Keith Jarrett / Expectations ( 米 Columbia KG 31580 )
いつも楽しいsenriyanさんのブログきっかけで探していた本盤、安レコが転がっていたので拾った。今回、初聴きだ。キースはアルバムが多く、
熱狂的なファンでもない私は未聴のアルバムが多いので、何かのきっかけを利用してボチボチ聴いていくというゆるいスタンスでいる。
このアルバム、どうやら評判の方はあまり芳しくないようだが、そうなると俄然興味が湧いてくる。
キース・ジャレットのアルバムを身銭を切って買うのは、大抵の場合、あの耽美的な世界にどっぷりと浸りたいからだろう。だから、そういうつもりで
このアルバムを聴くと、「金返せ~」となるのは無理はない。そういう気分でレビューすると、当然辛口にもなるだろう。しかし、私の場合は最初から
どういう内容かわかった上での買い物なので、ニュートラルに聴くことができる。
ここには、おそらく、当時の日常の風景が描かれている。8ビートのリズムは街の鼓動であり、ファズ・ギターやソプラノ・サックスが表現するのは人々の
とりとめのない会話であり、それらの中で時々考え事をするかのようにみずみずしいピアノが短く歌う。これを聴いていて目の前に浮かんでくるのは、
彼を取り巻いていた日々の息遣いのようなものだ。街の中を闊歩し、車の行き交う音やクラクションの洪水を抜け、カフェでコーヒーを飲み、
誰かと気楽におしゃべりをする。そういう毎日繰り返される生活の営みが描かれているように感じる。
だから、この世界観は親しみやすい。非日常的な北欧の冷たい空気感などあるわけがない。あるのは、もっと暖かい人の体温のようなものである。
そして、何かを主張するような込み入った感情の重さなどもなく、もっと軽やかだ。よく履き込んだ古びたスニーカーを履いて、友達に会いに行くような
カジュアルさに溢れている。
アメリカン・カルテットが演奏したジャズ作品、というような印象すらない。ジャズという形式など、最初から頭にはなかったのではないか。
ECMとはまったく違う意味で、結構おもしろく聴ける。ある時期からはECM一辺倒になってイメージが固定化してしまうけれど、もっとこういう毛色の
違うアルバムをどんどんやればよかったんじゃないか、と思う。一つの成功体験をなぞり過ぎると飽きがくる。唯一評価を得られることができなかった
これらの分野が放置されたまま発展に至らなかったのは残念な気がする。
これ、私、嫌いになれなくて。でも、このコロナ自粛でもなければ、こんなにじっくり聴くこともなかったのかと。いや、まさに、自粛映えするレコードです。
私も思いますが、キース兄貴、この盤に関して、ジャズの蛇の字も頭に描いてなかったんだと思います。むしろ、そこから、離れていく感覚。
でも、これ聴いて私、キースの兄貴がグッと身近に近寄ってくる感覚もまた感じました。まさに、日常を描いたアルバムですね。
観客がうるさいとコンサートをキャンセルする、あの大家風情もなく、身近なキース像があります。
もっとこういうのを作ればよかったのに、と思ってしまいます。