Teri Thornton / Devil May Care ( 米 Riverside Records RLP 12-352 )
リヴァーサイドが作ったヴォーカル作品はどれも1級品で唸らされるものばかりだが、これもそういう1枚。
テリー・ソーントンはデトロイト生まれで50年代から地元でキャリアをスタートさせていて、コロンビアからも何枚かリリースしてはいるものの
作品には恵まれず、広くその名前を知られることはなかった。声質や音楽のタイプは違うけれど、デラ・リースやダコタ・ステイトンなんかと
その存在のイメージが被る。実力と人気・知名度のバランスが悪い。
ジャズ専門レーベルのいいところはバックを務めるミュージシャンが豪華なところだろう。レーベルゆかりのミュージシャンがざくざくと参加
していて、その演奏を聴くだけでも価値がある。このアルバムもクラーク・テリー、セルドン・パウエル、ウィントン・ケリー、サム・ジョーンズ、
ジミー・コブらが参加していて、この時期特有のリヴァーサイド・ジャズの濃厚な雰囲気が立ち込める。
若い頃のデイオンヌ・ワーウィックに少し似た声質でしっかりとしたタッチで歌っていく。選曲が通好みでなかなかシブくていい。
そして、何といってもこのアルバムの目玉はビリー・ホリデイの "Left Alone" が収録されているところだ。ビリー自身はレコードに収録しなかった
のでこの曲を歌唱として聴けるアルバムはそれだけで価値があるが、なぜかどの歌手もまったく収録していない。畏れ多かったのか、それとも
何か別の理由があったのか、そのあたりの事情はよくわからない。ジャッキー・マクリーンの演奏をイメージすると少しその違いに戸惑うかも
しれないが、それでもこの曲特有の哀感にヤラれる。
ゴージャスなオーケストラをバックに歌うものもいいが、こういう我々が普段よく聴いているミュージシャンたちの演奏に囲まれて歌っている
アルバムには格別の良さがある。ヴォーカルと各楽器が等価の存在として不可分に絡み合いながら音楽が築かれていくところが素晴らしい。