世界変動展望

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東大医科学研究所事件 - 不正な研究機関の事件

2020-01-09 00:00:00 | 社会

ゴーン被告の不法出国と会見が大きく報じられている。不法に海外逃亡して無罪などと言っても説得力は皆無だ。こんなやり方で犯罪の責任を逃れるのは認められないと思う人が多いかもしれない。しかし、研究公正の世界では、このような例がたまに発生する。

2016年に発生した東大医科学研究所事件は本調査が行われた筆頭著者Oが仕事を辞めて逃亡し、未だに解決していない。

この事件は2016年に東大医学系、分生研事件が大きく騒がれていたのと同時期にPubPeerで疑義が指摘された

PubPeerの2016年9月27日の指摘。

その中の一部が上のもので、明らかに白い四角で画像の一部を隠した加工の形跡があり、故意の改ざんの動かぬ証拠と考えられていた。これを受けて責任著者の論文を撤回。撤回公告では「irregularities」(不正行為)という文言が使われた。私の通報で東大は本件を本調査、読売新聞などでも報じられ、松野博一文部科学大臣(当時)が本件について公式言及を行った

しかし、Oはその後すぐに所属機関を辞め逃亡した。辞職か解雇かは不明。調査は難航しているようで2020年1月現在でも結果の公表はなく、隠蔽されたような形になっている。

責任著者のYは不正を否定しており、事実上の隠蔽のために不当に処罰を逃れた。このように研究公正の分野ではゴーン被告のように逃亡して罪を逃れる例がたまに発生する。ゴーン被告の不法逃亡で逃げ得を許さない制度が必要だと主張する人が多いが、研究公正の分野でも論文著者の逃亡で逃げ得にならない制度が必要だ。

不法逃亡して無罪を主張したゴーン被告と同様に筆頭著者のが不法に離職、逃亡したのに責任著者のは不正がないと主張した。しかし、上の明らかな加工の証拠やの離職、逃亡のために、全く説得力がない。むしろ、逃亡によって不正に責任を逃れたという非常に悪い印象が強い。

隠蔽のために本件は公式に不正が認定されていない。しかし、上の事から学界ではが改ざんなどを行った責任があると評価する人たちが一定数いるに違いない。不正の公式認定と懲戒処分などを逃れても、非常に悪質な事を行った事の不利益は必ず受けるようだ。は前職を辞めてから新たな研究職のポストを確認できず、PubMedを調べても2020年1月現在離職後の論文出版を確認できないは事実上学界を追放された。最近、ノーベル賞受賞者のFrances Arnoldサイエンス論文が捏造の疑いで撤回され、筆頭著者だったInha Choさっさと辞めてしまって追放されたのと同じで、不正の公式認定がなくても、こういう状態だと追放されてしまうことがある。

もともとPubMedを調べてもを筆頭著者論文1報、第2著者論文1報の合計2報、撤回論文1報という業績だから不正発覚時に約35歳だったことを考えると非常に業績が低いと言わざるを得ず、不正をしなかったとしても時間の問題でポスドクを雇い止めになったかもしれない。

この事件の背景はたぶん調査が打ち切られたのでよくわからないが、らの共著論文なので不正はの大学院生時代に原因があるのだろう。その意味では指導者であったの責任が重いと思う。この事件は伝聞の範囲では意外な事を聞いたが、それは確証がないのでここでは紹介しない。事件の背景や要因は全くわからない。の業績が非常に低かったのは確かだが、それが不正に影響したのかも不明。

この事件で改善すべき点は被告発者が逃亡によって調査に応じなかった場合に逃げ得を許さない制度を作る事だ。上の例からも明らかなように不正があったのは確実と判断できる。のような逃げ得を改善した方がよい。東大初の博士取消しとなったS.A.の事件ではS.A.がすぐに辞めたが、弁明放棄などで懲戒解雇相当とした。こういう扱いでもいいかしれない。

不正な研究機関の事件としてはのような逃亡例として国立環境研究所の事件などがある。他に不当に甘い処罰例などによる大阪大学事件などがある。処罰を逃れたり解雇回避でポストに留まれたとしてもTのようにほぼ論文を出せなくなって研究者生命を絶たれているような人もいるしMのように犯罪者扱いされるのに耐えかねて辞職した人もいる)。不正の公式認定と懲戒処分を逃れても研究者生命を絶たれる事は十分あるということだ。これらの例も「不正な研究機関の事件」としてそのうち紹介するかもしれない。

いろいろ改善の必要がある。