような優美なレコードが聴きたくなりますが、今は持ってないんだよなあ・・・・




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