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マイルス・デイヴィス 私的ベスト2

2020年01月02日 | Jazz LP (Columbia)

Miles Davis / Sorcerer  ( 米 Columbia CL 2732 )


2番目に好きなマイルス・デイヴィスのアルバムは、この "Sorcerer"。 第二期黄金クインテットの中ではこれが最高だと思うし、アコースティック・
マイルスの最後の傑作だと思う。"Miles Smiles" も "Nefertiti" もいいんだけれど、このアルバムにはある種の風格が漂っていて、そこに殺られる。

冒頭の "Price Of Darkness" でいきなり頂点の演奏を見せる。このグループの演奏の中核はトニー・ウィリアムスだけど、彼の煽情的なドラムが
炸裂する。当時のマイルス・クインテットのライヴ映像を見ると、トニーのドラム・セットのシンプルさに衝撃を受ける。あんなに少ない構成でこんな
プレイをしていたというのが未だに信じられない。彼ならスネアとハイハットだけで人を戦場へと送り出すことができるんじゃないか、という気がする。

ガーランドやコルトレーンを手放し、この新しいグループを作るまで、マイルスは妥協することなく非常に時間をかけた。自分の目指す音楽を実現できる
メンバーが揃うまで、本当に辛抱強く待った。ハービーなんてマイルスのバンドに入る前は全然目立たない存在だったのに、一体どうやって彼の資質を
見抜いたんだろう、というのが不思議でならない。それでもこのメンツが揃い、こういう音楽が残ったのだから、凄いとしか言いようがない。

マイルスは個人にできることは限界がある、ということをよく知っていたのだと思う。メンバーを信じて作曲や演奏の多くを任せ、グループとして
音楽を作っていったからこそ、こういう作品群が残ったわけだ。メンバーに恵まれたということはあるにしても、人選をしたのは本人なんだから、
そこから既に彼の音楽作りは始まっていたということになる。

コードによる安定感や一定のリズムキープという枠を捨てて演奏されるこのバンドの心地よさは筆舌に尽くし難い。それが決して無軌道でもなく、
粗野にもならず、洗練の極致として聴けるのだから、音楽のバランスや秩序は元々もっと違う所にあったのだとしか思えない。メロディー、リズム、
ハーモニーという音楽を構成する3要素という定説は間違っているのではないか、ということを唯一このバンドだけが証明していたような気がする。
音楽の正体を解明しようとしてきたシェーンベルグ以降のクラシックの近代楽派や欧州のフリ-ジャズ演奏家たち、欧米のプログレなどを聴いても
どこか腑に落ちない不納得感からは逃れられないのに、マイルスのこのアルバムはいともたやすく何かを提示しているような気がしてならない。

アコースティック・ジャズとしてできることはもうこれ以上は無い、ということで次の段階へ行ったのは当然だったと思う。マイルスにそう思わせた
4人の若者たちには何の罪もないけれど、もっとこのジャズを聴きたかったという恨み節をいつまでたっても捨てることができないのも事実である。
どの時期の演奏も良くて優劣の差なんてないけれど、やはりこの時期の演奏は格別なものがある。


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