廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

実は大傑作(2)

2023年02月25日 | Jazz LP (Bethlehem)

Australian Jazz Quintet + 1  ( 米 Bethlehem BCP-6015 )


オーストラリアン・ジャズ・カルテット(クインテット)のことを真剣に聴こうなんて人はいないようで、中古も大体ワンコインで転がっていて、
総じてクズレコード扱いとなっている。オーストラリアとジャズが結びつかないということもあるだろうし、ジャズの世界は個人名ではなく
グループ名を名乗るようになると、途端に人気が無くなる傾向がある。こういうところはロックなんかとはずいぶん事情が違うようである。
ジャズは個人の顔やプレイが連想できないと、なぜか魅力が減じるらしい。

私がこの人たちの良さを認識したのは、ジョー・デライズの12インチ盤を聴いた時だった。デライズは歌手としては3流以下の魅力に乏しい人だが、
それでもレコードは飽きることなく最後まで聴くことができて、それはバックで演奏するこのグループの質の高さに耳が奪われたからだった。
元々はクリス・コナーのライヴでバックを務めたりしていたらしいから、歌伴には慣れていたのかもしれない。

レコードはベツレヘムに数枚残っているだけだが、その中でもこのアルバムは際立って出来が良く、傑作と言ってもいい仕上がりになっている。
特にA面のビル・ホルマン作曲の組曲はマイナー・キーの翳りのある曲調をドラマチックに演奏していて、これが物凄くいい。
アルトとテナーが深みのある音色で素晴らしく、この曲の魅力を最大限に引き出す。アルトがフルートに、テナーがファゴットに持ち替えられる
パートになっても演奏の魅力はまったく落ちることなく進んで行く。ピアニストも非常にセンスのいいフレーズを弾くし、このアルバムだけに
参加しているオジー・ジョンソンのブラシが強烈にスイングするし、とメンバー全員が一丸となって演奏する様は圧巻の一言。
なぜ、こんなにも素晴らしい演奏が評価されないのかがさっぱりわからない。

B面に移ってもレイ・ブライアントの "Cubano Chant" から始まるなど、クオリティが落ちることはない。全編を通して演奏レベルの高さに
驚かされる。ファゴットを多用するところが食わず嫌いされるかもしれないが、彼らのやる音楽のスジの良さがそういうハンデを軽く一蹴する。
扱う楽器から2人の管楽器奏者にはクラシックの素養があるようで、それがこのグループの音楽の品質に一役買っているように思える。
最後に置かれた "You'd Be So Nice~" の素晴らしさはどうだ。この曲はアート・ペッパーやヘレン・メリルだけではないぞ、という感じだ。

グループとしての活動は4年ほどで、1958年には解散している。おそらく経済的な理由からだろうけど、何とも惜しいことだった。



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セカンド・プレス愛好会(1)

2023年02月18日 | Jazz LP (Prestige)

Stan Getz / Long Island Sound  ( 米 New Jazz NJLP 8214 )


「オリジナルだけが偉い」とチヤホヤされるこの偏狭な世界では、セカンド・プレス以降のレコードたちは皆どことなく悲し気だ。
何も好き好んで2番目として生まれてきたわけでもないのにな、とみんなそう思っている。

新入荷のエサ箱にパリッとした真新しいビニール袋に入れられて晴れやかな気持ちで中古デビューを果たしたのに、朝一番にやって来たお客から
「なんだ、セカンドかよ」と吐き捨てるようなセリフを浴びせられてスルーされる。それでも気を取り直して精一杯の笑顔で次に手に取られるのを
待つけど、中々手にしてもらえない。1日が過ぎ、また1日が過ぎ、時間が経つにつれて並ぶ列を移動させられ、気が付くとアルファベット順に
区画された場所に移される。そこでは時間は静かに流れ、孤独の中に取り残される。

このスタン・ゲッツのレコードも、そういう感じで転がっていた。でも私がこれを買ったのはなにも憐憫の情にほだされてというのではなく、
この表紙のデザインが好きだったからだ。この趣のある風情がクールな内容には似つかわしく、お気に入りのレコードになっている。
RVGの刻印もしっかりとあって、そのサウンドは輪郭がクッキリとしていてオリジナルよりもこちらの方がいいんじゃないかとすら思う。

どのレコードにもそれぞれの存在理由があり、それぞれの良さがある。このレコードはそういう当たり前のことを教えてくれる気がする。
セカンド・プレスを愛でることができてこそ、本物のヴィニール・ジャンキーと言えるんじゃないだろうか。



