廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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秋が来ると聴きたくなるアルバム

2019年10月14日 | Jazz LP (Warner Bro.)

Paul Desmond / First Place Again  ( 米 Warner Bros. Records W 1356 )


もうここ何年も日本の四季から秋が消えて無くなってしまったかのような感じだったけど、今年は秋を感じる時間がある。 そんな時間にふと聴きたく
なる音楽がある。 秋になると聴きたくなる音楽、冬になると聴きたくなる音楽。 四季のある国に生きる我々のある種の特権のようなものだ。

ピアノのいないギター・トリオをバックにポール・デスモンドが縦横無尽に吹いていく様子は饒舌と言っていいくらいだけれど、デスモンドの柔らかく
穏やかな音色は空間を淡い色調に染めるだけで、それ以上出しゃばることはない。 一体どうすればこういう音色で吹けるのかはよくわからないけれど、
アルトの巨人、第一人者たちとは常に距離を置いたところにいて、自分だけの世界を作ってきた。 音色だけではなくフレーズの組み立ても上手く、
ありふれた定石のパターンは使わず、スタンダードを演奏することが常だった中で原メロディーの無数の変奏でフレーズを紡いでいくような感じだ。
リー・コニッツもそういう吹き方をしたが、彼のフレーズは長続きしない。 ブツブツと途切れる。 デスモンドは途切れない。 延々と続いていく。

この4人のメンバーでの録音はRCA Victorにたくさんあり、内容もバリエーション豊富でイージーリスニング的に楽しめるが、このワーナー盤は曲数が
少なめでデスモンドの演奏を落ち着いてじっくりと聴くことができる。 RCA盤よりもジャズの本流に寄った作りになっているのが好ましい。
ジム・ホールにM.J.Qのリズムセクションというこれ以上ない趣味の良い伴奏を背景に、デスモンドのアルトがどこまでも飛翔していく様が圧巻だ。
アルトの名盤はたくさんあるけれど、このアルバムはそれらとは一線を画す独特な存在として輝き続ける。

外観はしっとりとして落ち着いた音楽だが、実際は高度な演奏技術に支えられて厳格なまでにジャズとしてのマナーとフィーリングを維持した内容で、
それがこのアルバムを孤高の名盤に仕上げている。 容易にはその凄さを感じさせないところに彼らの一流としての矜持があったのだろう。

デスモンドの涼し気な音色と4人の作る静謐な空間が、秋の空気によく似合う。 だからこの時期になると聴きたくなるのだろう。

録音も優れていて、アナログで聴いてもCDで聴いても深く静かな残響の中で4人の楽器が生々しく鳴っている様子を愉しむことができる。
奥行きや立体感もうまく表現されていて、名演がきちんと名盤になるよう後押ししている。 


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