世界変動展望

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時間反転対称性

2010-08-30 00:00:00 | 物理学・数学

運動方程式やマックスウェル方程式など現在見つかっている物理学の基礎方程式はみな時間反転対称性を持っている。時間反転対称性とは基礎方程式で時間tをt → -t と変換しても、元の方程式の状態と同等になる事をいう。簡単な例はニュートンの運動方程式である。

x(-t) は元の運動x(t)をビデオ撮影して、それを逆向き再生させた状態を示す。また、適切な初期条件を与えればx(t)の軌跡を逆向きにたどる事が可能である事も示す。これはこの運動が可逆過程であることを示す。

可逆過程とはある状態から別の状態に変化させまた元に戻す過程を考えたとき、外界になんの変化も及ぼさずにこの過程を実現できることをいう。つまり、時間反転対称性を持つ基礎方程式はすべて可逆なのだ。

しかし、現実の変化はすべて不可逆過程で、可逆過程は一つもない。例えば死んだ人が生き返るとか混ざったミルクとコーヒーが勝手に分離することはない。現在見つかっている物理法則はすべて時間反転対称性を持っていて可逆なのに、現実の物理現象はすべて不可逆なのはいったいなぜか。そういうことは熱力学や統計力学でよく論じられる。

それは私の想像では熱エネルギーを力学的エネルギー等他のエネルギーに転換するのが他のエネルギーから熱エネルギーに転換するのに比べて難しいからではないか。例えば物体の運動を摩擦で止めて熱エネルギーに転換するのは簡単だが、その逆は容易ではない。このようなエネルギー変換の非対称性は熱力学第2法則として現在知られている。

熱力学第2法則とは「ある物体から熱を取りそれをすべて力学的仕事に変えて、それ以外に何の変化も残さないようにする循環過程は不可能である」(トムソンの表現)ことをいう。ただ、この法則は経験則であり、現実の過程がすべて不可逆なのでこのように法則化されたのであり、別の原理から演繹的に導かれたものではない。では、なぜ熱エネルギーを他のエネルギーに転換するのが難しいのか。それはよくわからない。もし熱エネルギーの転換が容易になれば、世界はすごく変わるだろう。