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バカラックが亡くなった夜に聴いたアルバム

2023年02月11日 | Jazz LP

Hampton Hawes / High In The Sky  ( 米 Vault SPL-9010 )


全編に漂うほのかに暗い情感に、ハンプトン・ホーズと言う人の内面がにじみ出ているのを強く感じる。50年代にコンテンポラリーで確立した
リズミカルで明るいピアノ・トリオの顔とはまるで別人の、憂鬱で斜め下に目線を落としたような物憂げな表情。

ブロック・コードはあまり使わず、マイナー・キーのメロディーを延々と紡いでいく弾き方に変化していて、B面の "Carmel" から "Spanish Girl" に
かけて流れ出てくる情感は、まるでキースのスタンダーズ・トリオを聴いているかのような錯覚すら覚える。そういう意味では、ここで聴かれる
演奏は現代ピアノ・トリオがやっている音楽を10年以上先取りしていたのかもしれない。短くコンパクトにまとめた演奏とは違い、こんこんと
湧き出てくるフレーズをどこまでも追い続けていくように一心不乱にピアノを弾いている様子にこちらも聴き入ってしまう。

彼はピアノの音色で聴かせるタイプのピアニストではなかったので、その名前を聴いても好きなフレーズが頭をよぎるようなことはないが、
曲の造形を作るのが上手かったので、演奏した楽曲が1つの形として明確に手触り感があり、それが記憶に残る。演奏の仕方が変わっても
そういうところは変わることはなく、ここでも演奏された曲はどれもその質感がしっかりと残るので、このアルバムは名盤として記憶される
ことになる。

一昨日亡くなってしまったバート・バカラックの "The Look Of Love" が聴きたくて久し振りに取り出してきたが、やはりこのアルバムは
ハンプトン・ホーズの傑作の1枚であることを再確認することとなった。バカラックの名曲が霞むほど、彼が書いたオリジナルの楽曲は
どれも素晴らしく、その独自の境地に達した演奏はいつまでも色褪せないものだった。



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ジャズ本来のスリル

2023年02月04日 | Jazz LP (Verve)

Dizzy Gillespie, Stan Getz, Sonny Stitt / For Musicians Only   ( 米 Verve MG V-8198 )


冒頭の "Be Bop" からソニー・スティットのアルトが爆発する、只事では済まない恐ろしいアルバムである。スタン・ゲッツも "Focus" で見せた
ほの暗い怪演で真っ向から対抗する。ディジーも抑制の効いた切れるような演奏で猛スピードでぶっ飛ばす。3人がそうやってソロを回していく
様子がとにかく凄まじい。A面はまるで嵐のように過ぎ去っていく。

B面に行くとギアが一段シフトダウンして、今度はトルクが深く効いて身体ごとグイっと前へと持っていかれるような演奏で、こちらもA面に
負けず劣らず。スティットのアルトが歌って歌って、歌いまくる。ディジーの抑えた演奏が圧巻で、破たんが一切なく、リー・モーガンが3人
いても敵わないようなパーフェクトな演奏を聴かせる。何と言うコントロール加減だろう。

このアルバムの白眉はソニー・スティットで、「パーカーに似ている」と言われた所以はここにあるんだなと納得させるキレッキレのアルトが
脳天に突き刺さる。自己名義のアルバムでは聴くことができない、別人へと豹変したちょっと怖さを感じるような演奏をしている。
このアルバム全体を聴いて感じる興奮や高揚感は、コルトレーンの "Ascension" にも通じる。ジャズという音楽が原初的に持っていたであろう
スリルがこんなにも無防備な形で提示されているケースは、なかなか他には思い出せない。

アルバム・タイトル通り、職人としての技を競い合うというコンセプトに徹しているところが素晴らしいが、それでもよくある只のジャム・
セッションには終わらず、非常に高度で豊かな音楽性も同時に感じることができるという、アルバムとして奇跡的な仕上がりになっているのは、
やはりスタン・ゲッツの存在の影響だろうと思う。この時期の彼の音色にはどこか文学的な匂いがあって、そのフレーズが加わることで
やかましい騒音になりがちな音の塊たちは音楽を取り戻し、音楽が音楽であり続けるのだ。

嬉しいことに、このアルバムは音がすごくいい。サウンドが安定しないヴァーヴ・レーベルの中でも間違いなくトップランクの音質で、
楽器の輝きが他のタイトルとは全然違う。Vee Jayレーベルのような輝かしいモノラル・サウンドで、3人の巨匠の存在感の重さが際立つ
素晴らしい音場感だ。



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