Australian Jazz Quintet + 1 ( 米 Bethlehem BCP-6015 )
オーストラリアン・ジャズ・カルテット(クインテット)のことを真剣に聴こうなんて人はいないようで、中古も大体ワンコインで転がっていて、
総じてクズレコード扱いとなっている。オーストラリアとジャズが結びつかないということもあるだろうし、ジャズの世界は個人名ではなく
グループ名を名乗るようになると、途端に人気が無くなる傾向がある。こういうところはロックなんかとはずいぶん事情が違うようである。
ジャズは個人の顔やプレイが連想できないと、なぜか魅力が減じるらしい。
私がこの人たちの良さを認識したのは、ジョー・デライズの12インチ盤を聴いた時だった。デライズは歌手としては3流以下の魅力に乏しい人だが、
それでもレコードは飽きることなく最後まで聴くことができて、それはバックで演奏するこのグループの質の高さに耳が奪われたからだった。
元々はクリス・コナーのライヴでバックを務めたりしていたらしいから、歌伴には慣れていたのかもしれない。
レコードはベツレヘムに数枚残っているだけだが、その中でもこのアルバムは際立って出来が良く、傑作と言ってもいい仕上がりになっている。
特にA面のビル・ホルマン作曲の組曲はマイナー・キーの翳りのある曲調をドラマチックに演奏していて、これが物凄くいい。
アルトとテナーが深みのある音色で素晴らしく、この曲の魅力を最大限に引き出す。アルトがフルートに、テナーがファゴットに持ち替えられる
パートになっても演奏の魅力はまったく落ちることなく進んで行く。ピアニストも非常にセンスのいいフレーズを弾くし、このアルバムだけに
参加しているオジー・ジョンソンのブラシが強烈にスイングするし、とメンバー全員が一丸となって演奏する様は圧巻の一言。
なぜ、こんなにも素晴らしい演奏が評価されないのかがさっぱりわからない。
B面に移ってもレイ・ブライアントの "Cubano Chant" から始まるなど、クオリティが落ちることはない。全編を通して演奏レベルの高さに
驚かされる。ファゴットを多用するところが食わず嫌いされるかもしれないが、彼らのやる音楽のスジの良さがそういうハンデを軽く一蹴する。
扱う楽器から2人の管楽器奏者にはクラシックの素養があるようで、それがこのグループの音楽の品質に一役買っているように思える。
最後に置かれた "You'd Be So Nice~" の素晴らしさはどうだ。この曲はアート・ペッパーやヘレン・メリルだけではないぞ、という感じだ。
グループとしての活動は4年ほどで、1958年には解散している。おそらく経済的な理由からだろうけど、何とも惜しいことだった。